監督:トーマス・ヤーン
脚本:トーマス・ヤーン、ティル・シュヴァイガー
出演:ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファス、モーリッツ・ブライトブロイ、
ルドガー・ハウァー
マーティンは脳腫瘍、ルディは骨肉腫で余命幾ばくもない。同じ病室に入院していた
彼らが、一本のテキーラの瓶を病室で発見し、キッチンで酌み交わしたことから物語
は始まった。まだ海を見たことがないと語るルディに対し、「天国ではみんな海の話を
するんだぜ。行ったことがないヤツは仲間はずれだ」と言うマーティン。そして、マーテ
ィンはルディに海を見せてやるために、パジャマ姿で病院を抜け出し、ベンツを盗み出
して海を目指す。しかし、ベンツはギャングの持ち物で、トランクには100万マルクと
いう大金が入っていた。パジャマ姿ではみっともないと思ったマーティンはガソリンス
タンドや銀行を襲う。そうして、マーティンとルディはギャングと、警察の両方に追われ
る身となったのだ・・・。果たして彼らは海までたどり着くことができるのだろうか。
まるで「ボニー&クライド」のように、二人で強盗を働きながら逃げる二人であるが、
余命幾ばくもない男同士というのが新しい。マーティン、そしてルディの二人は本当に
気持ちのいいやつらなのだ。強盗をしても、決して人は傷つけない。それどころか、大
金を手にしてもどうせ使い切れないからと、道中知り合って親切にしてくれた人たちに
プレゼントして回るのだ。盗んだ金で、最初にヒューゴ・ボスのスーツを新調してキメる
というのもいかしている。葉巻といい、ギャングから盗んだベイビー・ブルーのベンツと
いい、道具立てがいかにもドイツらしくて、しかも洒落ているのだ。演出も歯切れ良く
て、まったく退屈することがない。
それに不治の病のふたりなのに、全く湿っぽくならないのがいい。豪華なホテルにチ
ェックインして、それぞれやり残した夢を書いて交換する。ルディは、エルビス・プレス
リーの大ファンの母親に、エルビスが自分の母親にプレゼントしたのと同じピンクのキ
ャデラックを贈りたい。そして、ルディは一度でいいから二人の女と一緒に寝たい。そ
れぞれの夢を実現しようとがんばるのも爽やかだ。最初はいきなり強盗をしてしまう
マーティンに驚いて止めさせようとしたちょっと気弱なルディも、薬が切れて苦しみだし
たマーティンのために、薬局で強盗したりしてしまう。押しつけがましくなく、さりげなく
二人の友情が描かれていて胸が熱くなる。もう先が長くないのだが、二人ともある程
度気持ちの整理がついていて、命も惜しくないからこそ、精一杯燃え尽きることができ
たのだ。彼らのことが気になって仕方ない刑事もいい味を出している。
何よりも、この映画はユーモアのセンスが抜群だ。ユーモラスな面を一手に引き受け
るのがベンツを盗まれたギャングの二人組。中でもアラブ人の間抜けなギャングはお
いしいキャラクターなのだが、彼を演じるのは「ラン・ローラ・ラン」や「ルナ・パパ」にも
出演しているモーリッツ・ブライトブロイ。ギャングがマーティンとルディを警察と共に
挟み撃ちして、銃弾の雨嵐を降らせる場面はタランティーノっぽくてかっこいいのだが
やっぱり間抜けだ。銃撃戦の中を見事にマーティンたちが逃げ出すシーンはお見事!
