日活ロマンポルノ・小沼勝特集

夢野久作の少女地獄/妻たちの性体験・夫の目の前で、今…ラブハンター 熱い肌
生贄夫サディスティック&マゾヒスティック箱の中の女 処女いけにえ
濡れた壷OL官能日記 あァ私の中で

夢野久作の少女地獄

監督:小沼勝
出演:飛鳥裕子、小川亜佐美、絵沢萠子

厳格な女子高に通うふたり、深窓の令嬢殿宮アイ子と、変わっているため「火星さん」とあだ
名が付けられている歌枝。怪しまれるほど仲の良いふたり。しかし無垢なふたりの絆は、汚
れた大人たちによって傷つけられる。ふたりは大人たちに復讐をするのだった…。

舞台が大正とおぼしき時代、深窓の侯爵令嬢とか厳格な女の園とか、出生の秘密とか少女
同士の愛とか出てくるというのは、いかにもステロタイプ的なのだが、この舞台装置が非常に
良くはまっている作品である。しかも、単なる耽美的な女子学園ものに終わらなくて、とんでも
ない方向へとストーリーが暴走する作品である。それゆえ、カルト映画として有名になってしま
うのだが。

ロマンポルノ作品ではあるが、ポルノ色は非常に薄く、キッチュで耽美的な少女たちの世界
が展開する。ふたりの間の気持ち、そしてふたりの処女性を象徴するのは、どこからともなく
現れる白い風船。弾むような彼女たちの肉体と同じ感触を持つ風船と、少女たちは一見無邪
気に戯れる。彼女たちは、誰にも邪魔されない清らかな小宇宙を作り上げていた。まるで「ヴ
ァージン・スーサイズ」の5人姉妹のように。走ることが大好きで、あんパンも大好きな火星さ
んと、怜悧な美貌の持ち主の令嬢アイ子は対照的な存在だが、同じような痛み、苦しみを持
つようになることで、深くて強い絆を育んでいく。

ふたりの風船を壊そうとするのが、汚れた大人たちなのであった。令嬢のアイ子と、貧しい歌
枝が親しいのを快く思わず、風船を意地になって踏みつけ割ってしまうオールドミスのトラ子
先生。パチンと割れた風船は、やがて来るふたりのイノセンスの喪失を象徴している。アイ子
の父親は侯爵家の出身だが、芸者を屋敷に連れ込んでは、病気の母親の耳に入るように淫
らな声をあげさせる。そして変わってはいるけど純粋な「火星さん」は、堅物に見えた校長の
毒牙にかかり汚されてしまうのであった。「先生は、あなたを待っている間に、けだものになっ
てしまいました」と校長は歌枝に襲いかかるのだ。

彼女たちの心の痛みの表現が、まことに凄惨な美しさを誇る。アイ子の家にあるピアノの角に
下腹部を打ち据えて、校長に孕まされた子を堕胎する歌枝。観ている方が痛くなりそうなほど
の強烈な表現だ。校長に汚された夜、色鮮やかな着物をまとって月明かりの浜辺へ駈けて行
き、火照った体を冷たい砂と波で冷やす歌枝の、それまでは現れなかった美しさ。月明かりに
照らされた波と、少女っぽい着物の柄が幻想的なコントラストを作る。処女を思いがけない形で
奪われてしまった哀しみが波間に浮いている。卒業式の晴れ着に身を包んだ歌枝の、死んだ
ようなまなざし。式の後、アイ子と歌枝が写真館でコスプレ写真を撮り、はしゃいで戯れるもの
の、しまいには抱き合って泣き出すシーンの甘やかな切なさ。だけど、ここから、物語は急展開
し暴走するのである。

しまいにはキッチュな表現が全開となる。教室で焼身自殺を図った歌枝の焼死体(これがまた
作り物ぽくて滑稽だ)から切り取られる黒こげの脳髄。それをむりやり校長に食べさせてしまう
アイ子。父親の目の前で乞食坊主と交わり「この中に乞食坊主の血が流れているわ。校長の
血も、学校の書記の血も。私は殿宮家のスキャンダルの象徴なのよ。オホホホ」とアイ子は高
笑い。
そう、この映画は、少女たちの血の物語。歌枝の脚の間を流れる胎児の血。アイ子の出生の
秘密、スキャンダルにまみれた彼女の血筋。それゆえ、アイ子と歌枝の関係は血よりも濃いも
のとなる。彼女たちのこの上ない暗い情念と哀しみを、この奇妙な演出が際だたせている。

