「…花火?」
 副船長が聞き返した。
 「そうなんだよ。エースとルフィに花火の話をしたら見たいって騒ぎだしち
まってさあ」
 シャンクスは説明する。
 副船長はシャンクスの顔よりもずっと下にある二つの黒い頭に視線を落とす。
二つの頭は目を輝かせて顔を上げた。
 「副船長、お願い。花火が見たい!花火!花火!」
 「ねえ、頼むよー。副船長ー」
そう言いながらサッシュを引っ張るのはエース。
 「花火ってさ!シゅルーって上って、パーン、ドーンってそれで、それで」
 ルフィは興奮で既に呂律が回らない。
 これだけ期待されると、断った後が怖い。
 「なあ、いいだろ?花火に使う火薬は俺の小遣いから出すからさ」
 シャンクスが拝み倒す。
 「それなら俺よりも、村からの許可を得る方が先だろうが。大量の火薬を村
内で扱うことに賛成してもらえるかどうか…」
 溜め息混じりに副船長が答えた。
 「やったー!」
 三人は子どものようにはしゃいだ。と言っても、内二人は本当に子どもなの
だが。
 「もう村から承諾はもらってんだ。ルフィ、エース準備するぞ!」
 勢い良く駆け出した三人の後姿を副船長は苦笑混じりに見送った。

 副船長は艦の中を一回りして何人かの船員が見えないことに気付いた。
 「ヤソップたちの姿が見えないようだが」
 帆の修繕をしていた男が手を止めた。
 「ヤソさんなら火薬担当班連れて花火作りに行ってるよ。火薬庫じゃ暗くて
細かい作業が出来ないってんで、人気のないところで幔幕張って。あの人も凝
り性だから」
 花火の承諾を出したのは今しがたのことだった。さては最初から準備してた
んだなと副船長は胸のうちで苦笑した。
 副船長はたまっていた仕事を片付けるとヤソップたちの様子を見に行った。
 待ちきれずに中を覗こうとする幼い兄弟が、何度も何度もルウにつまみ出さ
れているのが遠くからも見えた。
 心配することもないか、と副船長は踵を返す。
 ヤソップたち狙撃手は、火薬の性能と恐ろしさを熟知している。遊んでいる
ように見えてもぬかりはない。

 花火を打ち上げる夕刻。フーシャ村の人々が浜に集まりだした。
 「全く、何を考えとるんだ、エースとルフィは。ワシは反対だぞ。海賊との
付き合いなんぞ…」
 一人文句を言い続ける村長をマキノがなだめる。
 「言い出したのは船長さんじゃなくて、二人なんですから。それに花火なん
てこの地域では滅多に見られませんよ。ほら、皆だって楽しみにしてますよ」
 「そーだ、そーだ」
 「折角の花火だ皆で楽しもうじゃないか」
 村人たちがビールジョッキを片手に口々に言う。浜辺は花見のような状態だ。
  ふね
 艦の上は言うまでもなく宴会に突入している。
 「ルフィ、エース、俺たちは特等席に行くぞ。副船長、お前も来い」
 三人はメインマストの見張り台に続くラットラインを猿のようにひょいひょい
上っていく。副船長は三人に揺らされるラットラインをゆっくりと上った。

 ヤソップたちは予め小型の簡易砲台を垂直に設置しておいた離れ小島で待機し
ていた。
 「よっしゃぁ野郎ども!打ち上げだぁ!」
 「おう!」                 ろう
 「細工は隆々、後はご覧じろ」
 ヤソップはマッチを擦った。打ち出された弾は勢い良く空へ駆け上る。
 最初の一発目が夜空に輝いた。
 閃光に続いて空に破裂音が観衆の耳に轟く。
 「おおーっ!すげーっ!!」
  二人の兄弟が目を輝かせて驚く。
 「ちゃんと形になってるな…」
 副船長が静かに驚いた。
 夜空に次々に光の花が咲き乱れる。花が輝くたびに浜辺で、甲板で、見張り台
で歓声があがる。

 副船長の肩をシャンクスがちょいちょいとつつく。
 「なあ、ちょっと耳貸して」
 頭を傾けた副船長の首にシャンクスは手をまわす。耳のすぐ側でそっと囁く。
 "Happy Birthday, Benn."
 してやられたという表情を浮かべた副船長の鼻先で、シャンクスは破顔した。
首にかけた腕に力を込めて相棒の顔を寄せて唇を重ねた。
 子どもの目の前で…と、一瞬振りほどきかけたが、花火に釘付けになってい
ることに納得してなすがままに任せた。
 「本当にすげぇなぁ」
 エースは振り向いたが慌ててまた前を向き、ルフィが後ろを向かないように頭
を押さえた。

 花火の煙を流す風は涼しく、秋が近づきつつあることを告げていた。
 
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