赤髪海賊団の幹部ラッキー・ルウは波止場でおやつを取っていた。彼の場合、おやつ
と言っても大の大人でも満腹してしまいそうな大きな骨付き肉のローストなのだが…。
 彼がそれを皿に置こうとした瞬間、ぐいと骨を握った手を強い力で引っ張られるのを
感じた。
 「およ!?」


 「お頭ー、面白いもんが釣れたヨー♪」
 ルウは愉快そうに何か大きな物をずるずると引きずって来た。彼が握る骨付き肉の先
には男が白目をむいたまま齧り付いている。
 ルウが釣ったと言う男を野次馬根性旺盛な海賊団の面々が即座に取り囲んだ。
 気を失ったまま肉に齧りついているというだけでも充分に変なのだが、彼は格好も妙
だった。大きな一枚布のような服を帯だけで身に纏い、中途半端に長いと思われる黒髪
はひっつめて後頭部でぐるぐる巻きに留めてある。裸足に藁で編んだサンダルを履いて
みすぼらしく見えるのに、腰に携えた大太刀と小太刀は立派な(こしら)えで不釣合い極まりな
い。背中に背負った布包みは深緑の地に白い渦巻き模様で、異様な雰囲気を醸し出して
いる。
 好奇心旺盛で珍しいもの好きのシャンクスでさえ、この男の風体に驚いていた。
 「…ルウ、釣ったって言ったけど。何をどうしたらこうなった訳?」
 「俺のおやつに突然齧り付いて来たんだヨ。陸の"どざえもん"かな?」
 「お頭がいつも言う"行き倒ればったり"って奴じゃないか?」
 副船長がシャンクスを一瞥した。
 シャンクスは"行き当たりばったり"をいつも"行き倒ればったり"と言い間違えるのだ
が、この男はまさしく"行き倒ればったり"と言えるだろう。
 船医が男に近づいて様子を見る。脈を取り、下瞼を引っ張って覗いたりあちこちを診
察する。
 「栄養失調だな。長いこと飯にありついてない様だ。とりあえず栄養注射をしよう。
胃が働いてないだろうから、流動食が良い。粥やスープみたいなものを用意してくれ」
 「アイサー」
 今週の食事当番は返事をすると、すぐに準備に取り掛かった。
 男は注射をされても身じろぎさえしなかったが、徐々に意識を取り戻しているようだ
った。艦から戻ってきた食事当番が副船長に木製のボウルに入れたスープを渡した。
 「米とジャガイモと野菜でポタージュ作ってみたんすけど、こんなんで良いんで?」
 「上出来だ、ロット」
 男の鼻がヒクヒクと動き、ゆっくりと目を開けた。男は何が起きているのか分からず
ぽかんとしていたが、やがて副船長が差し出したボウルをじっと見つめた。
 「いいから、まずは食え。スプーンは使えるか?」
 副船長は同じ意味の言葉を数ヶ国語に変えて語りかけた。
 男はそれらを受け取ると、先ずは一匙口に運んだ。やがて匙を運ぶ速さが増し、遂に
はボウルの端に口をつけて全部を飲み干した。
 「っぷっはあーっ!生き返った」
