Summer in New York 3

さて、この文章だが、9月11日に起きた同時多発テロの後に書いたものだ。
事件が起こってから、しばらく、旅行記を書くのもはばかられてしまった。
しかしながら、事件が起きる前のNYの姿を伝えておくのも大切なことだと思っ
てここに書き記す。
あの栄華を誇ったワールドトレードセンターが、テレビ上でとはいえ、目の前で
崩れ落ちるところを見てしまって、ショックだった。実際にWTCに登ったことはな
いものの、すぐ横を通ったり、写真の背景に写っていたり…。そして、そこで働
いていた多くの人々が犠牲になるなんて…。こんなに悲しいことはない。

 この写真は、去年NYに旅行したときに
                            撮ったものです。フェリー上からの撮影。

8月19日(日)

この日は相当大忙し!になることが予想された一日である。なぜならば、準備編
にも書いたように、ダブルブッキングの日であったからだ。1時からヤンキーズスタ
ジアムでヤンキーズ対マリナーズ戦、そして3時からブロードウェイでの「フル・モン
ティ」である。

例によって早起きしたが、日曜日の朝は恐ろしいことにほとんどのお店はやってい
ない。頼りの近所のスーパーも、日曜日だけ開店時間が遅い。というわけで、2ブロ
ックほど歩き回ってようやくデリを発見。ただし、まだ開店したばかりのようで、サン
ドイッチ等は用意できないという。仕方ないので、パンとサラダ、水と野菜ジュースを
買い込んでホテルで食べる。それにしても、シーザーサラダの巨大なこと!今回、
胃の許容量の問題でやたらサラダばかり食べていたせいか、非常に便通がよい。
いつもは旅行に行くと便秘になるのに。

ヤンキーズスタジアムまでの所要時間を約一時間と想定し、その前の空いた時間で
メトロポリタン美術館に行くことにした。しかし、到着したのが10時ごろで、2時間くら
いしかない。とても、この巨大な美術館を攻略しきることは出来ない。一応去年もここ
は行ったので、もう一度見たいと思った部分を重点的に観ることにした。この美術館
でも特に人気のある19世紀美術、それからフェルメールである。

メトロポリタンの19世紀美術コレクションは、世界でも1,2を争うほどの素晴らしいも
のである。オルセーかルーブルかメトロポリタン、テイト・ギャラリーか、である。ゴッ
ホの晩年の作品や、クールベのとってもエッチな感じの「女とオウム」とか、ムンクの
「吸血鬼」とかゴーギャンとかとにかく百花繚乱。しかし、やっぱりここで一番気に入
っているのはモローの「オルフェウスとスフィンクス」。モローはオルセー、そしてパリ
のギュスターヴ・モロー美術館にたくさん揃っているのだけど、この作品も傑作の一
つである。



思わず、この絵の前でしばし立ち止まり、絵の世界に引き込まれていた。

そして、次は13〜18世紀美術コレクションの中のオランダ・ギャラリーへと出向き、
フェルメールを探しに行くが、5点の所蔵品のうち、3点はロンドンのナショナル・ギ
ャラリーで開催されているというフェルメール展に貸し出されていて、「真珠の耳飾
りの少女」「眠る女A」しか見ることが出来なかった。しかし、その静謐で神秘的な
世界は観る者の時を止める魔術的なものがあるとしかいいようがない。

そうこうしているうちに、あっという間に12時になってしまっていた。美術館にいる間
は時が止まっている気がするものだが、実際に流れている時間というのは、よりい
っそう早いのである。86丁目の地下鉄駅へと急ぐ。

86丁目駅はなにやら混雑していて、しかも、ヤンキーズのキャップを被る人の姿も
目に付く。この人たちも、大リーグ観戦するつもりなんだ、と悠長に構えていたのだ
が、そんなに暢気にしている場合ではなかった。ホームに入ってきた地下鉄の車
両が、もうものすごい混雑だったのである。日本の通勤電車よりもすごいかもしれ
ないほどのぎゅうぎゅう詰め。真夏ということもあって蒸し暑いことこの上なし。そし
て、そのぎゅうぎゅう状態は、161丁目/ヤンキーズ・スタジアム駅まで続くのであ
った。ここでほとんどの乗客が降りた。

