時は深夜、船長室のベッドの上。
 シャンクスが副船長に体を寄せると、副船長はわずかに体を引く。
 同衾するようになって、二ヶ月近くになるが、副船長はまだ抵抗が
あるようだ。
 シャンクスは愛撫しようとして伸ばした手を止めた。
 「なあ、俺はお前の言うとおりに髭も伸ばして男らしく年上らしく
見えるようにしたぞ、攻として。それでも、まだ違和感あるか?」
 副船長は言葉にはしなかったが、表情でそうだと答えている。
 「ベン、俺が幾つかお兄さんなの分かってる?」
 「それでも見えないもんは見えないんだよ」
 シャンクスはその答えを聞いて小さく溜め息をついた。
 「俺がお前より強く見えたら良いんだな?」
 「まあ、そういうことだな」
 副船長も溜め息をつく。

 次の瞬間、副船長の体がひょい持ち上がった。副船長は驚きのあまり
声も出せずにいた。シャンクスは彼の体を軽々と肩で担いで言った。
 「この格好のまま艦内をランニングってのはどうよ?」
 「勘弁してくれ・・・」
 副船長は消え入るような声で懇願した。
 「どうすりゃいいんだ?」
 シャンクスは真剣に悩んでいる。

 数日後、シャンクス一行は港町に寄った。
 繁華街の一角にゲームセンターを見つけたのはシャンクスだった。
 「なぁ、ゲーセン寄って行かないか?」
 「賛成」
 ノリの良い船員たちが異口同音で答えた。センターに入ると彼らはそれ
ぞれ好みのゲームを探して散っていく。
 数あるゲームの中で副船長はパンチングマシーンを見つけた。パンチ力
を測定するゲームだ。ふと、彼の脳裏に数日前の事が浮かんだ。シャンク
スが彼を軽々と持ち上げた、あの夜のことだ。
  お頭の腕力はどれくらいのものなんだろう。
 彼はパンチングマシーンを見つめながら考えた。
 副船長はシャンクスを呼び止めた。
 「お頭、これをやってみないか?コインは俺が出す」
 「おう、いいぜ」
 快諾。
 マシーンの横には張り紙があった。副船長が覗き込み、シャンクスがそ
れに続いた。そこにはこう書いてある。
 <悪魔の実の能力者のお客様はこのゲームの利用をご遠慮下さい。>
 「ふーん」
 シャンクスが妙に感心している。
 「じゃあ、俺が先に」 
 副船長がマシーンの前に進んだ。彼は本気を出していないフリをしなが
らも、渾身の力をこめてパンチバッグを叩く。
 バシーンと音が響いた。
 電光掲示板が閃く。
 最高得点。全ての記録を抜いてダントツの成績だった。
 いつの間にか集まっていた仲間たちの歓声が後ろから上がる。
 「やるなー」
 シャンクスは嬉しそうに副船長を褒めた。
 「じゃあ、俺も張り切ってやるぞ」
シャンクスがマシーンの前に立って構える。
 「せーの」
 バキッ!!
 マシーンそのものが真っ二つに折れて砕けた。
 その場にいた全員がこの不測の事態に唖然とした。
 「ご・・ごめんなさい」
 シャンクスはとりあえず謝る。
 奥から店員が駆け寄ってきた。
 「だめじゃないですか、お客さん。注意書きにあったでしょ!悪魔の実の
能力者はこのゲームしちゃだめだって」
 「俺、悪魔の実を喰ったわけじゃないんだけど・・・」
 「え、そうじゃないのに?腕力だけで壊したの?」
 店員は呆気に取られた。
 シャンクスは申し訳なさそうに顔を上げる。店員はその顔を見て驚愕した。
 「お客さん、あの!海賊の!赤髪のシャンクス!」
 「弁償はするよ。いくら?」
 店員は耳を疑った。海賊が壊したものを弁償する?
 シャンクスは後ろの仲間たちを振り返る。
 「ねぇ、弁償金カンパしてぇ」
 「だーめ」
 異口同音に厳しいツッコミが返って来た。

 店員は手渡されたお金を持ったまま立ち尽くしていた。
 海賊さんに弁償してもらっちゃった・・・。
 シャンクス一行はそそくさとゲームセンターを立ち去った。

 「測定できなかったな」
 シャンクスが副船長に申し訳なさそうに言った。
 「いや、充分に分かったから・・・」
 そう答えた副船長の顔色は悪かった。
 ミホークと肩を並べてるんだから、人間の強さの単位で測れるレベルじゃ
なかったんだよな。最初から。
 
 その夜、副船長の部屋にシャンクスが訪れた。
 「なあなあ、今夜はいいか?」
 おいでなすった・・・
 副船長は小さく頷く。シャンクスは副船長の下腹へと手を滑らせる。その
途端、副船長はビクッと身じろぎした。
 シャンクスがそれ以上に驚いて訊ねる。
 「どうした?」
 あの怪力で握られたらひとたまりも無い。そう考えると体が震えた。
 「いや、なんでもない」
 副船長は彼の手を軽く払うと、自らシャツのボタンを外し始めた。
 「どうしたんだ?今まで、ただむかれるのを待ってたのに?」
 シャンクスは驚いていたが、すぐにその表情は喜びへと変わった。
 「やっと、俺の愛が分かってきたようだな」
 副船長は観念して身を横たえる。
 もう、俺には抗う術が無い・・・
 シャンクスは彼の耳元で囁く。
 「愛してるぞー」
 ずるい。
 力ずくで犯そうと思えば出来るくせに。
 拝み倒されたり、口説かれたりしたら、なおさら抵抗のしようがない。

 ベッドの軋みの中、副船長は考える。
 シャンクスがベッドの中に限り器用なことだけが、唯一の救いだと。

 ○月×日
 この夜ベン・ベックマンはシャンクスに全面降伏した。

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