M:I−2 Mission Impossible 2

監督:ジョン・ウー
出演:トム・クルーズ、サンディ・ニュートン、ダグレイ・スコット、アンソニー・ホプキンズ

特別諜報隊員イーサン・ハントのところに、一つの指令が下った。製薬会社から、強力な殺人ウィルス
「キメラ」およびそのワクチンを、腕利きの女泥棒ナイアと組んで盗み出せというものだ。ナイアと出会
ったイーサンは彼女と恋におちる。しかし、ナイアは、このキメラを狙う元諜報員アンブローズのかつて
の恋人だった。キメラの秘密を聞き出すため、ナイアをアンブローズの元に送り込むことを強いられる
イーサン。

人気作品の続編、トム・クルーズ主演そしてあのジョン・ウーが監督するとあって大いに注目を集めた
作品。しかし、ジョン・ウーが得意とする、男たちの情念の物語ではなく、ロマンチックなサスペンス作
品となっている。

冒頭、セビリアにてイーサンとナイアが接近するシーンはなかなかドキドキさせてくれる、セクシーなも
のだ。バスタブの中に二人が重なり合って隠れるところなんて、とても洒落ている。それに続くカーアク
ションもスピーディで迫力があっていい。しかしながら、それから1時間近くは中だるみしてしまう。イー
サンは、愛する女を憎き敵であるアンブローズと寝させるという指令を受け、嫉妬心を燃やす。アンブロ
ーズは、まだ未練のあった女性が戻ってきたことに喜びながらも、なぜ、という猜疑心を持っている。ナ
イアは、愛する男イーサンに、好きでもない男と任務のために寝ることを強いられ、心が乱れる。このあ
たりの、一人の女を軸にした、二人の男の嫉妬心、猜疑心がこの作品の一つのポイントとなっているの
だが、残念ながら彼らの葛藤が十分描かれていない。イーサンの苦悩はそれなりに出ているのだが(
アンブローズのアジトにナイアを送り込み、彼女の発信器が、アンブローズの発信器と重なるところを見
てほぞを噛む姿は、男の嫉妬心を十分感じさせる)、アンブローズに関しては描き込み不足。なぜナイ
アがかつてこの男を愛したのかも良くわからないし、アンブローズにしても、ナイアを今でも愛している
のか、単に欲望のはけ口としてみているのかどっちつかず。どうもジョン・ウーは恋愛を描くのは得意で
はないようだ。(というか、多分脚本がダメなんだと思う)

この作品でジョン・ウーが狙ったのは、ヒッチコックばりのサスペンスだという。確かに、冒頭のナイアと
イーサンとの出会いのシーンもサスペンスっぽくて格好いいし、競馬場にて、ナイアが得意の早技を使
いデータを盗みだしてイーサンに渡し、素早くアンブローズのポケットに戻すところの息詰まるドキドキ感
も洒落ている。しかし、やたらマスクをかぶって別の人間になりすました後ペロっとマスクを外して元の
顔に戻ったりするところが多かったりして、なんだか反則だなぁと思うことも多かった。サスペンスの香り、
風味が十分出ていないのだ。
そして、後半、作品の雰囲気は一変する。ここまでさんざんタメておいて、観客がしびれを切らしたころ
を見計らっての一大アクション大会となるのだ。

イーサンが製薬会社の研究所に忍び込み、キメラとワクチンを持ち出そうとするシーンからのアクション
は、まさにジョン・ウー型の、2丁拳銃、横っ飛びガンアクションの神髄を見ることができる。ここに現れ
たナイアが危機一髪の状況に陥り、傷つけられたのを見て、怒りをたぎらせ、何があっても彼女を守り
抜くと誓ったイーサン、そこで一瞬ほとばしった彼の情念、それこそがジョン・ウーなのだ!

