27歳、海外ポスドクのススメ

 27歳で海外ポスドクを始めたぱらさ。しかし、本を読むと27歳で海外でポスドクを始める日本人は非常に少ない。「研究留学術」によると、27歳海外ポスドクはたったの7%・・。マイノリティーである。しかし、実際やってみればどうにかなるものだし、メリットも大きい。ここでは27歳海外ポスドクの仲間を増やすべく(実際、もう27じゃないけど)、私が感じた27歳海外ポスドクのメリットを解説(“怪説”かも・・)したい。

1, 時間がある
 これが一番大きい。私と27歳ポスドク仲間、K氏の会話ではいつもこれが話題になる、「時間はあるよな」と。「研究留学術」によれば、日本人研究留学者の海外ポスドク開始時の平均年齢は32歳らしい。27歳と32歳じゃあまり違わないような気がするかもしれないが、全然違う。例えば27歳でアメリカでポスドクに来たとすると、例えば3年くらいノーペーパーでもまだ30歳。もうワンチャンスある。ボスとうまくいかなくても、すぐにラボを移って気分一新もできる。これが32歳でアメリカでポスドクに来て3年ノーペーパーだったら35歳。もうあとちょっと、という見込みのあるデータが出ていればいいかもしれないが、泥沼にはまっていたらかなりやばい。家族連れだったりしたら、ラボを移ろうにも家族全員引越しせねばならず、その引越代も馬鹿にならない。年齢的(日本特有のカルチャー)にそろそろ日本で就職活動しようにも、日本からも一流雑誌にバンバン論文が出ているこのご時世、「海外で研究してきました〜」だけでは相手にしてくるところもない、となってしまう。「昔、業績があった」でも、論文は生モノみたいなもので時間が経てば過去のもの。私は麻雀をしないので麻雀には例えられないが、トランプのポーカーでそこそこのカード揃っているときに勝負せずにもっといい手を狙っておいて、負けてから「実はさっきもっといいカードがあった」と言っているようなもの。「2年や3年で研究留学してきたなどと大きな顔をして欲しくない」という意見もあるようだが、私は個人的にはポスドクの次はPIになるのが目標なのだから、32歳の時点でまとまった業績があったら、わざわざ留学せずに日本でいいポジションを探すか、留学してもいい話があればすぐに乗るほうが賢いと思う。勝負は自分が研究グループを率いるようになってからどの程度のことができるか、なのだから。最後の手は、元指導教官に政治力があれば、泣きついてどこかに押し込んでもらうか、番頭で雇ってもらうかくらいか(ちなみにParasaの元ボスは引退したので、私はそんな道も無いが)。
 もちろん、32歳海外ポスドクが悪いと言っているわけではない。人それぞれ理由があって27歳海外ポスドクが不可能な人(医学・獣医学・歯学などの人は不可能なはず)もいるだろう。シニアになればその分野の動向や重要なテーマなども分かるので27歳ポスドクほど無駄なことはしないだろうし、実際知り合いの先生で短い留学期間で「スーパーマンですか?」というような成果(「Cell」「Molecular Cell」もちろん両方ファースト)を挙げた先生を知っている。
 にもかかわらず、あえて27歳海外ポスドクを勧める最大の理由は、しつこいが「時間がある」。能力もチャンスも平等ではないが、時間だけは平等だと思う。自信が無いとか、学生時代の残りのデータがあるのでもう少しそれをまとめてから、などと言わずに、とっととラボを出るべし。早めにチャレンジすれば、駄目ならもうワンチャンスあるし、勢いでうまくいったらそのまま流れに乗れるだろう。若いうちは物事の吸収や新しい環境への適応も早い。ヨーロッパの超有名研究所で28歳海外ポスドクを始めた先輩から「周りにはガチンコ勝負をしている日本人はすごく少ない。みな、いつでも帰るところがある(彼はガチンコ勝負)」というメールを貰った。さすがに32歳ポスドクで家族がいたら、帰るところ無しのガチンコ勝負などできまい。いい・悪いは抜きにして、実際、自分が同じ立場ならそんな危ない橋は渡らない気がする。でも、27歳だからこそ、時間もあってチャレンジもできるのである。またどこかで書こうと思うが、海外での研究はスポーツで言う「アウェーの試合」。成果も大事だが、やはりアウェーで真剣勝負できたかどうかで、後々、大いに違うと思う。スポーツ選手の期限付きレンタル移籍みたいな環境で過ごすのは避けたい。もちろん、32歳ポスドクでも真剣勝負をしている人はたくさんいると思うが、27歳ポスドクのほうが真剣勝負ができる環境がより整っていると思う。

