クレーヴの奥方 La Lettre

監督/脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:キアラ・マストロヤンニ、ペドロ・アブルニョーザ、アントワーヌ・シャベー、
    レオノール・シルヴェイラ、スタニスラス・メラール

令嬢カトリーヌは、美しい青年フランソワに思いを寄せられていたが、医師でもあるクレー
ヴ伯に求婚され、受け容れる。新婚旅行から帰り、チャリティコンサートに出演したポルト
ガルの人気ロック歌手ペドロ・アブルニョーザを見たカトリーヌは、彼のことが忘れられなく
なり、病に倒れた母親に、彼への思いを見破られるのだった。そしてカトリーヌから、自分
以外の男性への思いを告白された夫も急速に弱っていく…。



92歳と現役では最高齢の巨匠、オリヴェイラの最新作は、ある意味非常に奇妙な映画
である。そもそも、ほとんど会ったこともなければ、会話もろくに交わさず、もちろん不貞
行為が存在しなかった相手にそれほどの恋心を抱けるものなのか、と考えてしまう。し
かも、その恋心を向ける先であるペドロ・アブルニョーザは、はっきり言って風采の上が
らない、禿げていて顔に自信がないのか、サングラスを決して外さない男だ。しかし、恋
というのは盲目である。事故でアブルニョーザが怪我をしたというニュースを聞いた彼女
は思わず大きな声を出してしまう。自分以外の男性に妻が心を奪われていることを知っ
た夫は、急に体調を崩し、やがては亡くなってしまう。カトリーヌに思いを寄せるフランソ
ワも彼女を追いかけようとして、目の前で事故死してしまうのだった。

この作品のユニークなところは、カトリーヌの母、クレーヴ伯、そしてフランソワが死ぬ場
面や、彼らの葬儀、カトリーヌが彼らの死に対して嘆き悲しむシーンが一切カットされ、
黒いバックの字幕で説明がされるだけだということだ。普通の映画だったら、これらの場
面にかなりの時間を割くことだろうと思われるのに、この省略法はかなり斬新だ。ただひ
たすらに、この思いに苦悩しながら胸を焦がすカトリーヌの美しい横顔ばかりがとらえら
れ、長廻しされている。彼女の熱情によってもたらされた、周囲の人々の不幸より、彼
女自身の微妙な感情を繊細に描写することにフォーカスしているわけだ。

映画が、実在のミュージシャンであるアブルニョーザのライブシーンで始まり、終わると
いうのも、恋愛映画という主題からかけ離れたイメージがして面白い。現代に移し変え
たから、恋の相手はロック歌手に、という置き換えの部分が非常にベタなのだけど、そ
のこともわざと狙っているように思える。そして、なんといっても、アブルニョーザになぜ
カトリーヌは恋してしまうのだろうか、という部分がとてもヘンなのである。カトリーヌの
夫は立派な医者でしかも貴族。彼女のことを深く愛しているし、ハンサムだ。そして、
若くて美しい青年フランソワも熱烈に彼女のことを想っている。なのに、なぜあんなハ
ゲおやぢに…。だけど、そのように、頭では理解できないもの、というのが「恋」の本質
なのだろう。

アブルニョーザは常にサングラスをかけて自らの視線を覆い、果たしてカトリーヌと視
線を合わせたことすらあるのかどうかすらわからない。二人の視線は決して交差する
ことはない。偶然ギャラリーで出くわしたときも、カトリーヌは挨拶すらしないで、逃げ
るように出て行ってしまう。事故で入院したアブルニョーザを訪ねようとカトリーヌは病
院に行くが、結局彼を見舞うこともなかった。しかし、一度彼がクレーヴ伯の家を訪ね
たときに、こっそりとカトリーヌの写真を持ち去るのを覗き見してしまったカトリーヌは、
彼が自分を想い、自分も彼を想っていることを自覚する。その想いが自分をさいなみ、
自分ばかりか周囲までも苦しめるものだということがわかっていても、それでも恋する
ことを止められない、それが恋、なのだ。その禁じられた恋の代償として、二人の想
いは、視線同様決して交わることもなかったのだ。それなのに、いや、それだからこ
そ、肉体関係のある恋や、熱く燃える愛よりもずっと恋愛感情が深く、エロティックに
思えるのである。二人の視線の使い方と省略法の使い方は、実に斬新で、類まれな
ものだと言える。

