†それでおしまい?†(書き掛け)

 

「天高く散る赤き火の、燃ゆるその火のもとにある、散りゆくこの身のなんと小さき、なんと侘びしき。君よ、いざ。いざ、君よ。今天高く散るこの我が身、見届けたもう、君よ、いざ」
「……なに、それ」
 枕元で歌うように呟いた恋人に、彼女は尋ねた。彼はわずかに微笑んで、「遺言」、と答えた。
「今朝死んだ婆さんの遺言」
「…かっこいーお婆さんじゃん」
「おー、凄いかっこいい婆さんだった。お前がいなかったら俺、あの人と結婚してたね」
 あは、と彼女は笑って「君よ、いざ」と復唱し、少しの間目を閉じた。
「……ねえ。『いざ』って誘う言葉だよね」
「多分。俺よく解んないけど」
「そのお婆さん、あんたに一緒に死んで欲しかったんじゃないの」
 目を開いた彼女の痩せた手を握り、彼はかぶりを振った。
「いや、違うだろ。見届けてくれって意味だと思うけど」
「でも、だったら『いざ君よ』なんて言う?」
「だからそれはさ、いずれ誰でも死ぬとか、そういうことだろ? いざ行かんってことなんだろーけど、それは一緒にってことではないと思うぞ」
 そうかなあ、と呟いた彼女の艶のない髪を撫で、彼は「それに」と微笑んだ。
「もしそうだったとしても、俺は行かないよ。お前いるし」
 彼女は何も言わず、ただふっと唇を綻ばせた。
「………動物はさ」
「うん?」
 彼女は静脈の浮いた痩せた腕をシャッターが降りたままの窓に伸ばし、触れた。
「誰に手伝ってもらわなくても子供が産めるじゃない? なのにどうして人間には出来ないんだろうね」
 外の見えない窓を見つめている彼女の横顔を彼は眺めた。
「人間にもできるんだと思うよ」
「できないよ。だから死んじゃったんじゃない、あたしたちの赤ちゃん」
 彼女はふっと息をつく。
「……あたしも死にそうだし」
 彼は彼女の頬に触れ、こちらを向かせて瞳に微笑を浮かべる。
「みんな死ぬんだよ、いずれ」
 医者も看護婦もいないというのに子供を欲しがった無知な彼女は望み通りに孕んだが、十月に満たずに産み落とした赤ん坊は産声を上げず、夜明け前に産まれて次の月が昇る前に死んだ。おそらく育てることは出来ないだろうと解っていたのにそれを許した彼も、彼女が嬰児を失ったように彼女を失おうとしている。
 何者も失わずに死んでいけた赤ん坊は、親である自分達よりは幸せだった、と彼は思う。
 けれど彼女はいつまでも悲しんでいる。
「…ねえ」
「うん?」
 悲しんだまま死のうとしている彼女が、彼の袖を握った。
「…あたしが死んで、他に女の人見つけたら、あんたは結婚する?」
「しないよ」
 彼は彼女の枕元に頬杖を突いた。
「お前がそうしてくれって言っても、しないよ」

 


続く?

 
 
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