ミラクル・ペティント El Milagro de P.Tinto

監督:ハビエル・フェセル
脚本:ギジェルモ・フェセル
出演:ルイス・シヘス、シルビア・カサノバ、パブロ・ビネド

ペティントは、小さな頃からたくさんの子供を持つのが夢だった。幼なじみのオリビアと結
婚し、田舎に家を構えた彼は、子作りに励んだつもりだったが、50年経っても子供はで
きなかった。家業である、聖体拝受式に使用するウェハースの工場経営に邁進するペテ
ィント。そんなあるとき、彼の元に、コウノトリではなく、宇宙人が空からやってきた。そし
て、目の前で母を失ったトラウマから立ち直れない、ちょっと頭の足りない大男も…。

徹底的にディテールにこだわり、ポップにキッチュに作られた作品。全体的な色彩感覚が、
いかにもスペインというべきか、とてもカラフル。そして登場する小道具の一つ一つも凝っ
ている。宇宙人マニアというべき変な隣人は、宇宙人を探査するために色んな飛び道具を
手作りしているのだが、これがまたノスタルジックな形状をしている。空からやってきた二
人の宇宙人は、コビトのように小さくて、ソーダが大好きで、毛深いくて、ちょっとだけ意地
悪。彼らが乗ってきた宇宙船は、まるでミニカーのようなかわいい形をしていて、しかもタイ
ムマシンの役割を果たしている。

ペティントとオリビアの夫婦もとても不思議な人たちだ。二人は、とても純真に育った。生ま
れた村から出たこともなく、異性はお互いしか知らない。オリビアは盲目だ。二人に子供が
出来なかったのは、正しい性教育を受けることがなく、ただサスペンダーをタラリン、タラリ
ンと引っ張って祈れば子供は出来ると信じ込んでいたからだ。彼らは信心深くて、家の中
には聖ニコラスの像もあるのだが、これは栓抜きとしても使われていた!そして、彼らの
子供時代から、ストーカーのようにずっと離れない神父。学校で彼らに宗教教育を施し、彼
らの結婚式を執り行い、そしてペティントの父が亡くなったときにも、祈りを捧げた神父だ。

田舎の純朴で信心深い老夫婦と宇宙人、そして知恵遅れの大男という組み合わせがとて
もミョ〜な感じ。この大男の話というのもちょっと泣ける。幼い頃、彼は目の前で、彼が駆け
寄ってくるのを待っていた母親が貨物の下敷きになるのを目撃し、母を求めて屋上で待ち
続けたら、意地悪な継母に精神病院に入れられたのだった。やがて、どこにも接点がなか
ったはずの宇宙人ふたりとも、不思議な縁で結ばれていたことを彼は知る。そして、登場人
物すべてにとって、奇跡としかいいようのない出来事が起こるのだ!

しかし話そのものはあっち行ったりこっち行ったり、想像もつかない展開になったり、現実と
幻想の境目がわからなくなったりして訳が分からなくなることがしばしばある。頭の中に?
がいくつもいくつも出てきてしまう。それでも、なんともいえない不思議な魅力がある作品だ。
ペティントら純粋な人々の心と、宇宙人や知恵遅れの男のふれ合いが、感動的、ではない
けどなんだかとってもいい感じ。作り手の奔放な想像力が存分に発揮されていて、とても印
象に残る。

また、年老いたオリビアがラスト、かわいらしくお花畑で踊るシーンなど、すごくセンスがよい
場面がたくさん登場する映画でもある。エンドクレジットの書体や挿入するイラストもかわいく
ていい。ストーリーがどうのこうの、というより、凝りに凝ったディテールに引き寄せられ、不思
議でキッチュな雰囲気に酔う、という楽しみ方がふさわしい。

マイ・ハート、マイ・ラブ Playing By Heart

監督・脚本:ウィラード・キャロル
出演:ショーン・コネリー、ジーナ・ローランズ、アンジェリーナ・ジョリー、ライアン・フィリップ
    ジリアン・アンダーソン、マデリーン・ストウ、アンソニー・エドワーズ、エレン・バースティン
    ジェイ・モア、ジョン・スチュアート、ナスターシャ・キンスキー

