ハイ・フィデリティ High Fidelity

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ジョン・キューザック、ジャック・ブラック、イーベン・ヤイレ、トッド・ルイーゾ、リサ・ボネット、
   キャサリン・ゼダ・ジョーンズ、ジョーン・キューザック、ナターシャ・グレッグソン・ワグナー
   リリ・テイラー、ティム・ロビンズ

30代半ばを過ぎても独身のロブはロックオタクで、中古レコード店を経営している。音楽
については詳しいのだけど、恋愛に関してはからきしダメで、つい先ほど恋人のローラに
去られたばかり。悩んだ彼は、「過去の辛い失恋トップ5」のガールフレンドたちに会って、
自分のどこが悪いのか探ろうとする。ニック・ホーンビィのベストセラーの映画化。

社会性のないオタクというのは、とにかくたちが悪いものである。一つのことに夢中になる
あまりに、社会性を喪失してしまってバランスの取れていない、ちょっといびつな人になっ
ていることが多いのだ。この映画の主人公のロブも、まさにそういうタイプの人。彼と、彼の
店で働く店員たちは、音楽の趣味が違う人とは友だちになれないし、いくら可愛い女の子
でも音楽の好みが合わなければ付き合わないとまで言っている。ヤダヤダ。そういう人とは
友だちになりたくないよね、と思ってしまう。だけど、ロブも、太った店員のバリーも、なぜか
憎めないキャラクターになっているのがポイント。このあたり、演じる役者の魅力が大きいと
思うのだが、オタクの生態がかなりビビッドに描かれていて笑わせてくれるのもポイントが
高い。

ロブはいい年していて、全然大人になりきれない「僕ちゃん」である。彼女に振られて、半分
ストーカー状態になったあげくのはてに、過去の失恋トップ5をリストアップして、その相手の
女の子たちに会いに行っては振られた理由を探るなんて、大人だったら絶対やらないことだ。
大体、ロブはもう30代後半なのに、10代の頃の失恋相手まで訪ねていこうとするんだから!
もうウジウジしていて最低なのだけど、笑える男だ。「音楽を聴くからみじめなのか、それと
もみじめだから音楽を聴くのか」とカメラ視線で自問自答するロブ。彼はトップファイブ病に取
り憑かれていて、過去の失恋トップ5から夢の職業トップ5、A面1曲目のトップ5そしてロー
ラが恋しい理由のトップ5までなんでもかんでもトップ5にしてしまう。はっきり言って病気だ。

うじうじぶりに妄想癖まで加わった彼の生態は本当に笑える。ロブは、自分の元を去ってい
ったローラが、新しい恋人イアンと寝ているところを空想して猛烈な嫉妬に囚われるのだが、
彼らのベッドシーンの空想が強烈に面白すぎる。イアンを演じるのがあのティム・ロビンスで、
しかもスティーブン・セガールのような怪しいポニーテール頭の、日焼けした胡散臭い野郎で、
妄想の中では彼らはカーマ・スートラのように東洋の神秘的な体位を試しているんだからす
ごい想像力というべきか。そういう方面に空想は働く癖に、自分の元をなぜローラが去った
のか、その理由は考えてみればすぐわかるのに気がつかないというのがますます大人にな
りきれないロブなんだよね。こんな時、スプリングスティーンなら何て言うだろう、と考えると
ロブの目の前に本物のスプリングスティーンが現れるのも楽しい。

この映画の中で、ロブに輪をかけて了見の狭いオタクなのが、太った店員バリーと、やせっ
ぽちのディック。オタクというのは大体デブか痩せたメガネがどっちかなんだよね。彼らは週
に3回働くという契約になっているはずなのに、気がついたら毎日来ている。客商売なのに
客を客とも思わなくて自分たちの趣味を押しつけたり、客の趣味をけなしたりやりたい放題。
まさにオタクの中のオタクなんだけど、彼の生態が笑えるの何のって。実際にこんな奴がい
たら間違いなく頭に来ると思うけど、映画の中だから最高に可笑しい。デブで尊大なバリー
が実は恐ろしく歌が上手いというオチは非常にふるっている。バリーの生態を観ているだけ
でも、クスクス笑えてしまうのだ。いるいる、こんな奴。

原作の大ファンである私は、どうしてもこの映画への不満が出てしまう。原作の舞台がロン
ドンなのに映画ではシカゴになってしまったのはやっぱり残念。音楽の趣味も、わりとメーン
ストリームのものになってしまって、原作のブリティッシュ・マニア!という部分が出ていない。
何しろ原作は、訳注が膨大で、それを読んでいるだけでも音楽雑誌を読んでいるような気分
になる位なんだから。一応ロブがLOVE & Rockets(元バウハウスのダニエル・アッシュのバ
ンド)のTシャツを着ていたり、目配せはしているとは思うのだけど、ちょっとオタク度が薄い。
それと、ロブの過去のガールフレンドが、キャサリン・ゼタ・ジョーンズのようなゴージャスな女
性だったり、リサ・ボネットのようなエキゾチック美人とベッドインしたり、そして最後に出会うラ
イターの女の子がナターシャ・グレグソン・ワグナーというもうとんでもなくキュートで魅力的な
女の子だったりして、なんだかんだ言ってモテているんだけど(オタクというのはモテないとい
うのが世の中の通説。まあ、ジョン・キューザックだから、いくら大人になりきれないオタクでも
モテるのは仕方ないか)、肝心のローラが全然魅力的じゃないんだよね。元パンクスだけど今
は弁護士、というのには見えないし。これはちょっとマイナス点。

