日活ロマンポルノ その2

天使のはらわた 赤い教室

監督:曾根中生
出演:水原ゆう紀、蟹江敬三

ポルノ雑誌の編集者村木は、あるとき女教師が犯されるブルー・フィルムを観る。そのフィ
ルムに登場する女性が忘れられない彼は、彼女をラブホテルの受付で見つける。その女
性、土屋名美は教育実習中に無理矢理撮影されたブルーフィルムのため運命を狂わされ
ていた。デートの約束を取り付けた村木だったが、約束の日未成年者のモデルを使ったこ
とで警察に留置され、果たせず。そして、3年後、村木は名美に再会するのだった…。

これほどまでに暗く切ない物語は滅多に見られない。ただひたすら堕ちていく名美、それを
止めようとする村木のすれ違いのメロドラマ。村木と名美が入ったホテルで、「男なんてど
うせそんなもの」と自ら服を脱ぐ名美を抱こうともせず、明日会わないかという村木。二人が
互いの過去を話し合うその間に日が暮れていき、ホテルの部屋に差し込んだ茜色の夕日と、
それに続く紫色の黄昏の美しさ、そしてやがて暗闇に沈む部屋と今度はそこに差し込むネ
オンの灯り。部屋にさし込む光によって時間の経過をこれだけ美しく映した映画は、ちょっと
ない。

土砂降りの雨の中、何時間も村木を待ちつづけ会えなかった名美は今度こそ男に絶望し、
行きずりの男と体を重ねる。狂ったように男を求める彼女の姿に、やがて恐怖すら覚えて
逃げ出す男。このひたすらにセックスを求める名美の姿の凄絶さには、後の彼女の堕落が
暗示され、言葉にならないような衝撃を受けてしまった。

3年後、曲がりなりにも家庭を持った村木と、すっかり堕ちきってしまった名美との再会。赤
い光に照らされたぼったくりバー。そしてそのバーの奥の部屋で村木が見たものは…。多く
の男に囲まれ飛びかられてセックスのショーを見せつける名美。乱れ飛ぶ札ビラ。障子の隙
間から名美のあられもない姿態を覗き見た村木に、力のない哀しげな視線を送る彼女には、
背筋が凍りつくような戦慄を覚えた。順番が回ってこないことに業を煮やした男たちには、床
下から縛られた制服姿の女子高生が与えられるという、ここは地獄のような場所。

店を叩き出された村木に走り寄る名美。「おまえをここから助けてやる」という村木だったが、
名美は断る。二人の間には、もう埋められようのない距離が開いてしまった。どん底に落ち
た彼女は、もうそこから抜け出ることはできない、その深い絶望感に打ちのめされた。青い
光降り注ぐ都会の闇。水たまりに映る名美の影は、もう決して村木とは重ならないのだ。ほ
んの少しのすれ違いが、こんな結末を導くとは…。

石井隆原作の「村木と名美」シリーズに共通するモチーフだが、降り注ぐ雨、都会の闇と汚
濁、そして暗闇を妖しく彩る赤や青の光が、頽廃的で哀しい物語にさらに沈んだ切なさの
旋律を奏でるのである。

狂った果実

監督:根岸吉太郎
出演:本間 優ニ、蜷川有紀、益富信孝、永島瑛子、岡田英次

昼はガソリンスタンド、夜はぼったくりバーで働く地方出身者の青年哲夫。社会の底辺近
くで真面目に生きている彼がふとしたきっかけで知り合ったのは、金持ちの不良娘千加。
彼女は母親の再婚相手と不倫をしていた。仲間の大学生たちは、彼の働く店を荒らしに
行き、暴力をふるわれた店長の妻春江は流産してしまう。店長と彼は学生たちの溜まり
場の店に返り討ちに行くのだが…。

触れば血の噴き出そうな痛切な青春物語。ヒロインは恵まれた生活をしているが、いつも
つるんでいる仲間たちには物足りなさを感じ、不倫相手にも満たされることはない。醒めた
視線とアンニュイな雰囲気を漂わせている。そんなとき知り合った哲夫に、彼女はこれま
での男性たちと全く違ったものを感じて関係を持つようになる。しかし、彼女と彼の住む世
界は残酷なまでに違っていた。

ブルーカラーの青年の生活の描写がきめ細かく描かれている。彼が働くぼったくりバーの
店長は怖い人だが、妻をこよなく愛している。実家が神社である青年の部屋で執り行われ
る、店長と妻とのささやかな結婚式の真似事。社会的には日陰の存在である彼らが、世
の中の片隅で肩を寄せ合い、小さな幸せをはぐくんで生きている姿がいとおしい。哲夫は
店長夫妻以外には友達もいなく、孤独だが心優しく、故郷の母親に電話を欠かさない。

一方、千加は、哲夫に興味を持つがゆえに、持ち前の残酷さで彼をからかい、もてあそぶ。
彼とは全く違う世界に住むチャラチャラした大学生たちの間に、彼を連れて行きバカにさせ
る。でも、彼女自身、大学生たちには飽き飽きしていたのだ。それは、どこか醒め切ってい
る彼女による、サディスティックなゲームなのであった。「気になるから、余計意地悪したく
なってしまうのよね」と。しかし、その戯れは、痛ましい結果を生むのであった。

大学生たちに、生きる拠り所である店を壊され、さらには店長の妻が流産してしまった。店
長と哲夫は、彼らのところへ返り討ちに行く。この世の中で大事にしている二つのものが壊
されてしまったからだ。哲夫はナイフを手にする。踏みにじられ、虐げられてきた者の怒りが
ここで爆発する。彼らの情念と絶望の深さのように、勢いよく噴出す鮮血、そして自身も深
い傷を負った彼。彼の表情をただ呆然と切ない表情で見ているだけの千加。本当はお互い、
愛し合っていたということをここで気が付いたけど、気が付くのが、遅すぎたのだった…。

