サスペリア Part2 完全版 Profondo Rosso

監督:ダリオ・アルジェント
出演:デビッド・ヘミングス、ダリア・ニコロディ、ガブリエレ・ラビア

ピアニストのマークは、友人でやはりピアニストのカルロと広場で話した後、
残酷な殺人事件の現場を目撃する。殺されたのは、心霊能力者のヘルガ。
しかも殺人現場は彼のアパートの階下だった。現場から立ち去る黒いレイン
コートの男を目撃したマークは警察に通報し、そのときに新聞記者のジャンナ
もやってきて彼の写真を新聞に掲載してしまう。そして、マークとジャンナは
犯人を捜し始める。
ヘルガは殺される前に、学会で、自分が殺される現場を見てしまいトランス
状態に陥り、しかも自分を殺そうとする者の姿まで目撃したらしい。彼女の
研究仲間の大学教授らとともに、マークとジャンナは彼女の死の謎を探り始
めるが、第2,第3のむごたらしい殺人が起こり、魔の手は彼らにも迫る。

独特の美学に裏打ちされているのが、ダリオ・アルジェントの世界である。
特に、殺しの場面にはその美学が遺憾なく発揮されている。高鳴る音楽、
犯人の足下を追うように地を這うカメラ、被害者の顔のアップ。べっとりとした
真っ赤な血糊、そして見開かれた瞳。とても残虐な殺し方をしているのだが
目を背けそうになりつつも見入ってしまう。いかにも作り物っぽい血糊の飛ば
し方一つとってもとても芸術的だ。鮮やかながらもダークで沈んだ色彩感覚
や70年代のファッションも美しい。。
人形、絵、不気味な子供の歌などの小道具の使い方も粘着質の怖さを感じ
させ、抜群にうまく、恐怖を増幅させている。ひとりぼっちの暗い部屋、鳴り
響く電話の音や足音、鳥の羽ばたく音などの効果も抜群だ。その上に、心
霊能力やお化け屋敷といった要素も付加されていて、より複雑で怖さを感じ
させる構成になっている。

サスペンスとしても非常に良くできていて、犯人が誰なのか皆目見当がつ
かない。登場人物がみんなとても怪しく感じられるのだ。一体物語がどんな
方向に進んでいくのかもわからず、くらくらする。そんな中でも、マークとジャ
ンナの恋愛感情も含んだやり取りはユーモラスだったりするし、ホラー以外
の要素、娯楽性もたっぷりだ。

そして、特筆すべきはゴブリンによる音楽。テーマ曲や、殺人場面になると
雰囲気を盛り上げるプログレッシブ・ロック的な音楽はデカタンスとゴシック
な狂気を感じさせ、素晴らしいの一言。

ロンゲスト・ナイト 暗花 The Longest Nite

監督:パトリック・ヤウ
出演:トニー・レオン、ラウ・チンワン

先般観た「ヒーロー・ネバー・ダイ」とともに「ダーク・トリロジー」(暗黒3部
作)を構成するジョニー・トゥのプロデュース作品。「ヒーロー・ネバー・ダイ」
が思いの外良かったので期待していたのだけど、それよりはだいぶ落ちる。
話の構成が非常にわかりにくいということと、キャラクターがあまり描きこま
れていないという欠点があるのだ。さらに、目を背けたくなるようなバイオレ
ンスの場面も多い。

東洋のシチリアと呼ばれるマカオ。二つの対立する黒社会(暴力団)組織
があり、さらにそれを統制する黒幕のゴッドファーザー的存在ホウがいる。
片方の組織のボス、ジョージの首に賞金がかけられたという噂が駆けめぐ
る。汚職警官のサムは、この噂の出所を調査するようにともう一方のボス
ケイに命じられ、噂を流したと思われる人物には容赦のない拷問を加える。
一方、マカオにやってきたのが謎のスキンヘッドの男。やがて、サムは抜
けられない罠にはめられていく。

とにかくプロットが入り組んでいて、話が見えにくいのが残念だ。
中国系の名前が似ているので、台詞にその人間の名前が出てきても誰が
誰だかわからなくなってしまう。しかし、悪徳警官が、知らず知らずの
うちに巧妙な罠にはめられていき、もがき苦しむ様はなかなか見応えがあ
る。中でも、フェリーの乗り場で追いつめられていくシークエンスはなかなか
よくできている。