歌枝のあだ名が「火星さん」というところから、予想される展開だったのかもしれないけど、まさ
か宇宙までいってしまうとは…。何しろ最後の台詞が「地球の皆さん、さようなら」なのである!
地の果てのような荒涼とした山麓で、若い肉体を炎に包んだふたりから飛び立つのは、白い風
船。宇宙っぽいロック音楽が流れ、彼女たちの魂は本当に宇宙へと飛んでいくのだ。

妻たちの性体験ー夫の目の前で、今…

監督:小沼 勝
出演:風祭ゆき、高原ユカ、佐々木美子
海沿いの瀟洒な邸宅に住む夫婦。しかし夫は、美しく洗練された妻がいるのに、覗き部屋の
若い娘由香に溺れてしまう。由香のバックにいる男たちは、由香が死んだように見せかけ、夫
を脅迫。妻・沙織の体を自由にしていいという約束を取り付ける。そして沙織は男たちに犯され
てしまうのだが…。

沙織役の風祭ゆきの美しさに圧倒されてしまう。華奢な体つきに大きな瞳。そんな彼女が男た
ちに犯され、それが夫の同意の元で行われたことを知り、変わっていく。清楚な若奥様風の彼
女が、蛹が羽化するように魔性の女へと花開いていく、その変化。そして、彼女を見る男たちの
視線も変わっていく。毎日彼女が歩いていく海沿いの坂道。彼女の横を、大学生たちの一団が
ランニングする。上品な美しさの彼女を見て、彼らが全員パンツの前を脹らませるのが、笑える。
もう一人、彼女を見ては勃起する男がいる。それは、夫婦の使用人である若者。男たちに犯さ
れて変わっていった沙織は、この若者を誘惑し邸宅の中に連れ込むが、若者は怖じ気づいて行
為に及ぶことができない。

この映画では、男の欲望の情けなさが描かれているようだ。美しく品のいい妻よりも、風俗で働
く美しくもなく知性もない若い娘に溺れ、しかも「パパ」と呼ばせて喜んでいる男。女主人が水着
姿で泳いでいるのをヨットの上から見て、思わず射精してしまうのに彼女から言い寄られても何
もできない若者。そして沙織がお洒落をして歩いているのを見て、パンツの前を脹らますだけで
なく、全裸の彼女をまるでラグビーボールのように掲げて奪い合いをすることを夢想する大学生
たち。実際には由香は死んでなどいなくて、夫を脅した男たちとグルなのであるが、それを信じ
ることができなくて、彼女の姿を追い求める夫。沙織が圧倒的な美しさと神々しいまでの品格を
湛えているのとは対照的に、男たちはどうしようもない。

使用人の青年が、大学生たちに邸宅の鍵を渡してしまい、彼らは沙織を襲うために邸宅に押し
入る。大勢の学生たちが、夫を縛り上げ、彼女にたかり、犯そうとする。それはもう、とんでもな
い事態なのだが、ここまで大勢の男が一斉に彼女に群がると、これはもうほとんどギャグにしか
思えない。しかも音楽はノリノリのサンバで、まるでお祭りのような雰囲気なのだ。一人の女王
蜂にたかる蜂たちのようだ。そんな中、学生たちを手引きした使用人の青年は、やっぱりどうす
ることもできない。カーニバルのような祭典は果てしなく続いていく。もみくちゃにされながらも、
沙織が最後までノーブルな雰囲気を崩さないのは、風祭ゆきの抱きしめると折れそうな細さと、
硬質な美しさの仕業だ。

