夜市




 偉大なる航路後半「新世界」に在るガリプソ島は濃霧が頻繁に発生する独特の気候で知られていた。
船の航行を阻むかのような霧は船乗りたちに恐れられており、濃霧の中で行方不明になる者が絶えな
いことから「目隠し魔の島」の異名で呼ばれている。
 霧は相手を選ばない。海軍であろうと海賊であろうと容赦などしない。
 四皇の一人が率いるレッドフォース号もガリプソ島波止場で濃霧に覆われていた。長く続く霧によ
る視界不良のため出航もままならず、数日この港に閉じこめられている。
 霧に紛れそうなパールグレーの髪を持つ副船長はメインマスト最上の見張り台から周囲を見ようと
したのだが、腕を伸ばすとその手の甲さえ見えない。目隠し魔と呼ばれる霧の濃さに難航海を幾度と
無く乗り越えた彼も驚きを隠せなかった。
 マストの下から誰かが上ってきた。顔が見えなくとも誰なのかは気配で分かる。
 かなりの至近距離から赤い髪が霧を割ってぬっと現れた。
 「なあなあ、今夜は艦を降りて抜け出せそうか?」
 わくわくと何かを待つ子どものような笑顔でシャンクスは尋ねてきた。
 船乗りたちに恐れられる陰気な霧も、底抜けに明るい大海賊「赤髪のシャンクス」の前には何の意
味も為さぬようだ。
 「藪から棒に何だよ…」
 副船長はポケットに伸ばしたかけた手を止めた。煙草をこの霧の中に出せば湿ってしまうからだ。
 「どうなんだよ、今夜空いてんのか?」
 シャンクスは問いつめるように顔を近づけてくる。
 「差し迫った仕事は今の所…」
 副船長は断る理由を探し倦ねて腕を組んだ。
 昔は副船長の肩一つにかかっていた膨大な仕事も、大所帯になり優秀な船員が増えたことで、彼の
仕事量はかなり分散されていた。彼も当初は仕事を任せることに乗り気では無かったのだが、ルウと
ヤソップら古参幹部の熱心な「副船長の仕事軽減推進運動」によって仕事の分配は進んでいった。幹
部らの真の狙いが「副船長の負担を出来るだけ減らし、その分だけお頭の世話役に徹してもらうこと
で面倒事を減らす戦略」だとは、まだ当の両人は知らない。
 「それじゃ、決まり!行こう」
 シャンクスが微笑んだ。
 「行くって何処にだよ?」
 相棒は反対するのを諦めて小さな溜息を吐いた。
 「何でもな、今夜この港の近くで夜市があるんだってさ。面白そうだろ?な、な?」
 副船長は再度見張り台の外に目を遣った。内心、霧で市が開かれない方に賭けた上で答える。
 「…行っても良いが、市が開いたら、だぞ?」
 「おーし!ワ服買っておいた甲斐があったってもんだ」
 シャンクスは意気揚々で下へ降りていった。
 「ワフク?」
 副船長が聞き返そうとした時にはすでにシャンクスの姿はすっかり見えなくなっていた。

 その日の夕暮れ時、優秀な熟練航海士の天候予想を裏切って霧は晴れた。その晴れ方は綿菓子を手
で千切ったような不自然さで島の中だけが晴れ模様だった。港町から見上げると雲の切れ間から星
が見えるのに、海がある筈の方向に目を向けても白く煙って何も見えない。

 幹部がシャンクスにワ服の着付けをしている。赤い髪がよく映る千草色(深緑)の衣に深緋色の帯
を締めた。帯にはいつも通り愛刀を差す。
 「うん、似合ってるぜ、お頭。おれの色彩センスってやっぱ冴えてる」
 芸術家肌の一面を持つヤソップが満足気に頷いた。
 「モトも良いからな」
 シャンクスが鏡の前でドヤ顔を決めた。
 副船長が部屋から出てきた。白銀の髪が映える縹色の衣が長身を余すところ無く優雅に包み、シャ
ンクスと同じく髪に合わせた銀鼠色の帯が決まっていた。帯にはやはり愛銃が差してある。
 シャンクスは彼を見て満足気に目を輝かせた。
 「やっぱ、お前は特に似合うな〜、こういうの。思った通りだ」
 「この服どうしたんだ?リューマやイゾウがこんなのを着てたよな」
 シャンクスは今にも涎を垂らしそうな表情で相棒の姿に見とれながらその疑問に答えた。
 「この島はワノクニが鎖国する前の交流拠点だったんだとよ。それでワノクニ風の衣装やら風俗が
残ってんだってさ」
 「ほーう」
 「色の合わせはおれが見立てたんだぜ」
 ヤソップが自分にグッジョブサインを出した。
 副船長が木製の下駄を履いた自分の素足を見た。
 「足がスースーして落ち着かないな…」
 普段は鉄板や暗器の装備された重いブーツばかり履いている彼にとって下駄の感触は新鮮過ぎるら
しい。
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 今夜の外出はお忍びということで、二人が夜市に出かけることは主要幹部しか知らない。ルウが肉
を毟りながら二人に手を振る。
 「そんじゃ、行ってらっさい」
 副船長は振り返って留守番組に囁いた。
 「なるべく早く切り上げてくる。ビブルカードは念の為手元にな」
 「あいよ」
 ヤソップがポケットからビブルカードの端切れを二枚取り出して見せ、またポケットに戻した。
 「楽しい夜市だったら俺たちも交代で行かせてくれよ」
 「ああ」
 副船長は快諾した。
 幹部等は二人を苦笑しながら見送った。
 「あの二人いつまでラブラブなんだろうネ、ヤソさん」
 「でも離婚されたら困るだろ?あの二人はセットでないとさ」
 ヤソップが肩を揺らして苦笑する。
 「まあネ〜」
 ルウは肉にかぶりついた。

