新装版「人間の証明」

...............森村誠一
...............角川文庫667円+税
...............ISBN4-04-175360-0


 「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」という有名なセリフは頭のどこかに遠い記憶として残っていた。あとがきによると、この作品は29年前のもので、角川文庫とタイアップし、映画、音楽と合わせて大キャンペーンが張られ、770万部読まれたらしい。件のセリフもCMか何かのセリフだと思っていたけれど、そのキャンペーンのお陰で流行語となったものらしい。カドカワが元気だったころの、あのカドカワ戦略がなつかしい。

 話は、まったく関係ないと思われるいくつかの挿話が別進行の形で描かれていく。東京で殺された黒人。それを追う刑事。捜査協力を依頼されたニューヨーク市警の刑事。全国母親の偶像と崇められ時代の寵児となった有名女流評論家。その母親の前で模範息子を演じる一方で、セックスとドラッグに溺れる息子。浮気した妻がいなくなり必死に探す中年。そこに出てくる主人公達はみな、「人間不信」の心を持っている。

 そんなふうに別々に進んでいくそれぞれの話が「人間の心の復権」という主題に向かって一歩一歩近づいてくる。そして最終的には一点に終結する。その見事なまでのストーリー展開は筆者の力量以外のなにものでもないだろう。ただただ凄いと感服した。

 ストーリー展開もすごいが、その的確な描写、言葉の使い方、ほんとすごい。こんな文章が書けたらいいな。

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