 男は心底嬉しそうに笑った。どうやら言葉は通じるようだ。副船長が問い掛ける。
 「まだ、お代わりがあるそうだ。食べるか?」
 「かたじけないっ!女将(おかみ)っ!」
 男は嬉し涙を浮かべて副船長の首に縋りつく。シャンクスが反射的に二人の体をぐい
と引き離した。
 「俺はこいつの亭主…もとい、こいつらの船長のシャンクスだ。お前さんは何者で何
故こんな所で行き倒れてたんだ?差し支えなければ、教えてくれ」
 男は座りなおして姿勢を正し一礼した。
 「はっ、拙者は剣士リューマと申す者。今は使いを頼まれてあるものを届けにいく途
中なのでござるが、それが難航してしまいこの有り様で…」
 リューマと名乗った男は始めは勢い良く喋っていたが最後になると言葉が鈍った。彼
は何かに気付いたような表情をした。
 「しかし、拙者はどのようにして貴殿らに救われたのでありましょうや?」
 「君が俺のおやつにかかったんだヨ。これに齧りついてネ」
 ルウが歯形のくっきり残った骨付き肉を見せた。リューマはそれを見て動転した。
 「人様の飯を横取りなど、侍どころか人にあるまじき無礼を拙者が?失礼いたした!
こうなれば切腹を!この腹掻っ捌いてお詫びをば!!」
 小太刀を抜いて腹に突き立てようとするリューマの手を間近にいた数人が取り押さえ
にかかった。
 「武士の情けじゃ、離して下されーっ!」
 「助けた途端に何も死体になるこたぁなかろうが!」
 「そうだ!命は大事にしろ!」
 船員たちは畳み掛けるように説得する。シャンクスがリューマに顔を近づけた。
 「おいおい、お前さんは使いの途中だったんだろ?それを果たさずに死んだら意味
ねぇだろ?こっちは退屈してるんだ、一飯の恩にどんな仕事を抱えてるのか詳しく話
してくれたって罰はあたらないと思うぜ」
 シャンクスは微笑んで見せた。
 「む…、確かに恩人の仰るとおり」
 リューマは大人しくなり、船員たちが手を離すと小太刀を鞘に納めた。
 「拙者には恩義ある刀鍛冶の総帥がいらっしゃる。その総帥はある剣士に渡したい
ものがあるのだが、ご老齢で長旅は無理なのだ。その上相手が流浪同然で一箇所に留
まらぬ身の上では総帥には手の打ち様がない。そこで拙者が代理を引き受けたのだ。
だが、船に乗せて貰うにも訪ねる相手の名を告げると皆一様に断られ、食費ばかりが
無駄に減ってしまって底をついてしまった。それが五日程前のことで後は記憶が虚ろ
にしか残っておらぬのだ。無一文ではないのだが、渡航費用に手をつけると役目を果
たせないので窮していたのでござる」
 リュ−マは風呂敷の中から巾着袋を取り出した。紐を解くと中に砂金がぎっしり詰
まっているのが垣間見えた。
 「金があるのに送ってくれないのは、その相手ってのに問題がありそうだな。その
相手の名前は?」
 「鷹の目と呼ばれる大剣豪、ジュラキュール・ミホーク殿でござる」