でも、原作にはない美点はある。オタクの狭い世界に閉じこもっていたロブが、自分でバンドを
発掘してプロデュースし、デビューさせてしまうというとてもポジティブな方向に進んでいるとい
うのは、彼の成長を物語るエピソードとして有効に機能している。ローラに去られてうじうじして
いた彼が、彼女をなぜ愛しているのか発見した上、うじうじするのをやめた。音楽オタクという
特性を活かし、バンドのプロデュースを通して前向きな自分を見せつけ、彼女の愛を取り戻す
ことができたんだから、これ以上のハッピーエンドはあるまい。このあたりは、実にうまくまとめ
あげていると思うのだ。

実際にこういう男がいたら蹴りの2,3発も喰らわせてやりたいと思うくらい、私の苦手なタイプ
のロブなんだけど、これだけちょっとサイテーな野郎なのに憎めなくて魅力的に見えてしまうの
は、ジョン・キューザックだからなんだよね。(結局、これかいな)実際に音楽オタクだという彼が
脚色にも携わっているし、本人もいい年なのに童顔で少年のようなのだから、リアリティも十分
感じられるのだ。

東京攻略 Tokyo Raiders

監督:ジングル・マ
出演:トニー・レオン、ケリー・チャン、イーキン・チェン、阿部寛、遠藤久美子、仲村トオル
    セシリア・チャン

結婚式当日に消えた日本人の婚約者高橋の消息を追って東京にやってきたメイシー、新居
の内装代の支払いを取り立てるため、内装デザイナーのユンも彼女の後をついてきた。東京
の高橋のマンションももぬけの殻で、彼らは謎の男たちに襲われる。そんなときスポーツカー
に乗った若い女が彼らを救う。彼女は、メイシーとユンを東京在住の中国人探偵リンのところ
に連れていく。そこで知らされた真相は、高橋は神戸組の組長伊藤の妻と深い仲だったとい
うこと。婚約者の意外な素顔に動揺するメイシーだったが、相変わらず不審な男たちに付け
狙われ…。

トニー・レオン、ケリー・チャン、イーキン・チェンと香港映画界の大スターが東京の街で所狭し
と暴れ回る、それだけでワクワクしてしまう映画。中でも、冒頭トニー・レオンが新宿・歌舞伎
町のミラノ座近くでジャッキー・チェンばりの飛び道具を駆使したアクションを見せてくれるシー
ンには身を乗り出したくなるほど興奮してしまう。そこで聞かせる「ヤダ」という棒読みの日本
語台詞の破壊力もすごかったけど…。カンヌ映画祭主演男優賞を受賞した大スターなのに、
こういうちょっとアホな演技を見せてくれるサービス精神には参った。トニー演じるリンはチャー
リーズ・エンジェル並に美人の日本人アシスタントたちをはべらせて優雅な探偵稼業を働いて
いるのだけど、トニーはこういうキャラを演じるにはちょっと真面目すぎるのが惜しいところ。だ
けど彼のアクション面での大活躍ぶりとお茶目な魅力にはたまらないものがある。

外国人の目で見ると、見慣れた東京の街もかくのごとくエキゾチックでカッコイイ場所に見えて
しまうのが不思議。有楽町の東京国際フォーラムからリンがスケボーで逃走したらいつの間に
か西新宿の都庁に着いていたりするなど、地理感覚はちょいとぐちゃぐちゃだけど、クライマッ
クスのお台場など、斬新な捉え方が光る。メイシーとユンが泊まる和風旅館も素敵だし。そし
て、阿部寛、仲村トオルといった日本人俳優の使い方もいい。中でも、いつもの濃いぃキャラク
ターを発揮してヤクザの親分を演じている阿部寛は、水を得た魚のようにピチピチとしている。
ラスト、あっと驚く隅田川でのボートチェイスは迫力満点で、こんな撮影が、規制だらけの東京
でできたことが奇跡的だと思ってしまう。

謎の怪しげな探偵リンのトニー・レオン、婚約者の心変わりと勝手の分からない東京の街に放
り出されて不安な気持ちを的確に表現したケリー・チャン、メイシーを慕いながらもなかなか想
いを口に出せない純情なユン役のイーキン・チェンとそれぞれの俳優の魅力は存分に発揮され
ている。お話は突っ込みどころだらけだしどうってことはないけれども、サービス精神の旺盛さ、
出演者の個性、そして東京の街の一風変わった魅力を映し出していて、なんとも楽しい映画に
仕上がっている。今の日本映画に足りないのは、このようなサービス精神と理屈抜きの娯楽性
なのではないか?