シャドウ・オブ・ヴァンパイア Shadow of the Vampire
監督:E.エリアス・マーハイジ
出演:ウィレム・デフォー、ジョン・マルコビッチ、ケアリー・エルウェス、キャサリン・マコーマック
ウド・キアー
映画監督F.W.ムルナウは、「吸血鬼ドラキュラ」を映画化するべく準備をすすめていた。原作者
の未亡人に映画化を拒否され、「吸血鬼ノスフェラトゥ」の題名で映画化することになり、ロケ地
であるチェコの古城へと向かう。吸血鬼オルロック伯爵を演じるマックス・シュレックは、現場で
しか会うことが出来ず、しかも、彼は常に衣装とフルメイクをした状態でしか現れないということ
だ。実は、マックス・シュレックは400歳の本物の吸血鬼で、映画に出演する謝礼として、主演
女優グレタの血を吸わせてもらう約束になっていたのだ!
この映画を観る2日前に、元ネタであるところの『吸血鬼ノスフェラトゥ』を観たのだが、こちらの
作品はまがうことのない大傑作であった。シルエットや長い爪の使い方、モノクロの画面の特
性を生かした血も凍る恐怖とサスペンスは今でも色あせない魅力を保っていたのである。さて、
本作だが、確かにシーンの再現は原典に非常に正確だ。オリジナルの雰囲気を損なわないよ
うに丁寧に作られているのがよくわかる。カラーであるところのメイキングシーンと、映画本編の
モノクロ部分の挿入の仕方も的確だ。しかしながら、残念なことに、「ノスフェラトゥのオルロック
伯爵は実は本物の吸血鬼だった!」というアイディア一発勝負に終わっている部分があって、
まったく予想通りの展開で意外性がゼロなのである。
マックス・シュレック役の演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたウィレム・デフォーの
怪演は見事としか言いようがない。それほどメイクをしていないにもかかわらず、その凄みのあ
る表情は、『吸血鬼ノスフェラトゥ』のマックス・シュレックに非常に似ているのである。その上、
コウモリをがぶり、むしゃむしゃと食らうシーンは迫力に満ちているし、同時に、400年も生きて
きた不死の吸血鬼の哀愁を漂わせてもいるのである。血を吸わなければ生きていけない彼は
ひたすら女優の生き血を所望する哀れな怪物であり、その焦燥感と恐ろしさを両立して、漫画
チックになる一歩手前で抑えているところなど、彼の実力を思い知らされる気がする。
対するマルコヴィッチ。彼の演じるムルナウは、本当はシュレックが吸血鬼と知りつつも役に抜
擢し、その謝礼として主演女優の血を約束するというとんでもない男だ。しかも、最後まで待て
ないシュレックに対し、スクリプターの血なら吸ってもいいなんて平気で言う。カメラマンまでもが
シュレックの毒牙にかかる。ムルナウ自身は、少々スタッフに死人が出ようと、そしてシュレック
をだまくらかしても、映画を完成させようと狂った情熱を持っている狂人なのだ。ところが、彼の
描写が非常に淡々としているので、その狂人ぶりが全然現れていなくて、こんなことを平気で
やっている割には普通の人みたいじゃない、と思ってしまった。
監督が本物の吸血鬼を吸血鬼役としてキャスティングし、映画の完成のためには人が死んでも
構わないと思っているという物語は、狂気の物語か、ブラックなコメディになるべき話。なのに、
ユーモアのセンスが欠如しているし、かといってテンションが非常に高いわけでもないので、デ
フォーのとんでもなく素晴らしい演技だけが際立つ映画になってしまった。プロデューサー役に
ウド・キアーを起用している割には、彼の役柄は普通だし。映画をめぐる魑魅魍魎どもについて
もっと描いてみたり、血を吸われたカメラマンも吸血鬼化したりしたら、また違った面白さの映画
になったかもしれない。20年代の映画撮影現場の再現とか、『吸血鬼ノスフェラトゥ』の映画の
再現部分は非常に魅力的な映像だけども。(いかにオリジナルが優れた映画かもよくわかった)