終盤、危機一髪の時に彼らに救いの手をさしのべる「神様」には注目。この「神様」の
存在で、どこか現実離れしているストーリーがより一層おとぎ話のように見えてくる。
ラストシーンの曇り空と荒々しい海の美しいこと。先の短い人間がここまで煩悩を捨て
美しく世を去ることができるのだろうかと突っ込む人もいるかもしれないけど、そういう
人は映画の楽しみ方を知らないかわいそうな人だと思う。たしかにリアリティはないけ
れども、映画ならではの魅力にあふれた、楽しくてしんみりして気持ちの良い、大傑
作だ。誰になんと言われようと、私はこの映画を支持する。
監督:三池崇史
出演:竹内力、哀川翔、寺島進、甲賀瑞穂、石橋蓮司、鶴見辰吾、柏谷みちすけ、杉田かおる
中国残留孤児たちのギャング、チャイニーズ・マフィアとつるもうとする暴力団桜井組、
そして新宿署捜査一係の刑事たちが、新宿歌舞伎町を舞台に覚醒剤をめぐって血み
どろの戦いを繰り広げる。物語の中心となるのは、中国残留孤児3世の本上と、刑事
の城島。本上は優秀な弟冬二の留学費用を捻出するため強盗、覚醒剤取引、殺人
などあらゆる犯罪に手を染める。一方、城島の娘は心臓病を患っていて、渡米して手
術を受けさせるには2千万円もの金が必要だ。しかし躍起になって犯罪を根絶させよ
うとしても、警察で彼の味方となる人間はいない。城島は、背に腹は代えられず、桜
井組の若頭青木に娘の手術費用を借りる。
やがて血を血で洗う抗争が繰り広げられ、愛する者を奪われた本上と城島は最後の
対決へと駆り立てられる。
まず目を瞠らされるのは、冒頭のたたみかけるような演出。新宿歌舞伎町の猥雑な
部分をこれでもかと見せつける、実に格好良くてしびれるオープニングだ。ストリッパー
マリコの踊り、中華料理店でこれでもかと麺を喰わされた上殺される客、ビルの上か
ら降ってくる死体。バイオレンスがこれでもか、とばかりに満ちている。極彩色のネオ
ンと血に彩られたバビロンとそこにうごめく怪しい人間どもを見事に捉えている、すごい
オープニングだ。
幾多の殺人や強盗、銃撃戦が展開するが、やはり光っているのは竹内力の格好良さ。
今時こんな髪型するヤツがいるのか、というリーゼントにサングラス、ロングコートをな
びかせて銃片手にスローモーションで歩いていく様子は実にはまっている。それに対
抗する哀川翔の刑事は、病気の娘がいるという生活臭を漂わせながらも、こちらもア
ウトローの匂いを漂わせている。ハイウエストの太いスラックスとグラサンが渋いぜ。
彼らに共通するのは、肉親(もしくは仲間)に対する深すぎるほどの濃い愛情だ。本上と
中国残留孤児3世仲間がはしゃぐシーンは微笑ましいが、同時に日本社会に溶け込
めない彼らの絶望感も表している。本上が弟と、彼らの母親の墓に参るシーンにもし
んみりとさせられる。城島も、家庭人としての苦悩をにじませていて、子煩悩な同僚
刑事井上の子供をしきりに可愛がる。そして、アウトサイダーであることも共通点であ
る。刑事と犯罪者でなければ、友だちにだってなれたかもしれなかったのに・・。
彼らばかりでなく、脇役のキャラクターも個性的だ。何も仕事をしないで尺八ばかり吹い
ている署長、城島の仕事を邪魔する刑事、スカトロ趣味の青木、教祖になりたがって
いる本上の仲間佐竹、青龍刀の使い手の中国人。悪い冗談のようなキャラクターの
オンパレードである。
しかしなんと言ってもこの映画の見所は、最後のクライマックスだ。愛する者を奪われた
憎しみで煮えたぎった二人の対決シーン。垂直に墜ちてきた自動車の中から生還し、
腕を自分の手で引きちぎる城島に、まず「そんな馬鹿な」と絶句。そして、二人の煮え
たぎる情念は、やがてとんでもない結末を引き起こす。観ていない方のために、どんな
ことが起きるかはここでは言わないが、これほどまでに強烈なクライマックスを観たのは
初めてだ。「暴走」といってもいい。これまでの映画に対する見方が吹き飛んでしまうほ
どの終わり方なのだ。映画館場内は、爆笑の嵐だった・・・。
破壊的なまでのパワーを秘めた怪作。このすごさは、一度映画館で体験するべきだ。
怒って帰る羽目になるかもしれないが、これは一つの革命だと思う。観なくて後悔する
か、観て後悔するかのどちらかの選択を迫る爆裂作品なのだ。
監督:デレク・チウ
出演:ラウ・チンワン、エリック・コット、ウォン・ジーワー、ン・シンリン
広告代理店に勤めるホイ、売れない俳優のガウ、そして脚本家のファーは子供ころか
らの仲良し。同じマンションの部屋に住み、お互いに支え合って生きていた。彼らは性
格は異なっているが、共通点が一つある。ゲイであることだ。仕事がうまくいかなかっ
たり失恋したりして悩みもあるが、部屋で仲間を呼んでパーティをしたり楽しく過ごして