 「あ〜あ」 
 全員が妙に納得して頷いた。
 「俺の船で良けりゃ送ってやるぜ、食費込みでどうだ?」
 「本当でござるか?それは是非お頼みしたい!この通りお願い申し上げる!」
 リューマは土下座した。
 「鷹の目の情報が入り次第出発する。いいな、野郎ども」

 「おう!」


 シャンクス達一行は珍客を乗せて、鷹の目を目撃したという海に向かっていた。
 「赤髪殿の舟は実にご立派でござる。これだけの船員を従える赤髪殿はさぞかし大物
なのでござろう?」
 「いやぁ、そんな大したもんじゃないさ。これよりでかい艦隊なんていくらでもあ
る」
 「それに皆さんもそうだが、特に女将が有能な働き者だ。赤髪殿は幸せ者でござる」
 「ああ、仲間は優秀なのが揃ってる。かみさんは特に自慢なんだv」
 シャンクスはへらへらと幸せに緩んだ顔で笑う。
 横で船長と客の会話を聞いていたヤソップは「副船長の耳に入ったら間違いなく二人
とも殴られるな」と想像した。
 「ところで、鷹の目に会おうとしてた刀鍛冶の総帥ってのは誰なんだ?」
 シャンクスがリューマに訊ねた。
 「拙者もお世話になった三代目鬼徹様でござる」
 「鬼徹?!」
 「あの妖刀の鬼徹一派!?」
 周囲が一斉にどよめいた。
 「鬼徹は断じて妖刀などではござらぬ!」
 リューマの一喝に周囲は瞬時に静まり返った。
 「鬼徹はそのほとんどが間違った扱いをされている故、持ち主がすぐに替わってし
まう。良くても蔵にしまい込まれたりと不遇の身の上にあるものばかり。だが、鷹の
目殿は鬼徹を二振りほど持ちながらも長い間ご無事という話を耳にした」
 「あいつのコレクションを考えれば、持ってる可能性は高いな」
 シャンクスは個人的な記憶を辿った。
 リューマは風呂敷包みを解いた。中には数振りの小太刀があった。
 「鬼徹は本来"夫婦刀(めおとがたな)"なのだ。大太刀一振りと小太刀一振りが揃って初めて鬼徹の
真価は発揮される。これがその小太刀だ。ご(ろう)じろ」
 鞘から抜かれた刀身には刃も無ければ峰も無い。ただ平らに磨かれて周囲をその身
に反射させるだけで、刀の形をした単なる平たい金属の板のようだった。なまくらと
呼ぶにも値しない造りの刀は、紙を切ることさえ出来そうに無い。
 「これって、刀じゃないだろう?」
 ヤソップが訊いた。
 「この小太刀が在る意味を理解して、初めて鬼徹を使いこなせるのだ。だが皆が皆、
大太刀の切れ味ばかりを求めて、この小太刀を捨ててしまう。それゆえに鬼徹は持ち
主の運命を狂わせる妖刀として誤解されてきたのだ」
 船員たちは首を傾げた。何故切れない刀を添えるのか、彼らにはその謎が解けない。
リューマは小太刀を鞘に納めて手前に置き、真剣な眼差しで言葉を継いだ。
 「もし鷹の目殿がこの小太刀の意味を理解せずこれらを受け取らぬ時は、拙者は鷹
の目殿を斬ってでも鬼徹を奪い返さねばならぬ。そして世界一と謳われる剣豪であっ
ても鬼徹が使いこなせないという事になれば、…拙者は全ての鬼徹を回収して三代目
に渡さねばならぬのだ」
 リュ−マに気おされしてほとんどの者が口を開けずにいた。副船長が静かに口を開
き、皆が聞きたいであろうことを問い掛けた。
 「集めた鬼徹はどうなる?」
 「三代目自ら鬼徹の刀を(ことごと)く破壊なさる、そう仰っていた」
 その日から船員たちの遠足気分は薄れた。赤髪の乗組員達はどんな航海にも気を抜
かないプロフェッショナル達の集団だ、ふざけて航海したことは一度も無い。だが、
今回の航海は客人の使命が命懸けであること、悪名高いとは言え名刀を産み出してき
た刀匠一族の命運がかかっているという通常時よりも重要で深刻な事態を真剣に受け
止め、誰もが神妙な面持ちになった。