 下駄の音が石畳の道に小気味良く二人の前を転がっていく。
 「慣れれば、下駄も悪くないかもな」
 副船長が呟いた。
 「そうそう、もうちっと普段から脱がせやすい物を身につけてくれるとオレも楽でいいな」
 シャンクスがちらりと恋人と視線を合わせる。
 「それは却下」
 鼻で笑って彼は返した。
 二人は夜市の中に入っていく。
 少し蒸し暑い夜に並ぶ橙色の明かり、ざわつく人並み。二人の他にもワ服を着ている者は多く、此処
にいる人の三分の一ぐらいはワ服姿だ。夜市ならではの風景…と言いたいところなのだが、実際にはや
や異様だった。夜店の店主も客も皆仮装している。獣の被りモノや角や耳、目を複数付けた者までいる。
 「何か…違うな」
 シャンクスが周囲を見渡す。
 「この市は仮装祭(カーニバル)なのか?」
 ベックマンが言い出しっぺに尋ねる。
 「ま、異国情緒ってヤツ?あ、でもさほど仮装してないのもいるぞ」
 シャンクスが指した方向に副船長も顔を向けた。
 「手配書で見た億越え新人の内の一人だな。確か名前はバジル・ホーキンスだったか?」
 「今日はお忍びで楽しもうって」
 シャンクスが恋人の腕に自分の腕を絡ませた。

 ホーキンスの部下の一人がが四皇の姿に動揺した。
 「せっせせっ、船長!あれ四皇の赤髪じゃないですか?」
 「…そうだな」
 「そうだなって、船長!」
 取り乱す部下に顔を近づけ、ホーキンスはそっと口の前に人差し指をかざした。
 「此処で騒ぎを起こせば、俺でも無事には帰れない。そういう所だと忘れたか?用を済ませたらさっさ
と帰るぞ」
 「はい…」
 ホーキンス一行は市の人混みに紛れて二人の視界から消えた。
 

