「しまった…」 空になった木箱の底を見ながら、副船長は思わず独り言を呟いた。 航海が長引いて、煙草が底をついてしまったのだ。 副船長は甲板で煙草仲間に声をかける。 「なあ、煙草残ってるか?」 「いいや、残ってない。俺は副船長なら残してるかもって期待してたんだけど」 その他のヘビースモーカーたちに聞いても答えは同じだった。彼らは揃って大 きな溜め息をついた。 夜、自室に戻ろうとする副船長にシャンクスが声をかけた。 「なあ、今夜俺の部屋に来ない?」 「悪い、その気になれない」 副船長のつれない答えにめげずにシャンクスはもう一声かけた。 「煙草切らしてるんだってな。実は俺の部屋にワンカートン残ってるんだけど、 それでも来ない?」 副船長が足を止めて、クルッと向きを変えた。 「行く!」 「んん」 シャンクスはにっこり笑った。 「お頭、入るぜ」 副船長は部屋がいつもよりも明るいことに気付いた。カンテラがわざわざ掲げら れている。シャンクスは既に裸になってベッドの中で待っていた。 「煙草ワンカートン分。代金は体払いで前払いのみだぜ、お客さん」 「分かったよ」 副船長がベッドに近づこうとすると、シャンクスがそれを止めた。 「そこで全部脱いでからこっちへ来い」 「なっ…」 副船長は反論しかけたが、煙草のことを思い出しすぐに口を閉じた。風呂に入る 時と同じだと自分に言い聞かせて脱ぎ始めた。だが、シャンクスがこちらに向ける 視線を感じずにはいられない。ズボンに手をかけた所で手が止まってしまった。 「下はベッドの上でもいいだろ?」 「だーめ、言うこと聞かなきゃ煙草はやんない」 シャンクスはにやりと笑った。副船長は渋々脱ぎ始める。足元見やがって…。 無論、今シャンクスが見ているのは足元だけではない。 副船長はベッドに仰向けに寝転がり、事が始まるのを目を閉じて待った。しかし、 何も起こらない。副船長は不審に思って目を開けた。 シャンクスは副船長の体や肌に、視線だけを這わせている。いつも副船長に「灯 りを消せ」と言われ、シャンクスは相棒の肌を見つめることはなかった。風呂の順 番もずれていて、一緒に入れる機会もない。何度も体を重ねていながら、彼の裸体 を存分に見て楽しむことは今夜が初めてだった。 副船長の肌はシャンクスのすぐに見て北方系と分かる白い色ではなく、薄く黄色 みがかった光沢がある。その肌色や黒髪から東洋系のように見えるのだが、濃いブ ルーグレーの瞳がその推測を裏切る。不思議な取り合わせがエキゾチックだ。 「こないだ手に入れたお宝に入ってた、新品のブロンズみたいな色だな」 そう言って指をそっとに腹筋の山に這わせる。意識していた上に、触れたか触れ ないかの微かな感触。彼の体は指の動きに従うように動いた。 副船長はシャンクスの舐るような視線を感じていた。肌をじわじわと奇妙な感触 が這っていく。普段の愛撫とは明らかに違う感覚が、副船長の意識を支配しつつあ った。 シャンクスは副船長が「いいかげんにしろ」という表情を浮かべていることに気 付いた。シャンクスはやっと体に唇を這わせ始めた。いきなりきつく吸われ、副船 長は驚いてシャンクスの頭を自分の体から剥がした。 「痕がつくようなことは…」 「今夜は俺の言うことをきくって話だろ?」 副船長は困惑と哀願の表情を隠せない。シャンクスはそんな不安そうな顔を見て 愉快だともかわいいとも思った。 「じゃあ、リップサービスしてもらおうか」 シャンクスはベッドの上であぐらをかいた。副船長はそこに頭を運び、右手で根 元を支えて口で包み込む。シャンクスは上体を後ろにずらして、副船長が自分の雄 を咥えている表情を眺めた。やや苦しそうではあるが、陶酔も感じられる微妙な顔。 シャンクスはその顔を見ながら、二人が肉体関係を持ち始めた頃のことを思い出 した。慣れない副船長の口淫はただ舐めるだけで、まるでアイスキャンディーを舐 めるような単純なものだった。だが、回数を重ねるごとに彼の舌技は上達し、今で は場所に応じて使う舌先や舌の裏を使い分けられるまでになっていた。 シャンクスは鼻の頭に汗をかきながら懸命に奉仕する相棒の顔を見ているうちに、 されているだけではもの足りなくなってきた。 「ストップ。