サムとイフトウ(スキンヘッドの男)が対峙する二つのシーンは非常にスタ
イリッシュだ。自ら罠にかかったフリをして投獄されたイフトウを、牢の中で
尋問するサム。暗い獄中、窓から漏れてくる白い光に反射して舞う埃。イ
フトウは、よく弾むゴムボールを獄中で投げている。自分も、サムも、組織
からすればただのよく弾むボールに過ぎないと彼は語る。もともと迫力の
ある面構えのラウ・チンワンの顔に、光が当たり目がギラリと光ると、圧倒
されてしまう。トニー・レオンは、どうしても彼に比べたら線が細くて印象が
弱い。演技力を発揮する機会を十分与えられていない感じがする。

フェリー乗り場で、警察にも、組織にも追われ逃げ場をなくしたサムが、生
き延びるためにイフトウと最後の対決を行う倉庫。ここの場面だけで、この
映画を観る価値があると言えるだろう。サムを探し求めるイフトウ。銃声は
すれども、姿は見えない。ようやく見つけたと思ったのは、無数に置かれた
鏡に映る自分の姿。鏡に映る自分の姿を一つ一つ撃って破壊しても、あざ
笑うかのように、自分の姿は減らない。ようやく見つけたサムは、イフトウと
まったく同じ服装にスキンヘッド。敵味方に分かれた二人の男は、実はまっ
たく同じ立場、同じ運命をたどることを暗示していた。飛び散るガラスの破片、
砕け散る鏡に映った姿・・・。ちょっと「燃えよドラゴン」を思わせるが、このシ
ーンの格好良さにはしびれる。男たちの、最後の一花であったのだ。

ダークな物語にふさわしく、彼らはよく弾むボールの一つでしかないことが
示されるラスト。そして、ゴッドファーザーだけが笑うのであった。

斬る

監督:三隅研次
出演:市川雷蔵、藤村志保、天知茂、渚まゆみ、柳永二郎、万里昌代

小諸藩の藩士・高倉信吾は父と妹芳尾の3人で暮らしていた。3年間旅に
出て、剣の腕を上げた信吾を、藩主は気に入り目をかける。そのことに嫉
妬し、芳尾との縁談も断られた隣家の池辺親子は、信吾の父と芳尾を斬殺。
父の死の間際に、信吾は出生の秘密を知る。信吾の本当の父は別にいた。
お家騒動のため処刑された腰元と、侍との間にできた子だったのだ。信吾は
池辺親子を斬り、出家した父を訪ね、母の墓に参る。そして浪人となって旅を
するが、剣術の腕を見込まれて大目付の松平大炊頭に仕えることになる。
水戸藩で反乱が起きていると聞いた松平と信吾はそこへ向かうが・・・。

父と可愛い妹の3人でつつましく平和に生きてきた信吾が、ある日愛する家
族を殺され、自らの出生の秘密に心が激しく揺らぐ。凛々しく清新な若武者が、
この出来事をきっかけに虚無的な浪人へと変わっていく。愛する男性の介錯
に倒れた母と、わずか一年の幸せな記憶と共に生きる、この世を捨てた父。
道中、宿泊した宿で出会った姉と弟。追われる弟を助けるためにわが身を挺し、
命を投げ出した姉佐代を信吾は葬る。松平に気に入られ、結婚しないのかと
聞かれても、すでにこの世にいない三人の女性−母、芳尾、そして佐代に
魅入られている信吾は、今生きている女性には何も感じられない。いつも、
この3人の女性たちの姿が胸に去来する。そして、信吾もまた、父のように
想った松平や、3人の女性たちと同じ運命をたどるのだった。

「死」の気配が濃厚に漂う端正な画面。その中で、ひときわ美しい雷蔵の
姿が見られる。悲劇的なストーリーには、本当にやりきれない、やるせない
気持ちになってしまうが、雷蔵にはニヒルで苦悩する姿が本当によく似合う。

