サウンドトラック盤の快楽


映画を観る楽しみの一つに、映画音楽がある。お気に入りとなった映画に使われている
音楽が素晴らしいと、嬉しくなるのはもちろんですが、音楽が良ければさらに映画が大好き
になったり、音楽が良ければ、映画そのものは大したことが無くても、記憶に残ったりしま
す。

映画のサントラ盤には二種類あります。映画そのもののために作曲されたスコアと、もと
もと存在していた曲を映画に使用し、まとめたサウンドトラック盤。わたしは、もともと音楽、
特にロック系が好きなので、今回は主に後者について語ることとします。楽曲そのものの
良さに加えて、その音楽ととともにその映画の名場面を思い起こすことができるというすぐ
れた特性があります。そう、この曲を聴くと、鮮やかにあの場面がよみがえってくるのです。
音楽って、特に想い出と結びつきやすいから。あの曲がはやったとき、カーステレオから
流れてきたとき、自分が誰といたか、思い出して胸がきゅんとする、それと似たようなもの
があります。


好きな音楽とその変遷

私の音楽の歴史は中学時代から始まっています。ちょうどベストヒットUSAが土曜日の
夜に放送され、そのあとにラジオ日本の「全米トップ40」を深夜まで聴くというのがパターン
でした。MTVが全盛時代で、デュランデュランなどが人気絶頂でした。
そのあと、高校時代はハード・ロック、ヘヴィ・メタルにはまっていて、ミニコミ誌までつくった
ものでした。最初は誰もが聴くディープ・パープル、レインボーあたりから始まり、当時ブーム
だったLAメタル(モトリー・クルーなど)、それにボン・ジョヴィの初来日公演も行きました。
それから、メタリカ、メガデスなどのスラッシュ系に行き着き、並行してプログレッシブ・ロック
(ラッシュ、キング・クリムゾンなど)も聴いていました。あとは、ジューダス・プリースト、オジー
・オズボーン、アイアン・メイデンも好きで、気がついたら月に30枚もレコードを買っていました。
その頃はまだCDの時代ではなかったのです。年がばれますね

ふとしたきっかけ(失恋)が原因でヘヴィ・メタル系を聴かなくなり、それからしばらくはまた
ヒットチャートものを聴き、それからソウル・ミュージックが好きになります。他に、もともと好き
だった70年代のロックもいろいろ探検し始めたりしていました。
今では、何でも聴くようになっています。去年は何年かぶりにメタリカのコンサートに行くし、
この間はフェイ・ウォンの武道館公演に行きました。最近のお気に入りアルバムは、アラニス・
モリセットの「Supposed Former Infatuation Junkie」、ローリン・ヒルの「The Miseducation of
Lauryn Hill」、クーラ・シェイカーの「Pigs, Peasants and Astranaouts」、カサンドラ・ウィルソンの
「Travelling Miles」です。

しかし、それ以上に映画のサントラ盤を聴くようになっています。今では、いい音楽だったら何
でも聴くという姿勢なので、いろんな音楽が聴けるというのがいいんですよね。
それと、音楽というのは、その時代を象徴する大きな要素で、その音楽を聴けば、その物語は
この年代だというのがわかります。ノスタルジアを感じさせるんですね。


おすすめのサウンドトラック盤

奇跡の海マトリックスウェディング・シンガー200本のたばこジャッキー・ブラウン
プリシラヴェルヴェット・ゴールドマインオースティン・パワーズ・デラックスブギー・ナイツ
ピアノ・レッスンブエノスアイレスムトゥ踊るマハラジャカジノロスト・ハイウェイ
ワンダーランド駅で

奇跡の海 Breaking The Waves

映画そのものも素晴らしいが、音楽を非常に効果的に使っている作品である。映画が7つの
章立てになっていて、一つ一つの章の前には、まるで一つの絵画のように静止した風景が
あり、テーマとなる音楽が流れる。これが物語に一つの効果を与えている。作品そのものが
一つの美しい寓話のように思えてくるのだ。音楽は、70年代のロックの名曲が主だ。デープ
・パープルの「Child In Time」、エルトン・ジョンの「Goodbye Yellow Brick Road」、ロキシー・
ミュージックの「Viriginia Plain」、ジェスロ・タルの「Cross Eyed Mary」などなど・・。もはやクラ
シックとなったこれらの曲が、普遍的なラブストーリーとしての味わいを与えている。
ちなみに、Cross Eyed Maryはアイアン・メイデンがカバーしていたこともあった。