 「そうか、分かった。礼金はいつもの通り振り込ませてもらう」
 副船長は電々虫の回線を切った。
 「副船長、いいか?」
 ドアの外からシャンクスの声、返事を聞く前に入ってくるのはいつものことだ。
 「かなり詳しい情報が掴めた。思ったより、まっすぐ鷹の目の所へ行けそうだ」
 「そうか」
 シャンクスは満足げな笑みを浮かべた。
 「お頭、良いのか?このまま連れて行って。鷹の目があの謎解きの答えを出せなか
ったら、決闘になるんだぞ?リューマはカタギで鷹の目に比べれば知名度こそ劣るが、
間違いなく大剣豪だ。おそらく鷹の目に優るとも劣らない。そんな二人がぶつかった
ら…」
 「リューマは間違いなく強い、海千山千のうちの乗組員を気迫だけで黙らせた事で
それは証明済みだ。しかも、気性から考えるに鷹の目とリューマの太刀筋は双子のよ
うに似ているような気がするな。まあ、この辺は勘だけど」
 「だったら…」
 「あいつが答えられたら、問題はない。そうだろう?それぐらい分からなくて俺と
競っていたとは思えない」
 「…あんた、あの答えが分かるのか?!」
 副船長は思わず声を荒げてシャンクスを見つめた。
 「へえ、俺に分かってお前に分からないこともあるのか。珍しいこともあるもんだ
な。なんか得意になっちゃうな」
 「俺は基本的には銃手だからな。で、何なんだ?その答えってのは」
 「先に教えても良いけど、授業料は体払いの前払いだぞ?」
 シャンクスの手が副船長の襟から忍び込んでくる。
 「また始まった…。別に分からなくてもいい」
 副船長は呆れ顔でシャンクスの手を払いのける。
 「拗ねるお前ってのもそそるぜ?」
 「失礼、赤髪殿はそこにおられるか?」
 突然の声に、二人は反射的に体を離した。
 「おう、リューマ。どうした?」
 「女将もおいでか」
 「何度も言うが、俺は副船長だ。女将じゃない」
 副船長はこうして何度も訂正しているのだが、この侍は一度決めたら曲げない気性
からか、副船長を女将と定めてしまったようだ。リューマはそんなことなど気にも留
めず、思いつめたような表情でシャンクスと向かい合った。
 「夜分にすまぬ。訊ねたい事があって参った。赤髪殿は鷹の目殿と好敵手の間柄だ
とルウ殿から訊いたのだが、それは誠でござるか?」
 「昔の話だ。今はこの通り利き腕が迷子なもんでね」
 シャンクスは左袖を揺らして見せた。
 「すまぬことを訊いた。ただ拙者は鷹の目殿は小太刀の意を汲むだけの器量の持ち
主かどうかをお聞きしたくて」
 「俺の仕事はあんたを送り届けることであって、判断を下すのはおたくの仕事だ。
大切な判断ならなおのこと先入観なしで、曇り一つ無い目で見ないとな」
 リューマは静かに深呼吸した。
 「誠に赤髪殿の仰る通りでござるな。拙者は使命の重さに弱気になってしまったよ
うだ。面目ない」
 「剣に生きてりゃ、そんな事もあるさね。ただ、心は剣に出る。それを忘れなきゃ
良いんだ」
 シャンクスは笑ってみせた。人を心から安心させるこの男独特の笑顔で。
 「この使命がどんな結果に終わっても、拙者は赤髪殿の船に乗せていただいたこと
に感謝する気持ちは変らぬ。それだけは覚えていて下され」
 リューマは深々と頭を下げた。
 「ああ、お休み」
 「もう邪魔はせぬゆえ、心置きなく睦言(むつごと)に励まれよ」
 一瞬の間。
 「…あの、つかぬことを伺いますが、先週の火曜日の夜はどちらに?」
 シャンクスはおずおずと訊いた。
 「風に当たろうと思って座ったのが、どうやら赤髪殿の部屋の壁際だったようで」
 「左様で…」
 「御気にされるな、衆道(しゅどう)は武士の世の慣わし。拙者は田舎侍だが、そこまで野暮で
はござらん。ご安心めされ」
 リューマは部屋を後にした。
 シャンクスは決まり悪そうに副船長の顔を見た。
 「馬鹿っ!!」
 副船長の拳がシャンクスの顔面めがけて飛んできた。