 シャンクスが出店の一つに興味を示した。
 「お!金魚掬いみたいなのやってるぞ」
 複数の頭越しに水槽が見えた。水槽の中で丸く頭でっかちの何かが泳いでいる。
 「オタマジャクシか何かか?」
 二人は水槽の中を見て息を呑んだ。
 「さあ!生きの良い人間の目玉掬いだよ。さあ、そこのお兄さんどうだい」
 青、緑、茶、様々な瞳の色の目玉が水槽の中でへろへろうようよと大量に泳いでいた。
 小鬼と手を繋いだ父親らしき大鬼が念を押す。
 「これ鮮度大丈夫?こないだのは三日で腐ったぜ?」
 「大丈夫!うちの目玉の鮮度はお墨付きだよ」
 店主が紙を貼ったポイを差し出すと、小鬼が嬉しそうに受け取った。大鬼は渋々小銭らしきものを店主
に手渡した。
 シャンクスは言葉を失ったままだ。
 「俺としたことが、あんたが超一流のトラブルキャリアーだってことをすっかり忘れてたよ…」
 副船長は眉間に思い切り皺を寄せた。
 二人はやっと状況を理解した。夜市の人々の異形は仮装していた訳ではない。市は市でも、此処はこの世
ならざる魔物どもの市、サバトだったのだ。
 目玉掬いの客の一人が振り返った。狼のような頭で普通に喋りかけてくる。
 「あれ、お二人さんは人間の仮装なんかして、オークションの歩き広告屋(サンドイッチマン)?凝ってるね〜。
もの凄く人間くさいよ」
 「ほんと、すごいや。生きた人間みたい」
 小さな鬼の子が珍しそうに二人を見上げた。
 じりじりと後ずさりをしようとした二人の背後から老婆の嗄れ声が不意に彼らを止めた。
 「お前さんら、ウチの店の支払いがまだだよ。さあ、こっちに来な。きっちり払ってもらうよ」
 「え?」
 黒いフード付きのマントを纏った老婆は有無を言わさず二人の手をむんずと掴んだ。シャンクスの背の半分
もない小さな老婆だが、大男並の強い力でぐいぐい二人を引っ張っていく。賑わいから少し離れた路地裏に入
って老婆はやっと足を止めた。老婆はフードを脱ぐと額にかかった白髪を分け、ぎょろっと大きな黒い目で二
人をジロジロと無遠慮に見つめた。
 「あんたたち生きた人間だね?何も知らずに迷い込んだのかい?それとも何か目的が?」
 ベックマンが賑わいに一瞥くれてから答えた。
 「多分、うっかり前者になってしまった…という所です。貴女はどちらから?何故俺たちを匿うような真似を?」
 「アタシもこう見えても元は人間でね。文字通り老婆心ってやつさ」
 老女は顔の皺を増やしてにたりと笑った。
 「そうそう、丁度いいのがあった」
 彼女はマントをまさぐって面を二枚出した。 
 「ほれ、これを被りな」
 彼女から手渡されたのは子どもが描いた絵のような稚拙な獣の面だった。
 「おば…いや、お姐さん、これは?」
 面はいやに獣臭く、シャンクスは一嗅ぎしてから鼻を面から離した。
 「これを被ってれば、少しは人間に見えないと思うよ。ここで生きた人間だとばれたら大変だよ。捕まったら嬲り
殺しは免れないからね」
 「嬲り…」
 シャンクスが相棒の顔を見て生唾を飲んだ。
 「この非常時に妙な想像はするなよ?」
 ベンはどこまでも不埒な相棒に釘を差した。
 言われた通りに面を被る二人の顔から僅かに血の気が引いていた。
 ガラガラと回る大きな轍の音に二人は表通りを振り返った。道の真ん中を大きな台車が通っていく。その台数は
段々増えてきた。台車の上には家畜のように繋がれた人間が一人一人乗せられていた。
 ベックマンは荷物のように運ばれている人間の中に見覚えのある海軍将校や海賊を幾人か見つけた。
 「エース?」
 シャンクスが呟いた。彼が信じられないと言いたげな顔で見つめる先をベックも探した。確かに生前のポートガス・
D・エースの姿をした青年が台車に乗せられている。その車は他の車と同じ方向へ進んでいった。
 「今日の市は大きな競りがあるから、特に賑やかだね」
 「競り?」
 ベックマンが老婆に問い返した。彼の聡明な頭の中に悪い予想が芽生える。
 「現世で大きな戦があったんだろ?特に悪魔の実の能力者が大勢死ぬような派手な戦争が」
 老婆が二人を見上げた。
 「マリージョアの決戦のことか?」
 ベックマンが見つけた台車の上の面々は状況証拠として老婆の話を裏付けた。
 「けど、あれからもう半年は経ってるぞ?」
 シャンクスも信じられないという顔をしている。
 「人数が多かったからソウル・ロンダリングに時間がかかったのかもね。あれが出来る職人は少ないから」
 副船長が初めて聞く単語に反応した。
 「ソウル・ロンダリング?」
 「なんだソレ?」
 シャンクスも首を傾げた。
 「悪魔の実の力から能力者の魂を剥ぎ取る作業をソウル・ロンダリングと言うんだよ。悪魔の実を食べると海で泳
げなくなるだけだと現世の人間は思い違いをしとるようだが、悪魔の実の真の狙いは食った人間の魂さ。能力は人を
釣る為の餌みたいなもんさね。このシステムを作ったアスモデウス派の業績は鰻登りで、成り上がり街道驀進中さ」
 ベックマンが苦々しげな顔で煙草のフィルターを噛み潰した。
 「つまり、悪魔の実を食った時点で死後の魂は魔界行き決定の契約が出来上がるワケか…悪魔が魂の契約をイン
スタント化するとはね。こっちも時代が変わったのか?」
 「うん、白い頭は皮肉屋だが飲み込みがいいね」
 老婆が感心したように頷いた。
 「競り落とされた後は?」
 ベックマンが最も知りたかった核心に迫る。
 「人間の魂ってのは、こっちではちょっと高級な家畜みたいなモンだからねぇ。売り買いされたり、食用になった
り、聖職者の魂なら悪魔の貴族のコレクションケース行きってトコさ」
 ベックマンは袂から小さな革袋を出して、その中から弾丸を一つ取り出し銃に装填し始めた。
 「何してんだ?ベン」
 「銀の弾丸だよ。新世界に入ってからっていうもの、常識が通用しない相手が増えたからな」
 「なるほど、魔物にゃいい対抗手段だね。あんたら、魔術の心得はあるのかね」
 弾丸を装填し終えたベックマンが苦笑しながら答えた。
 「それが、全くといって良いほど無い。そういうのに詳しい仲間はいるが、残念ながら艦で留守番しててね」
 老婆は真剣な顔で二人を見上げた。
 「悪いこたぁ言わないよ。とっとと、ここから出たほうが良い。市は現世と魔界の間にあるからまだ出口はいっぱ
いある。市が終わるまでに抜け出さないと魔界に引っ張り込まれちまう。魔界の瘴気は生身の体を腐らせるから、十
中八九、生きて帰れなくなるよ」
 「そうは言われても、見過ごせないものを見ちまったからなあ。そうだろ?ベン」
 シャンクスが不敵な笑みを浮かべた。
 「あんたの事だ、言うと思ったよ」
 ベックマンも静かに笑った。二人が覚悟を決めたのを悟ると老婆は苦笑した。
 「仕方ないね。アタシャ忠告はしたからね。後は好きにしな」
 老婆はフードを被ると後ろ姿で手を振って表通りに戻っていった。


