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            ドイツトロンボーンの名工
                [NO.4]
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●Ed Kruspe

 ヴィンテージまたはオールドのドイツトロンボーンで、最もポピュラーかつ 入手しやすい有名なブランドはクルスペですが、意外とモデルのラインナップ については知られていません。ここでは私がリサーチしたことや1930年前 後のカタログを参考にし、どのようなモデルが製作されていたかをご紹介しま す。 ・Modell Prof.Paul Weschke , Berlin  ベルリンの名手パウル・ヴェシュケの監修を得て作られたテナートロンボー ンです。カタログによると、スタンダードな設定はボアサイズが11ミリ代で Enge Mensur, nicht Konisch gebaut とあり非常に細いボアでデュアルボア でないことが記されています。ボアの細い割りにはベル径が22センチくらい と比較的大きく、クローネンクランツ(12センチくらいの幅の広い響き止め) が一般的に付いています。このモデルはテナーボーゲン(主調節管)が抜き差し できない固定式で作られていました。稀にオリジナルで調節管システムが付け られているものがありますが、ほとんどの場合後世の人による改造が多いと思 います。私が今までリサーチした中では、ベル支柱が2本のもの、クランツ無 しのもの、交換式F管ボーゲン付のものを確認しています。  元ベルリン・フィルハーモニーのカール=ハインツ・ドゥーゼ=ウテッシュ 氏がこのモデルを使用していたと記憶しています。(画像を見る) ・Modell Virtuosa  このモデルは上吹き用のデュアルボアのテナートロンボーンです。カタログ によるとボアサイズは Enge と Mittlerer の細管と中細管にあたる2種類が スタンダードであります。2・3番用(Wechselposaunist) の太いボアを持つ テナーバスのモデルも存在するようです。クランツ幅は、奏者の好みに応じた ものを付けていました。オプションとして、主調節管が抜き差しできるタイプ には、交換式F管ロータリーつきの調節管がありました。 ・Medell Penzel  前述に紹介した19世紀後半のトロンボーン製作のスペシャリストJ・C・ ペンツェルの楽器をベースとして作られたデュアルボアのトロンボーンです。 テナーとテナーバスがあり、ボアサイズやクランツ幅は、奏者の好みに応じた 設定にしていました。カタログには Miletar-Instrument 軍楽隊用と書かれ ていて、コレクターズ・アイテムとしてはクルスペの中でもランクの低いモデ ルと見る人もいますが、プロ奏者でこのモデルを使用している人もいます。例 えば、ベルリン・フィルのヘルマン・ボイマー氏は、この楽器を使用して所属 するトロンボーン・カルテットの録音をしていました。 ・Modell Ed Kruspe  このモデルは、当時のクルスペの中ではオーケストラ用として一番新しいテ ナーバストロンボーンです。前述のモデルよりボアが太く、デュアルボアの設 定になっています。オプションでF管のボーゲンにつけることができるEs管 ロータリー替管 ( Es-Stellventil )があります。 ・Modell Steimann , Russland  このモデルは、バス奏者用に作られた非常に太いボア(カタログには Extra weite Mensur)と27センチ径という大きなベルを持つ1ロータリーのバスト ロンボーンです。スタンダードでは蛇飾り、クランツ、主調節管が抜き差しで きない固定式の設定になっています。当時のニーズでは、蛇飾りやクランツを 付けると楽器がヘビーになりすぎて、倍音の豊かさやレスポンスのシャープさ において、好まれなかったと推測されます。この楽器は、現存する数があまり 多くないと思います。私自身も現物はまだ見たことがありません。カタログには 「低音域はテューバのような豊かな音色」と書かれています。  以上、簡単に各モデルについてご紹介しましたが、上記のほかに「アメリカ ンジャズモデル(古いカタログには “System Lohmann”とあります)」と呼ば れるテナートロンボーンもあります。また、カタログには掲載されていません でしたが、アルトやF管コントラバス、フルニッケルシルバー製の楽器などは 受注生産をしていたようです。他に、クルスペの長い歴史の中では、カスタム オーダー品もあり、単にこれらのどれかと種別できないものもあります。  最後に現在でもクルスペはオールド&ヴィンテージもののドイツトロンボー ンとして人気が高く、ドイツにおいてもコンディションが良く、オリジナルの 主調節管システムが付いているものや太い管のF管ロータリー付のものは結構 高値で流通しているのが現状です。しかし、21世紀に入りそれらの楽器は最 低でも50年近く経ってきていることやユーロ安により若干安くはなってきて います。オールドに親しむ第一歩目の楽器として、お薦めできるマイスターで す。ただ、製作者のコンセプトを曲げていないもので、クルスペの醍醐味を味 わって頂きたいと思います。見た目やコンディションが良くても、製作者のコ ンセプトを無視した改造・修理をしたものや、ひどいものになるとベルだけク ルスペで、ほかは適当なパーツで組み直したものまで、稀にオールドとして扱 われることがあります。個人の楽器をどのようにしようと、あるいはどのよう な状態のクルスペを買うかは自由ですが、オリジナルのキャラクターを損なっ ていないもので楽しんで頂きたいと、私は願います。

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