監督:北村龍平
出演:坂口 拓、榊英雄、三坂知絵子
刑務所を脱獄した男と囚人仲間は、二人を迎えて脱出させてくれる一味との合流
地点を目指すため森を駈けるが、それは罠だった。彼らを乗せるはずの車には、
誘拐されたらしい一人の女が。そして、ボスが到着するまでこの場を動けないと、
一味は言う。男は彼らから銃を奪い一人を射殺した。が、死んだはずの男はすぐ立
ち上がり仲間を襲う。それだけでなく、地面からゾンビたちが起き上がり、男と女、
一味を襲うのだった。実はこの森は黄泉返りの森と呼ばれる、冥界と現世を結ぶ
結界だったのだ。そして一味のボスが登場するが…。
ほぼ全編アクションまたアクションの連続で、息もつかせないまま最後まで突っ走
る映画だ。「北斗の拳」とジョン・カーペンター、サム・ライミとチャンバラ映画と香港
アクションをミックスしたような感じだが、その結果、どこにもないようなウルトラ・ヴ
ァイオレンス作品に仕上がっている。次々と襲い掛かってくるゾンビたちをいかに主
人公が片付けていくか、というバトルロイヤル状態もユーモラスで面白い。が、なん
といっても、最後のタイマン勝負がモノ凄い。主人公の男を演じている坂口拓はプロ
ボクサーのライセンスを持っているということもあり、身のこなしが素早く敏捷で、見
得の切り方も心得ている。実にアクションがカッコよくビシッときまっているのだ。対
するボス役の榊英雄も、特に剣術においては優雅な動き方をするので、このキャラ
クターが持つ独特のカリスマ性や色気を感じさせてくれる。
この映画の魅力は、なんといってもアクションの撮り方が非常に上手いということに
尽きる。メーンの二人が非常に動きがいいので、必要以上に細かくカット割をするこ
ともなく、きちんと動きを見せ切っているので迫力が違う。その上ワイヤーアクション
も使っているし、見上げるショットやタメも効いていて、マジしびれた。対決シーンが
刀によるチャンバラというのがなんとも渋いではないか。決着もあっさりとはつかない
で、因縁のバトルとして延々と続けられるのも、それらしくて良い。
黄泉返りの森の不穏な美しさや、ボスの一味の女性の美しい顔に血しぶきが降り
かかるところ、さらには黄昏時の沈み行く陽の光などもスタイリッシュ!である。音
楽が吉田兄弟の弟による津軽三味線というのは、チャンバラアクションにマッチし、
日本の映画らしい個性を主張していてマル。
メーンのキャラ以外でも、ボスの取り巻きの一人である女性などは、香港アクション
映画に登場する女性キャラのような素晴らしいアクションを見せてくれるし、一味の
チンピラたちもそれぞれ個性があって飽きない。ゾンビへの変身も、元キャラにマッ
チした風貌となっているのが可笑しい。主人公を追いかける刑事コンビはおとぼけ
で笑える。唯一ちょっとこの作品にそぐわないのはヒロインだ。彼女は、主人公に出
会うために何回も転生を繰り返してきたという神秘的なキャラクターなのだが、小劇
場出身の女優を起用していて、いかんせんイモっぽいのである。主人公がワイルド
で非常にセクシーな男なので、全然似合わないのだ。こういうハードな映画には、
戦う女はいても良いけど、か弱い女性はいらないと思うのだが、いかがだろうか。
監督:イモジェン・キンメル
出演:シャルロット・ブリテン、リー・ロス、アネット・バッドランド
イギリス、ヨークシャーに暮らすちょっと太目のデイジーとケンの夫婦。二人は愛し合
っていて、デイジーはとても幸せなのだが夫のケンは甲斐性がなく失業中。それなの
に彼は仕事を探すこともせず、趣味のUFOを探すこととデイジーのヌード写真をポスト
カードにして一儲けをすることしか考えていない。家計を支えるために缶詰工場に働
きに出るデイジーは、やがて工場の主任マーリーンに声をかけられる。彼女は太った
女性ばかりを集めて、相撲の稽古をするサークルを開いているのだった!デイジーも
やがて相撲に夢中になり、太っていることの劣等感を克服していく。一方、デイジーの
帰りが遅くなったことを怪しむケンは、彼女の後をつけていて、着物を着た太った女性
たちの儀式を目撃。彼女が宇宙人にさらわれるのではないかと勘違いした!