マトリックス The Matrix

最新インダストリアルロックの代表的なグループの曲がぎゅっとつまって、映画と切り離しても
好き者には楽しめる1枚。特に印象的ななのは、エンドクレジットで使われたレイジ・アゲインス
ト・ザ・マシーンの「Wake Up」。グループ名そのものが、作品のテーマなのであるし、歌詞の内
容も、既成概念を捨てて目を覚ませ、というものだから、そのまんまテーマである。もちろん、
曲の格好良さもいうまでもないものだ。同じくエンドクレジットで流れるマリリン・マンソンの「Rock
Is Dead」もノリノリだ。映画の中で使われるので印象的なのは、ビルの中に侵入する凄まじい
アクションシーンで使われるプロペラヘッズや、最初の方のクラブのシーンのロブ・ゾンビあたり。
そのほかの曲も、たたみかけるような曲調が特徴的だが、粒ぞろい。

ウェディング・シンガー The Wedding Singer

まさにわたしの中学・高校時代にはやった曲がぎゅっとつまった、宝箱のようなサウンドトラック。
映画そのものも、結婚式場で歌を歌う芸人が主人公ということもあって、音楽が大きな要素を
占めている。オープニングはアダム・サンドラーの歌うデッド・オア・アライヴの「You Spin Me
Round」、彼のバンド仲間のボーイ・ジョージもどきは「Do You Really Want to Hurt Me」(君は完
璧さ」しか持ち歌がなく、ラストシーンではなぜかスティーブ・ブシェミがスパンダー・バレエの
「True」を歌う。(サントラではオリジナルのほうは収録されているが)
他にも、トンプソン・ツインズのHold Me Now、ビリー・アイドルのWhite Wedding、ポリスのEvery
Little Thing She Does is Magicなど名曲揃い。サントラ盤は2枚出ているけど甲乙つけがたい。
1985年の自分を振り返って胸がきゅんとしてしまう、そんなサントラ盤です。

200本のたばこ 200 Cigarettes

1981年の大晦日、ニューヨークが舞台とあって、「ウェディング・シンガー」よりも若干時代が
遡るが、やはり名曲揃い。パーティにはうってつけだ。この映画自体、MTVがプロデュース
したとあって、選曲は相当凝っている。BOW WOW WOWの「I Want Candy」から始まり、メー
ン・テーマ的なニック・ロウの「Cruel to be Kind」、ブロンディのメドレー、クール&ザ・ギャン
グ、カーズ、Go-Go'sなどこの脳天気な時代を象徴するようなポップでキラキラした曲が揃っ
ていて楽しい。極めつけは、最近すっかり映画づいていて、この映画でも本人がカメオ出演
のエルヴィス・コステロの「What's So Funny」。コステロが映画の中でどんな役割を果たす
のかは観てのお楽しみだ。

ジャッキー・ブラウン Jackie Brown

70年代のブラックムービーの大スターだったパム・グリアーをヒロインに起用したということもあり、
70年代ソウルミュージックの名曲が揃っている。
さすがタランテ
ィーノ、音楽のセンスは抜群だ。
ラストシーンに流れるボビー・ウーマックのAcross 110th Streetにはしびれる。パム・グリアーも
もともと歌手だったということもあって、元気な歌を聴かせてくれる。そして、ジャッキーに恋をする
中年の保釈金業者ロバート・フォスターが、彼女が聴いていたのと同じ曲のテープをカーステレオ
で聴く場面に、大人の純愛を感じたのであった。その曲とは、デルフォニックスのDidn't I Blow
Your Mind This Timeである。それまで知らなかったのだが、心を揺さぶられるような素敵な
ソウル・バラードだ。

プリシラ Pricilla,Queen of the Desert

オーストラリアの砂漠を旅する3人のドラッグクイーンたちの恋と冒険を描いたロードムービー。
むちゃくちゃ楽しくて、前向きで元気になれる映画で、大好きなのだが、サントラも最高なのだ。
ドラッグクイーンたちはハデハデにキメて、ステージの上で口パクのパフォーマンスを見せてくれ
るのが生業なのだが、曲選びのセンスが最高。いかにもゲイの人が好きそうな選曲で、冒頭の
出発の場面から、いきなりヴィレッジ・ピープルのGo Westなのだ。それから、グロリア・ゲイナー
のI Will Survive (「ビヨンド・サイレンス」でも効果的に使われていた)等70年代ディスコ・ヒットの
数々はノリノリで楽しい。登場人物の一人はアバが嫌いという設定なので、もちろんアバのMama
Miaも入っている。そして、シメはしっとりとヴァネッサ・ウジリアムズのSave the Best for Last.