 二人は台車の後をついていった。台車は大きなサーカスのようなテントの裏手へ回っていく。テントの正面には
行列が出来上がっていた。
 シャンクスは小声で相棒に問う。
 「あのテントがオークション会場なんかな?」
 「恐らくな」
 幸い入場制限の条件は特に無く、二人はオークション会場の観客席に座った。
 競りは既に始まっていた。
 シャンクスは焦りの表情を見せて呟く。
 「ここに来てマリージョアの二の舞はゴメンだぞ」
 「だが、このオークション会場からどうやってエースを連れ去るんだ?」
 「それはお前が考えてくれよ」
 「あんたなぁ…」
 「エースはどこにいるんだ?」
 少しかすれた男の声が二人の会話に何の違和感もなく割り込んできた。
 「右の奥から二番目。今さ、大事な話してんだから邪魔しないでくれる?」
 シャンクスが苛立ちながら振り向いた。ベンも声の主に視線で凄もうとした時、彼らは言葉を失った。
 「!!!」
 バサバサの黒髪に鷲鼻の下にニョッキリ横に伸びる見事な髭。髭の下のにたりと笑った口に大きな歯が並ぶ。
 「いよう、久しぶりだな、シャンクス。今じゃ四皇サマだってか?偉くなったもんだな、ジャクソン号の見習い
坊主がよ」
 「船長!」
 「ロジャー!」
 二人はほぼ同時に声を上げた。
 「おお、ベンもしばらく見ない間に色っぽくなったなぁ」
 ロジャーがしげしげとベックマンを眺めた。
 「ロジャー、もっと他の言い方があるだろ…?」
 ベンの呆れ顔が微かに紅潮していた。
 「船長、どうしてここに?」
 シャンクスの顔からまだ驚愕の表情が剥がれない。
 「いや、まあ、死んでみたらな。魔界が俺の故郷だったらしいんだよ。ウケるだろ?」
 ロジャーは豪快にガラガラ声で笑う。
 「そうですか…」
 二人は揃いの呆れ顔で異口同音に答えた。
 「エースはあれか…」
 ロジャーは感慨深げに髭を撫でながら、人の世では見ることさえ叶わなかった我が子を見つめた。
 「二十二歳とは生き急ぎ過ぎたな。きかん気そうな面をしてやがる。あのそばかすといい、頑固で一度決めたら
曲げなさそうなトコはルージュ譲りか」
 「そりゃあ、どうかなぁ…」
 シャンクスが首を傾げた。
 「母親譲りだけ、とは思えないんだが…」
 ベンがロジャーをちらりと横目に見る。
 「んん?」
 ロジャーは「おれが何か言ったか?」と言わんばかりの暢気な顔で丸めた新聞紙をサッシュから出して二人に向けた。
 「所で、白髭のヤツはどうした?こっちの新聞には来るはずだった白髭の魂がこっちに来ていないとミステリー風に
書き立ててあるんだが、お前等は事情を知ってるか?」
 「魔界にも新聞があるんだ…」
 シャンクスが丸めた新聞紙を見つめる。新聞社名の「NEWS EVIL」が読みとれた。
 ベンが「あんたから話した方が良い」と目で合図を送った。
 「あの戦争のドサクサで白髭の能力はティーチのヤツが持って行っちまったんだ。どうやってそうなったのかは俺に
はさっぱり分からない。ヤツは二つの能力を得て新世界を荒らし回ってるらしい」
 「…ふん、そうか。なら、白髭の魂は現世で解放されたワケだな。そこだけは不幸中の幸いだったと言えるか。お前た
ちにエースの魂を人の世に持っていってもらうだけで済む。白髭じゃデカすぎて頼めないからな」
 二人は吹き出し笑いを止められなかった。
 「船長、オレたちも全く同じ事を考えてたんだよ。エースが競り落とされないようにしようって」
 シャンクスがかつての船長と目を合わせた。
 「それなら話は早いな」
 ロジャーはニヤリと笑って腕を組んで椅子の背にもたれると首を向けながら小声で状況を説明し始めた。
 「今日の競り会場には有力魔王たちの使いの者が紛れてる。あっちの馬頭はメフィストフェレスの、そっちの頭が多い
のはベルゼブヴんトコの、ずっと前に座ってる蛇頭はバフォオメットの執事で、向こうの頭から手が何本も生えてるのは
アモンの配下の仕入れ役(バイヤー)だ。連中に競り落とされるとまず奪還は無理だ」
 ベンがロジャーに尋ねる。
 「引き渡しの所を狙おうと思ってたんだが、それじゃ駄目なのか?」
 「競りが決まった時点で呪いがかかるからそいつは無理だ、連れ出せなくなる。競りが始まる前はいわば仮契約で誰の
所有物でもないから、チャンスは今の内しかない。後、言っておくと魂は見た目こそそのままだが、体を離れた時点で大
半のヤツは現世での記憶を喪失(なく)す。多分エースもそうだ。呼んでも来やしないから、連れてくのは無理矢理で構わん」
 「そうか…」
 シャンクスの表情が険しくなった。ロジャーが二人だけに聞こえる声で囁く。
 「おれがここから少し離れた所で騒ぎを起こす。お前等はエースを掻っ攫って現世まで逃げ切れ」
 二人は頷いた。
 「騒ぎを起こす材料が欲しいな。ベン、お前の髪を一房くれないか?後で悪用されないよう始末はしておく」
 「分かった」
 ベンは着物の裾を大胆にめくった。露わになった脹ら脛にはバンドが巻いてあり、脚の傾斜に沿わせるように細い短剣
が数本装着されていた。彼はその中の一本を取り出した。
 その光景を見ていたロジャーが小さく口笛を吹いた。
 「ロジャー、反応がおかしいだろ…。どうした?シャンクス」
 ベンの横でシャンクスが上半身を屈めていた。頬が紅潮している。
 「何か…いつになく新鮮な眺めで…起き上がりかけちまって…」
 「頼むから二人とも真面目にやってくれ!」
 ベンは悲鳴じみた小声で叱責した。
 「動くなよ、ベン」
 ロジャーは髪を結っていた紐を解いて、左側の髪の一部だけを結ぶとその上を切ってポケットにしまった。彼は席を立
つ前に二人の肩に手を置いた。
 「エースだけじゃない、お前等もおれにとっちゃ家族だ。必ず現世に帰れよ」
 「アイアイ、キャプテン!」
 二人は微笑んだ。ロジャーは二人から離れていく。
 「俺がエースを担ぐから、あんたは道を切り開いてくれ」
 「よっしゃ!」

