ベン・ベックマンが赤髪の一団に入ったのは半年ほど前の事。入ったその日に「副船長」という肩書きを与えられ、 重要な仕事の一切合切が彼に任されるようになっていた。今日も彼は山ほどの仕事を終え、ようやく船室のベッドに 体を横たえた。 ギギッ、ミシッと軋む音が聞こえ、床の中心部に微かな撓みを覚えた。不審に思った彼はベッドから降りてランプ に火を点け、床板を開けた。寝床の下は生活必需品や煙草のストックが詰まっている。船は使える空間が限られてい るので、船室のベッドの殆どが収納スペースを兼ねて いる。彼の寝床もそれは同じ事だった。 彼は上げた床板の裏にランプの明かりを当てながら眺める。撓みと軋みの元はすぐに見つかった。中心部に裏打ち された木製の筋交い棒に亀裂が入っている。 彼は顔に手を当てて力無くそこに座り込んだ。思い出したくない原因が次から次に頭をよぎっていく。 ”まさか、壊れるなんて…本当に一人眠れるだけの設計なんだな…。” ドアが控えめにノックされた。消灯時間を過ぎてこの部屋に来る人物など一人しかいない。部屋の主が答える前に 扉が開く。赤い髪が端正な顔の上で揺れながら入ってきた。 「よっ、起きてた?」 「何の用だ…」 「聞きたいなら教えようか?」 シャンクスは悪戯を企む悪童のように笑った。 「いや、いい…」 シャンクスは開けられたままの寝床に気づいた。 「何してた?」 「変な音がすると思ったら壊れてたんだよ。だから、今夜は大人しく帰ってくれないか」 副船長はデスクの上にランプを置いた。 「ふーん?どうして壊れたんだ?」 シャンクスの暢気な問いかけが副船長の額に青筋を呼び出した。 「一人用の寝床に無理矢理二人で乗ってたからに決まってんだろ、それも頻繁にな…」 彼の答えは静かだが明らかに怒りがにじみ出ていた。 「つい、激しくしちゃったからな〜」 シャンクスは照れ笑いをしながら身をくねらせた。副船長は怒るべきか呆れるべきか迷いながら相棒に勧告する。 「とにかく、今夜は…というか、しばらくは無理。角材仕入れて補強するまでお預けだ」 「えっ…、それっていつまで?」 「次の港に着くまでに決まってるだろ。予定通りに航海出来たとして二週間後だな」 ぽかんと口を開けたシャンクスが言葉を返す。 「二週間?そんなに待たされんの?いや、待て、おれのベッドを使えばいいじゃん」 副船長は無駄と知りつつも睨みつける。 「俺からわざわざそっちに行くと思うのか?」 「遠慮なくいつでも来い!」 シャンクスは胸を張って答えた。副船長は苛立ちを露わにしながら本音をぶつける。 「俺は時間があるなら仕事を片づけるか休むかのどっちかで済ませたいんだ。あんたにはこういう関係を改めよう と言う気はないのか?」 「ないな〜、これっぽっちも。何で止めなきゃいけないの?」 シャンクスの表情は子犬の様に無邪気だ。シャンクスの反応に反比例するかのように、ベックマンの表情は苦々し い険しさを増していく。 「アンタは俺がこういう相手に向いていないとは思わないのか?」 「いや、お前は結構向いてるって、色気十分だし、何よりあの締まりはタダモンじゃねえ!俺が保証するから自信 持てって!」 シャンクスは興奮気味に語った。 「んな自信持ってたまるか!」 ベックマンは思わず声を荒げた。シャンクスのペースに乗せられそうになった所を、彼は持ち前の冷静さで立て直 そうとする。 「…無理なものは無理なんだ。今夜は帰っ…!」 てくれと言い終える前にベックマンは両手を捕られ、机に押しつけられてしまった。 「別にベッドの上でなくてもいいじゃん」 鼻が擦れそうなほど近づいたシャンクスの顔がにんまりと笑った。 「…え?」 「ベッドが無くても出来るって。俺の部屋に移るって手もあるけど。もうダメ、俺が待てない」 「止せって…」 力ではねのけようとするが、捕まれた両手首はびくとも動かない。