ヴェルヴェット・ゴールドマイン Velvet Goldmine

デヴィッド・ボウイをモデルにしたといわれている、70年代グラムロックのスーパースター、彼の
栄光と挫折、そしてその時代に何かを変えようとしていた人々を描いた映画。映画そのものは
決して出来が良くなくて期待はずれに終わったのだが、出演した俳優や衣装の美しさ、そして
音楽の良さで許してあげようと思った作品だ。
ボウイが楽曲の提供を拒否したというわけで、当時の音楽そのものというとブライアン・イーノや
ロキシー・ミュージック、T.Rex、ルー・リードくらいだ。(サントラに納められているロキシーの
Virginia Plainは「奇跡の海」のサントラにも使われている)しかし、プラシーボの20th Century
Boy(もちろん個人的にはT.Rexのオリジナルのほうが好きだが)をはじめ、その時代のグラマ
ラスで妖しい感じは良く出ている。それと、主人公の二人、ジョナサン・リース・マイヤーズとユ
アン・マクレガーの二人の歌も聴けるのはもうけものだ。なかでもジョナサン・リース・マイヤー
ズは当時のグラムのスターさながらの妖しい熱唱ではまっている。

オースティン・パワーズ・デラックスAustin Powers The Spy Who Shagged Me

思わず限定盤の赤紫ベルベットジャケットのサントラ盤を買ってしまった。だって、
見た瞬間欲しい!と思ってしまったんだもん。飾っておくにもGOOD!
そして、曲も例によって粒ぞろい。マドンナの70年代っぽい「Beautiful Strangers」
から始まって、レニー・クラヴィッツの頭悪そうな「American Woman」、スパイス・ガ
ールズのメラニーBによるキャメオの一発屋ヒット「Word Up」、グリーン・デー、大爆
笑物のドクター・イーブルによる名曲「Just The Two of Us」ラップ、そして締めるの
はもちろんあの「Soul Bossa Nova」。最高のパーティCDといえる。映画ももう少し面
白かったら良かったのだけどね。

ブギー・ナイツ Boogie Nights

どうも映画界は70年代ブームのようで、「ブギー・ナイツ」のほかにも「オースティン
・パワーズ」「ヴェルヴェット・ゴールドマイン」「54」、そして、来年には必殺シンガ
ポール映画「フォーエバー・フィーバー」も封切られる。「フル・モンティ」「プリシラ」
など、舞台は70年代でなくても音楽は70年代だったりするわけだ。でも、なんと
なくこのサントラがもっとも70年代的なのではないかな、と思ったりする。同じ70’s
のヒットでも、なんだか濃いのだ。マーヴィン・ゲイやビーチボーイズ、エモーションズ、
ELOとどこかマニアックだけど時代の雰囲気を的確に捉えた選曲はさすがだ。そし
て、泣かせるのはナイト・レンジャーの「シスター・クリスチャン」。冒頭とお尻に、
ポルノ男優を引退して歌手となったダークが歌った曲が入っているのはご愛敬。
ヴァン・ヘイレンの「JUMP」のモロパクリなのが笑える。

ピアノ・レッスン The Piano

マイケル・ナイマンの手による流れる旋律が麻薬のように体に染み込む。ものを言わぬヒロイン
エイダに代わり、雄弁にピアノが彼女の感情のたかぶりを語る。官能的だが気品のある
映像にマッチした美しい音楽だが、このメーンテーマのメロディは耳をとらえて離さない。この
曲ばかりが有名で、CMにまで使われて憤慨したこともあったのだが、他の曲も素晴らしい。
一つのコンセプト作品として通して聴くにも良い。マイケル・ナイマンは「ガタカ」のサントラも
端正な音楽で、残酷なまでに美しすぎる未来での物語に調和していた。


