副船長は液体の入った小瓶をシャンクスに差し出した。 「痛み止めの薬だ」 シャンクスはあからさまに嫌な顔をした。彼のシャツの左腕は肘の上から だらしなく垂れ下がっている。 「えーっ、液状?俺苦手なんだよな。もっと飲みやすいのないの?」 「いくら言っても聞かない馬鹿用に特別飲みにくくしてあるんだそうだ」 だが、この言葉は副船長の嘘だった。 数分前、艦内の医務室。 「お頭の薬だ」 船医が副船長に紙袋を手渡した。 「これって、いつもの座薬か?」 「そうだ」 副船長は数秒沈黙した後、言いにくそうに船医に申し出る。 「飲み薬に替えてもらえないか?」 「どうして?座薬は吸収が良いし早く効く、胃にもさわらないんだぞ」 「入れるの、俺の役目なんだ…。」 深く溜め息をつく副船長の表情を見て、船医は黙り込んだ。 「仕方ないな、効きが悪いようならまた座薬に戻すぞ」 船医は茶色の小瓶を手渡した。 「ほら、つべこべ言わないで飲め」 シャンクスはぶんぶん頭を横に振った。 「やだやだやだやだ。やだったら、嫌だ!」 駄々をこねるシャンクスの姿を見て、この男が俺よりも年上なのかと副船 長は疑問に思う。 「あっ!でも、飲み方を変えてくれるなら飲むぞ」 シャンクスは思い出したように叫んだ。 「口移しで飲ませてくれるんなら飲む」 シャンクスは甘えるような声で言った。 「何で俺まで苦い思いしなくちゃならねぇんだよ」 副船長は呆れて溜め息をついた。 「怪我人なんだから優しくしてくれよ」 猫なで声でシャンクスはねだる。 「いい年こいた男が甘ったれるな」 副船長はきつい口調で叱ったが、シャンクスは副船長を見上げてにんまり と笑みを浮かべている。シャンクスがこういう表情をするときは、何があっ ても自分の思い通りにするときだと副船長は思い知らされていた。 副船長は小瓶を開け自分の口に含んだ。シャンクスはとびつくように、副 船長に顔を近づけ、その口から薬を吸った。副船長が体を離す。 「なんで舌まで入れる」 「一滴残さず飲むの」 シャンクスは右手で副船長を引き寄せて、キスを続ける。 「何してるんだ?」 突然ルフィの声がした。 二人は慌てて離れ、声の方向を見る。そこにはルフィが不思議そうな顔を して立っていた。 「なあ、シャンクス何してたんだ?」 「こうやって好きな相手に薬を飲ませてもらうとと苦い薬も楽に飲めて、 しかもよく効くんだ」 シャンクスはとっさに言い訳してルフィの頭を撫でた。 副船長はそっぽを向いて煙草に火をつけた。 十年後、ココヤシ村。 ゾロは縫合も終わり、診療所のベッドで横になっていた。そこへルフィが やってきた。ルフィは枕もとにおかれている薬を目にした。 「これ、ゾロの薬か?」 「ああ、そうらしいな。別になくてもいいけど」 ルフィはそれを口に含むと、ゾロの頬を両手で抱えて顔を近づけた。 ゾロは近づいてくるルフィの頭を押しやるように抵抗した。 「何のつもりだ!ルフィ」 「あっ、飲んじまった」 ルフィはゾロの顔から手を離す。 「何なんだよ!ルフィ!」 「昔シャンクスが教えてくれたんだ。薬は口移しで飲むのが一番だって。 だから俺たちもそうしよう、ゾロ」 「そんなワケねーだろっ!」 「シャンクスが言ったんだから間違いねーって!」 ベッドの上で二人はドタバタもみ合う。扉がバタンと開いた。 「ばっかもーん!何よりも安静じゃ!」 医師の怒声が診療所の外まで響いた。
