「人間はどんなことにも慣れる動物だ」 誰の言葉だったかは思い出せない。だが、言葉だけが鮮明に記憶に残ってい る。それは時には嘲るように、時には慰めるようにも聞こえる。 副船長の回想をシャンクスの脳天気な声が遮った。 「お前、随分上達したなぁ」 シャンクスの言葉に反論したかったが、出来なかった。副船長の口の中には シャンクスの雄が収まっていたからだ。上達したこととは口淫である。今、シ ャンクスはベッドに寝転がり、副船長をその上に四つん這いに乗せて互いに口 淫しあっている。俗に言う69の真っ最中だったのだ。 シャンクスの男そのものは童顔で色白な容姿にはそぐわず、赤黒く堂々と大 きく、また勃起時の硬さと弾力が半端ではない。これならどんな女も満足させ られるのに、とシャンクスの相手を務める度に彼は思う。当の立派な宝刀の持 ち主は既に鞘とする相手を彼一人と定めてしまっていた。 舌戯が上手になったと褒められて複雑な心境になる。自分がこんな風に男に 身体を許し、慰めていることが今なお信じがたいと言うのに、体はすっかり技 を身に付けている事実を突きつけられて打ちのめされた。 何だって俺がこんなことをしなけりゃならないんだ? 副船長は恨めしさを込めてシャンクスの男根にそっと歯を立て緩やかに噛ん だ。シャンクスの体がぴくりと動き、同時に副船長の男根から彼の口が離れた。 「何だ?喰らいつきたいほど俺が欲しいんだったら、素直にそう言えよ」 シャンクスは茶化したが、相棒が自分の言葉に気を悪くして歯を立てたこと は理解していた。 副船長の体の中心にシャンクスの指がするりと滑り込んだ。指の付け根まで 入れてゆっくりと掻き回し始める。 副船長は咥えていたものを吐き出した。意識はしていないのだが、掻き回す 指の動きに合わせて彼の背中は弓なりに反り、太腿と臀部の筋肉がシャンクス の指を絞るように締め上げていく。本人の意志とは関係なく、機械仕掛けの如 く自動的に体が蠢いてしまうのだ。 彼の体に変化をもたらしたのはシャンクスの情交に対する態度によるものが 大きい。彼の行為が自分の満足のみを求める一方的なものならば、副船長の体 もここまで変化することはなかっただろう。シャンクスは安っぽい男にありが ちな身勝手で自分だけが楽しむ情交を良しとしない。自分も相手も満足できな ければそれは失敗だと彼は考えている。彼は相手の態度をよく観察し、相手が どんな行為を望むのかを感じ取って自分を与えていく。そんな行為の積み重ね が彼の相手、副船長の体の奥底に眠っていた本能的な素質のような性を呼び覚 ましつつあるのだ。 「こっちの咥え方も上達してるぞ。上手いもんだ」 シャンクスは笑って副船長の体の下からすり抜けると向きを変え、また彼の 下へ滑り込んだ。副船長はシャンクスの下腹の上に座る。シャンクスは膝を曲 げ彼の長い四肢の付け根の奥に反り立った中心を打ち込んだ。 黒髪の男の腰から背中にかけて甘い痺れが走る。痺れは波となって彼の体中 を揺るがしていく。快楽の波の狭間に不安が浮かぶ。このままいけば、この快 楽を知らなかった頃には戻れなくなる。麻薬中毒者のようにこの男に与えられ る快楽無しにはいられなくなる。理性を取り戻したいと抗う心も強く揺さぶら れる。 長い黒髪がシャンクスの顔へと垂れる。シャンクスは快楽の最中にも彼の伴 侶を見つめていた。黒髪のヴェールに覆われた表情は快楽に打ち震えながら耐 える中、不安と切なさをちらつかせる。昼間は仮面の様に冷徹で読めない顔で あるが故に、その落差がたまらなく淫靡でシャンクスを燃え立たせる。 わずかに残る理性の為に羞恥と不安を手放せないでいる伴侶。だが彼の理性 は体に反映せず、腰は楔をより深く迎え入れようと貪欲に蠢いている。シャン クスは彼を擁く度に、伴侶を捉える理性の鎖を断ち切って解放してやりたいと 切に願う。彼は自分の腹の上で跳ねる伴侶の腰を抱きしめた。 「大丈夫だ、俺に任せな。体を委ねろ、全部」 囁きが互いを頂点に誘う。突き詰められて駆け上がり、張り詰めた糸が切れ る。上に乗っていた体から力が抜ける。シャンクスは伴侶の体から自分の雄を 外してやる。副船長は内股に迸ったものがかかったのを感じたが、拭いもせず シャンクスの体の上で力尽きていた。 体を横たえて休む副船長の背中にシャンクスは重なるように体を横たえる。 「自分の体が変っていくのが怖いか?」 文字通り大の男が「怖い」だなんて生娘のような言葉が吐けるか。 副船長は寝たふりをして回答を避けた。 「変ったら変ったで、それがお前自身なんだよ。人間変えられないところも あれば変っちまうところもある。俺はお前がどんなに変ってもお前として愛し ていくよ」 シャンクスの言葉に副船長は思い知らされた。俺はこの男の唇や愛撫を拒む ことなど出来ないのだ、決して。 シャンクスの指が副船長の頬を撫でる。目の前に差し出された指を副船長は 柔らかく噛んだ。 「大丈夫だよ。ちゃんと責任は取る」 最後の小さな抵抗も、シャンクスの優しい囁きに静かに打ち消された。
