†ストレイ†(書き掛け)

 

 ストレイの母親はどこの国の人種とも知れぬ野伏だった。
 身体を売りながら放浪の生活を長らく続けていた孕み女は村の者が気付いたときには村はずれの家畜小屋で子供を産み、そのまま冷たくなっていた。
 生まれた子は男子だったが誰もその産声を聞いた者はおらず、便宜上ストレイと名付けられたその乳児は乳の出る女のいる家をたらい回しにされて育ち、五歳からは村の共有財産として人手の足りない家へ上げられては手伝いをして生きた。
 ストレイは言われたことはするが気のきいたことは出来ず、そもそもひとの言葉は半分ほどしか理解の出来ないなにをするにも手の遅い子供だった。
 この国の人種にしては薄い目の色と灰色じみた膚と老人でもないのに色のない髪とも相まって、子供達のみならず大人たちまでがストレイを罵り殴り嘲笑った。
 しかしストレイはなにをされているかが半分も解らなかったから、村人たちが自分に話しかけ触り笑いかけるのが楽しくて、いつもへらへらと笑って返すから余計に殴られ罵られた。
 やがてストレイは二十歳を越え、母親が彼を産んだ今はただのあばら家となった家畜小屋を掃除して、一人で住むようになった。
 農繁期でもなければ誰も訪ねてはこなかったが、ストレイは雨音に笑い、這う虫に語り掛け、小屋の裏手の小さな荒れ地に畑を作って生きていた。
 
 
 
 
 
「おい、ストレイ。行商人が来てるぜ」
「…ギョーショーニン」
 どっかと立て掛けてあるだけの扉を蹴飛ばしてストレイを叩き起こしたグローはそう行商人、と怒鳴って黴臭い毛布を剥ぎ取った。
「オメー、去年の秋に領主様から賃金もらったろ? 二十歳も過ぎたんだしいつまでも現物支給じゃよくねェってよ。金の使い方くれェ覚えろってよ」
「カネ…。うん、ここ」
 ごしごしと目を擦っていたストレイは首から下げていた守り袋をグローに差し出す。途端にごつんと手酷く殴られ、ストレイはへらへらと笑った。
「…カネ」
「馬鹿、テメーの端金なんざ巻き上げたって後で俺が領主様に叱られるだけだろーがよ。そうじゃなくて、オメェこのままじゃその金一生仕舞ったままで終わんだろ? だからよ、せっかく街から行商人が来てんだ。なんかこう、こんな村じゃ手に入らねェ洒落たモンのひとつでも買ってみろよ、な?」
「………えと」
「…途中から解ンなくなったか?」
 無言でへらっと笑ったストレイにグローは溜息をついて首を振り、とにかく、とその栄養失調で骨と皮だけの腕を掴んだ。
「見に行くぞ、ほら」

 


続く?

 
 
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