ラブハンター 熱い肌

監督:小沼 勝
出演;田中真理、相川圭子、織田俊彦

美貌の若妻志摩子が、ヒッチハイクの男女3人組を車に乗せる。カップル一組は後部座席で
セックスを始め、もう一人の男は助手席で彼女を誘惑。何事もなかったように家に戻る彼女だ
ったが、その男は彼女につきまとう。志摩子の夫は、彼女が起こした交通事故のため性的不
能になっていた。志摩子は幼なじみの男と車内で不倫をするが、車は再び事故を起こして男
は死亡。その現場を、ヒッチハイクの男が写真に収めて彼女の夫を脅迫する。

フェティッシュな感覚があふれている作品。志摩子役の田中真理の、どこかバランスの崩れた
美しさがひときわあでやかだ。お金持ちの奥様という設定のため、豪奢な洋館に住み、寝ると
きはふわふわの羽根のような、毛皮のような上掛けを掛けている。ヒッチハイクの男に「関係
ないわ」と言ったときの口の動きが素敵だ、と言われ、鏡の前でその言葉を繰り返す志摩子
の口元のアップ、真珠のような歯が唇からこぼれるところのエロティックなこと。妄想の中で、
その白い裸体の上に後ろから抱きすくめるような形に描かれた黒い手形。真っ白いバスルー
ムに残した赤いキスマークが妖しくシュール。事故で入院した彼女の、足のギプスも倒錯的。
彼女の裸体の上に夫がリンゴの皮を剥いて、血のような色の紐で緊縛したように見えるところ
も鮮烈。彼女の浮気をとがめる夫は、サディスティックに彼女を責め、革のブーツで踏みつけ、
むち打ち、さらには蝋燭を口に含ませる。蝋燭の蝋を垂らすのではなく、口に含ませるという
行為に意外性があって、これもさらにエロティシズムを増幅させる。
使用人の男は彼女に恋慕するあまり、彼女の靴を盗んで隠し持つ。そして、彼は彼女の白い
体を思わせるような白ウサギを絞め殺すのだ。

志摩子と性的不能ゆえサディスティックになった夫がふたり住まう洋館は、おとぎ話にでてき
そうなファンタジックさとキッチュな不気味さがある。居間には、後期のゴヤの絵のような、実
に気色悪い顔ばかり描かれたどす黒い絵がいくつも飾ってある。ヒッチハイカーの一味のヤク
中の若い女が、夫を強請ろうとやってきたときに、彼女はこの不気味な絵に恐怖し、逃げまど
ううちに夫と使用人にハサミで刺し殺される。

サングラスをかけてファッショナブルにキメ、高速を走る志摩子。ヒッチハイクするフーテンの
男女の車内での痴態。交通事故で不能になった夫。カーセックスの最中の事故で死ぬ幼な
じみの男。そして最後にタクシーで走り去る志摩子。クルマというモチーフも実に巧みに使わ
れている。クルマの持つスピード感と官能性、そしてエロスとタナトゥスの二面性が生きてい
るのだ。カーセックス中の事故のシーンは、死とエロスが隣り合わせであることを思い知らせ
てくれて、どこかクローネンバーグの『クラッシュ』を思わせる。というか当然こっちの方が先な
んだが。

やがてヒッチハイクの男と結ばれる志摩子であったが、彼女は夫も捨て、男も捨てて一人旅
立つ。夜明けの海で「もう俺とは会わないんだな」「わかってくれたのね」と交わす会話。カッ
コ良すぎるよ。小沼監督作品のヒロインは、みんな、男を必要としないほど強いのだ。

サディスティック&マゾヒスティック

監督・出演:中田秀夫
出演:小沼勝、谷ナオミ、木築沙絵子、片桐夕子、風祭ゆき、小川亜佐美

新宿駅東口。ここに止めたライトバンの中で、ロマンポルノ後期作品『箱の中の女 処女いけ
にえ』の撮影が行われたのであった。炎天下、しかも大変な人混みの中で、ベッドシーンをビ
デオ撮りしたのである。そのときの助監督が、今では人気映画監督である中田秀夫。このド
キュメンタリー映画の作り手でもある。ロマンポルノの異色の巨匠・小沼勝、そして彼を取り
巻く人々に中田がインタビューし、小沼の世界、そして中田がついに監督することができな
かった日活ロマンポルノを振り返ろうとする作品である。