 ロジャーはステージ袖にかがんでポケットからベンの髪を取り出した。両手でこね回すと髪が色はそのままに、萎んだ
風船に変わった。彼がそれに息を吹き込むと風船はベックに似た少年へと変化した。簡素な服を着た裸足の少年は悪魔の
頭の上を跳ねるように歩きだした。
 「うわー!こんな所に生きた人間がー!」
 ロジャーのわざとらしい声が響いた。
 会場中の客が立ち上がり大騒ぎになった。二人はステージに駆け上がり見張りを殴り倒した。ベンは気を失った警備員
を指さして叫ぶ。
 「今、この警備員が魂を盗もうとしてた!他にも盗人仲間がいるかもしれない!競りの前に盗られないよう各自目を付
けたヤツは確保しておけ!」
 ベンはエースを肩に担いだ。担いだエースの冷たさが冷静な彼を不安にさせる。シャンクスも生気の無い顔のエースに
声をかけられなかった。
 この一言で他の客もステージに上がってきた。
 警備員が叫ぶ。
 「皆さん!落ち着いて下さい!」
 ステージ上は乱闘になり、警備員たちも巻き込まれた。
 「入り口をふさげ!」
 進行役が指示を出した。警備員たちがテント内の出入り口を封鎖し始める。
 シャンクスは出入り口ではない場所を目指し、剣を二回振った。テントの幕が三角形に切れ、二人はそこを突破する。
そこから蜘蛛の子を散らすようにパニックを起こした見物客たちも躍り出た。
 
