グリーン・デスティニー Crouching Tiger,
Hidden Dragon
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監督:アン・リー
出演:チョウ・ユンファ、チャン・ツーイー、ミシェル・ヨー、チャン・チェン
名剣「碧名剣」(グリーン・デスティニー)の使い手であったムーバイは、剣を置くことを決意し、
弟子の女戦士シューリンに、その剣を北京のティエ氏に献上するべく託す。ムーバイはかつて
師匠を「ジェイド・フォックス」(碧眼狐)という女に殺され、その敵を取ろうと戦ってきたが果たせ
ないまま剣を置くのだった。シューリンとムーバイはお互いを愛しているのだが、二人ともその
気持ちを長年心に秘めたままにしていた。シューリンはティエ氏の邸宅で、名門に嫁ぐことが決
まっている貴族の娘イェンに出会う。結婚生活よりも、シューリンの勇ましい生き方に憧れてい
ると語るイェン。そしてその夜、碧名剣は賊によって盗まれてしまう。はたして碧名剣の行方は?
アクション監督に『マトリックス』のユエン・ウーピンを迎えた本作品では、未だかつて観たこと
がなかったようなとんでもないアクションを観ることができる。碧名剣が盗まれる場面での、ミ
シェル・ヨー演じるシューリンと、盗み出した黒衣の賊(すぐわかることなので言ってしまうとチ
ャン・ツーイー)との華麗な格闘シーンには思わず場内から拍手がわき起こったほど。軽やか
に飛びはね優雅に、しかしすばやく回転するチャン・ツーイーのしなやかな動き。それに対して、
シャープで研ぎ澄まされた技を見せるミシェル・ヨーの格好良さ!『マトリックス』でのキャリー・
アン・モスやキアヌ・リーブスのアクションなんて霞んでしまうほどで、思わず息が止まりそうに
なったほどだ。
また、終盤、竹林の上でチャン・ツーイーとチョウ・ユンファが対峙する、幻想的でしなやかな
動きが堪能できるシーンも非常に印象的。鳥のようにふわふわと空を飛ぶ二人の姿が、この
映画にファンタジックな色合いを与えている。人間の力をはるかに超えた超現実的な能力が、
彼らの動きから感じられるのだ。彼らの複雑な動きには、腰が抜けるほど驚かされる。
しかし、かのアン・リー作品であるからして、単にアクションが素晴らしいだけの映画で終わる
はずがない。基本的には、ラブストーリーである。二つの世代の愛の物語が展開する。一つは、
ムーバイとシューリンの恋。お互いの気持ちに気がついていながらも、死んだ師匠への恩義か
ら、愛を告白することすらかなわないふたり。愛を語る代わりに、戦いに打ち込むことでお互い
の気持ちを伝えようとする彼らの姿のせつないこと。もう一つは、イェンと、かつて彼女をさらった
盗賊の頭ローとの燃えるような恋。身分の違いを超えようとした二人だったが、愛よりも自由を
選ぼうとするイェンなのであった。そして、「碧名剣」をめぐる戦いが、この二つの愛のゆくえに
決着をつけることになる。大人の抑えた愛と、若者の熱い恋。二つの愛の熱情が全編を覆って
いる。
この二つの世代をつなぐもう一つのテーマが「師弟関係」である。イェンの家庭教師の正体は
ジェイド・フォックスであり、イェンに剣術を仕込んだのも彼女だった。しかしジェイド・フォックス
がムーバイの師匠から盗んだ秘伝書を、イェンはこっそり読み解き、いつしかジェイド・フォック
スよりも強い技を身に付けていた。弟子に出し抜かれたことを悔しがりイェンを憎むようになる
ジェイド・フォックス。一方、ムーバイはイェンの類い希な才能を見抜き弟子にしたいと申し出る
がイェンは従わない。またシューリンは、イェンは戦士になるよりも女の幸せを手に入れて欲し
いと願っている。シューリンを姉だと慕いつつも、同時に反発心も持っていたイェン。彼女は一
体どのような人生を選ぶのだろうか?