映画のタイトルが『サディスティック&マゾヒスティック』というのだが、小沼がSMを題材とし
た映画をたくさん撮っていることから来ている。だけど、それだけがタイトルの由来ではない。
小沼は、徹底的に自分の美学を追究し、スタッフや俳優をサディスティックなまでに追いつめ
て、ギリギリの精神状態の元で映画を作ったのだった。中田秀夫は小沼に対して3回ほど殺
意を抱いたという。『箱の中の女・処女いけにえ』の中で、まだ10代だった木築沙絵子が下
水路の中を全裸で逃げ回るシーンがあるが、そこでは、なんと下水道をせき止めて、ウジ虫
が這い回る中を撮影したという。他にも、強烈なエピソードの数々が、スタッフや俳優たちか
ら証言される。彼は、強烈な絵を作るためには、何でもする人なのだ。ヘルツォークほどでは
ないにしても、一種の怪人なのである。

女優を引退し、今は九州に住んでいる谷ナオミとの再会。小沼と谷は日活撮影所で『生贄
夫人』を鑑賞するが、この映画では、谷がサディスティックな元夫の目の前で排泄行為を強
いられる場面がある。恥辱で消え入りそうになりながらも、着物の裾をまくり上げて谷が脱
糞するというものだ。黄金色に輝く大便が印象的なのだが、そんなシーンをふたりで観て撮
影所の食堂でカレーライスを食べるなんて!びっくり。

小沼勝の風貌で印象的なのは、女優たちも語っていたように、眼鏡の奥の目が鋭く、そし
て青みがかっていることである。昔話に花を咲かせても、目は決して笑っていなくて、猛禽
類のようである。スタッフや俳優に対する要求が大変厳しく、徹底的に自分のスタイルを貫
いた彼は、ロマンポルノの製作が中止されてからは、10数年劇場用映画を撮らなかった。
小沼の作品は、実に美意識が高くフェティッシュで、ポルノグラフィでありながら孤高の作家
性を感じさせるものばかりであるが、それ故、劇場用映画を撮る機会に恵まれなかったの
である。ようやく撮ることができたのは、去年公開された『NAGISA』で、この作品の撮影シ
ーンも登場するが、こちらのヒロインは12歳の少女だ。だけど、相変わらず小沼の眼光は
鋭いのであった。

日活ロマンポルノは、経営不振に陥った日活が一般映画の製作を中止し、低予算のポル
ノ映画に活路を見出そうとするものであった。「ベッドシーンが10分間に一回入ってさえい
れば、好きに撮ってかまわない」ので、小沼はほとんどやりたい放題に、自分の美意識の
まま映画を作ることができたのである。低予算でセックスの場面を必ず入れなくてはならな
いという制約はあったが、悪条件をはねのける、作り手や俳優たちの情熱がこれらの見事
な作品群を作り上げたんだな、と実感。

ロマンポルノとは一体何だったのか、そのあたりの突っ込みがやや浅く、当時のスタッフや
俳優たちの懐かしい話で終始してしまっているという欠点がある。が、小沼の代表的な作
品からの有名なシーンは網羅されているし、当時、これらの作品群に関わった人々の熱気
の片鱗は伺える。小沼勝という映画作家を知るための入門編としては、資料的な価値があ
るドキュメンタリーだ。中田秀夫の、師匠小沼、そしてロマンポルノに対する愛憎がこめられ
ている作品。

生贄夫人

監督:小沼勝
出演:谷ナオミ、坂本長利、東てる美

失踪していた夫が幼女を誘拐したという容疑に問われ、捜査の手が妻にも及ぶ。そんな
矢先、夫が妻の目の前に現れる。彼は彼女を廃屋に監禁。そして心中未遂の若いカップ
ルも廃屋に連れ込みそれぞれを縛り上げサディスティックに責め立てる。やがてマゾヒズ
ムに目覚める妻であった…。

谷ナオミのゴージャスで和風の美しさがひときわ映える。着物姿も慎ましやかな色気があ
るが、やはり一番美しいのは、緊縛された姿である。これほどまでに縛られているのが似
合う女優がいただろうか。白くてむちっとした肌に、日本人離れした豊満でダイナミックな
プロポーション。縛られたときにはみ出す肉の形がこの上もなく美しい。情の深そうな顔立
ちをしているので、緊縛されていると本当に恥ずかしくて仕方ないという表情を見せてくれ
て非常に魅惑的である。

サディスティックな夫は、便意を催した彼女に、目の前で排泄行為をすることを強いる。彼
の目の前で排泄するか、厠ではないところで排泄するかの二者択一で、仕方なく彼が見
ているところで排便する。着物の裾をまくり上げて、本当に恥ずかしくて消えてしまいたい
という表情を見せる谷が可哀想に見えて仕方ない。そして、彼女の白い尻から落ちる排泄
物は黄金色に輝いているのである!