いた。
ホイは、コンドームの宣伝プロジェクトで相棒となった同僚の女性フクメイと親しくなる。
彼女は、ホイがゲイであると知っても彼に好意を寄せ、ホイはゲイとしてのアイデンティ
ティに悩む。そして、ガウがHIVに感染していることがわかり、死の影が彼らに忍び寄る
のだった。
1994年に撮られた作品ということもあって、香港におけるゲイの立場も、そしてエイズ
をめぐる状況もそれから変化したものと思われる。もはやエイズはすぐに死に至る病で
はないからだ。でも、エイズや、ゲイのことがメインのテーマである作品ではない。香港
では、日本やアメリカ、ヨーロッパよりもずっとゲイが差別されていることは描かれては
いるが、それは彼らの友情をより堅いものとして描くための手法である。
中心となるのは、3人の男性の友情だ。中でも、「初恋」などの監督としても知られるエ
リック・コット演じるガウのキャラクターが魅力的だ。決して二枚目ではないし、オカマっ
ぽくちょっとクネクネしている彼だが、他の2人の母親的な存在である。優しくて、
陽気で、誰にでも好かれる性格。ホイやファーの失恋の相談に乗ったり、仕事がないこ
ともあって二人の食事を作ったりしている。そんな愛嬌のある彼がHIVに感染するという
皮肉。彼が同性愛者の代表としてテレビに出演し、顔を隠していたブラインドを取り払っ
て堂々とカミングアウトする場面は非常に感動的で涙が出るほどだった。そして、もう一
つの彼の長セリフも、実に素晴らしく、切なかった。ゲイであることが家族の恥だと父に
勘当され、弟や妹とも隠れて遊ばなくてはならない彼の、「一度でいいから誰かに愛さ
れたかった」という言葉はあまりにも痛切である。
ガウのテレビ出演を見守っていたホイは、ゲイであることが会社にバレることもいとわず、
出演中に倒れたガウを介抱してテレビに映り、仕事を辞めざるを得なくなる。ゲイであり
ながらフクメイに恋してしまって、仲間に申し訳ないと彼は悩む。しかしそんな彼を後押
ししてくれたのがガウだった。ガウの支えによって、遺された3人はそれぞれの道を歩き
始める。
ガウを元気づけるためにみんなで開いた仮装パーティ。明るくはしゃぐガウと仲間たちの
映像が楽しげであればあるほど、パーティが終わった後のさみしさはひときわである。
そして、ビデオテープに残されたガウのメッセージ・・・。ビデオというメディアの使い方が
とてもうまい。ガウの「バイバイ」という言葉は悲しいことこの上ない。でも、みんな、立ち
止まらずに前を見て歩いて行くしかないのだ。それが、ガウの願いだったから・・。
監督:ヤン・ケイミューレン
出演:ヴェーレ・ドベラーレ、アントニー・カーメリング、マルク・ギャロ
この週末に奇しくも2本、エイズにまつわる映画を観ることになった。「ぼくたちはここに
いる」は優しさの映画だとしたら、この「LISA」は強さの映画である。女のほうが男より
強いのかな、とも思った。
リサは登山を趣味にしている女性で、クラブを経営している。同棲している恋人ロブが、
彼女がマッターホルン登山から帰ってきたら若い女性を引っ張り込んでいた。怒りを
鎮めるために高層ホテルの壁に登った彼女は、警察に追われ、ホテルで生活してい
る若いピアニストのサムの部屋に隠れる。これまでピアノという世界しか知らなかった
サムは、強くて自立しているリサに惹かれ、二人は恋におちる。コンクールを目前にし
ていたサムは、彼に干渉する母親によって引き離され、そしてリサのところに、ロブが
HIVに感染しているということを知らせに来る。リサは死ぬときは山で死にたいと思い
たった一人でマッターホルンを目指す。
リサは本当に強い女性だ。冒頭の登山シーンでも、パートナーであるザイードを終始
リードしているし、仕事もしっかりやる。失恋した後も、高層ホテルにスルスル登って
しまうのだからすごい。ピアノしかしらないお坊ちゃんのサムが彼女に惹かれるのも
無理はない。サムは彼女に知り合ったことにより、別の世界を知り、彼をこれまで束
縛してきた母親から自立しようとする。彼女がHIVに感染したことを知り、一度は彼女
を遠ざけようとしながらも、彼女を受け入れる。そのへんは非常に良く描かれている。
また、特に性的に放縦でもない普通の女性が、たまたま恋人からHIVに感染してしま
うという怖さ、そしてサムと初めて愛し合うときにはコンドームを使ったために彼には
感染しなくて済んだというところもうまく表現されている。
しかしながら、どうしても腑に落ちない部分があるのだ。サムがリサに出会うことによ
って新しい世界を知るのはいい。だけど、コンテストの決勝にまで残る有望なピアニス
トが、指にダメージを与えるかもしれない登山の訓練をしても良いものなのだろうか?