セレブレティ Celebrity

監督:ウッディ・アレン
出演:ケネス・ブラナー、ジュディ・デイヴィス、ウィノナ・ライダー、レオナルド・ディカプリオ
    メラニー・グリフィス、ファムケ・ヤンセン、シャリーズ・セロン、グレッチェン・モル
リーは小説家、脚本家を目指しているがどうもうまくいかず、芸能記事のライタ
ーをしている。高校の同窓会に出席し、年相応の生活をしている同級生たちの
姿を見て人生をやり直そうと決意し、16年連れ添った妻ロビンと離婚する。
編集者のボニーと付き合っているのだが、セクシーなスター女優といい思いを
したり、全身性感帯のスーパーモデルともう少しでいい思いができそうになった
り、フラフラしている。一流作家になってセレブレティになりたいと願っているのに、
セレブレティを取材する無名人という立場から脱出できそうにない。脚本を気に
入ってくれそうだった若手スター・ブランドンには振り回されっぱなし。一方、妻
は離婚に落ち込み、自分の顔が悪いと思いこんで整形外科医にかかろうとした
ところテレビのプロデューサーに出会い、恋におちる。挙げ句の果てには、テレ
ビ・レポーターとして大人気となる、労せずして、彼女はセレブレティの仲間入り
をしてしまうのだった。

冒頭、スター女優ニコルが主演する映画の撮影風景で、空に飛行機雲で
「HELP」の文字が描かれる。これこそが、主人公リーの偽らざる気持ちである。
中年の域に達し、恋愛においても、仕事においても行き詰まりを感じ、アイデン
ティティの危機に瀕した男の心の叫びだ。いろいろな女性たちとの恋も、あと
一歩でうまくいかない。挙げ句の果ては、若い女にのぼせ上がり、別れを告げ
た恋人に、途中まで書き上がった小説の原稿を海に捨てられる始末。うらやま
しいように見えるけど、これは一種の「地獄めぐり」だ。元の妻ロビンがTVプロ
デューサーのトニーとの初デートで出かけた試写会、そこで鉢合わせたリーは
恋人ボニーと意気揚々としている。が、映画の終わり近く、ニコル主演の映画
の完成披露試写会では、すっかりセレブレティとなってトニーとも結婚し、幸せ
いっぱいのロビンに対し、惨めなのは相変わらずうだつの上がらない芸能記者
のままであるリー。徹頭徹尾、ダメ男なのだ。しかし、このダメ男はなぜか美女
にもてるのである。こんなダメ男がモテまくること自体が、この作品をいかにも
虚構っぽくしている。

にやりとさせられる場面はたくさんある。まず、なんといっても、「いかにも」という
タイプキャスト。ホテルで暴れる若手スター役はディカプリオ。色っぽい、スター然
とした女優役のメラニー・グリフィス。男を手玉に取る小悪魔、女優の卵役のウィ
ノナ・ライダー。わがままなスーパーモデルのシャリーズ・セロン。みんなはまり
過ぎていて笑ってしまうほどだ。
それと、強烈なのが、実はリーしか男性経験のないロビンが、トニーをベッドで喜
ばせたいため、娼婦の元へやってきてセックスのレッスンを受ける場面。フェラチ
オのやりかたを教えてもらうために、二人の女性が大まじめにバナナをくわえて
実演してみて、あげくには喉に詰まらせてしまうという抱腹絶倒のエッチネタが
ある。

セレブレティや、彼らを商売の種にするテレビの世界もかなり皮肉られている。
有名であるばかりに、親戚から有名人のサインを頼まれたり、レストランの席の
予約まで頼まれるトニー。美容整形外科医にテレビカメラが踏み込み、容赦なく
患者たちを撮影していく。テレビ局のスタジオでは、太った人やらネオナチやら
KKKやら娼婦やら、様々な魑魅魍魎が跋扈している。

セレブレティに振り回され、自分はちっともセレブレティになれないリー。この不
安定でフラフラしている彼は、ウディ・アレンがこれまでさんざん描いてきた人物
像である。とともに、この映画はさんざんメディアの標的にされた「セレブレティ」
である、ウディ・アレンの逆襲的な意味もあるようだ。