彼女の夫というのが、筋金入りの変態である。もともと幼女愛好家で、誘拐した幼女にも
「おじさんは小さい子じゃないとダメだと言っていたじゃない」と言われてしまうほどだ。元
教師という職業も、いかにも真面目だった男が堕落したなれの果てという感じではまって
いる。幽霊が出そうな山の中のボロボロの家で、少女とふたり住んでいたというのだから
凄すぎる。この家も、障子が全部破れていたり、なんだか手の込んだ荒廃ぶりで雰囲気十
分。そこで彼は妻を縛り鞭打ち歓びに浸るのである。妻に花嫁衣装まで着せてしまって縛
り天井から吊すのだから、ホント強烈だ。谷ナオミのあでやかな花嫁衣装姿で吊されてい
る様というのがさらに凄惨な美しさを誇る。歪んだ笑いを浮かべる夫の姿は、変態となって
しまった男の哀れさを醸し出している。

そんな彼なのだが、歪んではいるものの妻に対する深い愛情は持っていたようで、逃げだ
そうとして別の男たちに襲われてしまった彼女を温泉でかいがいしく介抱する姿がかえって
痛ましい。やがて妻も、そして後に誘拐されたカップルも、マゾヒズムの虜になってしまい、
自らを強く緊縛してしまうのであった。若いカップルなどは、お互いを密着して縛り合った挙
げ句互いの首を同じロープで絞めて、今度こそは心中に成功してしまうのである。夫は、欲
望に目覚めてしまった彼らを見捨て、再び幼女趣味へと逆戻りしてしまうのであった。

小沼作品であるからして、相変わらず映像の美学は冴えまくっている。谷ナオミが花嫁衣
装で吊されているところのぐるりと舐めるように撮った様子も忘れがたいし、男たちに襲わ
れた彼女が林の中で倒れていて、彼女の上を、死体をむさぼる禿げ鷹を思わせるような大
きな鳥が覆うように止まっているカットも鮮烈だ。芸術的なまでの緊縛。ラスト、谷が自らを
縛った姿で廃屋の床にモノのように横たわっているというのは衝撃的だ。苦しそうでいて、
歓びも感じているような彼女の表情。自分一人で自分をあんな感じに縛ることができる人
は絶対にいないと思うけど。

箱の中の女 処女いけにえ

監督:小沼勝
出演:木築沙絵子、蔡令子、田村覚

一組の夫婦が若い娘を誘拐する。彼らは娘の処女を奪い、箱の中に閉じこめる。箱から
出しては理不尽な暴力を加え、その姿に興奮する。暴虐の限りを尽くした後彼らは警察に
出頭するのだが…。

ロマンポルノ末期のハード路線「ロマンX」としてビデオで撮影された作品なので、全体的
に非常にチープな雰囲気だ。当時はやっていた聖子ちゃんカットの娘のバックにおニャン
子クラブの歌が流れる。なんの罪もない娘はこれでもか、というほどの陵辱を受ける。あり
とあらゆる辱めと暴力。彼女に加えられるおびただしい暴行を観ては興奮する夫妻。極め
つけは、箱に閉じこめた娘を海辺に連れていき、うつろな目をした彼女の血管から細い管
を通して少しずつ血を抜いていく拷問。体から抜かれた血が少しずつ瓶にたまっていくの
だ。特に男の方の台詞がいちいち芝居がかっていて笑えるのだけど「自分から抜かれた
血が一滴ずつたまっていくのを見ながら死ね!」なんだもの。なんじゃこりゃ、である。しか
もここではばらさないけど、このエピソードにはオチがあるのだ。

