デッド・アウェイ バンコク大捜査線 The Extra Legal |
監督:チャルーム・ウォンビム
出演:ドーム・ヘータクン、スパンコーン・キッスワン、ピーター・ルイス・マイオックス
麻薬捜査官のゴンはアルバイトで政界の黒幕タマクンのボディガードを勤め、同僚の
特殊部隊員デェーンとヌイに情報を流していた。この情報のおかげで彼らは大物麻薬
密売人を銃撃戦の上逮捕して表彰される。しかし、その矢先に、密売人を釈放する一
味が列車をジャック。人質の一人で、犯人との連絡役に指名された看護婦を使って人
質の救出を図るヌイだったが、彼は事件を起こしたデェーンの陰謀で犯人に仕立てられ
てしまう。
一方ゴンは妹を密売組織に誘拐されてしまい、タクマンの悪事の証拠の入ったスーツ
ケースと引き替えることになったが…。
タイの映画というものを観ること自体初めてだったが、とにかくアクション中心で楽しめ
た作品。実は一昨年の東京ファンタスティック映画祭のオールナイトで上映されたとき
に観たはずだったのだが、何しろ朝の6時からの上映だったのでほとんど寝てしまい、
ただただアクションがいっぱいある、というのと俳優が美形揃いということだけが印象
に残っていた。
改めて観てみると、余計なドラマを削って、息詰まる展開とアクションに的を絞っている
潔い作品となっている。特殊部隊のリーダーであるデェーンがなぜ仲間を裏切ったの
かという動機がハッキリとしないのが最大の弱点だし、全体的にストーリーは粗い。し
かし荒削りの魅力がある。冒頭の麻薬組織との銃撃戦、ちょっと「スピード」を思わせる
列車ジャックの場面、そしてラストの高層ビルの中でのデェーンとの対決シーンなどハ
ードなアクションの見せ場は十分。
列車ジャックの現場に急行した救急車の看護婦が爆弾を制服に取り付けられ犯人との
連絡役にされ、事件の解決に大活躍するというのは案外新鮮だ。終盤の高層ビルでの
対決シーンで看護婦とゴンの妹のふたりが「電気ピリピリ戦法」で的を一網打尽にする
ところはかなり間抜けで笑えるけど、ふたりとも可愛いので許す。看護婦の制服がミニ
スカートで、そこから伸びるすらりとした脚には目が釘付けとなる方もいるのでは。
対立しながらも友情で結ばれているゴンと、織田裕二似のヌイのエピソードもなかなか
熱くてよい。悪役であるデェーンも肉体美を誇るクールな美形で、悪の魅力を振りまい
てる。これからのタイ映画の行方に注目しようと思った。
ぼくの国、パパの国 East is East |
監督:ダミアン・オドネル
出演:オーム・プリー、リンダ・バセット、イアン・アスピナル、ジミ・ミステリー、ラージ・ジェイムズ
1971年イギリス、マンチェスターの郊外ソルフォードに住む家族。一家の主であるジョージ
はパキスタン人で、フィッシュ&チップスの店を経営している。妻のエラはイギリス人。そし
てイギリスで生まれ育った六男一女の子供たち。パキスタン流を押し通す父親に対して、
子供たちは反発。中でも長男ナジルはパキスタン式結婚式で花嫁を目の前にして逃亡し
てしまい…。
イギリス人の妻をめとっているにも関わらず頑固にパキスタン流を押し通す極道オヤジが強
烈。何かと言えばイスラム数字の入った時計を子供にプレゼントとしてあげて悦に入ってい
るが、子供たちはそんなのもらっても全然嬉しくない。70年代のポップカルチャーの洗礼を
受けて粋な三男のタリクはイギリス人のガールフレンドがいるし、五男のサリームなんてエ
ンジニアの勉強をしていると偽って実はアートスクールに通い、怪しげなオブジェを製作して
いる。そして末っ子のサジはいつもフードをかぶっている。
そんな子供たちに、強引にパキスタン流を押しつけるオヤジ。手始めに、サジがまだ割礼
が済んでいなくて、ペニスが皮かぶりであることが判明するやいなや、病院に連れていっ
て痛がるサジのおチンチンの先っぽをチョキン!皮かぶりはなくなっても、サジ自身はいつ
までもフードをかぶったまま。サリームがアートスクールで描いたペニスのデッサンを、ビリ