そこから畳みかけるように一気にエンディングまで持っていくのだが、さすがにこの後のアクションは凄
い。ジョン・ウーのトレードマークである鳩が舞う中での銃撃戦。バイクチェイスのスピード感。炎を背負
ってバイクが走り抜けていく絵柄はサマになっている。そしてバイク同士の一騎打ちから空中での激突、
さらには『マトリックス』ばりのカンフーまで、やりたい放題やってくれている。サングラスをかけて黒い服
を着たトム・クルーズはまるでキアヌのようだ。たしかに、その格好良さにはしびれる。ただ、ここでのア
クションは、アクションのためのアクションに終始してしまい、それまでのロマンスなどはもう忘れてしま
ったような感じの、情念が薄れてしまった格闘になってしまっているのが残念。

という風に、たしかに後半のアクションは凄いけど、ロマンスを売り物にしている割には、情感に欠ける
作品となってしまっていた。悪役であるアンブローズのキャラクターが十分描きこまれていないのが、
大きな理由の一つとしてあげられるだろう。彼は元はイーサンの同僚であった。なぜ彼はスパイから悪
の道に足を踏み入れたのか。同僚であったイーサンに対して、どのような思いを持っていたのか。ウィル
スを盗み出したのは、単に金が目当てだったというだけなのか。そしてナイアへの感情は。彼を演じた
ダグレイ・スコットはその冷たいまなざしが印象的で、それなりに好演しているのに、そのキャラクターの
情念の表出が薄いために、物語の膨らみが感じられない。

この作品の見所は、トム・クルーズが95%のスタントを担当したというジョン・ウー節全開アクションに
尽きるだろう。男のドラマとしても、サスペンスとしてもラブストーリーとしても中途半端。DVDを買った
としたら、多分後半1時間しか観ないと思う。後半だけでも十分楽しめるのだけどね。

どら平太

監督:市川崑
出演:役所広司、浅野ゆう子、宇崎竜童、片岡鶴太郎、菅原文太

ある町にやってきた新任の町奉行望月小平太。彼はその不埒な振る舞いから、"どら平太"と呼ばれ
ていた。どら平太がお上から命じられたのは、腐敗した藩を立て直すことだった。この藩では、壕外と
呼ばれる犯罪の温床となっている地域があったが、実は藩はここと癒着していた。着任したというの
に奉行所にも一向に顔を出さない彼の行いに藩のお偉方は眉をひそめるが、小平太は大胆で鮮や
かななやり方で、腐敗した者たちを追放していく。

宣伝文句で「愉快」「痛快」「豪快」と謳っていたが、私にとっては全く愉快でも痛快でもない作品であ
った。たしかに、決して悪くはない。終わるときのオチなどはなかなか洒落ていていい。ところどころ
クスリと笑わせてくれる場面はあった。しかし、決定力に欠ける作品であった。まず、致命的にテンポ
が悪い。この程度の内容だったら1時間半もあれば十分なのに、2時間近かかっており、途中退屈す
ることが多かった。役所広司も悪くはないのだけど、不埒で型破りな男には見えないのだ。どうも、も
ともとは真面目な人が一生懸命不真面目で大胆な人のふりをしている、って印象を与える。
ここんところ、旧作の時代劇を何本か観てきたのだけど、大河内傳次郎、板東妻三郎、市川右太衛
門、そして最近だと仲代達矢だったら、豪快で濃い人物にはまるのだけど、役所広司だと薄味過ぎ
るのだろう。見得も切れないし。あのあたりの時代劇役者と比べるとかわいそうだ。

それでも、役所広司は頑張っているほうだと思う。それ以外の脇役はもうダメダメだ。片岡鶴太郎は
本当は笑わせてくれる演技をしないといけないのにぜんぜんおかしくないし、壕外の悪い親分を演じ
る菅原文太なんて、なんなの、あれ?って感じでひどい。浅野ゆう子はやかましい古女房って感じで、
きれいなのに、芸者特有の熟女のお色気を感じさせてくれない。壕外の悪い人たちや、悪代官たち
のキャラクターも全く立っていない。悪い人たちといっても、石橋蓮司、石倉二郎で大して迫力ないし。

噂の50人斬りも、岡本喜八の「大菩薩峠」の大殺戮大会を観た後だったので、まったくインパクトなし。
ここだけ妙に映像に凝っているのが逆効果となっている。雑魚をいっぱい斬っても面白くも何ともないの
だよ。というわけで、観ていてイライラし通しの作品だった。

ザ・ハリケーン The Hurricane

監督:ノーマン・ジェイソン
出演:デンゼル・ワシントン、デボラ・カーラ・アンガー、ジョン・ハンナ、リーヴ・シュレイバー

ボクシングの現役世界チャンピオンであったルビン’ハリケーン’カーターは、人種偏見に満ちた裁判
の結果、殺人事件の犯人とされ、終身刑を宣告される。彼は黙々と刑務所内で自伝を書き、その結
果多くの著名人が釈放運動に携わった。が、再審請求は2回却下され、16年の月日が経った。そし
て、一人の少年レズラが古本屋で彼の著書を手に取ったことから、二人は交流を始めた。ハリケーン
の、自由を求めての戦いが始まった。実話に基づいた作品である。

