修羅雪姫 |
監督/脚本:佐藤信介
出演:釈由美子、伊藤英明、佐野史郎、嶋田久作、長曽我部蓉子、真木よう子、沼田曜一
現在とは時間も空間も異なる“もうひとつの未来”。“その国”では、500年間鎖国政策
が続けられ、希望もなく静かに淀んだ空気が支配していた。隣国で古来よりミカド゙に
仕えてきた建御雷(たけみかづち)家は、反政府組織を鎮圧するため政府に雇われた
が、やがて金で誰でも殺す暗殺集団と成り果てた。建御雷家の娘・雪は、冷徹な刺
客として育てられる。ある日、雪の前に空暇(くうか)と名乗る老人が現れ、雪の母を
殺したのは、建御雷家の首領・白雷だと告げる。白雷に刃を向けたが傷ついた雪は
追手を振り切り、逃亡。途中で出会った反政府組織の活動家、隆の家に身を隠すが、
非情な刺客たちの影が雪に迫る。
恐ろしくカッコいいところと、あらら…というところに分裂してしまっている映画。オープ
ニングのアクションのつるべ打ち、建御雷家の一味が真っ青な空と水平線をバックに
仁王立ちするところなんて、もう鳥肌が立つほどのカッコよさですげ〜と思ってしまっ
た。さすが、ドニー・イェンを香港から呼んで来ただけのことはある。ワイヤーを多用し
ているのだが、でもただ飛んだりクルクル回転しているだけではなく、情念のこもった
動きとして感じられているところに感心。ヒロインの釈由美子も、とても天然ボケのグ
ラビアアイドルとは思えない運動神経の良さがわかる奮闘ぶり。何よりも、被虐キャ
ラが似合うのだ。長曽我部蓉子との対決シーンの鬼気迫るところも、キャットファイト
っぽい女闘美がまたしびれる。釈ちゃんは台詞回しはまだまだ拙いのだが、鋭い目
線や、傷ついた、怯えた野獣のような表情がとてもいい。アイドルだったというのに、
ほとんど笑ったり泣いたりすることもないのだ。しかも美しいバックヌードまで披露す
るし。
終盤まできつい表情しか見せない雪は、それまでは人を殺すことしか教えられてこ
なかった。愛する者を殺された人間の気持ちというものがどんなものなのか、まった
く知ることもなく、感情のないままに生きてきたのだ。ところが、母の死の真相を知り、
そして、テロリストでありながら罪のない人間を爆弾で殺してしまったことを悔やみ
今も苦しんでいる隆の姿を目の当たりにする。そして、本当に愛した人間の死に直
面して、初めて涙を流し修羅と化すという感情の変化のプロセスが、非常に細やか
に描かれている。人の感情を利用して、さらに悪いことを企んでいる本当の巨悪の
存在は何か、というところにも言及しているという構成はなかなか上手い。
パラレルワールド的に存在している「もうひとつの未来」の世界観だが、美術はまこと
に素晴らしい。荒廃した未来世界に立ち並ぶ謎のネオンサイン。縦書きディスプレイ
のパソコン。衣装の一つ一つ。美術の一部としても機能している、演劇系のキャスト
の不敵な面構えの数々。ぬくもりとか温かみとは無縁の寒寒とした光景と、凛とした
空気。ただし、この時代背景を説明するのが、説明的な台詞ばかりというのは感心
しない。話の流れで、それがわかるようにしないと。
もう一つ言えば、カタルシスが決定的に不足しちゃっているのだ。これ以上書くと完
全にネタバレとなってしまうので書きにくいのだが。愛する者を無惨に殺された雪は、
復讐を誓うのだが、映画はそこで終わってしまっている。いくら母の敵を討ったところ
で、もう一つの敵を討たないで終わってしまうとはどういうことなんだろうか。おそらく
本当の復讐というのは続編において繰り広げられるんだろうけど、もしこれで続編が
なかったら怒るからね。