ッと破いて痛い記憶を呼び覚まさせるのは、おてんばな姉のミーナ。みんな、自分たちには
パキスタンの血が流れているという自覚がほとんどない。
子供たちに手を焼いたオヤジは、長男を強引に結婚させようとして家出されたのにも懲り
ず、父親の権威を見せつけようと二男アブドゥルと三男タリクにお見合いをさせる陰謀を企
てる。お見合い相手のパキスタン娘たちがものすごいブスであるにもかかわらず、自分の
メンツのためにはそれを無理強いしようとするのだ。自分がイギリス人と結婚しているにも
関わらずそんなことをさせてしまうなんてもう自己矛盾の塊のオヤジなのだが、反発した子
供たちや、子供たちの味方をしようとした妻を殴りつけたりひゃ〜なんてとんでもない奴、お
そろしや、だ。
原題の「East is East」を持ち出すまでもなく、これはイギリスとパキスタンの文化の衝突の
物語であり、はたまた親の世代と子供の世代のジェネレーションギャップの話でもある。親
と子の対立だけでなく、パキスタン人の一家に対して、「移民は出て行け」と主張する政治
家や隣近所の存在もある。パキスタン流が一番と考えるオヤジが、イギリス人の妻をめとり
イギリスの典型的な食事であるフィッシュ&チップスの店を開いているというのが何ともおか
しい。さらに面白いのが、オヤジはインドを天敵と見なしているにもかかわらず、家族で出か
けた先ではインド映画を見に行ったりしているのだ!人間の心情なんてけっこうエエ加減な
ものであるということか。
子供たちにしてみれば「オヤジはイギリス人の女性と恋愛結婚しているくせに、なんで自分
たちはオヤジの面子のために、一度も会ったことのないブスなパキスタン女性とくっつけられ
なくてはならないんだ」「ソーセージや豚肉だって食べたい」と反発するのは当然だろう。でも、
一方的にオヤジを悪者に描いているわけではない。息子たちの結婚は阻止されてめでたし
めでたし、ではあるけれどもオヤジはやっぱり最後まで懲りなくてパキスタン流を押し通して
いる。ただ、子供たちの言い分にも聞く耳を持つようになっただけ、彼もちょっと進歩したのだ
った。
コワモテな極道オヤジには、いいところもある。妻に対してはとても優しくて、床屋から払い
下げてもらった古ぼけたリクライニング椅子をプレゼントしてはじゃれ合う。基本的には子供
たちの味方である母親なのだが、彼女とて満点の母親ではない。たしかにオヤジのフィッシ
ュ&チップスの店の番を朝早くから夜遅くまでつとめ、7人の子供たちを育て上げよく働くの
だが、家事は手抜き。袋から出したビスケットを朝食と称して出したり、自分の妹と店でタバ
コを吸いながら日長だべっている。気の強い彼女は抑圧的な夫に対して反発することもある
が、父親のことをボロクソ言う子供たちに対して、「彼は私の夫なのよ。これ以上悪く言わな
いで」と弁護するのだ。なんだかんだいって、この夫婦は深く愛し合っているのだ。彼らは、
長年の夫婦生活を通してお互いの文化を尊重しあうことを学んでいる。
基本的にはこのようなファミリードラマなのだけど、一つ一つの描写のディテールがとっても
可笑しい映画で、大笑いさせられる。人種差別的な隣の男。その娘は、スマートで美形の
二男タリクと付き合っていて、「あたしたち、ロミオとジュリエットみたいね」なんてうっとりと
酔っているけど、実はタリクは醒めていて、家出しようとしたときにも彼女を置いていこうとす
る。結婚式で逃げ出した長男のところに、家出した兄弟たちは身を寄せようとするが、実は
長男が逃げ出したのは、花嫁が気に入らないと言うより、性的な嗜好が原因だった。お洒
落な帽子デザイナーとなっていた長男は男と同棲していたのだ!父親っ子で珍しく従順な
マニーアは、婿入り衣裳を破ったのは誰か、と父親に問いつめられても兄弟をかばうとても
イイ奴。とこんな具合に個性的な7人兄弟のアンサンブルを見ているだけで飽きることがな
い楽しい作品だ。70年代のポップな衣裳、ポップカルチャーもかいま見せつつ、移民社会を
描いていてとてもユニーク。