頭あげて」 言われるとおりに頭を上げると四つん這いのような格好になった。シャンクスは 仰向けの姿勢で副船長の両腕の中に頭から滑り込んで、副船長の下腹の真下に顔を 移動した。副船長の顔の前には、先まで彼が舐めていたものが下からそそり立った。 「続けていいぞ。顔にかからない程度にな」 シャンクスは言い終えると、目の前にぶら下がっている副船長の硬直した先端を 口の中に含んで舌で転がした。シャンクスは自分の人差し指と中指を舐って目の前 の双丘の間に滑り込ませた。二本の指がたくましい双丘の間から姿を消した。同時 に副船長の口の動きがわずかに止まった。 「いくら我慢強いお前でも、さすがにここは弱いよな」 シャンクスは指を腹の方へとしごき、柔らかなしこりをリズミカルに押す。 副船長が咥えていたものを離して、小さく震えはじめた。息も荒くなってくる。 副船長は屹立したものが顔に当たったままになっているのだが、それを退けるだけ の余裕さえなくなっていた。シャンクスにはそれが「副船長が自分の男根に頬擦り している」ように感じ、いっそう煽られた。 どんな体位にするか、シャンクスは迷った。今夜は普段には許してもらえない体 位でも応じてもらえる。四つん這いの彼を後ろから獣のように犯すのも良い。だが、 今夜は煌々と明るい部屋の中での交わりなのだ。どうせなら、彼が果てるまでの表 情をじっくり拝みながら昇天しようと決めた。 副船長を仰向けにして、両脚を高く抱えてシャンクスは挑んだ。副船長は自分の 指を咥えた。声を上げないようにするためだ。ただ、噛むタイミングがいつもより も早い。さんざん視姦されて高ぶってしまっているのだろう。 「指、口から離せよ」 シャンクスが囁いた。それでも指を口から離そうとしない彼に畳み掛ける。 「欲しくねえの?煙草」 ようやく指を離す。シャンクスはすかさず荒っぽく体を揺らし始めた。副船長の 理性は既に限界に来ていた。呻き声と嬌声が洩れ始める。シャンクスの中で「この まま楽しみ続けたいという気持」と「相棒の喘ぎ声にはじけそうになる体」が激し くせめぎあう。 「あぁあっ…」 今まで聞いたことのない相棒の艶かしい声。シャンクスは彼の中で果て、急いで 引き抜いた。引き抜かれる直前、入り口で強くほとばしるのを副船長は感じた。 シャンクスは副船長の上でしばらく動けないでいた。息がやや落ち着いてから、 彼はもう一度指を副船長の奥へと挿しいれた。 「出しちまったものを掻き出さないと…」 「よせ…」 副船長はそう言ったが、彼の後庭は弱々しく抵抗したものの指を受け入れていた。 まだ二人の熱が残る場所から、シャンクスは自分が放った精を掻き出した。精は谷 を伝ってシーツにとろとろと降りていった。 「煙草はどこにある?」 まだ息が整わぬうちに副船長が訊ねた。 「んー?ベッドの下の、枕から数えて二番目の引き出しに…」 言い終えぬうちに副船長は上に覆い被さっていたシャンクスをどけて跳ね起きた。 すばやく引き出しを開け、あっという間に煙草を出して一服にありつく。感嘆混じ りに大きく煙を吐き、幸せそうな顔をした。 シャンクスはその様子を見てふと思った。煙草を餌にしてあれだけ従順になった って言うことは… 「お前、もしかして俺よりも煙草の方が良いのか?」 「ヤった後で言うな…」 副船長は呆れながら言い返した。 翌日、喫煙組はワンカートンの煙草を共用する形となった。交代で吸って他の者 はその周りを囲んだりと、涙ぐましい努力が港に着くまで続いた。 大きな港で、副船長は大きなガラス瓶を伏せたようなケースを被った大きな苗を 一鉢入手した。苗は大きく葉は幅二十センチ近く、長さは一メートルあり野菜のよう に鉢から生えている。船員が不思議そうに質問した。 「副船長、これ何?」 「タバコそのものさ。万が一切れたときの為にと思ってな」 「へーえ、初めて見た」 「こんな草なんだな」 副船長が召集をかける。 「喫煙組、集まれ。こいつを交代で世話するぞ。葉を取っては乾燥させて取っておく。 問題は寒さ対策だ。こいつは寒さに弱い」 喫煙組は前回のこともあって副船長の話を真剣に聞いていた。 その様子を遠巻きに見ていたシャンクスが小さく舌打ちした。 まだ他にもやってみたいことがあったのに…。