この作品でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたデンゼル・ワシントンの演技が、圧倒的な迫力
で伝わってくる。少年院上がりのスマートでセクシーな軍曹から、滅法強くてカッコよく肉体美を誇るボ
クシングのチャンピオンへ。そんな彼が捕らえられる。ここからの彼の変化は凄い。とても同一人物と
は思えないほどだ。自分は罪を犯していないから、と囚人服の着用を拒み、懲罰房に閉じこめられて
も刑務所に入ったときと同じ服を着通した。いっぱしのワルだった彼が、ストイックな生活を送り、読書
にいそしみ黙々と自伝を執筆する。まるで聖者のようだ。まなざし一つで、心情が手に取るようにわか
るデンゼル・ワシントンの細やかな演技は鳥肌が立つほど素晴らしく、片時も目を離せない。

しかし刑務所の生活が長引くに従って、彼は弱気になってくる。愛する妻に会うことさえつらく、別れを
告げる。そして、いつしか彼は50歳になってしまっていた。往年のボクサーらしい強靱な肉体は消え
失せ、すっかり老け込んでしまった。このまま、刑務所の中で人生を終えなくてはならないことの恐怖、
あきらめ、憎しみから、彼の心はすべてに対して閉ざされていた。

そのようにハリケーンが弱気になっているときに、黒人の少年レズラが彼に手紙を書いた。この少年が
また素晴らしい。不幸な境遇で育ち、文字を読むことすらできなかった彼が、カナダ人のボランティアに
出会い、読み書きを習い、知識を貪欲に吸収していく。キラキラ目を輝かせながら、ハリケーンの自伝
を夢中になって読み進め、彼を救おうと決心する。すっかり世間から忘れ去られた彼に手紙を書く。国
境を越えて刑務所まで面会に出かける。同じような貧しく不幸な境遇で育ちながらも、レズラは幸運に
も善良な人たちに出会うことができて、前向きに生きている。その事実を目にすることによって、確実に
ハリケーンは変わっていった。

レズラの存在に力づけられ、ハリケーンは再び戦う意欲を取り返す。憎しみを捨て、心を開き、自らを
解き放つ。そしてレズラもまた、ハリケーンの不屈の闘志に勇気づけられる。様々な妨害にもめげず、
レズラとレズラの保護者であるテリー、リサ、サムの3人は証拠集めに奔走し、証拠がねつ造された
ことを突き止める。彼らの愛、友情が、ハリケーンの憎しみに勝ったのだ。

ボクシングの世界チャンピオンがなぜ、殺人者の濡れ衣を着せられたのか、人種差別という憎しみが
なぜここまで激しいのか、その理由が十分説明されていないのが惜しい。実際の話とは少々違って
いて、ハリケーンの逮捕は、彼を憎む、人種差別意識に凝り固まった捜査官が証拠のねつ造を依頼
したため、となっている。この捜査官は、ハリケーンがわずか11歳の時に少年院に叩き込んだ人物
でもあるのだが、こんな小さな子供にこんな苛酷な運命を背負わせたほどの憎しみとは、一体何なん
だろうか。そのあたりがわかりにくい。ハリケーンとレズラ以外のキャラクターも立っていない

冤罪のために19年間の刑務所生活を強いられた男の話、ということでもっと重苦しい作品だと思って
いたが、見終わったときには爽快な気分になれる映画であった。かなりの部分を、前向きなレズラの
視点で描かれていること、少年が一人の人生の先輩に出会うことで成長していく姿を捉えていること
が理由の一つであろう。それと、ハリケーンの全盛時代、モノクロでひょうげんされた試合のシーンの
迫力、さらには60年代のソウルミュージックとブラック・カルチャーも生き生きと描かれているのも、シ
リアスさ、暗さを感じさせない理由だ。説教臭くもなく、淡々と、しかし力強く、愛が憎しみを超えていく
様を描いていて、単純に感動的である。

