喜劇王 King of Comedy 喜劇之王

監督:チャウ・シンチー、リー・リクチー
出演:チャウ・シンチー、カレン・モク、セシリア・チャン、ン・マンタ

売れない俳優のワンは、理論先行なのがたたってエキストラにもなれない。公民館で働き
ながら役者の仕事を探しているのだが、スタッフはおろか、弁当係のガンプにもバカにされ
ている。そんな彼の元にやってきたのが、客あしらいの下手なホステスのピュウピュウ。ワ
ンは、彼の演技指導の成果で売れっ子になった彼女と恋におちる。一方、ワンはエキストラ
で発揮した根性をスター女優のキュンイーに認められ、次回作の主演に抜擢されるのだが…。

「食神」「008皇帝ミッション」などの、ナンセンスギャグが炸裂する作品で大人気のチャウ・
シンチー。昨年香港でナンバー1の興行成績を誇った本作品は「喜劇王」というタイトルから
して、またお腹が痛くなるほどの笑いを期待してしまう。前半はかなり面白い。弁当係に徹
底的にバカにされているワンは、「ボクの車はベンツお前の車は便器」と歌まで歌われ、ロケ
弁当も犬に与えられてしまう。公民館をウロウロするすっぽんぽんの子供とか、笑いのポイン
トはいっぱいある。カレン・モクが主演する作品の撮影シーンがすごい。教会の中を鳩が舞う
さなかでの銃撃戦、銃を突きつけ合うシーン、そして強力なワイヤーアクション、とジョン・ウ
ーのパロディなのだが、むっちゃ格好いい。ワイヤーに吊られたカレン・モクはクルクルと3回
転くらいして、吹き飛ばされて、さっと立ち上がってキメのポーズ。格好良すぎて笑ってしまう
ほどだ。

しかし中盤からは、ナンセンスギャグは息を潜めてしまう。ワンと、女子高生パブのホステス
ピュウピュウとのちょっとせつない恋物語、そして一気にスターの階段をかけ昇るワン。でも、
世の中はそこまで甘くなかった。せっかく手に入れた主役の座から降板させられてしまい、実
は覆面捜査官だった弁当係のガンプに、演技力を発揮してヤクザのアジトに出前持ちをさせ
られ、危機一髪に陥ってしまう。(ちょっと「ブギーナイツ」の強盗シーンに似たシチュエーション
だ)

あれだけ芝居に燃えていた彼の努力は、結局大舞台では報われず、彼が主催する素人劇
団の公演が成功するというだけで終わってしまうのには拍子抜け。最後にはスターになると
か、もうちょっとカタルシスが欲しいところだった。笑い、ロマンス、バイオレンスアクション、そ
してホロリとさせるところまで、サービス精神旺盛に盛り込んだのだろうけど、どっちつかずに
なってしまった印象がある。シンチー作品というと、やっぱりみんなギャグを期待しているのだ
から。

セーラー服に濃いメイク、すれっからしに見えて実は純情なセシリア・チャンがとてもかわい
い。ホステスの癖が抜けなくてすぐ足をワンにからめてしまうところなんて、笑ってしまう。チ
ャウ・シンチー映画の常連であるカレン・モク、ン・マンタはいつもの魅力を発揮。それにして
も、カレン・モクが教会の中で演じた、気合いの入ったアクションシーンには圧倒させられた。
香港では、女優でもここまでハードなことをさせられるんだなぁ。大したものだ。

ロミオ・マスト・ダイ Romeo Must Die

監督:アンジェイ・バートコウィアク
出演:ジェット・リー、アリーヤ、アイザイヤ・ワシントン、ラッセル・ウォン、デルロイ・リンドー

オークランドで、何代にもわたって続けられたチャイニーズ・マフィアと黒人系ギャングの抗争。
チャイニーズ・マフィアのドンの息子ポーが何者かに殺される。彼の死を知った兄のハンは、
服役していた香港の刑務所から脱獄して舞い戻ってきた。やがて抗争は激化し、黒人系ギャ
ングの首領の息子も殺される。ひょんなことから黒人ギャングの首領の娘トリッシュと知り合っ
たハンは、命を狙われながらも、彼女の協力を得てこの抗争に終止符を打とうとするのだった。

出演者のクレジットが漢字で現れては消えるオープニングはクールでとても格好いい。ヒップ
ホップは案外カンフーにマッチしている。しかし、「ロミオ・マスト・ダイ」のタイトルから連想され
るような、シリアスな作品ではなかった。このオープニングの雰囲気が続いていたのだったら
スリリングな傑作に仕上がったのかも知れないのに。

