翼をください Lost and Delirious

監督:レア・プール 脚本:ジュデス・トンプソン
出演:パイパー・ペラーボ、ジェシカ・パレ、ミーシャ・バートン、ジャッキー・バロウズ

内気なメアリーこと"マウス"は父親の再婚相手に馴染めず、女子寄宿学校に
編入する。そこでマウスはトリーとポーリーという二人と同室に。美しく人気者
のトリー。束縛を嫌い反抗的な態度を隠さない、アウトサイダー的なポーリー。
マウスは少しずつ学校にも慣れ、日を追うごとに彼女達ともうちとけてゆく。三
人は傷つき飛べずにいるハヤブサを見つけ、ポーリーが連れ帰って世話をす
る。ある朝マウスが目を覚ますと、ポーリーとトリーが裸で同じベッドに。マウス
は二人が愛しあっていることを理解し、二人の関係を自然に受け入れる。が、
トリーの妹がベッドの二人を見てしまい、激しく動揺したトリーは、両親に知ら
れることを恐れ、あからさまにポーリーを避け、ジェイクと付き合うように。絶望
の底に落ちてゆくポーリーは、ジェイクに決闘を申し込むが…。

思春期の少女が、同性の友人に友情以上の感情を抱いてしまうことってまま
あることだと思う。しかし、この映画の中でのポーリーがトリーに対して抱いた
想いは、本当に熱くて激しくて強いもの。「あの人のいない世界は、ブタ小屋
同然
」と授業中にその熱すぎる想いをぶつけていくポーリーの真っ直ぐさはあ
まりにも痛ましい。「愛とはどういうもの?」とレズビアンだと噂される校長先生
の問いかけに対して、多くの女学生達は「セックス」や「お金」としか表現が出
来ない。それに対して、切れば血が噴出すような鋭く豊富な語彙で情熱的に
愛を語るポリ―の力強さといったら!美しく凛々しい彼女の姿には引き込まれ
た。

ポーリーを演じるパイパー・ペラーボはちょっと口が前に出すぎで(ケイト・ベッ
キンゼールと同じ系統の「スティーヴン・タイラー顔」とでもいうべきか)あんま
り品のない顔立ちだと思っていたけど、ここでの彼女は本当に魅力的だ。きり
っとした意思的な顔つきに、万華鏡のように愛の喜びや悲しみ、苦しみといっ
た多様な感情が宿っては移り変わっていく。「マクベス」のマクベス夫人の台
詞を引用して、自分の中の女性的な部分を殺そうと誓うところは、ポーリーの
心が狂気と絶望に彩られている様子を描いているのだが、痛ましくてたまらな
い。やがては、自分自身をも破壊し尽くすほどの情熱だったのだ。

恋というのは残酷なもので、より多く愛した者が常に敗者となってしまう。トリ
ーとポーリーも、物語の前半ではお互いに同じくらいの純粋な愛を抱いていた。
ポーリーが「私はレズビアンじゃない、ただトリーを愛しているだけなの!」と叫
ぶことからもわかるように、相手が男なのか女なのかは関係なかった。本当に
二人は純粋に愛し合っていたのだ。

にもかかわらず、ベッドの中の姿をトリーのいけすかない妹に見られてしまい、
「レズ」というレッテルを貼られるのを嫌がったトリーがポーリーを避けてしまう
という展開になってなってふたりのバランスは崩壊。トリーの愛を取り戻そうと
絶望的にあがくポーリーは、愛の亡霊に取り付かれて題名通りlost and delirous
な状態になって突っ走っている。それに対して、胸が大きくて可愛くて男の子
にモテモテのトリーは残酷なまでにクールだけど、別の見方をすれば、性格の
悪い妹や同級生達や男の子達に負けてしまった彼女こそが敗者とも言える。
ポーリーを遠ざけてしまったのは、彼女が嫌いになったからではなくて、ただ
周りに自分がどのように映っているのかを気にしすぎた結果。そのことでポー
リーを傷つけ、自分の心を偽り、そしてもう二度と以前のような関係には戻れ
なくなってしまったのだ。「あなた以上に愛せる人間にはもう出会えないと思う」
と本音をポーリーに語ったことが、さらに悲劇を加速させてしまう。そして、ポー
リーの辛い気持ちも、トリーの気持ちも痛いほどわかるのに、なす術もなくただ
傍観者として見て、彼女を励ますことくらいしか出来ないメアリーも、悲しいキャ
ラクターだ。ポーリーのような熱い情熱を抱くことは決してないだろうから…。ミ
ーシャ・バートンも大きな瞳に悲しみを湛えていて、言葉は少なくても、ガラス細
工のように繊細な少女性を見せてくれる。

特筆すべきなのは、美しい撮影だ。この物語は終始彼女達が通っている寄宿
学校を舞台にしていて、そこから出ることはない。寄宿舎は美しい森に囲まれ
ていて、ポーリーはそこで一羽の傷ついたハヤブサを見つけて自分の分身の
ようにかわいがる。夜の森の湿った匂いと、ポーリーとメアリーが誓いを行うと
きの闇の中の息遣いからは、彼女たちの体温が伝わってきそうだ。寄宿舎の
部屋の暗がりの中で、トリーとポーリーが愛を交わすひそやかなシーンも、神
聖さすら伝わってくる。少女たちの体臭と熱情がスクリーンを通して伝わってく
るのだが、不思議といやらしさはない。二人の愛がこのときはとても純粋だっ
たから。

そしてシェイクスピアの作品からの巧みな引用が、ポーリーの次第に常軌を
逸していく精神状態を見事に表わしている。飛べないハヤブサがポーリーの
世話によって飛べるようになったとき、ポーリーも愛が失われたこの世界から
飛び去っていってしまった…。ハヤブサが大きくはばたいていく姿を見せるこ
とで、この映画の結末を単なる悲劇として終わらせていないのが、愛をポジ
ティブに捉えているようで好感が持てた。