娘は監禁されている地下室からの脱出を試みる。地下水道を伝って、全裸で、下水まみ
れになりながらも必死に逃げるが、男の「糞尿や動物の死骸や堕胎された胎児などこの
街のあらゆる汚れが集まった下水だ。その中に入れるかな。がはははは」なんて高笑い
が下水にこだまするのである。それでも一生懸命に逃げようとする娘がひたすら哀れだ。

あらゆる陵辱を娘に加えた後、夫婦は娘を警察に連れていき、彼らは逮捕される。娘は
警官に自分がどんなに酷い目にあったのか話すのだが、すっかり夫妻に調教されてしま
った後であって、その被害を実演までしてしまう。夫婦は劇場型犯罪を目指していて、彼
らの行った犯罪行為が世間に広まり、一躍有名人となることを夢見ていた。自分たちをマ
スコミのカメラが取り囲むことを想像して陶酔の表情まで浮かべるのだが、しかしそんな
に思い通りに行くものではなかったのだった。彼らを待ち受けるマスコミや「変態!」と罵
声を浴びせる群衆などなかったのである。反面、娘は一躍有名人になってしまう。だけど
最後に娘は自ら地下室に戻り、箱の中で夫婦を待ち受ける。「おかえり」と。

夫婦が娘に加える陵辱行為のバリエーションと、その芝居がかったやり方が見物。彼ら
は自分たち同士のセックスよりも、サディスティックな行為を第三者に行って興奮したり、
自分たちの変態行為が世間に知られて罵声を浴びることに陶酔する真性の変態夫婦な
のであった。だけど、彼らの強烈なキャラクターに対して、娘の方は単に哀れな被害者で
あり、有名になったり夫婦に調教された結果マゾヒストになったというのも受動的な行為
である。サディズム/マゾヒズムが一方通行で終わっていて娘の意志が感じられないの
で、「表現」としては面白くても、メッセージ性や関係性の描写はかなり弱い。これまで観
た小沼作品独特の冴えが見られなくて、ただ過激になっているだけ。楽しめなかった。

濡れた壷

監督:小沼勝
出演:谷 ナオミ、井上博一、藤ひろ子、日野道夫

バーのうら若きマダム亜紀。彼女の夫と駆け落ちして消息を絶っていた母親が帰ってく
る。母親は若い男を拾って寝るなど相変わらず身持ちが悪い。弟は東大受験に失敗し、
戦中派の父親は競馬狂。そんな家庭問題を抱えながらも、彼女はストイックに暮らして
いて、自分の幸せを放棄しているのではないかとまで思える。そんな彼女は、真面目な
ボーイフレンドから求婚される。だけど、そんな彼女を狙うマネキン業者の男・花松が彼
女に襲いかかり…。

この映画も、ヒロインの谷ナオミの色香が印象的。しかし、ストイックで控えめなキャラク
ターの彼女より濃厚なエロスを放つのは、マネキン人形たち。客である花松の事務所に
行った亜紀を待っていたのは、おびただしい数のマネキン。そのイメージは強烈でシュー
ルだ。事務所のマネキンは服も着ていなければ髪の毛もなくて、みんな個性を失った無
機質な存在であるはずなのに、大きく見開かれた目、濡れたような唇がとてもエロティッ
クなのだ。単なる人形であるマネキンに花松が愛撫を加えていくうちに、亜紀も自分の
体の同じの部位を愛撫されているような気分になり、花松のことは全然好きじゃないの
に感じてしまって「夕立に遭ったような」思いをする。おそらく、実際に花松に愛撫される
よりも、感じてしまっているのではないかと思わせるのだ。フェティシズムに彼女が目覚
めてしまった瞬間である。