青春映画としても、10本の指に入るのではないかと思うくらいのエモーショナルなエンディ
ングは胸を鷲掴みにする。心優しき青年は、全身血まみれで、傷の痛みに顔をゆがめなが
らも田舎の母親に電話する。「お母さん、僕の仕事は順調だよ。ボーナスが入ったらお母さ
んにエアコンを買ってあげるよ。僕のことは心配しないで。体に気をつけるんだよ、母さん…」
バックに流れるのは、アリスの名曲「狂った果実」。そして、傷ついた体で走る彼の後ろをパ
トカーが走り、彼を追い抜いて止まる…。なんという痛ましさだろう。セックスと暴力でしか、
鬱屈した気持ちを解き放つことのできない彼の、凄絶な悲劇。

とっても印象的なのが、店長の妻春江を演じた永島瑛子。少し頭が弱そうな彼女は実に
純真な女性として描かれている。とても愛している店長が、出産のためのお金を持ち出し
てしまってショックを受けた彼女は、「お願い」と哲夫を誘って体を重ねる。その後で「あり
がとうございます」なんて言ってしまうんだもの。彼女が流産してしまったことが、店長と哲
夫の二人の怒りに油を注ぐことになってしまったのもよくわかる。蜷川有紀も、若さゆえの
傲慢さと残酷さが絶妙で、お金持ちの不良お嬢様が実にはまっていた。コワモテの店長
に秘められた優しさと虐げられた者の卑屈さ、暴力性を体現している益富信孝も素晴らしい。

ロマンポルノ作品ではあるが、ベッドシーンも少なく、一般映画とほとんど変わらない。だけ
ど、ロマンポルノゆえの、人間の濃密で深い情念を感じさせる素晴らしく、この上なく心を揺
るがす作品だ。全く違う階級の男女の間の愛と闘争というテーマにリアリティを持たせた作
品は、今の日本ではもう作ることができないだろう。

天使のはらわた 赤い淫画

監督:池田敏春
出演:泉じゅん、阿部雅彦、鶴岡修、栗田陽子、伊藤京子

デパートガールの土屋名美は、同僚に騙されてビニール本「赤い淫画」のモデルにさせら
れる。やがて不倫相手である上司に、ビニ本モデルであることがばれ、彼女はデパートに
いられなくなってしまう。一方、無職で引きこもっている青年村木は、「赤い淫画」の名美
にどうしようもなく恋する。都会の闇に堕ちて行く男女を描く、石井隆原作/脚本の「村木
と名美シリーズ」4作目。

地道に生きていた普通の女が堕ちていき、彼女に恋した男とは結ばれることなくすれ違っ
てしまうという純愛物語は、「天使のはらわた 赤い教室」とほぼ同じモチーフ。土砂降り
の雨、赤い光といった描写も、共通するところがある。しかし、全体的に見ると、これは同
じストーリーではあるけど変奏曲であるのがわかる。

ここでの名美は、すでに大きく運命を狂わされている「赤い教室」の名美とは違って、最初
は上司との不倫を楽しむごくごく平凡なOLという感じである。そんな彼女が、ビニール本の
モデルになってしまったことから、自分の中のエロスに目覚める。生活感あふれるアパート
で、炬燵の赤い光に照らされて彼女が汗まみれになり、オナニーするシーンは圧巻である。
自分の中の欲望をどうしても抑えられない彼女の性が、執拗なまでに描かれる。「赤い淫
画」を見て彼女に惚れた村木に追われても逃げ回り、「私はそんな女じゃないのよ」と言う。
だけど、もはや彼女は元の世界には戻れない。図らずもセックスに取り憑かれてしまった
女のどうしようもないエロティシズム。可愛らしい顔をした泉じゅんの凄絶なまでの乱れっぷ
りには、息を呑むばかり。炬燵の光で赤く染まった部屋は、まさに「赤い淫画」である。

そして、「赤い教室」では中年男だった村木だが、ここでは若さの持つ痛ましい切なさを漂
わせている。村木は今で言えば引きこもりの青年で、仕事もしないでぶらぶらしているの
で、近所の人たちからすれば怪しい男だ。何をするにも無気力な男が、名美を見てどうしよ
うもなく恋してしまい、彼女の姿を捜し歩く。ようやく見つけた彼女をストーカーのように追い
かけ、彼女が逃げ込んだトイレの個室の外で、不器用な愛の告白をする。彼女のアパート
の外で、バケツをひっくり返したような雨の中を何時間も待ちつづける。やっと彼のことが心
配になり、赤い傘をさして出てきた名美との、びしょ濡れになりながらの抱擁の美しさ。「赤
い教室」のときと同様、「明日の夜7時に新宿で」と待ち合わせをする。そして、「赤い教室」
のときと同じく、彼はその時間に行くことはできなかった。

村木の近所に住む高校生の女の子がレイプされて殺された。一人暮らしで仕事もなくぶら
ぶらしている村木が真っ先に疑われた。日ごろから、近所の小市民たちに疎ましく思われ
ていたのである。女の子の父親に撃たれ、瀕死の重傷を負いズタボロになりながら、名美
に借りた赤い傘を片手に待ち合わせ場所へと這っていく村木だったのだが…。名美と村木
の視線が一瞬合ったところでエンドマークとなる構成は実に見事だ。ここで、切ない余韻と
かすかな希望が断ち切られるという残酷さ、それこそが石井ワールドである。