待望のリー・リンチェイことジェット・リーのハリウッド初主演作。プロデューサーは、『マトリック
ス』のジョエル・シルバーということで期待されていた作品だったが、耳に入るのは「期待外れ」
という話ばかり。前評判の悪さでいろいろ懸念していたのだが、ジェット・リーのアクションその
ものはやっぱりとんでもなく凄かった。冒頭、ハンが刑務所から脱獄するシーン。独房で逆さ吊
りにされた彼が、その体勢で4,5人の看守を倒し鎖を解くところなんて、ワイヤーの力を借りた
としても並大抵の運動神経の人に出来る芸当ではない。彼のアクションの見せ場は6カ所ほど
あって、彼が蝶のように舞い蜂のように刺すところを観ることができる。残念ながら、香港映画
ではないので、彼とまともに渡り合うことが出来たのは、ラッセル・ウォンと、バイクに乗って颯
爽と登場する女刺客のフランソワーズ・イップだけ。フランソワーズ・イップはやはりリー・リンチェ
イと共演の『ブラック・マスク』での華麗なアクションが印象的だったので今回ハリウッド進出し
たのだと思うが、あまりにも登場シーンが短かったのが惜しい。
話を元に戻して、当然のごとくジェット・リーは凄いのだが、そのすごさをカメラが伝えきれてい
ないのが残念。それでも、水道のホースやベルトなどを使ったアクション、狭い場所で動きが
限定されたところでの動き、さらにはアメフトをプレイしながらの蹴り技はさすがに魅せてくれる。

ストーリーに関しては、もとから全然期待をしていなかったので、別に失望はない。「ロミオ・マ
スト・ダイ」には、「色男は死すべし」という意味、そしてこのストーリーを「ロミオとジュリエット」
に掛けているという意味も含まれている。しかし、もともとジェット・リーは色男というキャラでは
ない。童顔で朴訥そうな青年が、実はとんでもなく強いという意外性が持ち味となっている。
(そういう意味では、図書館勤務の素朴な青年が、実は哀しい戦士だったという『ブラック・マ
スク』の設定などは彼にはピッタリ)そんな彼の朴訥さを、ギャングの娘トリッシュが気に入る
というのはわかる気はするんだけど。
「ロミオとジュリエット」の話を下敷きにしているとはいっても、この映画は悲劇的な恋愛の話
にはなっていない。トリッシュが父親に一度だけ「ハンの息子と一緒にいるのはやめろ」と言
われるのと、ハンが一度トリッシュの部屋にバルコニーから忍び込む場面があるというところ
がちょっとそれっぽいだけ。ハンとトリッシュの関係にしても、キスシーン一つあるわけではな
く、ロマンティックと言うより、友情に近いモノを感じさせる。異人種間のラブシーンというのは
ハリウッドのドグマではちょっとタブーに近いのだろうか?

二つの組織は激しく対立しているというのに、争うことの愚かさ、お互いの肉親を殺し合って
いるというのに、その悲劇性が伝わってこないというのが、この映画の致命的な欠点。一言
で言うと、情念の欠如である。人物描写も薄っぺらい。それゆえ、凡百のハリウッド映画の
中に埋もれてしまう作品となってしまっている。

しかしまったくつまらないわけではない。トリッシュを演じたアリーヤは強くておてんばで快活
で、なかなか魅力的なキャラクターに仕上がっている。ジェット・リーも、素敵な笑顔を見せて
くれたり、ジョークまで飛ばして頑張っているし、黒人組織のドンを演じるデルロイ・リンドウの
演技には重厚感がある。観ている間は退屈しないしそこそこは楽しめるけど、あまり残るもの
のない作品というのが正しいのだろうな。ジェット・リーファンにはもちろん必見の作品ではあ
るのだけど、彼が次回出演するという噂の『マトリックス2』に期待したほうが良さそうだ。

ロゼッタ Rosetta

監督:リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ
出演:エイリー・デュケンヌ、ファブリッツィオ・ロンギオーヌ、アンヌ・イェルノー

ロゼッタは勤めていた工場を解雇される。彼女は母親とキャンプ場のトレーラーハウスに住む。
母親はアル中で酒代のためにわずかな金で売春をしている始末。そんな母親を、ロゼッタは
激しくたしなめ、彼女が貰ってきた食糧も捨ててしまう。ロゼッタがワッフルを買っているスタン
ドの店員リケはロゼッタに好意を持っている。ロゼッタは彼の雇い主の社長のところで仕事を
手に入れるが、彼女の仕事を社長の息子が手に入れ、彼女は解雇される。ロゼッタは、リケ
がもぐりでワッフルを焼いて売っていることを社長に告げ口する…。