DDLJ ラブゲット大作戦 Dilwale Dulhania Le Jayenge

監督:アディテイヤ・チョープラー
出演:シャー・ルク・カーン、カージョル、アムリーシュ・プリー

ロンドンに家族と住む女子大生のシムラン。彼女の父は、故郷インドに住む友
人の息子と彼女を結婚させる約束をしていた。顔も知らない男性と結婚する前
に、彼女は友人たちと1ヶ月間のヨーロッパ旅行に出かける。そこで知り合った
のが、ラージのグループ。ラージは同じロンドン在住のインド人だが、裕福な生
活をしており、かつ大学も卒業式の日に落第してしまうというドラ息子だ。
最初、軽薄なラージのいたずらにひっかったりして、シムランは悪い印象を彼
に持つ。しかし、途中でトラブルのため友人とはぐれ、ふたりで旅行すること
になってからは、徐々にシムランは隠れていた彼の優しさに触れ、ロンドンに
戻る頃にはお互いのことを想いあうようになった。
ところが、シムランの心の中に婚約者とは別の男性の存在がいると知った彼女
の父は激怒し、一家はロンドンの家を引き払って婚約者のいるインドのパンジ
ャーブ州へ旅立つ。残されたラージは、父の後押しもあって、花嫁奪還作戦を
展開するのだった。

長い映画だ。ちょっと長すぎるきらいもあるが、でも映画を観ている間はとても
幸せな気分になれる作品である。前半は、若いカップルがアクシデント続きの
ヨーロッパ旅行を続けるラブコメディ。電車に乗り遅れて警察につかまりそうに
なったところ、ラージが夫婦者のふりをして難を逃れたり、寒い夜に暖をとるた
めにシムランが飲み慣れないお酒を飲んだら酔っぱらってしまって雪山の中で
踊ってしまったり。しかし、シムランにとっては最後の自由な時間を得られる、
またとない青春の思い出だった。軽薄でどうしょうもない男だったラージも、こ
の旅行、シムランとの道中を通じて成長していく。

そして、後半のインドへ。親が娘の幸せを願うあまり、会ったことのない相手と
結婚させるなんて、多分多くの国では時代錯誤的なことであるだろう。しかし、
インド人は人一倍家族との絆を重んじる。シムランは、ラージへの想いを胸に
秘めながらも、一度は承伏してインドへ向かう。父親への愛と、ラージへの愛に
引き裂かれながら。インドに着いても沈みがちの娘を見て心配した母は言う。
「女性も、自分の人生を切り開くべきだと思っていた。だけど、女は、娘として、
妻として、そして母として男性に仕える人生を生きるしかなかった。あなたには
そのような思いをして欲しくなかったのに」と。そして、ラージは「もう二人で駆け
落ちするしかない、私を連れていって」と言うシムランに、「僕たちが逃げるのは
敵からであって、僕たちをこれまで育ててきてくれた親や他の家族から逃げる
わけにはいかないんだよ。僕は、君のお父さんから正々堂々と君を頂きたい」
と諭す。家族の絆を大切にしながらも、自分の思いを貫くにはどうすればいいの
か、その答えがこの映画にある。

卒業旅行でのハプニングや結婚の儀式などエピソードがあまりにも多いために
上映時間が長くなってしまって、映画としてのまとまりには欠ける面がある。
それでも、素晴らしいシーンがたくさんある。トラファルガー広場でイギリスでの
唯一の友である鳩に餌を与えながら、自分のアイデンティティであるインド人
としての誇りに思いをめぐらすシムランの父の姿。アルプスの山中での酔っぱ
らいダンス。インド、パンジャーブ州の菜の花畑で再会するふたり。夫婦祭りで
のシムランの父の踊り、そしてラストシーンと・・。親子の絆と愛、若い男女の
成長や巣立ちを見事に描いた作品である。最後、駅のホームで娘の手を離し
ラージの元へ行くことを許した父の姿には思わず涙。国際派悪役として名高い
アムリーシュ・プリーの雄弁な目の演技が素晴らしい。

でも、マサラムービーであるからして、もちろん真面目一辺倒ではなくて、ラブ
コメディとしても楽しく見られる。中でも「都会では良くあることさ」の台詞の使い
方はうまい。