 警備員かエース狙いらしき悪魔たちかは分からないが、多くの悪魔たちが後を追ってきた。
 海とは勝手の違う世界では、流石のシャンクスの方向感覚も覇気も通用しそうにない。彼は後ろでエースを担ぐ相棒に
尋ねた。
 「どっちへ逃げるんだ?」
 「現世の匂いがする方だな」
 「匂いって!?」
 「あんたなら分かると思うんだが」
 走る二人の視界にあの老婆が見えた。彼女は杖で一回だけ方向を示してくれた。
 「サンキュー、婆っちゃん!」
 彼らは彼女の指示通りに方向を変えた。 
 「あった!」
 シャンクスが叫んだ。
 港へ抜ける道が見えた途端、黒い霧が道の先を覆い始めた。黒い霧の中に渦が巻くとそこに巨大な門扉が出現した。
扉はすぐに閉まり、ばかでかい南京錠までご丁寧に現れた。
 シャンクスが思わず声を上げた。
 「んな?!」
 「魔法か!」
 相棒が舌打ちをした。
 二人は魔物たちに囲まれてしまった。彼らは反射的に互いの背を合わせるように構える。魔物たちも二人のただなら
ぬ覇気にすぐに手を出せず、様子を伺っている。
 扉は閉まってはいるが隙間からまだ光が見えた。
 「あの門の外はまだ向こう側に繋がってるよな?」
 シャンクスが相棒に確認する。言っている間にも門の隙間から見える光が走るように減っていくのが見えた。
 ベンは小声で相棒に尋ねる。
 「あんた、指輪事件の時に次元の壁を斬ったあの感覚を覚えてるか?」
 「んー、やろうと思えば多分」
 「多分じゃ困る。一人ずつじゃ出来ないかも知れないが、あの門を俺の銀の弾丸とあんたの斬撃で同時に撃てば突破できる」
 「あいよ!」
 門扉の隙間から漏れる光が星ほど小さくなった瞬間、シャンクスは剣を閃かせ、ベンはトリガーを引いた。
 ヒュオオッ!!
 ドォオウンッ!!
 門に稲妻のような光と音が走り、視界が白い光に染まった。強風が吹き荒れ、二人は思わず目を腕で庇いながらきつく閉じた。
 風が弱まったのを感じて目を開けると、そこは市の手前の道だった。
 「エース!?」
 ベンが珍しく慌てて叫んだ。見ると彼の肩に担がれていたエースの姿がない。
 シャンクスも慌てて辺りを見回すが、彼の体はどこにもない。
 「…?」
 ベンがエースを抱えていた手の内側に暖かな感触を感じて掌を開いて見た。手の上に赤い炎のような光を放つ小さな金魚が
鰭を弱々しく動かしていた。
 「もしかして…これがエースの魂なのか?」
      頂き物挿絵
 シャンクスがのぞき込んだ。
 金魚はベンの掌を離れてゆらゆらと宙を泳ぎ、雲の切れ間から見える星空へと吸い込まれていった。
 「…これで良かったのか?」
 ベンが呟いた。
 「おれたちに出来るだけの事は出来たんじゃないかな。後はあいつ次第さ」
 シャンクスも金魚の消えた先を見つめている。
 ベックマンが金魚を見送ってから、後ろを振り返った。
 「…それとも、何か悪い夢でも見てたのか?」
 彼らの後ろにあった筈の市は跡形もなく、誰もいない倉庫通りに戻っていた。老婆がくれた面も既に無い。
 シャンクスは一房だけ短くなった銀髪を見つけて指でそっと触れた。
 「夢じゃないみたいだぜ」
 ベンも髪に残された痕跡に気づいた。
 シャンクスが思い切り伸びをした。
 「船長ってば、死んでも全然変わってなかったな!」
 彼の明るい声が響いた。ベンがくすっと笑う。
 「ったく、あの人は…」
 「あ〜っ!」
 急にシャンクスが大声を上げた。相棒の急な反応にベックマンが小さく身じろぎした。
 「どうした?」
 「夜市の途中で良さげな宿で休憩するか、路地裏でしけ込んでイチャコラしようとか思ってた計画がパアになっちまった!」
 「計画するような事か!」
 副船長が声を荒げた。
 「あ、でも今から行けばいいのか」
 にこやかに振り向いたシャンクスが恋人を見つめる。
 「全力で断固拒否!」
 恋人の額には青筋が浮いている。
 「そんな艶っぽいカッコでつれないこと言うなよ」
 シャンクスがベックマンの腕を引っ張る。
 「イヤだと言ったらイヤだ!」
  ヒュウッッ!
 もめる二人の顔の間を小さな黒い風がすり抜けていった。
 「夜に燕?」
 シャンクスが鳥の影を目で追った。ずば抜けた動体視力で彼らの目は確実に対象物を捕らえていた。
 「あれはグラスの式神だな」
 ベックマンが呟くように答えた。