また、4人の主要な登場人物を演じた俳優たちの魅力に触れずに、この映画を語ることはでき
ない。なんといっても素晴らしいのは新星チャン・ツーイー。少女特有の大胆さ、情熱、奔放さ、
残酷さ、傲慢さ、純粋さを持ち合わせた複雑なキャラクターを好演している。類い希な才能を持
ちながらも、その才能に時には溺れそうになったり、悪に取り込まれそうになったりする心理を
細やかに演じている。優雅でしなやか、かつキリッとしたアクションの素晴らしさも特筆ものだ。
彼女を愛する盗賊を演じるのは、エドワード・ヤン作品や『ブエノスアイレス』のチャン・チェン。
いつのまにかこんなにセクシーで素敵な青年に成長したの、とびっくりしてしまった。ワイルドで
純情、女だったら恋せずにはいられないほどの魅力を放っている。女戦士シューリンは、もとも
とアクションに定評のあるミシェル・ヨー。若いチャン・ツーイーには決して負けない、力強くてシ
ャープな動きも素晴らしい。イェンに、時には母、時には姉、そして時には師匠のように厳しく接
する面もある。しかし彼女が、女としての感情を抑えようにも抑えきれないときに見せる切ない
表情には、胸をかきむしられるような思いをさせられる。この作品に重厚な味わいを与えている
のがチョウ・ユンファ。ストイックで凛々しい英雄的な人物に説得力を持たせている。シューリンを
見つめるときの愛情に満ちた目にはうっとりしてしまうほどだ。彼も、本来決して得意ではない
武術アクションを多く見せてくれるが、やはり目の演技が一番素晴らしい。まさに男の中の男で、
そのいぶし銀の輝きを見ると、もう泣かずにはいられない。
手に汗を握る娯楽性、中国大陸の雄大な自然の美しさ、そして深みのあるストーリーと切ない
愛。今年はこの映画を観ないことにはお話にならないのではないか、と思うほどの凄い作品だ
し、ハリウッド映画にも間違いなく大きな影響を及ぼすことだろう。
監督:アレクセイ・ゲルマン
出演:ユーリ・アレクセーヴィチ・ツリロ
1953年、スターリン支配のソ連。赤軍の少将にして脳外科医のクレンスキーは、病院と、家
庭と愛人の元を行ったり来たりしつつ、アルコールが欠かせない生活をしていた。そこへ、ユダ
ヤ人の迫害を企てた「ユダヤ人医師団事件」というKGBの陰謀が起きる。クレンスキーもこの
事件に巻き込まれ、強制収容所に送られて拷問を受ける。ところが、彼は突然解放され、スタ
ーリンの側近であるベリヤに、ある男を診察するようにと言われるのだった。
題名の「フルスタリョフ、車を!」とは、スターリンが最後に言い残した言葉である。
凄い!凄すぎる!