イギリス映画といえば失業、というわけで、この作品も「相撲版フル・モンティ」的な作
品である。だけど、奇妙なところがたくさんあってツッコミながら観ると非常に楽しい。
相撲といえば日本の国技であるからして、我々日本人から見ると勘違いしたところは
たくさんあるのだが、一応ちゃんと研究したみたいで、最後に日本人の相撲取りと試
合をするときには、相手側はちゃんとした化粧回しを締めているし、日本人や日系人
で相撲を実際にやっている人を集めてきているようだ。相撲道の精神についてもちゃ
んと研究していて、マーリーンはそのあたりも女相撲取りたちに講釈している。でも、
ここでリサーチは終わってしまったみたいで、中途半端なリアリティというか。そもそも、
日本では女性は土俵に上がれないから、ね。試合の時には奇妙な白塗りメイクだっ
たり、彼女たちが着ている着物が変な形だったり。あと一番凄まじいのが、相撲取り
になる前に川の中にズブズブ入る儀式で、たしかにこれを観たら、宇宙人に乗っとら
れていると勘違いしてもおかしくない。女相撲取りたちが、プヨプヨの肉体を露に、サ
ウナで寝転がっている姿は壮観だ。きっとデブ専の方にはたまらない光景だろう。
さらに笑えるのが、デイジーの夫ケンがUFOマニアであるということ。UFOといえばアメ
リカの専門特許だと思っていたのだけど、イギリスにもいたんだ、ということに新鮮な驚
きを覚えてしまった。電波系オタク文化というのは、ヨークシャーの失業者にも存在して
いたわけだ。奥さんが帰りが遅いのが、浮気ではなく宇宙人に乗っ取られているため
と勘違いする人というのは珍しいと思うんだけど。ケンは奥さんのことを愛しているのは
よくわかるんだけど、自分は美しいと思っている奥さんのヌードは、その趣味がない人
からはただのデブの肉塊なんだし、さらにそれに奇妙なボディペインティングまでした
写真を売ろうと思うのだから相当思考回路が変わっている。
ヒロインのデイジーを演じるシャーロット・ブリテンがとってもキュート。たしかにおデブ
ちゃんなのだが、美人だし、ファッションも自分に似合うものを心得ていてなかなかお
洒落さんである。生活を支えるために、コンプレックスのある自分のヌードを夫に撮ら
せるなんて、ちょっとやそっとではできない健気さだ。この彼女の魅力が、作品をただ
の色物映画として終わらせていない。
てなわけで、非常に変わっている映画ではあるが、根底に流れるのは夫婦の愛と、逆
境をバネに頑張って小さな幸せをつかみ自信を取り戻す女の子の物語だ。ぬるい話だ
し、色物っぽいけど案外ウェルメイドで、トンデモ映画としても、スポコンものとしても楽し
める佳作だ。
監督/脚本:ロッド・ルーリー
出演:ジョアン・アレン、ジェフ・ブリッジス、ゲイリー・オールドマン、クリスチャン・スレイター
副大統領が急死したのに伴い、次期副大統領候補として大統領に指名されたのは、
直前におぼれる女性を救うために川に飛び込む武勇伝の持ち主である州知事ではな
く、女性上院議員のレイン・ハンソンだった。しかし、共和党から民主党に鞍替えした
彼女が副大統領となることを好ましく思わない共和党議員のラニヨンは、彼女の過去
のセックススキャンダルを見つけ出し、司法委員会の公聴会で揺さぶりをかけてくる。
ヒロインが大学生のときに乱交パーティに参加したというスキャンダルを暴露し、それ
ゆえ副大統領の資質がないのではないかと攻撃するという行為は、まさにクリントン
前大統領のときのモニカ・ルインスキー事件を思い出させる。政治とは直接関係ない
ことで足を引っ張るという、実際に行われた行為についても、この映画では断罪してい
るというわけだ。つまりは、ハリウッドでは圧倒的に支持者が多いという民主党のプロ
パガンダ的な側面があることは否めない。ちょうど大統領選挙の年だったし。
この映画ならではの新しい視点なのは、セックススキャンダルに襲われたのが女性
議員であるということ。最近の出来事ならともかく、まだ10代の小娘であった時代の
乱交疑惑が取りざたされるのは、男は多少若い頃に遊んでいてもかえって箔がつく
が、女性は常に貞淑であることが求められるという二重基準が存在するからだ。実際、
ハンソンはラニヨンの手先となっている若手議員ウェブスターに、「男なら学生時代に
何人寝ようと問題にならない。女だって同じなのではないの?」と聞く場面がある。
そのあたりがきちんと解決されていたら、もっとカタルシスがあったのだと思うが、女
性に対する性意識の問題はうやむやになってしまっているのが惜しい。その分、政
治家の資質についての考え方が、作品の前面に出ている。(そういえば、日本でも
森前総理の学生時代の買春疑惑というのがあったな)
公聴会において、実際に乱交パーティに参加したかどうかを聞かれたハンソンは「そ
のような質問には答えません」とノーコメントを貫き通す。そのような質問に答えること
自体が、自らの、そして議会の品位を下げることにつながるからだと彼女は主張する。