 「お〜い!お〜い!」
 ヤソップの声が二人の耳に届いた。薄い霧の中、彼は二人の前まで走ってきた。
 「もう!どこ行ってたんだよ!おれは心配で心配でー」
 ヤソップは息を整える。普段から鍛えている彼がここまで呼吸が乱れるからには、よほどあちこち走り回ったのだろう。
 「大袈裟だな〜ヤソップは」
 シャンクスは手を振って見せた。ヤソップは船長の襟につかみかかった。
 「あんたらのビブルカードがワケもなくみるみる縮んでったんぞ!これが心配せずにいられるかってんだ!」
 「そうだったのか?」
 シャンクスが素っ頓狂な声を出した。
 「なるほど、向こうに行くとそういう反応を示すのか…」 
 副船長が頭の中で状況を冷静に整理した。
 頭の襟から手を離して息巻きながら彼は続ける。
 「だけど、グラスの奴がさぁ!『んあ〜、通信弾上げるのだけぁ止めといた方が良いと思いますぜ?こんの状況ぁ上げて
も見えない所にいる可能性が高いんで。無駄に騒ぎを大きくしない方がいい』とかぬかしてさぁ!」
 ヤソップは愚痴っぽい報告に器用に物真似を織り交ぜた。ヤソップの物真似がグラスのチンピラっぽい巻き舌喋りを忠実に
再現していたのでシャンクスは思わず笑いだした。
 「笑い事か!」
 笑わせた本人が怒鳴った。
 「まあ、それはグラスの判断が正しかったな」
 ベックマンの判定を受けてヤソップはやっと黙った。
 燕が飛んでいく先に人が現れた。こちらへ向かって歩いてくる人影は左手を高く掲げた。燕がその指をすり抜けたかと思うと、
指の間に赤い呪符がはためいた。ごく短い金髪をバンダナで巻き、夜でも薄茶色のサングラスをかけた細マッチョ系のチンピラ
風中年男性。この男がヤソップが言っていたグラス、役職は操帆長だ。二人が言っていた魔術の類に詳しい仲間も、この男を指
していた。
 グラスは呪符をウェストバッグに詰め込むと、呆れたような顔で二人に問いかける。
 「で?御両人は一体全体どちらで物見遊山なすってたんで?」
 彼の静かな声に二人は刃物を首筋に当てられる様な鋭さを感じた。
 「…なあ、アレ、何て言えば良いんだ?」
 シャンクスが聡明な相棒に助けを求めた。
 「まあ、期間限定のお化け屋敷みたいな場所だった」
 「そう!ソレソレ、そんな感じ」
 シャンクスが慌てて相槌を打った。
 「ヤソさん、お二人のビブルカードはどんな具合で?」
 ヤソップはグラスに言われて握りしめていた拳を開いた。
 「あれ?元に戻ってる!何で?」
 「そんじゃ、ここにいるお二人は幽霊じゃないってことになりまさぁね」
 彼は嫌みっぽい笑みを浮かべてサングラスのずれを直した。
 「縁起でもねぇこと言わないでくれよ、グラス。俺、先に艦に戻って知らせてくるわ」
 ヤソップはそう言って駆けだした。
 「ウチにヤソさん以上の心配性なんていないんスけどね〜」
 グラスが苦笑しながら彼を見送ると、やや上がり気味の目尻を更につり上げて二人を睨んだ。
 「ヤソさんがあんまり怖がりな手前、言い出せなかったんスけど、ご両人とも向こうの世界の臭いがプンプンするんで、艦乗る
前にしっかりお祓いさせてもらいヤスからね」
 ”こんだけ向こうの臭いがすんのに雑魚が一つも憑いてないトコを見ると、よっぽどの大物に出くわしやがったな。残り香だけ
で雑魚が憑かなくなるよな大物に遭遇して無事って、どんだけ化け物なんだか、こんの御両人はよ”
 視線だけで威圧してくる部下にシャンクスはたじろいだ。
 「グラスが何を言わんとしているか、お前分かる?」
 「多分、聞かない方が良い。眠れなくなるかもしれんぞ」
 副船長も微かに顔が青ざめていた。
 「さあサ、帰りますんで、今度は迷子にならねぇよう、きっちりついてきておくんなさいよ」
 三人は艦に向かって歩きだした。副船長がグラスの背中に話しかける。
 「グラス、今夜のことはとんでもないハプニングだったかもしれないが、結果オーライだったんだ。余りきつく叱らないでやっ
てくれ」
 「副ちゃんてば優しいっ!」
 シャンクスは副船長にしがみついた。その様子を見たグラスは盛大に溜息をついて大袈裟に両肩を上げた。
 「あ〜あ、中年になってなお一層暑苦しいやね、この夫婦はよ。もう、やってらんねぇわ!ったく!」
 副船長が狼狽えながら反論する。
 「夫婦呼ばわりするな!」
 「いいじゃん、こういうの事実婚って言うんだよな?グラス」
 「何だそりゃあ!」
 二人のやりとりを見ていたグラスは怒る気もなくしていた。
 「もう何でも結構っスよ。生きて帰ってさえくれりゃぁね」
 「そう言われるのは今日で二度目だ」
 シャンクスが嬉しそうに微笑んだ。
 「何スか、ソレ」
 グラスの顔にようやく笑みが戻った。


