「パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り」
...............椎名 誠
...............集英社文庫543円+税
...............ISBN4-08-748163-8
椎名誠の本を買うときは迷う。何を迷うかというと、「この本って、読んだんだっけ?」と迷う。椎名さんの本はたくさん出ているし、自分も昔は全て買っていたので、「既に買った」あるいは「どこかで読んだ」のではないかと迷う。「そんなもの本屋でパラパラやれば思い出すだろうに」という人もいるだろうが、そうでもないのである。事実同じ本を買ったことが2度ほどある。幸いにも今回のこの本は読んだことはなかった。
「パタゴニア」。そう聞いて思い浮かぶのは有名アウトドアブランドとして名前だろうか。この本は、その南米大陸の最南端、風と氷に閉ざされた大秘境パタゴニアを撮るドキュメンタリーに椎名さんが参加した時の話である。
椎名さんの他の旅物と比べてこの本がどことなくもの悲しいのは、パタゴニアの寂しさというのもあるだろうけれど、この本の本質は旅物語ではないというところにあるのかもしれない。正面切ってそれが主題に取り上げられている訳ではないけれど、副題にある「風=椎名さん」と「タンポポ=妻」のその当時の心模様がちょっとせつなく描かれている。
旅に行く直前に妻の異変に気付いたが、どうしようもなく妻を残して長い旅に出た。電話も通じない地球の裏側で一面に咲くタンポポを見て妻のことが頭をよぎる。あとがきで椎名さん自身が告白しているように、「・・・僕は旅の間中、帰ったら妻はもう生きてはいないのではないか、という恐れにおびえていた。」という旅だったのだ。
この話は今から20年くらい前の話なのだけど、その当時はサラリーマンから作家に転身し、その多忙さとがらっと変わってしまった環境に妻の一枝さんがすこしノイローゼのようになってしまったのだ。それから時は経ち、この前読んだ「春画」の頃には一枝さんのほうがチベットに傾倒してしまって、それに少し違和感を抱く椎名さんがいる。長い間に人は変わっていくし、夫婦関係も変わっていくということだろうか。
読書日記目次へ