ショコラ Chocolat

監督:ラッセ・ハルストレム
出演:ジュリエット・ビノシュ、ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、レナ・オリン、キャリー・アン・モス
    ヴィクトワール・ティヴィソル、アルフレッド・モリーナ、ピーター・ストーメア

フランスの信心深い田舎町にやってきた、ヴィアンヌと彼女の幼い娘。村の人々が断食をしている
期間なのに、彼女がチョコレートの店を開店したことに、村長であるレノ伯爵は不快感を持つ。しか
し、村の人々は、ヴィアンヌの店のチョコレートを食べることで夫婦仲がうまくいったり、好きな人に
告白する勇気をえたりして幸せになっていく。そして、この村に、ジプシーのハンサムな青年が流
れてきて、ヴィアンヌと恋に落ちるのだが…。

物語としては、本当に愛すべきお話。保守的で禁欲的な村の人々が、魔法のチョコレートを食べる
ことで欲望の楽しさを知り幸せになっていくということなのだから。なぜヴィアンヌの作るチョコレート
には不思議な魔力があるのか、といったあたりのお話も、いかにも御伽噺的な部分と、ちょっと妖し
くエキゾチックな面があって魅力的である。北風に乗って、そろいの赤いマントを着たヴィアンヌ親子
がやってくるところも、まるで「赤ずきんちゃん」のように可愛らしいし、この小さな村も、まるでお菓
子できているんじゃないかと思うほどの、童話に出てきそうなファンタジックな雰囲気があって素敵。

チョコレートを買った妻が、倦怠期の夫にそれを食べさせ、夫婦の間に愛が甦るとか、片思いをして
いる中年男性が、あこがれの女性に愛を告白したりするなどの描写も、リアリズムではなく、物語の
ように描かれているのでとってもキュート、と思った。

キャラクターもひとりひとりが魅力的に描かれている。村ではどちらかというとのけ者にされていた、
ちょっとパンクな老女のジュディ・デンチは、偏屈だけどカッコよくて、これまでにない魅力を発揮して
いる。ジュディ・デンチの娘で、母親のことを嫌っている堅物の女性を演じているのは、やはりこれま
でのイメージを裏切るキャリー・アン・モスだし、ちょっと頭が弱くて夫に虐待されている妻に、あの美
しくてゴージャスなレナ・オリンをあてるなんていう発想も非常に斬新だ。彼女がヴィアンヌと知り合っ
てからみるみる美しくなっていく姿にも驚く。ほぼ唯一の悪役であるところの「伯爵」も、本当は悪い
人ではないし、なんともいえないこってりとした味わいがある。彼こそが、その甘い雰囲気から本当
におとぎ話に一番似つかわしく見えるというのがまた面白い。出番が驚くほど少ないのだけど、ジョ
ニー・デップの、最近ではなかなか見られなかったワイルドでセクシーな魅力も、ひとつの清涼剤に
なっている。

というわけで、出演者もそれぞれいい演技を見せていて、本来、とってもよくできた映画であるはずだ。
ところが、どうも納得がいかない作品になってしまっているのである。なぜか。

キャラクターが一人一人大変魅力的に描けているのはいいのだけど、こういう「愛すべき小品」である
べき映画なのに、出演者があまりにも豪華すぎるのだ。しかも、悪い人は一人も出てこない。こういう
映画って、もっともっと現実感がなくて、軽く、そして上映時間も短く作らなくちゃいけないんじゃないか
と私は思う。なんでこんなに重くなってしまったかというと、オスカーを狙っていたからだと勘ぐってしま
うわけなんだけど。しかも重たいのに、薄っぺらでもあるから困ったものだ。

多くの人が指摘しているので今更書くのも大変野暮な話だが、監督がスウェーデン人で、主演女優と
娘役がフランス人なのに、せりふが全部英語。アメリカのマーケットを狙う以上、英語でなくてはならな
いというのはよくわかるのだけど、『セシルB ザ・シネマウォーズ』を観たときの『天井桟敷の人々 英
語吹き替え版』を思い出してしまった。異国情緒がこの作品の魅力の多くを占めているのだから、やっ
ぱりフランス語でやるべきだったんじゃないか。そう、この映画はキャスティングといい、いかにもミラマ
ックスらしい、マーケティング的な発想で作られた作品のように思えてしまうのである。何しろ、メーン
キャストでアメリカ人ってジョニー・デップくらいなのだから。(フランス人=ビノシュ、ヴィクトワール・テ
ィヴィソル、イギリス人=ジュディ・デンチ、アルフレッド・モリーナ、スウェーデン人=レナ・オリン、ピー
ター・ストーメアとむちゃくちゃヨーロピアンなキャストである)これだけヨーロッパ系の俳優を使っていて、
英語でやっていると「エセヨーロッパ映画」っぽく観客の目には映ってしまうのだ。

個人的に私はジュリエット・ビノシュという女優が大嫌いなのだが、この映画では、彼女本来の魅力
は発揮されていて、そんなに嫌味には見えなかったと思う。こういう、「お母さん」的なキャラは彼女の
持ち味には合っている。ただし、ヒロインのキャラクターに共感できなかったというのが、私がこの映画
にはまれなかった最大の理由となってしまうのであった。

いくらチョコレートを持って愛を伝道しに行くという使命を負っているとはいえ、最初から村の人たちに
喧嘩腰で主張するというのはかなり興ざめだ。最初くらいは、「郷に行ったら郷に従え」と村の人たち
の伝統も尊重する態度をとって、少しずつ自分たちの主義主張を出していけばいいのに、と思ったの
だった。しかも、ヴィアンヌは伯爵には喧嘩を売っておきながら、最後のほうになると泣きが入って「や
っぱりこの村に入られないわ」とめそめそと逃げ出そうとするというのも、ちょっと情けない。他のキャラ
クターがみんな生き生きと魅力的なのに、ヒロインが単なるわがままで、自分勝手なくせに意志が弱
い人に見えてしまって好きになれないのである。

多分「ミラマックス作品」「オスカーノミネート作品」「しかも主演はジュリエット・ビノシュ」で3重のバイ
アスをかけて見てしまったことに、私の敗因があったのではないかと思う。しかも、あまりにもこってり
とした俳優陣。たとえば、ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、アルフレッド・モリーナの3人だけ残して、
後はもう少し無名の俳優を使ってみたら、だいぶ軽くなっていい感じの映画になったのではないかと
思う。丁寧に作ってあって本当によくできた作品ではあるのだけど、御伽噺にするには重すぎて、か
といって作品の性質上深みを求めたり感動するような映画ではないのだから、どうもバランスが悪い
のだった。