ルフィの海賊デビュー記念の宴も終わり、ミホークは先に島を離れようとした。
その矢先、熱帯特有の嵐のような雨で足止めされた。シャンクスたちの手持ちの
テントを借り、今夜もここで過ごすこととなった。
 大粒の雨垂れが容赦なくジャングルの木々を打ち、肉厚の葉はドラムのような
音を立てている。雨音に混じる遠雷の響き。夜を迎えて雨はさらに激しさを増し、
激しく吹きつける風が雨を波に変える。

 シャンクスは「自分のテントをミホークに貸したので自分の宿がない」と大義
名分を得て、堂々と副船長のテントに泊まっている。
 「なあ、いいだろ?」
 シャンクスが猫撫で声で副船長に呼びかけ、彼のシャツを引っ張った。副船長
は分厚い本から目を離さずに答える。
 「冗談はよせよ。すぐ隣のテントにミホークがいるんだぜ?」
 「この雨音と風で、隣の様子なんてお互いに分かるわけないって」
 確かに、テントに当たる雨粒の音で、お互いの会話すら聞きにくい状態だった。
 「だからって…」
 副船長が反論する前にシャンクスは副船長の服を脱がせ始める。片手でぐいぐい
引っ張るので、放っておくと服を破かれてしまう。シャンクスの腕力は半端なもの
ではなく、本人にその気がなくても破ってしまうことが過去に何度かあった。仕方
なく副船長は腕を動かし、服を自分の体から離した。
 上半身裸なった副船長にシャンクスは正面からのしかかる。
 「こんなジャングルの中で、おカタイこと言うなよ。野性に戻ろうぜ」
 副船長は黙ったまま、雷鳴がより大きくなってくるのを聞いていた。
 シャンクスが業を煮やして彼を押し倒して耳元で囁く。
 「俺に狂わされるのが怖いのか?」
 副船長は数秒間シャンクスの顔を見つめ返したかと思うと、答えるより先に唇を
覆って次の言葉を奪った。不意打ちの接吻は情熱的でシャンクスを驚かせた。
 「そんなにせがむのならお望み通り相手になるさ。けど、あんたが狂っちまって
も俺は責任もたないぜ?」
 副船長は不敵な笑みを浮かべる。シャンクスは喜び勇んで服を脱ぎ始めた。その
間に副船長はランタンの灯りを消した。
 副船長はのしかかるシャンクスの体を抱きしめ愛撫し、唇が届けばキスをして肌
を舐めた。嬌声を押し殺すことなく素直に吐き、シャンクスの愛撫に体を従わせる。
 副船長はシャンクスを仰向けにすると、その腰にまたがった。シャンクスは敢え
て何もせずに彼に任せた。副船長は器用にシャンクスの雄を自分の中へ深々と納め
た。
 暗闇の中、フラッシュのような稲光で浮かび上がる彼の姿。開いた長い両脚、髪
を振り乱してくねる上体、妖艶な笑みを浮かべながら哄笑のような喘ぎ声を上げる。
この世のものとは思えない淫らがわしく凄絶な光景がシャンクスを魅了した。伴侶
の姿を借りた夢魔が自分の精を搾り取っているのではないかと疑いすらした。
 「すげぇ…、最高だよ、お前はっ…」
 シャンクスは自分の体が浮くまで反らして、伴侶の体を突き上げた。伴侶は切な
げな声をあげて体をのけぞらせた。
 嵐に負けぬほど激しい情事を、雷光がテント越しに何度となく照らした。シャン
クスの目はその光景を忘れまいと脳裏に焼き付けた。


 翌朝早く、シャンクスと副船長は焚き火の傍らでコーヒーを飲んでいた。他の船員
たちは二日酔いなのか、誰も起きていない。やがて、ミホークがテントの中から出て
きた。シャンクスは彼に声をかける。
 「おはよーさん、お前もコーヒー飲むか?」
 「いただこうか」
 ミホークは二人の近くに座った。副船長がすかさず金属製のマグカップを差し出す。
受け取ったコーヒーをミホークは味わった。
 「美味いな」
 「こいつは何でも出来るんだけど、コーヒーを淹れるのも上手いんだ」
 シャンクスは自分のことのように誇らしげに語った。
 ミホークは二人の顔を見た。
 「昨夜は嵐で油断したようだな」
 ミホークの言葉にシャンクスと副船長は首を傾げた。ミホークは続ける。
 「雷の夜には注意した方が良い」
 ますます意味が分からない。
 「何のことだ?」
 シャンクスが聞き返した。
 「昨夜、稲光でテントにお前たち二人の影がはっきり映ってな。こちらとしては、の
ぞく気などなかったのだが、偶然見てしまった」
 ミホークは淡々と答えた。副船長がコーヒー豆をしまう手を止めた。シャンクスは恐
る恐る訊ねる。
 「見たって、まさか…」
 「ロデオのようだったな。随分激しく扱われていたようだが、大丈夫なのか?」
 ミホークは副船長に「風邪の具合はどうだ」とでも聞くように、至って平静な面持ち
で質問した。
 副船長は答えず、顔をミホークからそむけた。髪の間からのぞく耳が赤い。
 「お前さ、そういう話を真面目な顔のままするなよ…」
 シャンクスも赤くなりながら決まり悪そうにしていた。ミホークが真面目で冷静なだ
けに、どう対応すれば良いのか分からない。

 雨上がりの森、木々の間に立ち込めるもやは薄絹のベールのようだった。青く澄んだ
空の彼方に、朝日が虹をかけている。
 「いい朝だな」
 ミホークはそう言うと、コーヒーを飲んだ。
 「そうだな…」
 シャンクスは口ではそう言ったものの、美しい朝を堪能する余裕はなかった。無論、
副船長はショックでそれどころではなかった。
 
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