現在の赤髪大海賊団は白髭大海賊団に接触するべく航行中である。 艦内測量室では副首領率いる航海士チームたちが、白髭がいる海域に向けて 真剣に航路を検討している。 「安全さと速さの二条件に折り合いをつけて−」 主任航海士が海図上に鉛筆を走らせながら続ける。 「−この航路がベストだと思うんだが、どうだろう?副首領」 副首領は口から煙草を外し、自分の髪と同じ色の煙をぷかーっと吐いた。 「航路としてその選択は申し分ないが、今回は急用も出来ちまったもんでな。 寄り道になるが、こっちの島を経由して行きたいんだ」 副首領が海図上の別の島をトントンと鉛筆で叩いた。 「はあ…」 航海士たちは納得がいかないまま生返事をした。 「大頭にもその旨は伝えておくから」 副首領は彼らを残して測量室を出た途端に大頭と鉢合わせした。 その夜、副首領の部屋をノックする者があった。 「副、起きてっか?」 シャンクスはそのまま部屋に入ってきた。 「大頭」 机に向かっていた副首領が振り返った。 「航路、変更するんだってな?測量室の外で聞いたぜ」 「ああ、そうするつもりだ。今、あんたにも言おうと思ってたんだ」 シャンクスは口の端を意地悪そうに吊り上げた。 「賢いうちの航海士さんは何を考えてる?海軍を撒く作戦か?それとも何か 別の目的があるのか?」 「いや、そんな大したことじゃないんだが…」 副首領はシャンクスの態度に戸惑いながら答えた。 「お前は申し分のない副船長だが、相棒として一つどうにも悪い癖がある。 それだけはどうにも気にいらねぇ」 シャンクスの手が副首領の頬を撫でている。優しい手の動きに反して、言葉 に棘が含まれているのが薄気味悪い。 「…?」 「時々、オレに隠し事をしようなんて考えることだよ」 「俺は隠し事なんて何も…」 副首領がシャンクスを見あげた。 「何でも無いって言うのが、隠し事の常套句じゃねえか」 冷たく注がれる疑惑の眼差し。 「いや、だから本当に何も隠してなんか−」 「この前のエースの事だって、オレが知らなきゃずーっと黙って隠し通すつ もりでいたんだろ?」 「…それは…その、あれは事情が事情で、仕方なく…」 ベンは顔を赤らめかけて口ごもった。 「事情じゃなくて情事だろ?まあ、それは終わった事だがな。とにかく、オ レに隠し事はするな」 あまりにしつこい問いかけに、ベンも感情的に言い返す。 「だから!隠してなんかないって−」 答えを遮るようにシャンクスはベンの首を抱えてベッドに倒れ込むと自分だ け体を起こしてベンを組み敷いた。 「どうやら体に訊くしかなさそうだな」 「シャンクスっ!」 眠る前のベンはTシャツに弛めのズボンと軽装だった。シャンクスは右手を 乱暴にベンのズボンに突っ込んで弄りだし、額で器用にTシャツの端を押しの けるように捲ってベンの腹や胸を舐め始めた。 「止せって!話を聞けよ!」 ベンはシャンクスの頭を押しのけようとしたが、頭は動かない。シャンクス がベンの中心を握りこむ手に力を入れると、ベンは反射的にシャンクスの頭か ら手を離した。 抵抗を止めたベンは全身を舐るような愛撫の末に上も下も脱がされ、うつ伏 せにされた。シャンクスはその背に乗り、右腕をベンの首にかけるように回し た。 「いいかぁ?ベン。体だけ裸になりゃ良いってもんじゃない」 シャンクスはベンの左耳に囁く。囁いた舌が耳朶を這い始めた。耳は元々鋭 敏な箇所である上に水を嫌う器官でもある。本能的にベンは背中から肩を震わ せる。 「頭ん中も、心の奥まで、余計な考えは全部脱ぐんだ。オレの腕の中では糸 一本纏うな、いいな」 シャンクスの舌が耳孔にぬらりと侵入してきた。ベンの体が跳ねかけた。 「…ぁ…ッ…」 ベンの両手がリネンを掻き毟り、体中を震わせている。シャンクスの熱く濡 れた舌は蝸牛のように緩慢に蠢きながらベンの耳孔を満たす。 「…はっ…あっ‥…あう…」 ベンの口から乱れた呼吸と共に漏れる悩ましい小さな悲鳴がシャンクスの耳 をもくすぐる。 シャンクスはベンの耳を解放するとベッドと壁の間に隠すように押し込んで ある瓶を引っ張り出した。口で器用に栓を開け、わざと高い位置からベンの尻 の間を狙って瓶を傾けた。香油らしきそれはランプの光を弾きながら谷間に落 ち、逞しい双丘は微かに跳ねた。 ベンが後ろ手にで自らの尻を捕らえた。注がれた香油を二本の指で自らの奥 に押し込んで慣らし始めた。 「オレも手伝ってやるよ」 シャンクスはフフっと笑って、彼の指と指の間に自分の中指を差し入れた。 ベンの腔内で指の関節の硬質な感触が油に滑りながら絡み合いせめぎ合う。 「‥…ふ…んっ‥」 ベンは自分でも知らず、腰を高く浮かせた。シャンクスは指を深く押し込ん で小刻みに動かし、恋人の喘ぎを更に誘った。 「‥…んんっ…‥うっ‥ん…、あっ…」 「まだイクなよ」 シャンクスは指を引き抜きベンの手も退けて潤んだ窪を空けると、間髪入れ ずに自分の中心を一気に埋め込んだ。 