カトリーヌ役のキアラ・マストロヤンニの思いつめた表情が、フィルムに深い陰影を与
え、ストイックな色香が濃く刻み付けられている。ラファイエット夫人による古典文学を
現代に翻案した作品だが、まったく肉体関係もない熱情という古典的なモチーフは、
そのまま持ち込まれていて、クラシックな美貌のキアラ・マストロヤンニと相まって品
格のある映画になっている。しかしながら、かくのごとく大胆な手法で演出されている
ため、新しさすら感じることが出来るのである。

DENGEKI  Exit Wounds

監督:アンジェイ・バートコウィアク
出演:スティーブン・セガール、DMX、アイザイア・ワシントン、アンソニー・アンダーソン

デトロイトの刑事ボイドは凄腕で、非番の日に副大統領の危機を救ったのだが、荒っ
ぽい捜査方法が嫌われ、犯罪多発地域へ左遷。上層部や女性署長にも嫌われた彼
は、感情コントロールセミナーに通わされたり、交通整理係にまで格下げされたりする。
そんなあるとき、麻薬組織から事務員を救出したことで刑事課に復帰した彼は、警察
内部の不正行為に気づくのだったが…。

わたくし実はセガールの出演作品って「沈黙の戦艦」くらいしか観ていなくて、それも
ビデオで観ただけなのだが、本作品は、思いがけず楽しめたのであった。今回のセガ
ールは強いだけの男ではない。確かに腕っ節は強いが、世渡りが下手なのである。
せっかく副大統領の生命の危機を救ったのに、余計なことしやがって、と左遷される
ばかりでなく、赴任先でもいきなり感情コントロールセミナーに通わされたりして、そこ
で大真面目に座って話を聞いたかと思うとやっぱり暴れたりする。さらに、麻薬密売人
を取り押さえたと思ったらそれは囮捜査官で、ついには交通整理係にまでなってしま
う。あのゴルゴ13みたいな苦みばしった表情で、巨体を制服に包んで交通整理して
いる姿の間抜けなことよ。しかも、当然のことながら、交通整理なんてうまくできるは
ずもなく、まもなくお役御免に。なんとも、哀愁漂うセガール先生である。大真面目に
なればなるほど、可笑しく見えて来てしまうのだ。

対照的に最初から最後まで無茶苦茶カッコいいのが、もう一人の主人公であるDMX。
最初のほうで、彼がどういう人物かの説明もなく、ただ刑務所に出かけていって弟らし
き若者と面会するのだが、その受刑者に話すときの表情一つ見ただけで、この男は信
頼できて威厳のある人物だと言うのが一目でわかる。スーツで颯爽とキメた姿も惚れ
惚れするほどの格好よさだし、身のこなしも華麗で、本職はラッパーだということだけど
カリスマ性をひしひしと感じさせる。もちろん、彼によるラップもふんだんに聴ける。

セガール先生も負けてはおれない、と今回はワイヤーアクションにも挑戦。ちょっと重そ
うではあったけど、がんばっている感じは出ている。冒頭の副大統領救出シーンはもの
すごく派手であるし、ラストにかけての畳み掛けるようなアクションはそれなりに興奮す
る。今回はDMXに美味しいところを全部持っていかれた感はあるが、コミカルな持ち味
が案外良かったということで、今後新境地を開けるのではないかという予感がする。

さらにもう一人のコメディリリーフが、DMXの手下であるところのアンソニー・アンダーソ
ン。「ふたりの男とひとりの女」「ロミオ・マスト・ダイ」にも出ていた小太りの男だ。いか
にも頭悪そう、厨房っぽいのだけど憎めない。それどころか、エンディングクレジットの
横で、セガールの感情コントロールセミナー仲間であるテレビ司会者とふたり、延々と
シモネタ中心のギャグを垂れ流していて、これが案外面白いのだ。

美人女署長がどこかに行ってしまったり、セガールの相棒であるアイザイア・ワシントン
が目立たなかったり、とっちらかった部分もあるが、コミカルで哀愁漂わせるセガールと
ひたすらカッコいいDMX、派手な派手なアクション、さらに割とわかりやすいどんでん返
しがあって、料金分はしっかり楽しませてくれる映画に仕上がっている。