ロゼッタが何よりも欲しいもの、それは仕事とまともな生活。友だちもいらないし、恋をしたい
わけでも、お洒落をしたいわけでもない。生活保護は欲しくない。もぐりの仕事で稼ごうとは
思わない。トレーラーの中で寝る生活はもうイヤ。ただただ、まともな仕事が欲しいだけ。でも、
そのことがとてつもなく難しい。ロゼッタは若いのに、社会のシステムと戦っている。正当な
理由もなく彼女の仕事を奪おうとする雇い主には、その場にしがみついてでも抵抗する。ロゼ
ッタはいつも怒っている。彼女を解雇した雇い主に、酒のためにプライドを捨てている母親に、
そして、そんな彼女に真っ当な生活を与えてくれない社会に。カメラはずーっと、彼女の顔に
近い位置で回り続け、彼女の表情の変化をずっと捉えている。彼女の表情は微妙に変わり
続けるが、ほとんど笑わない。この映画の中で、彼女はほんの2回しか笑わない。そして、
どんなつらい目にあっても、彼女は泣かない。彼女は他の人に心を開くことなく、かたくなな
態度を取り続ける。唯一彼女に好意を持っている、親切なリケに対しても、つれない態度だ。

仕事を手に入れるためなら、彼女は何だってする。彼女はマスを釣るために池に仕掛けを置
いているのだが、それを池に落としてしまう。彼女のためにそれを拾おうとしたリケが池に落
ち、溺れそうになったとき、彼女は一瞬彼が溺れて死ねばいいと思う。そして、ついにリケの
不正を社長に告げ口して、彼の職を奪うのだ。念願の仕事を手に入れたロゼッタ。しかし、そ
こまでして欲しかったものを手に入れたのに、何か落ち着かない。そうすることで彼女は、何
か大切なモノを失ってしまったということに気がつき、絶望する。強がっている彼女が、最後に
見せた弱さが、とても痛ましい。

彼女をここまで追いつめたのは何か、この映画では描かれていない。なぜ彼女がこのような
貧しい暮らしを強いられているのか、社会的な背景は一切わからない。物語は、ひたすら彼
女の視線で語られている。彼女の顔のアップを写し続けるカメラは手持ちで、観ているうちに
乗り物酔いを起こしそうでクラクラしてくる。社会から疎外され、一人で戦っている彼女の心情
を観る者に伝えようとする演出だ。

ただ、どうも日本で恵まれた生活を送っている私たちには、彼女の心情というのはなかなか
簡単には伝わってこないのだ。現代のベルギーの社会情勢というのはどうなっているのか、
そのような予備知識があるわけでもないし、どうしてそんな厳しい生活を強いられなくてはな
らないのか、この映像の力だけではわからない。16,7歳という、普通だったら青春真っ盛りの
はずの少女ロゼッタから、笑顔や愛嬌を奪い去ったものの正体が不明確だ。どうしてここまで
仕事が欲しいのだろうか、豊かな生活に浸かりきっている私たちにはわからない。こんなに無
愛想で、いつも怒っていてささくれ立っていてエキセントリックな人が身近にいても、けっして
友だちにはなれないだろう。でも、彼女という人間がこの映画の中でたしかに存在していて、
懸命に生きているという実感だけは痛いほど伝わってくる。

ロゼッタを演じたエミリー・デュケンヌは素晴らしい。エラの張った、気の強そうな顔立ち。強い
光を放つ目。体つきもどっしりとしている。強情で、いつも怒っていて、でも本当は脆いロゼッタ
という少女を体全体で表現している。彼女の剥き出しの、生の感情の奔流が痛い。最後に彼
女が見せる一瞬の柔らかい表情(唯一、少女らしいかわいらしさを感じさせるもの)が、忘れが
たい印象を残す。

エンターテインメントから一番遠いところにあるような映画である。観ていて面白い作品では
ない。楽しさとか、喜びとか、ポジティブな感情はほとんどない。でも、この作品しか持ち得な
いようなパワー、鼓動を感じる。最後に少しだけ救われるような気持ちを味わわせてくれるま
では、ホントどうしようかと思ってしまうような作品だったけど、その一瞬を観られたことで、こ
の映画を観て良かったと思った。