陰鬱な島の海岸に小さな木製のガレージらしき廃墟。その天井に滑車から下がる鎖、その先には革手錠に
拘束された逞しく長い指の手、鍛え上げられた腕の間にはベン・ベックマンの顔があった。繋がれた彼は黒
のランニングシャツにジーンズという軽装で裸足だった。彼の足下わずか数センチ先には使い古されたマッ
トが敷かれていた。
ベックマンは苦悶の表情を浮かべ始め、額に汗が噴き出してきた。苦しげに食いしばる歯の間から漏れる
呻き声に聞き入るのはシャンクス一人だけだった。シャンクスは腰掛けから立ち上がり、レバーを引いて彼
を座れる程度まで下ろした。
「苦しいのか?始まったみたいだな」
シャンクスは机に置かれた時計に目を遣り、表らしき紙に簡単に書き込むと相棒に近づいていった。
息が荒く、目が朦朧とする相棒をシャンクスは真剣に見つめた。相棒の乾いた唇を湿らせようとシャンク
スは自分の唇を重ねようとする。ベンは顔を背けた。
「…止せ、幻覚が現れたら何をするか分からない。あんたの舌を喰いちぎるかもしれないんだぞ」
「じゃあ、下の口ならいいよな?歯も生えてないし」
「え…?」
シャンクスは右手でベンのジーンズと下着を同時に剥ぎ取った。彼の剥き出しになった下半身を転がして
半宙吊りで四つん這いに近い格好にすると双丘の中心にシャンクスは顔を埋めた。
「ぁ…!止せ…」
湿った熱い舌にベンは体の芯を焼かれるように感じた。前の部分はすでに起ち、その先に滴が光っていた。
「何もしないよりは気が紛れるだろ?」
シャンクスはズボンのポケットから小瓶を取り出し、キャップを噛んで蓋を開ける。その瓶の口を今まで
自分の舌で弄んでいた箇所にあてがった。
「!!!」
いきなり流れ込んできた刺激にベンは言葉も出なかった。瓶の中の液体は腿の間にも伝わってこぼれ落ち
た。きつい酒の匂いが二人の鼻を突いた。
「あんた、何を…」
体の底から逆流する熱い流れにベンは身悶えする。双丘の奥がそこに心臓があるかと思うほど激しく脈打
っている。一番触れられたくない所に、太く硬直した陰茎は馴らしもなく無遠慮に押し入ってきた。
「あっ!…ああ!ぁ…ふっ…ああう!」
いつもは寡黙に快楽に耐える彼とは思えない程の激しい嬌声だった。興奮したシャンクスはさらに荒々し
く彼を突き崩そうとする。
「は…ん、ぅ、っあ!あああ!」
激しく声を上げながらベンは腰を波打たせる。耐えきれずに精を放った彼をシャンクスは容赦なく責め立
てた。
「…もう、これ以上は…」
恋人の哀願など男は聞く気もない。
「もうちょっと楽しませろや」
「んんっ!…あ!…あ!はぁああ!」
シャンクスはやっと体を離し、その反動で後ろに倒れるように座った。
「どうだ?禁断症状は?」
シャンクスが倒れている相棒に問う。
「…波は引いたみたいだ。今はな…」
赤髪海賊団の幹部がもう使われなくなって久しそうな暗い波止場でランタンを灯し屯していた。彼らには
いつもの陽気さも無ければ、彼らを率いる二大巨頭の姿もなかった。
「どうだ?今何時だ?」
「夜八時を回った」
「まだ残り四十時間も待たなくちゃならんのか?」
「仕方ないさ」
彼らの元に艦から降りてきた船医がやってきた。
「二人からの緊急連絡は?」
「いや、何の音沙汰も無いぜ」
「そうか…」
「なあ、B・J、解毒剤は出来そうか」
「分析結果が出るまで時間がかかるんでな、休憩を兼ねて出てきたトコだ。分析結果が出ても、それに合っ
た薬を作れるかどうかは正直おれにも難しい」
B・Jはポケットから紙巻き煙草を出して火を点けた。
「そんなぁ…」
「大丈夫だって、副船長なら麻薬の急速解凍だってやってのけてくれるって」
そう言うヤソップの顔は心配を顔に貼り付けたままだった。