まさに彼女の言うことが正しいのであるわけだけど、ラニヨンたちは、そのような過去
を持つことは、大統領にもしものことがあった時には大統領代行を務める地位にある
人間にあるまじきことだ、と執拗に攻撃する。さらに、彼女の学生時代の友人を探し
てきて、ハンソンは自分の夫を奪った女であると証言させる。もともとラニヨンは彼女
が共和党から鞍替えした人間であることが気に入らないというのと、自分が支持する
ハサウェイ知事こそが副大統領にふさわしいと考えたからであるのに、政治家の手腕
とは全く関係ない、セックススキャンダルで彼女を追い詰めようとしたのである。
そのような攻撃に対して、毅然とした態度で臨むハンソンは凛々しく美しい。どんなに
追及されても、決してスキャンダルについては答えようとしない。大統領の側近から
今回は副大統領候補となるのをあきらめてくれ、と説得されても、政治的手腕と関係
のないことで降りることはできないと突っぱねる。ラニヨンに愛想を尽かしている彼の
妻は、ハンソンに、ラニヨンは妊娠中絶反対論者であるけれども、実は妻は中絶した
ことがあるということを知らせて反撃の材料とすれば、と入れ知恵をする。案の定、い
かにも共和党員らしく妊娠中絶反対論をぶつラニヨンに対して、妻からの情報を使お
うとして、やはりそれは正攻法ではない、こんなことをすれば彼らと同じレベルに落ち
てしまう、と台詞を飲み込むハンソン。このあたりのジョアン・アレンの演技には思わ
ず身震いするほどのうまさがある。
若さや美しさを売り物にしていない演技派のジョアン・アレンは、なかなか主演の話が
やってこない。そんな彼女のために作られた映画だということで、その魅力が花開いて
いる。正義感と使命感にあふれ、なおかつよき妻であり母である彼女は、ここでは実に
美しい。アルマーニのシンプルで上品なスーツやショートヘアが良く似合っていてエレ
ガントだ。この品のよさ、田中真紀子も見習って欲しい。難をいえば、彼女のキャラクタ
ーがあまりにも優等生的過ぎることだろうか。若い頃に羽目をはずしたり、人の夫を奪
った経験があるということが、かえってそんな彼女の人間味を感じさせるエピソードとな
っているのが皮肉だ。
そして、なんといってもこの映画のもう一つの魅力は、悪役であるところのラニヨンを演
じるゲイリー・オールドマンだあろう。ちょっと見には彼とはわからない、失敗したパーマ
のハゲちゃびんで風采が上がらない男を怪演。服のセンスも悪く、妻には愛想をつかさ
れている彼には、どこか哀愁すら漂う。でも、彼自身は悪い人間ではなかった。ハンソ
ンを副大統領にしたくないのも、彼が女性差別主義者だったから、ではない。女性の副
大統領が誕生することは構わないが、大統領が残りの任期一年の間に足跡を残した
いがためだけに女性の副大統領を選ぶことに、反対しているだけなのだ。副大統領に
はもっと相応しい人間がいるというのに、女性だからという理由だけでハンソンが選ば
れたことに彼は納得できないのである。政治家としての彼の信念は決して間違ってい
ないし、彼が、彼女の就任を阻止するために大変な努力を払っていることは凄いと思う。
ただ、彼女を蹴落とすために、セックススキャンダルを利用したというやり方が間違って
いただけなのである。そのあたりの、彼の悪人になりきれない部分をオールドマンは絶
妙に演じている。顔のない怪人とか、キレた犯罪者だけが彼の持ち味ではないのだ!
ラニヨンとハンソンが会食をするシーンのシチュエーションの描き方も非常に上手い。し
きりに「ここのステーキはうまい」と誘うラニヨンに対し「私は肉を食べないの」とぴしゃり
と答え、何も食べずに毅然と帰っていくレイン・ハンソン、イカしている。彼女がこんな成
熟した大人なのに、大統領がまるでビル・クリントンのような幼稚なところもあるキャラク
ターだったりして、男性登場人物がちょっとヨワッチイのは笑える。
大統領役のジェフ・ブリッジスをふくめ、ジョアン・アレン、ゲイリー・オールドマン、さらに
はクリスチャン・スレイターと名優が揃い踏みして丁丁発止の演技合戦が見られるので
見ごたえがある政治映画となっている。実際に存在する政党を登場させての映画なんて
日本では絶対に作れまい。そしてテンポも素晴らしく良くて、面白いんだけど、欠点として
はクライマックスの見せ場を大統領が持っていってしまったことだろうか。副大統領の指
名権が大統領にあるから仕方ないんだけど、せっかくジョアン・アレンが主演なのにもっ
たいない。その辺なんとかなれば、もっと盛り上がったんだけど、「アメリカの民主主義万
歳」を前面に出しすぎてしまってちょっとしらけてしまった。その前の、ハンソンが記者たち
に自分の政策を一つ一つ力強く表明したシーンがカッコよくきまっていたのに…。
個人的に気に入っているのは、大統領がハンソンの幼い息子に「大統領と副大統領、ど
っちがいい?」と聞いて「副大統領。だって、暗殺されないもの」とウィットと毒に富んだ返
事が返ってくるところ。なかなか食えないガキに育てているな、レイン・ハンソン。