2, 体力がある
 やっぱり体力がある。確実に年々、疲れるのが早くなってきた。それでも体力はまだまだある。海外での生活は研究以外の普段の生活ですごいエネルギーを使う。これは何歳で来ても変わらないと思う。生きている以上、生活に使うエネルギーは減らせないから、そうなると研究に使えるエネルギーはどう考えても27歳ポスドクのほうが32歳ポスドクよりも圧倒的に大きくなる。独身、夫婦二人ならともかく、子供がいたら生活に必要なエネルギーは数倍増ではないだろうか?。私も年々、疲れるのが早くなったとはいえ、土曜日の午前中寝倒せば、日曜出勤で金曜まで働いても全く問題ない。歳は確実にとる。時間と体力があってこそのチャレンジである。

3, 貧乏でもOK
 「研究留学術」のアンケートで「研究留学の最大のデメリット」として実に60%の人が「経済的にマイナス」を挙げている。これはおそらくこのアンケートの対象になっている人の平均年齢が32歳というところにあると思う。要するに32歳になったら、家族がいる人もかなり多いはずで、もうそんな薄給には耐えられないと言うことだ。研究留学するような人は一般的に高学歴の部類に入るので、同級生で会社に入った仲間は、もう、バリバリ稼いでいるはずで周りも気になる(想像)。家族もいたら、穴の開いた服を着させるわけにはいかないだろう。企業のリッチな駐在員の方などと家族でお付き合いがあったら、なおさらである(あくまで想像)。安全や教育の問題を考えると、27歳ポスドクに比べかなり高いアパートを借りないといけないだろう。しかし、27歳でポスドクになった場合、アメリカのポスドクは薄給だとは言えおそらくポスドクになって貰う給料が学生時代より下がることはありえないだろう。社会人入学などは別として、学振DCをもらうリッチな大学院生でも月給約20万円。1ドル100円になっても、アメリカでのポスドクの給料がこれ以下になることはない。場所にもよるが、独身か夫婦二人ならどうにかやっていけるだろう。貧乏でもなんとか海外で頑張れる、というのはウソだと思う。日本ならともかく普通に生活していてもエネルギーを使うのだから、日々のお金まで気にしていてはそのストレスたるや想像を絶するものがあるのではないだろうか。

4, 時代の流れ
 最後に挙げたが、これも大きい。今まで国立大学の先生が海外に研究留学する場合は、休職扱いで給料の7割(だったと思う)を貰って留学できた。中には留学先のボスと交渉してアメリカでもポスドクとしての収入を得てダブル・インカムだった人もいるはず。研究留学は大学の先生の特権のようなものだった。しかし大学の独立法人化で、休職して留学する場合には給料が出なくなるというのは、もはや避けられないのではないだろうか。そうなってくると、大学の先生と言えども特権階級ではなくなり、ガチンコ勝負をせねばならなくなる。いろいろな意見があると思うが、ガチンコ勝負をしている私としてはこれは健全な流れだと思う。また、国内の学振研究員も院生時代の指導教官をポスドクの指導教官に選べなくなった。院生時代の指導教官を選んだ場合、先生が了承すれば日本でほとんど仕事せずにいきなり国内学振を使って海外に行くこともできたが、真面目に学振PDの受け入れ先を探したらそんなことはほぼ無理だ。新しい受け入れ先で一年半でまとまった成果が出れば受け入れ教官も海外へ行くGOサインを出してくれるかもしれないが、出なかった場合、一年半を海外で使える可能性はかなり低い。私の友人の一人は国内学振の内定を辞退して、27歳海外ポスドクを始めている(採用前の「内定辞退」は再応募できる。彼は辞退する前に確認した)。とにかく大学の先生の特権だった休職扱いの留学や、ポスドクの最大の受け皿・学振PDの利点だった一年半海外ルールが使えない、使いにくい状況になりつつある。大学の先生は他にも在外派遣研究員制度などがあるが、期間が限られているし教授がOKしないと駄目だろうし、そもそも大学内で順番待ちがあるという話も聞いたことがある。時代の流れとして、ポスドクを始める時点で日本でポスドクをするのか、それとも海外でするのか決断しないといけなくなりつつある。そうであれば、やはり27歳、海外ポスドクでしょう!というのが私の意見である。


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