船医は煙混じりの溜息を吐いた。
「だといいんだがな。麻薬からの急速解凍ってのは机上の空論にも等しい。俺も長いこと医者をやってるが、
それをやってのけた奴にお目にかかった事がない。何しろ麻薬の類の害ってのは、脳の中身を書き換えちまう
ようなもんだからな」
「あんの野郎、うちの副船長になんつーことを!ぶっ殺してやる!!」
幹部の一人が思いだし怒りに震える。
「もう、お頭がぶっ潰したじゃないスか」
グラスが投げやりに答えた。
赤髪海賊団が敵船と遭遇し戦ったのは昨日のことだ。連中は麻薬を生業とし、能力者も多数抱えていた。苦
戦の末に勝利を得たが、敵の能力者が放った麻薬銃の餌食になったのが副船長だった。幹部を庇っての負傷で、
副船長に助けられた幹部は今船の底で男泣きに泣いている。
副船長は麻薬の急速解凍の為に離れた小屋に隔離されていた。幻覚やせん妄状態の時に逃げたり誰かを傷つ
けない為の見張りと看護役をシャンクスが務めている。
グラスが顔を上げた。
「でも、船医さんは医学生の頃に麻薬の中和薬の研究チームにいたことあるんスよね。並の船医じゃ太刀打
ち出来ませんゼ?不幸中の幸いだったんじゃ?」
「医術の師が研究していたのさ。麻薬に苦しむ人々を救いたいと、後遺症を和らげ回復を手伝う薬の完成を
目指していた。立派な先生だったさ。だが、先生は悩んでもおられた。その薬が出来てしまえば更に人間は堕
落するのではないか?とね」
「なんか難しい話だなぁ」
ヤソップが眉根を八の字に寄せた。
「今、副船長には今ある二種類の後遺症緩和薬を交互に投与してる。分析結果次第で、どちらかに絞るか、
新しく薬を調合するか、方針が決まる。おれは薬を投与する側で作る側じゃないんだ、仕事が多すぎる。今度
は薬剤師を雇ってもらうか、おれの給料を倍にするかお頭に掛け合ってやる」
船医は腕を組んで口をへの字に曲げた。
「後四十時間で決着が本当につくのカナ?」
ルウが訊ねる。いつも通り肉は彼の手にあるが、口を付けていなかった。
「四十時間はあくまで目安さ。禁断症状の波の感覚が次第に開いて、やがて丸一日なくなったらとりあえず
おれ達の勝ちだ」
「悪魔の誘惑と連夜戦うなんて、まるで聖アントニウスの夜だな」
北海出身の幹部が十字を切った。
船医は腕時計を見て艦に戻っていった。
副船長は裸体のまま襤褸マットの上で、リネン一枚で眠っていた。
「眠ってるとこ悪いんだが、ほら、薬の時間だからよ」
シャンクスが粉薬を渡すと副船長は繋がれた手で薬包を口に入れ、差し出された水筒の水を飲み干す。
「どうだ、大丈夫か?」
「…あんたの無茶さえ無けりゃぁな」
「悪い」
シャンクスはバケツの柄に布をかけ、片手で器用に絞る。絞った布で彼は副船長の体を丁寧に拭いた。
「片腕の男に世話を焼かれるとは俺も墜ちたもんだ…」
副船長はふてくされるのを見て、シャンクスが愉快そうに笑う。
「たまには良いだろうが、立場逆転ってのも」
「立場か…」
副船長は遠くを見るような目で考え込んだ。
「もし、俺がこの薬に勝てなかったら、俺を艦から降ろすか、殺すかはあんたに任せていいか?」
「降りる?副船長の責務を果たせないから?」
「…そうだ」
シャンクスはすぐに返事を出さなかった。重苦しい沈黙が流れる。副船長が諦めたように目を閉じていると、
相棒が鼻で笑うのが聞こえた。
「別に副船長の責務を果たせなくたって艦には乗れるさ。オレの生き人形としてな。退屈な時には船員たちの
目の前でヤったら、良い刺激になるだろうぜ」
「何ふざけたこと言ってんだ!あんたは!」
言葉と同時に副船長は右足を鞭のように振り上げシャンクスの左顔面に命中させた。流石の副船長もこの暴
