クルーエル・インテンションズ Cruel Intentions

監督:ロジャー・カンプル
出演:ライアン・フィリップ、サラ・ミシェル・ゲラー、リース・ウィンザースプーン

3度映画化されているラクロの小説「危険な関係」を下敷きに、「危険な関係」
で描かれていたフランスの貴族の世界を現代のマンハッタンに住むリッチな
高校生たちに置き換えている作品。生活の心配を全くする必要がないため、
恋愛遊戯に興じることができる人種ということで考えれば、たしかに共通点は
あるのかもしれない。

キャスリンとセバスチャンは親の再婚で義理の姉弟となったリッチな高校生。
キャスリンは生徒会長を務める優等生だが実は十字架のペンダントの中に
コカインを隠している。セバスチャンはその美貌も相俟って大変な女たらし。
自分のセラピストを口説いた後で、彼女の娘のヌード写真をインターネットに
アップしたりするような嫌なやつだ。ふたりは贅沢な暮らしにも飽き、満たさ
れない気持ちを、周囲の人間の恋愛を操ることで晴らす。そして、二人はある
賭をする。お堅い処女で、校長の娘であるアネットをセバスチャンが落とすこ
とができたら、セバスチャンはキャスリンと寝ることができる。できなかったら、
セバスチャンの愛車ジャガーはキャスリンのものになる。義理の姉であるキャ
スリンの肉体に欲望を抑えきれないセバスチャンは、陰謀を張り巡らすのだ
った。

キャスリンとセバスチャンの住む世界というのがあまりにも現実離れしたリッ
チさなのでびっくりするが、これくらいの生活をしていないと、この物語そのも
の説得力がなくなってしまうのだろう。キャスリン役のサラ・ミシェル・ゲラーは
ちょっとタレ目だけど素晴らしいナイスバディで最新ファッションを着こなし、セ
バスチャンのライアン・フィリップは「54」でも見せてくれた少年らしい儚い美
しさを発揮。ここまで美しい彼らだったら、もっととんでもないことをしてしまって
もいいかも、なんて思ってしまう。彼らの生活が現実離れしていて、でもステロ
タイプ的で笑ってしまうところが多くてそれはそれでとても面白いの。が、さら
にもっと羽目を外し、二人がもっと鬼畜になっても良かったような気がする。特
に、悪いやつだけどピュアな感じで憎めないセバスチャンを実質的に操ってい
るもっと悪い女のキャスリン役には、もっと深みを持たせ、さらに悪女っぽくや
って欲しかった。でも、スピーディな展開で皮肉の効いた、わかりやすくて中身
がないけど面白い作品に仕上がっている。

キャスリンのボーイフレンドを奪ってしまった男が恋しているのが、後輩の少女
セシルであることを知った彼女は、処女であるセシルの味方をするフリをして、
残酷なゲームを仕掛ける。しかし、このセシルがとんでもなくおバカでイケてい
ないのだ。こんな女はひどい目に遭ってみて少しは人生勉強をしろなんて思っ
てしまうけどかなり笑わせてくれる。(しかし、演じたセルマ・ブレアは上手い!)

そして、アネットを落とすことばかり考えるあまり、真実の愛に目覚めてしまう
セバスチャン。そんな彼に不安を覚えたキャスリン。二人は同じ人種だったはず
なのに・・・。この二人は、お互いを愛していたはずなのに。結局自分たちが張
り巡らした陰謀にがんじがらめに捕らえられ、プライドに邪魔され、破滅してい
く。この辺がちょっと「正しいものが勝つ」的でつまらないといえばそうだ。が、
単なるうぶなお嬢様だったはずのアネットが、かなりの強者であったことが暴
かれるあたりはなかなか毒が効いている。

シンプル・プラン A Simple Plan

監督:サム・ライミ
出演:ビル・パクストン、ビリー・ボブ・ソーントン、ブリジット・フォンダ


冒頭の、主人公ハンクのナレーションがとても哀しく響く。お金はないけれど
も、ちゃんとした仕事と、身重の美しい妻がいた平凡な生活というのは、失っ
てみて初めてその大切さに気がついた、という慟哭の声だ。

真っ白な雪景色の中、空を飛ぶカラスが不吉な印象を与える。ハンクとその兄
ジェイコブ、そしてジェイコブの親友ルーは森の中に逃げたキツネを追って、
墜落した飛行機を発見する。飛行機の中にはパイロットの死体と、 440万ドル
の大金が入ったかばんが残されていた。最初お金を持ち去ることに反対だった
ハンクだが、飛行機が発見されるまでは彼が預かり、落し主が現れなかったら
三等分して町を出るということになる。しかし、この金をめぐって、彼らの平
凡で幸せな生活は音を立てて崩れていく。

ハンクは大学を出ていて、飼料店という地味だがまともな仕事をしている。ま
じめで「いい人」という評判の彼は、愚鈍でお荷物的な存在の兄ジェイコブと、
大酒飲みのルーというふたりの失業者を内心軽蔑している。しかし、軽蔑して
いた彼らよりも、はるかに簡単に悪に取り込まれやすいのが、このハンクだっ
た。
最初に金を持ち去ることに反対していたハンクは、やがて3人の中でももっと
も猜疑心に囚われ金に執着するようになる。やがて数々の犯罪が行われるよう
になるが、ほとんどすべてが、ハンクの手によるものだった。一見普通のいい
人が、一番怖いということが見せつけられる。一度モラルが崩壊したら、いい
人ほど、止められなくなって悪事の無限地獄にひきずられてしまうのだ。
妻サラも、札束の山を目にしたとたん豹変し、悪知恵を働かせ、ハンクにお金
を首尾よく手に入れる計画の指示をするようになる。躊躇するハンクに、犯罪
行為の後押しをするのであった。