母親は相変わらず若い男を拾っては寝るが、美しかったはずの自分が年老いて醜い存
在になりつつあるのを実感させられてしまう。父親は軍隊の同窓会でしこたま酔っては
暴れ、10年ぶりに性的能力が回復するが女子学生を強姦して逮捕されてしまう。刑務
所に収監された父親に面会しに行った帰りの亜紀。刑務所の出口から出てくる美しい彼
女。出口には、親分の出所を待ちかまえている若い者たちが大勢待ちかまえている。み
んな黒いサングラス姿。刑務所には似つかわしくない、白いタイトなワンピース姿の亜紀
に視線が突き刺さる。無数のサングラス姿の若者たち。彼らの視線を一身に浴びた亜紀
は、再び「夕立に遭ったみたい…」と婚約者に電話で囁く。彼女の唇のアップ。あのとき
のマネキンの唇とそっくりで、紅くふくらんで艶やかな色を湛えている。

フェティッシュな表現の中に、当時のヒット曲内藤やす子の「弟よ」や、戦中派の父親(
彼は大声で軍歌を歌う。歌というモチーフの使い方も巧み)といった社会情勢を挟み込
ませているのがとてもユニークである。

それにしても谷ナオミの古典的な美しさといったら!たぶんもう日本では絶滅してしまっ
たような美だ。上品で控えめで、でも肉感的で情が深そうで凄絶な色香があって。この
映画では縛られないが、縛られている姿がこれだけ美しく絵になる女優は他にいないと
思う。

OL官能日記 あァ!私の中で

監督:小沼勝
出演:小川亜佐美、日野道夫、中島葵

定年退職した父親とふたりで暮らす平凡なOL亜佐美。彼女は上司と不倫の関係にあ
った。でも父親を安心させるためにお見合いもする。そんな彼女が、不倫相手のパイプ
カットを知り、さらに父親と彼女の同僚の女性が恋愛したり、ヒヨコ売りの青年と関係を
持ったことにより、自分のためだけに生きることを決意する。

主演の小川亜佐美は実際にOLだったことがあったらしくて、彼女の演じる、地味で平
凡だけど真面目なOLぶりが非常にリアルだ。現代に生きる私たちOLにも共感を得ら
れそうなキャラクター。中央線沿線の団地の小さな部屋で、父親と肩を寄せ合って生
きている。そんな真面目な彼女だったからこそ、上司との不倫にものめり込んでしまっ
たのだろう。しかし、上司は男のずるさの権化のような男。お見合いから抜け出してき
た振り袖姿の彼女とセックスするとき、「自分はパイプカットしたから生でしても大丈夫
だ」とうそぶく。不倫相手と結婚できるなんてことは夢のまた夢だったかもしれないけど、
彼女の希望を粉々にうち砕く不用意な発言だった。抱かれながらも彼女に見えるのは、
幸せそうな花嫁の姿。ここは結婚式場だったのだ。

そんなときに出会ったのが、夜店のヒヨコ売りの男。黄色いヒヨコたちに囲まれながら
のベッドシーンは鮮やかな印象を残す。「故郷の九州に一緒に来てくれないか」という
彼に、一瞬答えを躊躇する彼女。そして別れの言葉を告げるために、初めて逢瀬した
温泉旅館に不倫相手と行き、ここが初めての場所だったなんてことをとうに忘れていた
彼を置いてヒヨコの彼のところに戻る。だけどアパートはもぬけの殻。ただ一匹のヒヨコ
が彼女を待っていただけだった。

不倫相手を残し、白いトレンチコートに包んだ彼女が夜明けの海を見て、バスに乗って
彼の元へ向かう。空のアパートに到着しても彼を待ち続ける。やがて意を決したように
一人街をさまよい歩いていく…。この一連のシークエンスに大音量で被さるのが、カル
メン・マキ&OZの名曲『私は風』。「今日からは私 風のように自由に生きるわ」という
歌詞がそのまま、ヒロインの心情を見事に歌い上げている。この日本ハードロック史に
残る曲をフルコーラス使い、しかもその間に台詞は一切なく最後まで突っ走るという演
出が忘れがたい印象を残す。ギターのリフやドラムのリズムが、東京へ戻るバスのエ
ンジン音と共鳴する。はじめは静かに歌い上げていたメロディが、どんどん激しさを増し
最後は叫びへと変わっていく。決意を込めた表情の小川亜佐美が雑踏の中を歩き、そ
して消えていく。いつまでもこの曲の余韻と感傷に浸っていたいと思わせるエンディング
だけで、この作品は不朽の名作の地位を与えられたはずだ。