言には頭に血が上ったのだ。シャンクスは敢えて避けなかった。堪えたまま相棒を睨み付ける。
「…ふざけてんのはどっちだよ。たかが注射器一本分の薬が入っただけで船を降りるだぁ?正気失ってんの
はそっちだろ!!」
獅子の咆哮の如き一喝がベックマンの体も心も震わせた。数分の沈黙の後に副船長が呆れがちに口を開いた。
「ったく、簡単に言ってくれるぜ。蛇や蠍の毒とは訳がちがうんだぞ?」
「うるせぇ、オレの相棒のくせにつまらねぇ弱音吐いた罰だ。お仕置きしてやる」
シャンクスがレバーを引いて相棒を立てる程度の高さまで吊り上げた。縦に伸ばされた体をシャンクスは抱き
寄せて首筋に下を這わせ始める。ベンは鎖を鳴らしながら避けようとする。
「おい、まだ禁断症状の波はまだ来てない」
シャンクスがにやりと笑う。
「拘束されたお前を自由にできて、しかも邪魔が入らないなんて、こんな旨い機会を楽しまなきゃ損だろうが」
シャンクスはベンの左足をかつぎ上げ、開かれた足の間にたぎった中心を擦りつける。ベンは敏感な体の底に
鎌首を上げた蛇が這うような感覚が背中にも這い上がるように伝わってきた。
「…薬が抜けたらリハビリ代わりに殴ってやるからな」
言葉とは裏腹にベンの中心も勃ち上がり始めた。シャンクスは腰を揺らし彼の谷間に反り起った蛇を前後に滑
らせて遊ぶ。
「ふふ、その意気だ。抜いてやるさ、薬だけじゃない、何もかもだ。お前も楽しめば良い。遅れてきたハネム
ーンだとでも思えよ」
ベンの呼吸が微かに荒くなってきた。
「こっちが楽しめるかどうかはあんた次第だ」
彼は挑発的な笑みを浮かべてシャンクスの耳をやんわりと咬んだ。
「逝かせてやるよ。ヤクなんかじゃ達することのできない、本物の天国にな」
シャンクスは言葉と同時に楔を相棒に打ち込んだ。ベンの地に残された右足は所在なく体重を支えていたが、
やがてその脚も相棒の体を這うように上がり、やがて両足ともシャンクスの腰に巻き付いていった。突き上げら
れる度に鎖が耳障りに鳴り、二人の息も激しく揺れる。
「ハッ、ハッ…ぁ…んっ!」
「先みたいに声あげてよがれよ」
「…うるさいとイキづらいんだよ、馬鹿っ…」
「そうかよ」
シャンクスが副船長の胸板に歯を立てて更に挑みかかる。
「っああ!」
シャンクスの体に絡みついていたベンの脚がだらりと下がった。体を離してもシャンクスの中心は萎えることは
ない。鎖を下げ横たわったベンの片足をかつぎ上げて挑みかかる。獣のような荒々しい息づかいが小屋に満ちる。
「お前にオレ以上の快楽なんてないって思い知らせてやれよ、体ん中のヤクに…」
掲げられたランタンの周囲で大きな蛾がまとわりつくように羽ばたいていた。
夜が明けて目を覚ましたシャンクスは慌てて恋人の姿を探した。彼はすぐ横にいたが、シャンクスは目の前の光
景に驚いた。
幹部たちの前にベックマンに肩を貸すシャンクスが現れ、歓喜したのも束の間、彼らは副船長の変わりように息
を呑んだ。彼の黒髪はすっかり色が褪せ、真上に上った太陽の光を受けて銀色に輝いていた。
船医が駆け寄る。
「まさか、本当にやり遂げたのか?」
「おう、出なくなったぞ、禁断症状」
シャンクスが得意気に答えた。
「まずは精密検査だ。医務室に運んでくれ、腎臓をやられたかもしれん」
副船長はそのまま艦内にかつぎ込まれた。
副船長の精密検査が終わり自室で安静になった後、シャンクスは一人医務室に呼び出された。
船長は患者用の診察椅子に座った。船医がカルテから目を話して上司に向き合う。
「副船長は今後のケアこそ必要だが、薬の依存症状の心配はないと診て良いだろう」
シャンクスは胸をなで下ろして大きく息をついた。B・Jはやや言いにくそうに表情を曇らせる。