一つの犯罪が、その人間の隠された本質を暴き立てていく過程の描き方が実に
巧みである。それを一番体現しているのが、待望の子供を授かって、幸せの絶
頂にあったはずのサラ。思いがけない大金を手にしたことで、元の地道な生活
に戻ることに耐えられなくなる。スーパーの特売品で毎晩おかずを作り、乳飲
み子を抱えながら図書館で9時から5時まで働き、役立たずの兄の暮らしを支
える雪に閉ざされた田舎町でのささやかな生活に実は不満だったことが現れて
くる。

とても哀れなのがジェイコブだ。仕事もなく、女性とキスをしたことも
ない醜く鈍い男。しかし、兄思いで、美しい心を持っていることが、ビリー・
ボブ・ソーントンによって見事に演じられている。サラの出産祝いに贈ったの
は、ボロボロのテディベア。彼が子供の頃から宝物にしているものだった。高
校時代、唯一付き合った女の子のことを話すエピソードは、思わず涙を誘うも
のだ。ささやかな彼の夢は、父親が手放してしまった農場を取り返し、結婚す
ること。自分自身に、農場を運営する能力がないと知っていながらも、見続け
た夢。

ところが、意外にも、彼はハンクが思っていたほど愚かな男ではなく、ピンチ
のときには兄よりもよっぽど機転が利くのであった。彼の払った犠牲でハンク
は今の幸せな生活を手に入れたということも明かされる。そして、最後に弟を
救うために取ったジェイコブの選択、これには涙が止まらなくなる。人生の悲
しさ、はかなさが伝わってくる。


そして、膨らんでしまった欲望の結果、待っていたのは、死よりも恐ろしい結
末だった。人間がいとも簡単に、欲に引きずられて道を踏み外し、隠された本
質を露呈する様が描かれているが、しかし、その哀れな存在に対し愛情とシン
パシーを持って描いているため、不愉快さはない。後味はけっして良くないが、
見ごたえがあり、心を動かされる作品だ。

眠狂四郎・勝負

監督:三隅研次
出演:市川雷蔵、加藤嘉、藤村志保、久保菜穂子、高田美和
江戸の正月。眠狂四郎は、偶然知り合った老人の危機を救うが、実はこの老
人は勘定奉行の朝比奈であった。朝比奈は飢饉に苦しむ庶民を助けるために
思い切った政策を打ち出し、また将軍の娘高姫の化粧料を廃止した。そのた
め、米問屋などは彼を快く思わず、高姫の用人白鳥主膳に朝比奈殺しを依頼
し、高姫も朝比奈を討てとの命令を下す。白鳥は、夫が外国人でキリシタンで
あるため捕らえられている女占い師の釆女に、朝比奈の味方をする狂四郎を
討てば夫を釈放すると持ちかける。釆女の色仕掛けで5人の刺客が集まった。

実は眠狂四郎シリーズを見るのは初めてであるが、徹底したエンターテインメ
ント性、けれん味たっぷりの演出、そしてもちろん市川雷蔵の美しさ、妖気に魅
せられてしまった。

眠狂四郎は一匹狼の剣客。定められた宿はなく、孤独な男でいつも厳しい表
情をしている。しかしながら、この作品ではユーモラスな面も持ち合わせている。
狂四郎の警護を断った朝比奈の後をついていき、「ここは天下の公道だから、
勝手について行っているだけ」といい、のちに朝比奈も狂四郎の後を「勝手に
ついていく」。吉原の浄閑寺に仮の宿を定める狂四郎は、その近くの蕎麦屋の
娘おつやと親しく、唯一和んだ表情を見せている。朝比奈にそのことをからかわ
れた時に見せた、滅多に見られぬ彼の笑顔はとても素敵だった。小僧の仇討ち
をしたり、釆女に同情したりするなど、クールでニヒルでありながらも、ここでの
狂四郎は人間味が感じられるキャラクターとなっている。

そして、当然ながら匂い立つような彼の色気。淫乱で高慢な高姫に誘惑されて
も、「雪のように白い俺の肌に、貴様のような豚姫が指一本触れるなどと・・・」と、
雷蔵でしか言うことが許されないような(一歩間違えると大笑い)な台詞もきま
っている。華奢な裸体が拝める入浴シーンもある。もちろん、円月殺法が冴える
殺陣もきまっているが、刺客たちが少々弱すぎるのが玉に瑕。

人柄の良さがあふれているような朝比奈役の加藤嘉、高慢ちきで多情な高姫
の久保菜穂子、儚げで女の情念を感じさせる釆女の藤村志保、可愛らしいつや
の高田美和と脇役もいい。さらに、江戸のお正月の情緒を感じさせる風物の数
々ー初詣の風景や、初詣客の尻を押す小僧、蕎麦屋、呑み屋などには庶民の
暮らしぶりも伺える。

わかりやすく、娯楽性に徹しながらも、スターの魅力を前面に押し出していて、
なるほど没後30周年たってもこれだけ雷蔵の映画が人を惹きつける理由がわ
かったような気がする。