丹下左膳余話・百万両の壷

監督:山中貞雄
出演:大河内傳次郎、沢村国太郎、深水藤子、宗春太郎

柳生藩に伝わる「こけ猿の壷」には、百万両の財宝の在処を示した地図が塗り込められているという。
ところが、そのことを知らなかった藩主は、次男坊の源三郎が婿入りするときにこれを贈ってしまった。
この壷がかくのごとく重要なものであるということを知った源三郎。ところが、彼の妻は、傍目には小汚
い壷を、古道具屋にただ同然で売り払ってしまった。そしてその壷は、長屋に住む子供ちょい安に贈ら
れた。ところがちょい安の父親はちょっとした諍いが元で死んでしまい、気の毒に思った矢場の女主人
はちょい安を引き取る。矢場には用心棒として、女主人とは腐れ縁の浪人丹下左膳が居候をしている。
そして、こけ猿の壷を探すという名目で、若い娘目当てに矢場に入り浸るのが、他でもない源三郎なの
であった。

1935年の作品であり、また戦後GHQのチャンバラ映画に対する検閲のため、後半がカットされてしまっ
たにもかかわらず、今の時代にも決して色あせることのない、この上なく幸せな気分にさせられる娯楽
時代劇。なんといっても、丹下左膳、女主人、そして源三郎の三人のキャラクターが面白すぎる。

左膳と女主人は一応亭主と女房のような関係なのだが、しっかり者の彼女に対して、ボンクラでぐうた
らな左膳。この二人はいろんなコトでことごとく対立する。ちょい安を引き取るかどうか。ちょい安には武
道を習わせるのがいいのか、寺子屋に通わせた方がいいのか。しかし、この二人で散々夫婦喧嘩をす
るにもかかわらず、意に反した結論を嬉々として受け入れているのがとってもおかしい。「こんな汚い子
供引き取るなんてゴメンだよ」と女主人は啖呵を切ったくせに、次の場面ではちょい安を猫可愛がりし
ていたりするのだ。丹下左膳も、片腕片目のコワイ面相をしているくせに、すっかり親ばかなおじさんと
化している。

源三郎もとても面白いキャラクターだ。藩主の息子なのに、次男であるばかりに婿養子となり、道場主
に収まったものの、生活は楽ではないし妻には頭が上がらない。百万両の壷の話を聞いて必死にその
在処を捜す。でも、やがては矢場で若い娘といちゃついているほうが楽しくなってしまう。壷を探すという
名目でしか、道場の外には出られない。結局彼は壷を見つけるのだが、「百万両より浮気のようがいい」
と、壷はまだ見つからないとして、「10年かかるか、20年かかるか、まるで仇討ちのようだ」と口癖のよ
うに言う。お金より浮気が楽しいという彼の鷹揚な性格には、すっかり心が和まされる。

チャンバラのシーンは大幅にカットされてしまったが、それでも見せ場は十分ある。ちょい安のために、
生活が苦しくなった丹下左膳は、道場破りで金を稼ごうと源三郎の道場を訪ねる。このときの彼の立ち
回りは圧巻!大きな体なのに、相手の攻撃をひらりとかわす。スピーディに動き回る。片手片腕で見得
を切る姿も実に絵になっている。そんな彼には到底かなうまいと思った源三郎は、知り合いだということ
に甘えて「頼む、負けてくれ。金はやる」と耳打ちしてようやく面目を保つ。また、襲いかかったくせ者を
一刀両断に斬るシーンの鮮やかな決まり方も実に格好良くてしびれてしまう。ただのぐうたらオヤジで
はなかったのだ。

また、ちょい安はとてもかわいらしいし、泣かせてくれる。ちょい安がお金を取られてしまったことで、左
膳と女主人は口論する。思わず「あんな子を引き取らなかったらお金を取られることもなかったのに!」
と口走ってしまう彼女。それを聞いたちょい安は書き置きを残して、家を出てしまう。そのさみしそうな後
ろ姿には思わずホロリせつなくなる。

このように、笑い、涙、人情、お色気、夫婦愛、アクションといろいろな要素をギュっと詰め込んで、まさ
に映画を観る幸せを全身で感じさせてしまう、最高の作品となっている。「観に行ってよかった!」と思
わずウキウキしながら家路につくことができたのだ。これだけ面白い映画が未だかつてあっただろうか!
しかも65年前の作品なのに。