「あんたにどうしても訊ねたいことがあって、ここに来てもらったんだが、投薬の他にあんた…副船長に何をし
た?」
「え…っと、それは…何っていうかナニのこと?」
シャンクスが照れながらも頬を引きつらせた。
「まさか、強姦じゃないだろうな?」
船医は詰め寄る。
「いや、それは絶対に違う!オレとあいつは昔っから、その…つまり、そういう関係で…」
船長は言葉に詰まりながら歯切れの悪い説明をする。二人の構図は船長と船医と言うよりは刑事と犯人のようだ
った。
「おれだって、他人様の臍下の事情に口を挟む趣味は毛頭ない。だが今は医者として、何故よりによって治療中
にそんな行為に及んだのか、その理由を訊いてるんだ」
シャンクスは顔を赤らめながら言葉を絞り出す。
「えっと、いや、その…何ていうかな…。禁断症状の気を逸らすために快楽で紛らわせようとしたというか、そ
んなトコで…。そりゃ、オレもいつもと違う状況にちょっとばかり興奮しちまったってのは認めるけど…」
「もういい、それ以上は聞きたくない」
船医はげんなりした顔に片手を当てた。
「本当に禁断症状をソレで乗り切ったんだな?」
「うん…」
シャンクスはしょぼくれながらも真面目に頷いた。船医は片目でその表情に嘘がないことを確認した。彼は呆れた
といわんばかりに盛大な溜息を吐く。
「本件だけはセックスも治療行為の一環だったと認めてやる。だが今後、おれが患者札をつけた船員に余計な真似
をすることは許さんからな!肝に命じてくれよ、船長さんよ」
船医はシャンクスの頭に拳骨を食らわせた。シャンクスは痛む頭をさすりながら弁明する。
「オレだって誰かれ見境無しにヤったりはしないんだけど…」
「当たり前だ、ボケ」
医務室を出ていこうとする船長の背中に船医が呼びかける。
「おい、今度船員募集するんなら薬剤師が良い。もしくは薬学をかじった程度でも良い、こっちはオーバーワーク
なんだ。出来なきゃおれの配当を倍にしてくれ」
「んん、考えとくよ」
生返事をしながら船長はドアを閉めた。
医務室に一人残った船医はパイプに煙草を詰め、火を点けた。一服を楽しむ彼の脳裏に、医学の師の言葉がよぎった。
「医者が患者を救うというのは思い上がりだよ、ジャック。患者の生きようとする力に我々は最善を尽くして手を貸
す、ただそれだけのことなんだ」
”本当にこの船の患者どもには呆れるよ…。まさか急速解凍をやってのける奴まで出るとはねぇ”
船医は満足気に笑った。
安静命令が解除された副船長は仕事に戻った。かつて船員生命さえ危ぶまれたとは思えないほどの見事な復帰ぶりだ
った。ただ、彼の髪の色だけが彼に起きた凄まじい体験を語っていた。
仕事の合間に副船長はすれ違いざまに船長に囁いた。
「シャンクス、後で話が、第四倉庫に」
シャンクスは思いがけない誘いに心も下半身の一部も膨れ上がった。
”ええ〜、昼間から?大胆だなぁ、もうv”
倉庫に行くと副船長が言葉通り待っていた。
「こんな所でか?大胆だな」
シャンクスが自分のサッシュに手をかけていると副船長の手加減ゼロのパンチが左頬に炸裂した。
「…な!」
シャンクスはその場に倒れた。
「言っただろ、リハビリ代わりに殴ってやるって。足腰立たなくなるまでかわいがってくれたお礼だ」
副船長はその場を離れようとする。シャンクスは副船長のブーツに手をかけて止める。
「なあ、今夜なんだけど」
「馬鹿言え!半年分ぐらいはたっぷりヌいたくせに。しばらくは何があっても相手にならないからな!」
副船長は恋人を置いてさっさと出ていってしまった。
シャンクスは痛む頬を反対の手でさすりながら呟いた。
「本当に全快したんだな…、へへ…」
シャンクスは心から嬉しそうに笑った。