全力を出し切れば、互角まで持ち込めるかもし れないが、二人で真剣に勝負をすれば船室が壊れるわ、人が来るわで、ろくな結果にならないのは目に見えている。 副船長は苛立ち混じりの溜息をしながら腕の力を抜いた。 「一回だけだからな…」 「あいよ」 シャンクスは嬉しげな返事をした口で恋人の唇を即座に塞いだ。 「う…んっ…ふっ…」 窒息しそうになるほど濃密な接吻からベンは顔を横に振って逃れた。すかさずシャンクスは隙の出来た首筋を甘噛 みする。歯の硬質な感触と熱い吐息がベンの首筋に触れ、そこから背筋に軽い電流のような刺激が走った。 シャンクスの両手が無遠慮にシャツをたくし上げ、胸筋の上にある唯一鍛えられない柔らかな粒を指で摘み弄ぶ。 机上に組み敷かれた男の口からは嬌声こそ聞こえないが、呼吸は既に乱れている。ベンの臍下の中心が隆起し始め、 のし掛かる男の股間を押し上げた。シャンクスは恋人の膨らみに自分のものを服越しに押しつけて擦り合わせる。 「もう、いいよな?」 シャンクスがベンのズボンを脱がせにかかった。就寝前でブーツを履いていなかった彼の両脚は瞬時に剥き出しに された。シャンクスは自分のいきり立った中心に人工の薄皮を被せた上でポケットから出したローションをかけ、恋 人の秘芯の入り口に当てる。感じまいと耐える表情とは裏腹にそこは既に受け入れようと蠢き始めていた。シャンク スは慣らすようにゆっくり自らの中心を挿し入れていった。 「はっ!?」 ベックマンの背が弓なりに跳ねた。シャンクスが下で主張する恋人の中心に予告なくローションをかけたのだ。シ ャンクスはそれを左手で包み込み、精の出口を親指で塞ぎながらしごき始めた。 前も後ろも絡め取られ、躯と一緒に彼の理性も激しく揺さぶられる。 壁面に作り付けられた机の脚がミシミシと悲鳴を上げ始めた。ベンの手がシャンクスの腕をきつく掴んで止める。 「…あっ!待てっ!今度は机を壊す気か?」 シャンクスがニヤリと笑った。 「じゃあ、担ぎ上げて続けようか?」 ベンの脳裏に持ち上げられ蝉みたいにしがみついた体位でイかされた経験がよぎった。掴んでいた手を離して力な く答える。 「…このままで」 「あいよ」 二人の息が荒ぶり乱れる。 高まる波の中でベンの思考がもつれて絡まる。 ”…いっそ、この男が下手くそで痛みしか感じないような情交だったら、もっと毅然と断れたのかもしれない。こ の男から与えられる快楽に呑みこまれてしまいたい自分が躯の奥底にいるようで…逃げられないっ…” 「ぁ!んっ…!」 シャンクスが恋人の上に倒れ込んだ。 「気持ち良い〜、最高〜」 下に敷かれていた相棒は既に仏頂面に戻っている。 「終わったらとっと退いてくれ、重い」 シャンクスは後始末をしながらにたにたと笑いだした。 「お前の切羽詰まった顔ってほんの一瞬しか見られないんだよな。普段とのギャップにたまらなくそそられて、つ いつい迫っちまう」 「バカ言ってないで持ち場に戻れよ、船長」 ベンは脚でシャンクスを押し退けようとしたが、膝が震えて巧く力が入らない。それに気づかないシャンクスでは なかった。彼は勝ち誇ったようにほくそ笑む。 「へへっ、悪くなかったんだろ?体は正直だな」 ベンは机のペン立てから小さなナイフを取り出してシャンクスに向けた。 「ナイフ投げの的になってくれるんなら、この部屋に残ってもいいぜ?」 ベンが本気だと悟ったシャンクスの顔が青ざめる。 「分かった!帰るって」 シャンクスは衣服の乱れも直さずに部屋を出た。 「せめてズボンぐらいは上げて行け!」 副船長は小声で叱責したが、ドアは閉まった後だった。 「…ったく、」 机から降りる脚がまだ余韻と痺れが残っている。彼はそろそろと撓むベッドに体を横たえた。 ”このままだと壊されるのはベッドでも机でもなく、俺だ…。この先、一体どうすれば…”
