監督:岡本喜八
出演:仲代達矢、三船敏郎、加山雄三、新珠三千代、内藤洋子、西村晃
旅の巡礼をする老人を大菩薩峠で斬り殺したのは、机龍之介。彼は無音剣を操る無頼の
剣客であった。彼の元に、奉納試合で彼と対決することになっている宇津木文之丞の妻
はまが、勝負に負けてくれと懇願しに行く。が、龍之介は彼女を犯し、試合では文之丞を
殺してしまう。そして、はまを妻とする。文之丞の弟兵馬は復讐を誓い剣の腕を磨く。新撰
組に合流し京都へと行った龍之介は、その会合の宿で、彼が殺した老巡礼の孫娘お松に
出会い、錯乱する。
中里介山による有名な原作「大菩薩峠」は過去に片岡千恵蔵、市川雷蔵主演で映画化
されてきた。が、この岡本喜八監督、仲代達矢主演による作品は、とかく異彩を放ってい
る。複雑なキャラクターであり、徹底した悪人である龍之介を演じる仲代達矢は濃い。濃
すぎる。彼の目の輝きは、異常だ。そして、見所は、最初から最後まで、とにかく人を斬り
まくる龍之介。一度に数十人の敵を、表情一つ変えずに斬り、斬られた方は阿鼻叫喚と
共に、腕や手首や首を、まるでスプラッタ映画のごとく飛び散らせる。凄すぎるのは、ラス
トの京都の宿でのシーン。お松が幽霊を見た、というところから、龍之介も、彼がこれまで
に殺したおびただしい人々の霊を見るようになる。他の人々には何も見えないのに、彼は
亡霊だと思って部屋の簾を猛然と斬り始める。彼が狂乱したと思って集まってきた新撰組
の面々も、龍之介によって斬り殺される。すっかりキレてしまった彼が、足下をふらふらさ
せ、血を流しながらも殺戮マシーンと化す様子は圧倒的だ。夥しい数の人を、どれ一人同
じ方法で斬らず、いろんな角度で斬っており、場面作りは凝りに凝っている。そして迎える
唐突なエンディングには、しばし茫然。圧倒的なパワーのある作品だ。
とにかく濃くて強烈な龍之介に対して、「静」のキャラクターなのが、龍之介を仇とする兵馬
の剣の師匠島田虎之助、演じるは三船敏郎。「人を殺すための剣は、邪剣である」という
虎之助の言葉が、龍之介の心に引っかかり、最後の狂乱に結びつくのだった。
もう一つ印象的なのが、はま。夫を殺した龍之介になぜかついていき、彼の子供まで生ん
でしまう。しかし、剣の腕前は天下一品なのに、持ち前の性格ゆえ、剣の師匠であった父
からは破門され、剣客稼業という不安定な身分である龍之介に、彼女はいつも不平をこぼ
す。あなたと知り合わなかったら、文之丞と幸せな生活を続けることが出来たのに、と。こ
んな風にネガティブに描かれているヒロインというのはとても珍しい。恨み言ばかり言って
いるが、かなりしたたかな女性で、冒頭、水車小屋で龍之介に帯をほどけといわれたとき
も、自分からほどいていたくらい。水車にからまる帯がとてもエロティックだった。
岡本喜八は、インタビューで、原作もわけわからないので、脚本もわからないものになった
と答えている。ちなみに、脚本は「幻の湖」の橋本忍なのだが。話の方はどうにもならない
ため、とにかく龍之介の剣法を緻密に、凝りに凝ったものにすべく絵コンテを描きまくったそ
うだ。その成果は、十分発揮されている。ラスト15分間の、日本家屋の複雑な構造を逆手
に取った凄まじい殺戮シーンだけでも、見る価値は十分にある。
それと、お松役の内藤洋子の清楚な美しさは特筆すべきだ。娘の喜多嶋舞の数倍可憐で
美しい。西村晃、佐藤慶など脇役の存在感も光っている。
監督:岡本喜八
出演:古谷一行、財津一郎、本田博太郎
幕末、駿河の国の貧乏な藩の殿様は退屈していた。そんなところへ漂流して流れ着いたの
は、アフリカを目指していた黒人3人組。楽器を持参していた黒人三人は、ジャズの演奏を
始め、殿様もクラリネットの吹き方を教えてもらい熱中する。やがて大政奉還となり、城が江
戸と京都を結ぶ街道の通り道となるため、殿様は上の階を往来に開放し、下の階で一大ジ
ャムセッションが繰り広げられる。演奏を終えて地上に出てみると、明治の世の中になって
いた。
なんとも楽しい映画だ。アメリカ南部で食い詰めた黒人達が、アフリカを目指すためメキシコ
国境に入り、楽器を手に船に乗る。4人集まって曲が作られていく過程からして奇想天外で
面白い。インディアンの居留地では、彼らの演奏がうるさいと矢が飛んでくる。黒人達の英
語の台詞の上に、南部訛を日本語にしたらこんな感じになるのかな?という感じのなまった
日本語のボイスオーバーがかぶせてあるのがおかしい。この映画で圧倒的に面白いのは、
売り物のジャムセッションよりも、この最初の15分あまりじゃないかな。腹を抱えてしまうほ
どのおかしさだ。
長くて困難な船旅の末に日本に流れ着いた彼らを助けたのは、やはり生活に困って心中を
企てていた一家。殿様の日常生活の描写も面白い。貧乏な藩なので城はボロボロ、茶どこ
ろの静岡なのに、客人に出すお茶は出がらし。おてんばな殿様の妹は算盤をローラースケー
ト代わりに場内をすべりまわり、家来達は一度も使ったことのない大砲を一日磨いている。
殿様は不快な音を出す笛のような楽器を一日中吹いていて迷惑がられている。まったく威
厳のない殿様だ。そんなところへ、今まで見たことのないような黒人の男が3人。しかも、楽
器を持っていて、地下牢で演奏している。退屈な生活に飽き飽きしている殿様は、彼らの演
奏を聴きに行きたくて仕方ないが、家来どもが反対してなかなか行けない。彼が行きたくて
行きたくてウズウズするさまが、ほほえましい。
そして、明治維新前夜の、一大ジャムセッションは圧巻。女中達も、城の中を片づけながら、
琴や三味線、さらには鍋なども使って演奏。堅物の老中も、ついには太鼓を片手に。算盤も
パーカッションに変身。最初は上品に琴をつま弾いていた女達も、琴を立てて持って、ウッド
ベースでも弾いているのではないかというワイルドな演奏を聴かせる。往来を通りかかった
百姓一揆の面々も「ええじゃないか」と唱和しながら加わり(心中しようとしていた一家も、死
ぬことなんて忘れて踊り狂っている)、お坊さんも木魚を叩いて参加。演奏は一晩中続き、み
んな我を忘れてどんちゃん騒ぎ。気がついたら江戸時代が終わり明治になっていた!という
展開がいい。
一つの時代が終わり、新しい時代が始まり、鎖国が解け、文明開化となるという歴史の流れ
を、面白おかしく象徴させている。ジャム・セッションにはいつのまにかミッキー・カーチス、お
もちゃのピアノを弾く山下洋輔、そして屋台を引くタモリまでもが参加していて、最後はもう何
でもアリな状態。ウキウキした気分で映画館を後にすることが出来た。