マキノの店 "Party's Bar" は赤髪海賊団の帰港でいつもとは違う賑わい
を見せていた。
 サラダボウルを突付いていたシャンクスがフォークで刺した野菜をもの
珍しげに見つめる。
 「変った野菜だね」
 「あ、お口に合いませんでしたか?」
 マキノが心配そうに答えた。
 「いや、美味いよ。ただ、見たことがない野菜だなと思って」
 「ええ、フーシャ村では今がこの野菜の季節なんです」
 ルフィがテーブルに顎を載せてシャンクスを見上げた。
 「シャンクス、知らないのか?」
 「ああ」
 「副船長は?」
 今度はエースが訊ねた。
 「俺も知らないな」
 「じゃあさ、明日はこれを採りに行こうぜ」
 ルフィがさも楽しそうに言う。
 「ああ、明日は非番だから構わんぞ」
 「面白そうだな、俺も入れてくれよ。俺も明日は休みだし」
 スペードが会話に入って来た。
 「そんじゃ弁当持って出かけるか?」
 今夜のシャンクスは特に上機嫌でノリが良いようだ。勢いで皆を盛り上げ
る。
 「やったー!」
 小躍りしながら喜んでいるルフィを横目に、エースも訊ねた。
 「副船長も来るだろ?」
 「悪いな、明日は仕事なんだ」
 エースの表情が曇る。名うてのポーカーフェイスも子供の素直な表情には
勝てないのだろう、副船長の顔に罪悪感の翳りが見えた。
 マキノは遅くならないうちにしぶる二人の子どもを家に帰した。
 シャンクスたちも酒場を去る。小さなフーシャ村には大きな宿は無く、彼
らが泊まるのは専ら艦内である。
 支払いをする副船長に、マキノが話を切り出した。
 「私はこんな頼み事が出来る立場では無いんですが…。もし、明日の副船
長さんの用事が大事なことでなければ、あの子たちと一緒に出かけて下さい
ませんか?その、あの子が…、エースが大人に頼み事をするのは本当に稀な
ことなんです。出来ることなら叶えてあげたいと…。あ、本当に勝手な事を、
すみませんっ!」
 マキノは慌てて頭を下げた。
 シャンクスは店のすぐ外で話を聞いていた。彼も副船長のシフトを替えて
やりたいとは思うのだが、私事の為に船長の権限を利用することは公正さを
心がける彼の方針が許さない。
 戸口に座って酔いを覚ましていたヤソップもその話を聞いていた。
 「副船長、俺は明日が休みなんだが休暇を交換しないか?」
 「いいのか?ヤソップ」
 「いいってことよ。なあ、良いだろ?お頭」
 「ああ。艦に支障が無きゃ、休みの交替は自由だ。そこまで俺が口出しす
ることもない」
 「な、いいから、行って来いよ」
 副船長は答えるまでに間をおいた。
 「そうさせてもらおう。ありがとな、ヤソップ」
 「やっぱり家族サービスはお父さんとお母さんが揃わんとな」
 笑って副船長の肩を叩くとヤソップは足早に艦へ戻っていった。
 「どっちがお父さんでどっちがお母さんなんだ?」
 副船長は眉を顰める。
 「言わずもがなと思うがな」
 悪戯っぽい笑みをシャンクスは浮かべた。

 翌日、二人はマキノの店の前で待っていた。
 「副船長!来てくれたの!」
 エースが副船長に駆け寄った。
 マキノが二人に一つずつ大きな風呂敷包みを手渡した。二人はそれぞれに
包みを用意していたリュックに入れて背負った。
 「エース、ルフィ、船長さんたちに迷惑をかけないようにね」
 「大丈夫だよ、俺がいるんだから」
 エースが胸を張って答えるのを見て、マキノは静かに微笑んだ。

 シャンクスたち一行は二人の後をついて歩いていく。平坦な道を過ぎ、緩
やかな上り坂を上がる。子どもにはやや大きいリュックが重そうだ。小さめ
の樽を軽々と運びながら歩いていたシャンクスが不思議に思って訊ねる。
 「なあ、お前らのリュックって何がそんなに入ってるんだ?」
 「弁当!」
 異口同音の答え。
 「それ全部が?」
 「うん!」
 二人はまたもや同時に答える。
 「よく喰うお子様たちだこと…」
 シャンクスは半ば呆れ顔だ。そんな彼らを、副船長は笑いながら巻いた
敷物を担いで歩いていた。

 「到着!ここがあの野菜の畑だ」
 ルフィが叫んだ。
 海に面した崖に広がる一面の黄色。空の青と海の紺碧に挟まれ、その春の
色は一層鮮やかに咲き誇っている。
 「ここって、花畑なんじゃないの?」
 「菜の花って言うんだ。この花のつぼみが、あのサラダになるんだ」
 エースが説明した。
 「ちょっとしたお花見だなぁ」
 スペードが感心した。
 「他の連中にも教えてやろうぜ」
 他の仲間が言った。
 「来いよ、シャンクス!」
 ルフィが黄色に飛びこんで彼を呼んだ。シャンクスも彼についていく。
 副船長は敷物を広げ、皆が座る場所を作った。皆が座ると彼も座って煙草
に火をつけた。
 「へっへー」
 エースが副船長の膝の上に寝転んだかと思うと、幸せそうな笑みを浮かべ
たまま眠ってしまった。副船長はエースに灰がかからぬように、まだ吸いき
っていない煙草を消した。
 「お前たちのおかげでいい休日になったよ」
 副船長は静かに囁いた。
 「たまにはこんな日があってもいいな」
 スペードが小さく呟いた。
 「ああ、そうだな…」
 副船長が黄色い海岸を眺めながら答えた。

 赤髪海賊団、本日は海賊休業日。

 
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