ブエノスアイレス Happy Together

アストル・ピアソラ、フランク・ザッパ、そしてカエターノ・ヴェローソという3人の天才ミュージ
シャンの音楽をフィーチャーした。まったく違ったジャンルの音楽なのに、不思議に似合って
いる。中でもピアソラのバンドネオンによる音楽は、遠い異国の地でもう一度やり直そうと絶
望的な愛を捧げる二人のゲイの心情になぜか見事にマッチし、この上なく美しく官能的で
哀しい調べを奏でる。地元のタンゴ・バーで録音された音楽も、生々しく美しい。
このサントラで使われているピアソラの曲が入ったアルバムは国内盤が発売されていなくて
入手は困難。

ムトゥ踊るマハラジャ Muthu

ある意味では1998年最大の衝撃であるウルトラ・ハッピー・ムービー。これまで1度も見たことの
無かったインド映画のすごさを感じた作品。思わず3回観てしまったけど、何回観ても飽きない
気がする。映画の持つ原始的なパワーをこれほどまでに感じさせてくれた作品があっただろうか。
真面目くさって評論することが馬鹿馬鹿しくなる。この作品の魅力を言葉で伝えるのは不可能だ。
「とにかく、観ろ」としか言いようがない。
この映画の大きな魅力の一つに、豪華絢爛なミュージカルシーン、あの派手な衣装をとっかえ
ひっかえ踊りまくる桃源郷世界がある。そして、無敵のヒーロー、我らのムトゥの登場シーンで
歌われる「主はただ一人」のクセになるような起伏があってダイナミックなメロディ。このサントラ
を聴くと、ムトゥの活躍ぶりや美しいミーナの踊り、名シーンが鮮やかによみがえってきて、落ち
込んだときにもパワーを与えてくれるから、映像ばかりでなく音楽の持つ力も凄い。

カジノ The Casino

マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デニーロ、ジョー・ペシ、シャロン・ストーン出演の映画。
70年代の華やかな時代にカジノに夢を賭け、栄光を極めた後没落していった男たちの年代記。
というわけで、菜穂美の大好きな60年代、70年代の音楽がふんだんに使われている。この
サントラ盤は2枚組の大作。マディ・ウォーターズやBBキング、オーティス・レディングから始ま
って、ジェフ・ベック、ロッド・スチュワートの「I Ain't Superstitious」やクリームの「Those Were
The Days」、「House of the Rising Sun」、そして締めくくるのは、冒頭の爆発シーンにも流れる
バッハのマタイ受難曲。なお、プロデュースはロビー・ロバートソン。

ロスト・ハイウェイ Lost Highway

ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーがプロデュースした、デビッド・リンチ作品のサウンド
トラック。映画自体は非常に訳の分からない作品でありながら、隠喩に満ちた映像にクラクラする
気分に酔う快感を味わうものであった。そして、その気分を増幅させる、アドレナリン放出型の音
楽。オープニングのボウイの曲はクールな肌触りで、この異様な世界に引きずり込まれる。それ
からナイン・イント・ネイルズの疾走感、マリリン・マンソンの毒・・・。不気味さと格好良さが、この
映画によく似合っている。

ワンダーランド駅で Next Stop, Wonderland

ジョビンやアストリッド・ジルベルトなどのボサノヴァの名曲が網羅されていて、映画を観ていなく
ても、単体で楽しめるサウンドトラック盤。日曜日の昼下がりにはうってつけの心地よい音楽だ。
でも、映画のテーマとボサノヴァは密接な関係がある。ヒロインはボサノヴァが大好き。看護婦を
している彼女の元に患者として現れた情熱的なブラジル人男性が「コルコヴァード」の一節を口
ずさむところから、彼女の心の扉が開かれるのだ。ボサノヴァの「サウダージ」(懐かしく、ちょっと
悲しい)な気分が映画の全編を覆っている。ヒロインと、運命の男性が最後まで出逢えるかどうか
わからないこの映画の雰囲気に、ボサノヴァは実にマッチしていて、アメリカ映画らしからぬ小粋さ
を醸し出している。

以下、サントラ話は続きます。


ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ


ブルース・ブラザース2000

フル・モンティ


スポーン