なんだかプロ意識の欠如を感じてしまうし、(まあ、ピアノは母親に強制されていたも
の、支配の象徴と考えることもできるのだが)逆に彼がピアニストであるということを知
って、そんなことを彼にさせているリサってどんなもん?と思ってしまう。何が彼にとっ
て大事であるかを考えると、コンクールの決勝の前に登山の練習をさせて警察沙汰
にまでしてしまうのはいかがなものだろうか。しかも、リサは無謀にも一人でマッター
ホルンに向かい、結果としてサムに決勝、ひいてはピアニストとしてのキャリアを放棄
させてしまうなんて身勝手じゃない?
さらに、ザイードは登山の経験がないサムに冬山に向かわせてしまう。下手したら二
人とも死んでしまうかもしれないのに。どうも、そのあたりがひっかかってしまった。
しかし、リサという女性像は魅力的に描けていたし、マッターホルンの雄大な景色と
生死をかけたドラマの部分は見応えがあった。
監督:デヴィッド・ダワン
出演:アニル・カプール、ランバー、ラヴィーナー・タンダン
アルンとカージャルは仲の良い夫婦だがなかなか子供ができない。同居するアルン
の父は孫を待ち望んでいるので、二人は病院に行って検査をするが、カージャルは
不妊症だった。父親は、嫁が子供を産めないのなら離婚して別の女と結婚しろとアル
ンに迫る。そんなときに、アルンはネパールに出張し、そこでマニーシャという若い娘
を助けるが、言葉が通じないこともあって彼女と結婚する羽目に陥る。マニーシャか
ら逃げ回ろうとするアルンだったが、彼女のひたむきな心に打たれてしまう。そして
インドに戻ったアルンに、父親は「子供はいなくてもいい」と言う。さらに、マニーシャ
はアルンの子供を身ごもってしまっていたのだ。
今の日本ではあり得ないと思われる、「子供を産めない女は出て行け」とか重婚の
ような話が出てきて、フェミニストだったら眉をひそめそうな内容ではある。だけど、
とても楽しい映画だ。人はいいけど優柔不断な主人公が、いろんな災難に巻き込ま
れて二人の妻を持つ身となってしまう。カージャルも愛しているし、だけどマニーシャ
も傷つけたくない。結果的に、マニーシャとの子供を、捨て子と偽って養子として育て、
そして結果的にマニーシャもお手伝いとして家に住まわすことになり、さらにトラブル
が加速するという構図だ。彼はどうやって、この危機を切り抜けるのだろうか?二人
の女性に振り回される色男という、ハリウッドのコメディ映画にもありそうな構図をうま
くインド流にあてはめている。
この重婚という状況と、アルンの優柔不断で身勝手なところが引っかからなければ
非常に楽しめる映画となっている。2時間13分とインド映画にしては短くてテンポも
良いけれど、華やかな踊りのシーンもたっぷりだ。その分話はだいぶ端折っていて
ご都合主義に流れた部分もあるが。ネパールでの、民族衣装をまとってのエキゾチ
ックな踊りも素敵。後半の、都会での洗練されたファッションや、色鮮やかでポップな
雰囲気も楽しげ。「アルナーチャラム踊るスーパースター」では引き立て役になってし
まっていたランバーが、ここでは魅力を爆発させている。その豊かな肉体が放つ存
在感は、他の国の女優では決してみられない。アルンに逃げられそうになったり、子
供を奪われたりして、境遇としては不幸なところも多いが、耐えるけど決して暗くなら
ない可愛い女性の役がはまっている。カージャル役のラヴィーナーは反対に、都会的
で洗練された雰囲気の美しさだが、この映画ではやっぱりランバーの存在感にはか
なわない。