シャンクスの艦ファーブニル号の食堂では大宴会が催されていた。
 賑やかに騒いでいた男たちが急に静まって時計を見つめる。
 真夜中に秒針が迫る。
 十秒前、誰からともなくカウントダウンが始まる。
 「5,4,3,2,1,」
  A HAPPY NEW YEAR!!
 パンパンパーン
 クラッカーの破裂音が赤髪海賊団の艦内に響いた。
 一年のほとんどを海の上で過ごす彼らは、新年を船上で迎えることも多々ある。
 時計は2時を回り、酔いつぶれた者達が折り重なってイビキをかいている。
 シャンクスはあたりを見まわした。副船長の姿がない。食堂から出て行ったようだ。
甲板に出る扉を開けると、すぐ横にもたれかかるようにして副船長は立っていた。
外では雪が降っていた。
 「ひょっとして雪を見てたのか?」
 「俺の故郷では雪なんて言葉に聞くだけだったからな」
 副船長はややうつむきながら答えた。照れているのだ。
 「あんたこそ、雪を見てもっとはしゃぐかと思ったんだが」
 「俺の故郷では雪のない冬なんてなかったからさ」
 シャンクスはそう言って副船長の横顔を見つめた。
 「そう言えば、お前も背の高い黒髪の男だな」
 感慨深げに呟いて、副船長の髪に触れた。氷のように冷たくなっている。
髪から指を離し頬に掌を当てる。頬も冷え切っている。
 「体、冷えちまってるぞ」
 シャンクスは彼の腕をぐいぐい引っ張り自室へ連れて行く。
 「さあさあ、体の芯まで温めてやるからなー」
 シャンクスは服を着たままの副船長をベッドに寝かし、毛布を被ってその中で
器用に彼と自分の服を剥いでいく。
 いつもやってることだけどな。そう思ったが、副船長は口には出さなかった。
 やがて、毛布の中からくぐもった軋みの音が漏れはじめた。

 副船長が汗ばんだ額をぬぐって口を開いた。
 「そう言えば、先の」
 「ん、何だ?もう一回か?」
 シャンクスがにやりと笑う。副船長が慌てた。
 「馬鹿、そうじゃない。長身で黒髪の男がどうとかって話だよ」
 「ああ、あれか」
 シャンクスは小さく笑って話を続ける。
 「俺の故郷には新年に訪問しあう風習があってさ。その中でも新年最初の訪問客が
『薪と酒を持った背の高い黒髪の男』だとその家は当たり年になるって言われてんだ」
 シャンクスが自分のことを語ることは珍しかった。副船長は聞き入る。
 「俺が子どもの頃、言い伝えそのままのように背の高い黒髪の男が酒と薪を持って
やってきたんだ。俺は嬉しくなって家族に知らせたよ。祖父さんが航海先の友達を元
旦に合わせて呼び寄せてくれてたんだ」
 「そうか」
 副船長はそう呟いて眠りに落ちた。彼がシャンクスより先に眠るのは珍しかった。
副船長が連日、新年のイベント準備をする船員たちのお守りをしていたことをシャン
クスは思い出す。シャンクスは彼を起こさないように髪を軽くなで、出ていた肩に毛
布をかけてやる。
 「お前がいれば、毎年がヴィンテージイヤーだよ」
 シャンクスも彼に体を寄せて眠りについた。
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