 ミホークが滞在している島は人の手が入っていないと見えて、船着場も自然に少々
手を加えた程度のものだった。そこに黒い帽子とロングコートの人影、鷹の目の姿が
あった。
 「よっ!わざわざお出迎えに来てくれたのか、鷹の目。」
 シャンクスが陽気な声をかける。
 「主の艦は目立つからすぐに分かる。これは偶然か?それとも(おれ)に用か?剣の決着
なら左腕が生えてきてからにしろ」
 鷹の目の愛想の無さは相変らずだ。
 「お前に用があるのはこちらさん、俺は送る役目を引き受けただけだ」
 リューマは前に出ると刀を外してその場に正座し、刀を自分の正面に差し出すよう
に置く。右手の上に左手を僅かに重ね深々と一礼した。
 「お初にお目もじ(つかまつ)るジュラキュール・ミホーク殿。拙者は剣士リューマと申す。
本日は鬼徹刀匠総帥三代目鬼徹様よりジュラキュール・ミホーク殿に伝えたき儀が在
り参りまして(そうろう)」
 洋の東西は違えど、今目の前にいる遠方から来た剣士が最高の礼を尽くしているこ
とをミホークは痛感した。ミホークは帽子を取り、片膝をついて一礼した。
 「遠路遥々、よくぞお越し下された。リューマ殿と申されたか、(おもて)を上げられよ。
まずは己の船に入って話を続けようぞ」
 リューマと赤髪海賊団の幹部は鷹の目の船の甲板に上がった。鷹の目の舟は小さい
ので、残りは船着場からその様子を見守った。鷹の目は船底の倉庫から二振りの太刀
を持って来ると、リューマの目の前に丁寧に置いた。
 「これが己が持っている鬼徹の全てだ。二振り所有している。三代目鬼徹が己に用
と言うことは、この二振りについての話と見たが、如何に?」
 「御意。鬼徹は大太刀だけでは未完なのでござる。鬼徹を所有する大剣豪に鬼徹を
完全な形で所有して頂きたい、それが三代目の意向にて候」
 「なるほど、己も鬼徹は素晴らしい刀ではあるが何かが欠けているような気がして
ならなかったのだ。して、その未完成の部分を埋めるものとは?」
 「それがこの小太刀でござる。鬼徹はその全てが夫婦刀、唾の彫りが揃えてござる。
手に取り、とくとご覧じろ」
 「ふむ…」
 鷹の目は小太刀を手に取ると鞘から抜いた。平らに磨かれた刀身に猛禽を思わせる
琥珀色の鋭い瞳が映る。
 リューマの鷹の目を見つめる眼に力が入る。周囲の赤髪海賊団の面々も固唾を飲ん
で見守った。長い沈黙の末、鷹の目が口を開いた。
 「…これは形こそ刀だが、本当は鏡だな。刃鬼を払うための鏡と見た」
 リューマは答えずに鷹の目を凝視する。鷹の目は言葉を継ぎ足した。
 「鬼徹の鋭すぎる切れ味は持つ者を慢心させ、凶気を呼び覚ます。だからこそ、鬼
徹の大太刀を手にする前に(おのれ)の心をこの小太刀に映して己の中に住まう鬼を克さねば
ならぬ。己の鬼を制すること(あたわ)ざれば、自らの凶気に呑まれて鬼と化す。そのような
未熟者に鬼徹は扱えないと諭す為にこの小太刀は在る。違うかな?リューマ殿、いや
三代目鬼徹の代理人よ」
 全ての者が鷹の目の解釈に聞き入っていた。リューマは目を輝かせた。
 「お見事!!流石は大剣豪、一点の曇りなき領解(りょうげ)に感服致しました。鷹の目殿の鬼徹
の所有者としての器量、このリューマ、しかと見届けましたぞ!この小太刀をお受け
取り下されませ。拙者が三代目に喜ばしいご報告が出来るのも全て鷹の目殿のおかげ、
心より御礼申し上げる」
 深々と下げてから頭を上げたリューマの顔には晴れ晴れとした喜びが満ち溢れてい
た。周囲も胸を撫で下ろした。


 「赤髪、よくぞ大切な使者を送り届けてくれた。感謝する」
 「いいんだ。こっちもいい仕事させてもらったしな」
 「客人は己が三代目のところまで送っていく。己も三代目に直々に会って話がして
みたい」
 「お前ならそう言うと思ったよ」
 二人の会話を聞きながら副船長は思う。おそらくシャンクスは答えが分かっていて、
鷹の目が自分と同じ答えを出すと確信していたのだろう。二人は剣の道を歩む者同士、
互いを深く理解しているのだ。
 リューマがシャンクスに歩み寄り彼の右手を取った。
 「赤髪殿、世話になった。このリューマ、生涯この恩を忘れぬ。女将といつまでも
仲睦(なかむつ)まじゅうな」
 「そこんとこは言われなくてもばっちりv」
 シャンクスは奥方に聞こえぬように小さく返事をした。
 

 大きな港町に留めた艦を照らす臥待月。船長室で静かに酒を酌み交わす二人の姿が
あった。
 「今回の仕事は勉強になったよ」
 副船長が感慨深げに呟いた。シャンクスが肴を摘んだ手を止めた。
 「へえ、どんな風に?」
 「剣士同士にしか分からないことってあるんだな。あんたとミホークがそうである
ように。銃には剣の道のような心得と言うか、精神論はないからな」
 「まあ、そんな大袈裟なもんでもないけどな。何か妬いてるようにも聞こえるのは
俺の気のせいかな?」
 シャンクスは悪戯っぽく笑って見せた。副船長は答えるように小さく鼻で笑う。
 「妬いたかも知れん。少しだけな」
 副船長は酒を含んだ。グラスから目を上げると、突然面食らった。
 「何泣いてんだ!?あんたは?」
 シャンクスが目に涙を貯めている。すぐにも零れ出しそうだ。
 「だってだって、嬉しいんだよー。お前が俺に対してヤキモチ妬いてくれるなんて
初めてのことなんだもんよー」
 副船長は自分の言動を悔いた。今夜は寝かせてもらえないかもしれん…。

 
 その後、赤髪海賊団幹部の間では副船長を「女将」と呼ぶ冗談が流行ったそうだ。

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