さて、降りてから球場入りするまでも一苦労。大変な人出である上、インターネット
で予約したチケットの受け取り場所が良くわからず、結局一周してしまった上、球
場に入った後でも、自分の席がドコなのかさっぱりわからず、人に聞きまくってよう
やくわかった。内野の指定席なのだが、恐ろしく高い位置である。しかも、後ろ一
列は日本人の家族連れが3組も陣取っていて、聞こえてくる会話は全部日本語。
なんだかニューヨークにいる気が全然しない。私たちと同様、席がわからなくてうろ
うろしている日本人もやたら多かった。



もちろん、第一の目的はイチローなのだが、ここはヤンキーズのホームグラウンドと
いうわけで、9割以上がヤンキーズ・ファン。イチローの打席のときが、一番ブーイン
グが大きくて、応援しているのは日本人だけだ。途中で帰らなくてはならなかったた
め、2打席しか見ることが出来なかったが、残念ながら、その2打席は凡退。ただし、
ヤンキーズが1アウト3塁というチャンスのときに、ライトフライを矢のような返球で返し
てきてタッチアップを阻止するという超美技を見ることが出来たので、満足。ヤンキー
ズで一番人気なのが、ジーターという背番号2番の選手で、彼のユニフォームを着た
ファンが非常に多かった。実は、この3連戦の間、今度野球選手の役で映画に出演
するフレディ・プリンゼJr.が観戦していて、ジーターと対談し、ESPNで何回か放映さ
れているのを見たのであった。

やっぱりメジャーリーグの試合はテンポが速くて、見ていて気持ちいい。鳴り物の応
援はないけれども、ヤンキーズの攻撃ともなると、大変な盛り上がり。ただし、今回は
残念ながら、早くからワンサイドゲームという展開であった。

もっと見ていたかったのではあるが、ひとり1万円近く払ったミュージカルのチケットを
無駄にしたくなかったので、やむなく3回が終了したところで球場を後にした。出るとき
に、お土産としてヤンキーズのマウスパットをもらって得した気分。

さて、今日の二つ目のイベントは、ミュージカル「フル・モンティ」今年のトニー賞でも多
くのノミネートを受けて大好評の作品だ。場所はユージーン・オニール劇場。ロビーが
狭いのだが美しい劇場だ。ロバート・カーライル主演で大ヒットした映画「フル・モンティ」
のミュージカル版で、舞台がイギリスからニューヨーク州バッファローに移っている以外
はストーリーも映画版とほぼ同じ。出演する俳優まで、映画に出ていた俳優たちと外見
がとても似ている。冒頭、いきなりスーツでビシッとキメた美しい肉体の男性がストリッ
プするのにはビックリ。しかも、パンツ一丁になったところで、携帯電話が鳴り出して、
アタッシェケースをさんざん探し回った挙句、携帯はパンツの中でした、というオチも可
笑しかった。

非常にミュージカルとして良く出来ているが、やや説明的な台詞が多く、楽曲も圧倒的
に素晴らしいというわけではない。だけど、勢いは感じられたし、俳優の力量も、主演の
映画ではカーライルが演じた役を演じた役者を始め、歌も踊りも演技も実に素晴らしい。
映画でも泣かせどころの一つである子役の演技も大変良い。そして、なんといっても、ラ
ストのついに覚悟を決めた6人がストリップをするところのノリノリ加減は本当にすごい!
会場も立ち上がって手拍子し、一気に盛り上げていく。そして、ついには、フル・モンティ
=全裸になってしまうのだ!とはいっても、バックから強烈な光が当たり、俳優たちの姿
はシルエットのようになってしまうので、完全に見えるのではないけど、それでも、前バリ
も何もつけていなくて、性器もちらっと見えたような…。俳優たちは、ストリップした登場人
物同様の覚悟を決めてこの役に挑んだに違いない。スタンディング・オベーションでブラボ
ーの嵐になるのも当然、というくらいの力のこもった舞台であった。

ヤンキーズ・スタジアムからブロードウェイまでの移動でかなり疲れたので、ホテルで一
休みし、晩ご飯はホテルから2ブロックほど離れた「ブルックリン・ダイナー」カジュアルな
お店であるが、人気店らしくて、10分ほど外で並んだ。



店の名物であるというチキン・スープを飲んでいたら、隣に座っていた太った親娘の母の
ほうが、「チキン・スープどう?」と聞いてきたので「Good!」と答えておいた。実際意外と
さっぱりしたお味で、体にやさしい気がした。オットはホットドッグを注文したのだが、この
ホットドッグがまたものすごくぶっとくて、食べきれないほど。本当は名物のチーズケーキ
を食べたかったのだが、とても食べきれないというわけで、お持ち帰りにすることにしたの
であった。