 夜市のオークション会場は騒然としていた。その騒ぎの中に黒いマントを羽織った小さい老婆が入っていく。彼女は乱闘の中を
誰にもかすりもせずヒョイヒョイと進んでいった。返事を求めても無駄なほどの喧噪の中を老婆は声を張り上げて叫ぶ。
 「上様!上様!いずこにおられますか、上様!」
 乱闘と罵声怒声に負けぬよう老婆は再び腹からありったけの声を絞り出した。
 「ゴール・D・ロジャー様!」
 途端にその場にいた全員が動きを止めた。
 「おう、イベリス。こっちだ、こっち」
 ロジャーが老婆に向かって手を振ると、彼の周囲から魔物どもが引き下がった。反射的に土下座をするものもあれば、息を潜め
るもの、脂汗をかいて震える者もいた。
 「お忍び遊びも大概にして頂とうございますよ、上様」
 「すまん、すまん」
 ロジャーは周囲を見回した。
 「おれに構わず続けてくれ。じゃあな」
 ロジャーが外へ出ようと足を一歩踏み出すと一気に人混みが割れて道が出来た。ロジャーの後を老婆がちょこちょことついて歩く。
 魔物たちがひそひそと話し出す。
 「あれが、ロジャー…」
 「新参者とは言え、七人の王に匹敵する実力者だろ?」
 「何だってこんな一般魔の市に…」
 魔界では有力貴族や七人の王はまず滅多に外出はしない。魔界では蹴落とし合い足の引っ張り合いは人間界以上に熾烈で、有力者
であればあるほど狙われる。有力者たちは人目(魔物)に触れることはない。ロジャーという男は此処でもまた異端児なのだ。
 人(魔)目がなくなって来た頃合いを見計らってイベリスは主人に話しかけた。
 「はい、これ。言われた通り拾っておきましたよ。どこのものともしれない奴らに拾われでもしたら、あの子に迷惑がかかっちま
いますからね」
 彼女が幻術に使ったベックマンの髪をロジャーに差し出す。ロジャーは髪を受け取ると掌の上で何も使わずに髪を燃やした。
 老女は自分の腰を軽く叩いた。
 「全くもう、この老いぼれをこき使わないで下され」
 「何言ってんだ。まだまだイイ女が老いぼれぶるなよ」
 ロジャーがにやっと笑った。
 「また、そうやっておだてて働かせようとする」
 彼女が顔を赤らめてバシンとロジャーの太股を叩いた。
 「それにしても、あの赤い頭の小坊主に市の日時を教えたり、二人の素性がバレぬようフォローさせたり、まわりくどい真似を…。
上様が一声かければオークションの売り物は全て買い占めることも出来ましたでしょうに」
 「おれの力じゃ駄目なんだ。それじゃ、あいつは自由にしてやれない」
 イベリスは大きな黒い瞳で主人をじっと見つめる。彼は自嘲めいた寂しげな表情をしていた。
 「おれはつくづく息子と同じ世界に生きていけない運命にあるようだ。やってきたことを思えば当然の報いかもな。本当にろくで
なしな父親さ。あいつらの力を借りなきゃ、息子に自由さえ与えられやしねぇ。おれ自身は誰より自由にやってきたのに、皮肉なモ
ンだ」
 「上様、一つ間違っておられますよ」
 諭す彼女の声は優しかった。
 「うん?」
 「自由というのは自分で戦って勝ち取るものです。人から与えられたら、自由ではなくなる。それはご自身が一番ご存じの筈」
 「なんだ、ろくでなしってトコは訂正してくれないのか」
 ロジャーが鼻で軽く笑った。
 「先の戦争は御子息を仲間が助けようとしたが為に大きくなった、と人間界の新聞には書いてありました。御子息も短い人生なり
に勝ち取ったのですよ、自由と仲間をね」
 老婆が少しくたびれた古新聞を差し出した。主人は新聞を見つめた。ロジャーは指の背で強く鼻を擦ってすすった。
 「あいつらを見てたら相棒の顔が見たくなったが、欲を出しちゃいけねぇな。今日は飲もう。つき合え、イベリス。褒美に好きな
酒を好きなだけ飲んで良いぞ」
 「ホホッ、上様はそうでなくては」
 二人は酒場の並ぶ小路へ消えていった。



 翌日、ガリプソ島の霧は消えて快晴となった。レッドフォース号は次の霧が出る前に急いで出航した。

 シャンクスは船縁にもたれて珍しく難しい顔をしていた。足音と煙草の煙が近づいてくる。
 「どうした?」
 振り向くとそこには彼の相棒がいた。
 「ルフィも悪魔の実食っちまったんだよな〜。どうしよ」
 シャンクスは責任の一端を感じているらしい。
 「また、その時は何とかなるさ」
 副船長は穏やかに答えた。
 「何だよ?珍しく楽天的じゃん。いつもと逆だぞ、オレら」
 シャンクスが不思議そうな顔をする。
 副船長がシャンクスにしか分からないほど僅かに微笑んだ。
 
 ”その時はきっとあんたが何とかしちまうんじゃないかな。昨夜みたいにさ”

 副船長は航海中の職務へ戻っていった。
 

 
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