二人の息が獣の様に荒くなって、ベッドの木枠も軋みだす。 ベンが枕カバーにしていた布をとっさに掴んで自分の下腹部に押し当てた。 「あ!…」 短い悲鳴と共にベンの股が開いて腰が崩れた。シャンクスはその腰を追う様 に圧し掛かり、背中に覆い被さり、激しく穿ち続ける。ベンの四肢が突っ張り、 背中に寝そべるシャンクスを押し上げるように背筋を反らした。 「〜〜あぁぁっ!!!」 放心したベンは力尽きた全身をシーツに沈めた。シャンクスは満足げに大き な溜め息をついて体を離した。 シャンクスはベッド下の飲料水瓶を取り出して熱さに乾いた喉を潤すと、脱 力している恋人を振り返った。 「お前も飲むだろ?…あ、それよか白髭への土産の樽酒一個開けよっか?」 シャンクスは自分の言葉で何かに気付き、息を呑んだ。 「なあ…、お前が進路変更する理由ってさ…。ここ数日で艦の喫水線が下が ったのと関係あるか?」 「だから…それを説明する前にあんたが押し倒してきたんだろーが!」 呆れながらベンはシャンクスを一瞥した。 シャンクスは慌ててズボンを履くと、部屋を飛び出した。ベンは首だけを起 こしてシャンクスを見送った。 ベンも体を起こしたが、脚が言う事を聞かずシーツの上を虚しく滑った。枕 に顔を埋めて脚の回復を待ちながら彼は思った。「シャンクスだって、数年も 経てば俺との情交に飽きるだろうと高を括ってたが、甘かった…。年々、深み に嵌まってきてる。お互いに…」 シャンクスは艦の最下層、バラストと呼ばれる倉庫に降りていった。バラス トは船体の安定を図る為の錘として、最も重いものが収納される。中に収納さ れるもの非常用の水に穀類、燃料の油脂、金属や陶器など種類は様々で、旅に よって内容は変わる。今回は白髭への土産としてバラストのスペース殆どに上 物の酒樽が積み込まれていた。 シャンクスは真っ暗な中を降りていく。彼の場合慣れているので足元に不安 はない。進んでいくと酒の芳香が濃くなっていく。奥には人の気配があった。 「こらっ!」 シャンクスの怒声に驚いて暗がりから数人が駆け出してきた。 「こらっ!待ちやがれ!」 逃げた船員の間から、副首領が現われた。アルコール分を警戒してか、煙草 はなく、持っている灯りも海蛍を利用したものだった。副船長は逃げる船員を 振り返った。 「多分、あいつらだけじゃないぜ。盗み飲みしたのは…」 シャンクスは樽を叩いた。軽い音ばかりが響き、底の方でだけ鈍い音がする。 あちこちの樽を音で確認したが、どれもこれも随分目減りしているようだった。 「あれも、これも、飲まれてる。一体どれくらい飲まれちまったんだ?」 「喫水線の高さから大雑把に重量や体積を割り出して推算したんだが…、恐 らく最初に買った酒の約半分は飲まれたようだ」 「何ぃ〜!!」 シャンクスの下顎ががくんと落ちた。 「ぬかったよ。ちょっと考えれば予測できたことだったのにな。減り方が微 妙だったから、気付くのに時間がかかっちまった」 副首領が小さな溜め息を漏らした。 「じゃあ、寄り道の目的ってのは、酒の買い足しだったのか」 「ご明察」 副首領のつれない返事。シャンクスはその場でへたり込んだ。 白髭への手土産の酒は半端な量ではなかった。酒にうるさい巨漢の白髭を頭 に大酒飲みどもの大所帯、それに自分たちの分もとなれば膨大な量になる。だ が、その大量の買い込みが仇となった。「コレだけたくさんあれば、ちょっと ぐらい飲んだって分からないだろう。」船員たちの殆どがそう思ったらしい。 一人一人の量は大したことが無くても、大勢が同じ事をすれば当然ながら消費 量はかさむ。こうして手土産は自家消費されてしまったのだ。 副首領の大雑把な計算は見事に的中しており、当初の半分まで酒は減ってし まっていた。「バラストをむやみに減らしながらも、船を傾かせなかった船乗 りの勘は大したもんだ」との大頭の言葉に、船員たちは肝を冷やした。 立ち寄った大きな繁華街のある港で、船員たちが次々に樽を艦に運んでいる。 その様子を大頭と副首領が並んで眺めていた。 「お前は怒らねぇのか?」 シャンクスは副首領に訊いた。 「仕方ないさ、子は親に、船員は船長に似ちまうもんだからな」 「だーはっはっはっは…って、そうくるかい!」 酒を買い足した後、シャンクスは海賊にしては珍しく下戸のギムレットを酒 の見張りに任命した。下戸で肩身の狭い思いをしていた彼はいつになく張り切 った。 シャンクスは出航の合図で船員たちに釘を差した。 「いいか!酒はオヤジのトコに着くまでは手持ちのもので我慢しろ。着いた ら浴びるほど飲んでもいいから、それまでは我慢しろよ!」 「おう!」 世間から見れば海軍本部をも脅かす旅だと言うのに、当の本人たちは実にマ イペースなものだった。 赤髪大海賊団は今も白髭の艦を追って航行中。