ロサンゼルス、そしてシカゴに住む11人の男女。昔の浮気が今頃になって妻にばれた熟年
の夫。クラブで出会った美しい男性に一目惚れしたものの、なかなか心を開いてくれない彼
に恋い焦がれる女優の卵。夫との生活に退屈し、牧師と後腐れのない情事を楽しむ人妻。
他人になりきり、夜の街をさまよっては作り話をする男性。恋に臆病で、せっかく想いを寄せ
てくれた素敵な男性にも頑なな態度の舞台演出家。そして、エイズが発病し余命幾ばくもな
い息子と、ゲイである彼を受け入れられなかった母親。それぞれの愛が語られる。何の関わ
り合いもないように見えた彼らは、ある人物を核につながっていたのだった。

冒頭、アンジェリーナ・ジョリーが演じるジョーンが誰かに話している。「音楽を語ろうとするな
んて、建築をダンスで表現するようなもの。愛を語ることも同じ」と言われたわ、って。愛を語
ることってそんなに意味のないことなのだろうか、そんなことはない、とジョーンと会話してい
た人物は語る。「それが間違っていることを証明しよう」、って。終始、愛とは何かを語ってい
る映画だ。しかも、一つ一つの台詞がとても格好良くて、自分でも使ってみたくなるほどなの
だ。

登場する人物はみな、極端なまでに愛に不器用だ。ショーン・コネリー演じるポールは、昔の
恋について妻に問いただされ、つい喋ってしまう。しかも「愛しすぎていたから、深い関係にな
ることもなかった」なんて言ってしまう。そんなコト言ったらますます妻も怒るだろうに…。メレデ
ィスは、最初の結婚に失敗し、それもこともあろうに夫がゲイだったことが判明したのが原因だ
った。そのため、男の人を信用しないで、心を鎧で固めている。せっかく現れたトレントに対し
ても、「私はあなたとは寝ないわよ」と言って彼の気持ちを傷つけてしまう。死を目前にして、
ようやく自分について語ることが出来た息子。彼は同性愛者であったことを負い目に感じて、
母親と十分にコミュニケーションできなかった。死の床について、ようやく心を通い合わせるこ
とが出来た母と子。人が、自分について正直に、素直になることを妨げているものは何か、こ
の映画では深く考えている。完璧な人間なんてどこにもいない。みんな、どこか不完全な部
分や、心の傷を抱えて生きている。でも、愛があれば、逆境にもめげず生きていくことが出来
るのだ。不器用な人々に対する温かい目が感じられ、好感の持てる作品になっている。

中でも印象的で、切なくて甘い恋の物語なのが、ジョーンとキーナンのエピソード。ジョーンは
華やかで、おしゃべりで騒々しい女の子。そんな彼女が、物静かな美青年キーナンに恋をす
る。彼女と対照的な性格の彼は、彼女の思いをなかなか受け入れてくれない。彼女が一生懸
命デートに誘ってもつれなくて、映画を見終わってからも、その先に付き合ってくれず、彼女の
車が盗まれていても(知人に盗ませたのだが)、その手には乗らない彼。しかし、彼がなぜ心
を開いてくれないのか、その秘密を告白したとき、その切ないことといったら!この愛の告白
シーンは胸が締め付けられそうで本当に美しい。ライアン・フィリップの繊細で傷つきやすそう
な美しさがこれほどまでに罪だとは…。一見奔放で活発に見えながらも、恋に震え、揺れ動
く女の子の気持ちを可愛く表現したアンジェリーナ・ジョリーも、いつも以上に魅力的だ。

まだこの映画を観ていない人のために、オチは言えないけど、11人の登場人物を結びつける
のにこのような手があったか、と思わず舌を巻いてしまうほどの脚本のうまさが光っている。
とても洒落ていて、素敵なまとめ方だ。登場人物が多いことで、全部のキャラクターを深く描く
ことには必ずしも成功していないし、話の決着の付け方に中途半端な部分もある。でも、こう
いう気持ちってわかるよね、あるある、って感じさせてくれるエピソードやダイアローグはうま
い。そして珠玉の台詞たちや、俳優たちの名演もあって、とてもお得感のある作品。

何よりも、まずキャストが超豪華、しかも美男美女揃い。これだけ贅沢なキャストの映画はそう
そうないものだと思う。洒落た台詞、ジャズを中心としたスタイリッシュな音楽、洗練された雰
囲気。これらの美しいものたちに、思う存分酔ってしまえる。