かのマーティン・スコセッシが「なにがなんだかわからないが、すごいパワーだ」と評したこの
作品。たしかに、今まで私が観たどの作品よりも暴力的でカオス的なパワーに満ちている。登
場人物がやたら多い。しかもどの人物もとんでもなく多くの台詞を喋り、全身から感情を噴き出
させている。とにかく異常にハイテンションな映画だ。
ひとつの画面の中に納められた情報の多さたるや、半端じゃない。登場人物はみんな狂って
いるし、犬は酔っぱらい猫はバスタブに突っ込まれ、傘は勝手に開き火花は散り、そしてメー
ンの登場人物の前を無数の人物が横切る。幼い双子のユダヤ人姉妹、狂った病人たち、そし
て将軍クレンスキーが、自分とそっくりの替え玉と並ぶシーンなど、ビジュアル的にもとても奇
妙な感じを与えていてワクワクしてしまう。たしかに難解なのだけど、何とも言い難いパワーが
炸裂する異常に面白い作品だ。
スターリンの時代とは、恐怖に支配された時代であった。多くの人間が強制収容所に送り込
まれ、シベリアの凍土で強制労働に従事した。冒頭、ラジエーターを盗もうとして捕らえられた
男フェージャも、強制収容所に送られる。そして、物語は、彼が10年後に強制収容所から出
られるところで終わる。こんな下らない罪で、こんなにもひどい目に遭わされた人間が無数に
いたわけだ。しかし、どんなにひどい世の中になっても、人々は力強く自分勝手に生きていた。
少将クレンスキーも、KGBに追いかけられながらも、愛人の家でセックスに励み、愛人の母
親に覗かれたりする。自分の家で変な吊り輪にぶら下がって遊んでいたりする。結局独裁者
も人々の営みを簡単に変えることはできないのだ。
そして、強烈なのがクライマックス。がらんとした病院に送り込まれたクレンスキーが診察した
のは、悪臭を放つ瀕死のみすぼらしい男。誰が、この病人が世界を恐怖で支配した独裁者だ
と想像できただろうか。結局、権力なんてそんなものなのだ。
モノクロ・スタンダードの画面なのだが、映像は非常に美しい。帝政ロシアの名残を残しなが
らも乱雑なクレンドラーの邸宅。クラシックな調度品が魅力的。雪明かりの光と影の美しさ。雪
で曇った窓ガラス越しの室内の風景。映像の一つ一つのディテールが、圧倒的な迫力で迫っ
てくる。この凄さ、衝撃は言葉では表現できない。終わった頃には、もはや震えが止まらない
状態になっていた。
監督:佐々木啓祐
出演:谷麗光、柳井小夜子、阿部正二郎
尺八の師匠には、美しい娘花子がいた。花子は、弟子の一人安井と恋仲なのだが、師匠は
貧乏な彼よりも、金持ちのもう一人の弟子を気に入っていた。弟子は師匠に「お嬢さんを下さ
い」と申し出て、師匠に大金を支度金として支払い、金に目のない師匠は嬉々としてその金
を瓶にしまい、娘と無理矢理婚約させてしまう。
花子は、この弟子と結婚するくらいなら死んだ方がまし、と安井と手に手を取り合って花嫁衣
装のまま鉄道自殺を図る。が、彼らは死ぬことはできず、墓地に迷い込む。一方、結婚式の
ために師匠の家に向かった弟子は、途中でカフェに誘い込まれ、女給たちに鼻の下を伸ばす。
呼び込みに引っかかって弟子と同じカフェに入った師匠は、弟子の本性を知ってしまう。一方、
やはり思いを遂げようとする若い恋人たちはダイナマイトを手に…。
わずか30分の長さの無声映画なのだが、面白さは抜群の作品。ひたすら楽しいドタバタコ
メディ映画となっている。短い時間の中でテンポよく話が進んでいくので、こんなに短時間だ
ったとは思えないほどエンターテインメント性がてんこ盛り。若い恋人たちが鉄道自殺を図っ
て列車に引っかかって落ちた先は墓地。ここの墓地はやたら人魂がぶんぶん飛んでいるし、
墓石はいっぱい倒れるし、ついでに骸骨まで飛んできて、恋人たちが逃げまどうところのおか
しさといったら!(この骸骨がリアリティゼロで、いかにも作り物丸出しなのがまた笑える)カフ
ェで酔っぱらって裸踊りをしてしまうハゲ茶瓶の師匠も大笑いさせてくれる。カフェで馬脚を現し
たため娘はやらん!と師匠に婚約破棄を言い渡される弟子は師匠の家の瓶を奪って金を取
り返そうとするのだが、ここの大勢での追いかけっこのスピード感、そして相当ブラックなオチ
まで、息をもつかせぬスリリングな物語展開だ。斉藤寅二郎の大胆な編集センスが光ってい
る。65年前の無声映画でこんなに楽しく、時を忘れて笑えるのはすごい。
