監督:ラーフル・ラワィル
出演:マードゥリー・ディークシート、シャー・ルク・カーン
あの「キング・オブ・ボリウッド」シャー・ルク・カーンがなんと悪役で登場して
いるという珍品。そして、主演は日本初登場のヒンディー映画界の女王、マ
ードゥリー。しかし、物語はとても凄まじい。舞台挨拶に立った江戸木純氏が、
「スチュワーデス物語」と「赤いシリーズ」、「セブン」と「女囚さそり」を足した
ような作品と表現していたが、何となくわかるような気もする。一昔前のテレ
ビドラマにありそうな、けれん味たっぷりのダークな怪作だ。
スチュワーデスのシヴァニーの前に現れたのは、金持ちの若社長ヴィジャイ。
美しい彼女をモノにしようと結婚を申し込みに行くが、彼女が航空会社の同
僚であるパイロットと結婚したと知り、打ちひしがれる。そして数年後、子供
にも恵まれ幸せな生活を築いている彼女の前に再び現れ、金に物を言わせ
て航空会社を設立、シヴァニーの反対にも関わらず彼女の夫を役員に招き
入れる。しかしある諍いが元でヴィジャイはシヴァニーの夫を殺し、罪を彼女
になすりつける。そして、彼女の壮絶な復讐が始まるのだった。
インド映画というと、どちらかというと明るく楽しいという印象が強いのだが、
この作品はむっちゃくちゃダークだ。美しくて心優しいヒロインが、一人の狂っ
た男にストーカーされたあげく、全てを失ってしまう。ここまで彼女をひどい目
に遭わせるか!というくらいものすごい。なんの罪もないのに夫や子供を殺
され、刑務所に入って虐待されたり。いかにも極悪非道な刑務所の女看守、
ギャンブルに狂っていて妻が死んでも金のことしか頭にない義理の兄など、
キャラクターもあまりにもステロタイプなのは笑ってしまう。
しかしなんといってもすごいのがシャー・ルク・カーンの悪役演技だ。彼の演
じるヴィジャイという男は心がどこか壊れていて、狂っている。完全にサイコ
パスと化している。しかし、すべてはシヴァニーへの叶うはずのない愛ゆえ
にやったことであった。涙を目に溜め、彼女を想う熱っぽい表情にはぞっと
するとともに、哀れさを感じさせた。手に入らないとわかった瞬間、それを壊
してしまおうとする狂気、そしてそんな彼を待つ運命。
最後のシヴァニーの復讐劇は本当に凄まじいものだ。彼女だけでなく、男た
ちに食い物にされたすべての女性たちの執念を感じさせる。黒い衣裳をまと
い、復讐の女神と化したシヴァニーが一人一人血祭りに上げていく姿には快
哉を叫びたくなる。まるで、「石井輝男の地獄」で現世の悪人たちが地獄で
裁きに遭っている姿を見るようであったからだ。しかし、やはりこれはとても
苦い復讐劇となるのであった・・。
次に舞台挨拶に立ったのは、「ラジュー出世する」を初めて日本に持ち込んだ松沢靖氏。
実は彼は、なんとわたしの大学のゼミの先輩なのであった。わたしが3年生のときに7年
生で、その後インドに行き行方不明となっていたと思ったら・・・。
さて、その松沢さんが今回持ってきたのは、テルグ語の映画であった。「テルグ語の映画
の特徴は?」と聞かれて「ヒンディ語やタミル語にくらべて直球勝負、ひねりのない作風で
す」と答えていた。制作本数はヒンディやタミルよりも多いのだけど、テルグ語圏の人たち
は控えめ?な性格なので、これまであまり海外では上映されていなかったとのこと。
タイトルバックを見ていると、テルグ語の文字はまるで丸文字のようで、とてもかわいい。
監督:グナシェーカル
出演:チランジーヴィ、サウンダリヤー、アンジャーラ・ジャーベリ
今回主演のチランジーヴィはタミル語の「スーパースター」ラジニカーントに対抗
してか?「メガスター」と呼ばれる大スターだとのこと。なるほど、とても濃い顔
立ちで、存在感はとてもある。この映画では、主人公ラーマクリシュナとして、い
きなりギターを背負ってカルカッタの街に現れる。まるで「ギターを持った渡り鳥
」だ。「アルナーチャラム」の可憐なヒロイン、サウンダリヤーも登場している。
ラーマクリシュナはカルカッタで住民を危機から救ったため、アパートにタダで住
まわせてもらうことになる。しかし、トラブルに巻き込まれ、暴力団に刺されてし
まう。そこから、長い長い回想シーンとなる。
ラーマクリシュナは美しい娘プリヤと駆け落ちし、森で幸せな生活を送り、子供
も生まれた。しかし、プリヤの父、強大な力を持つマフィアのマヘンドラが強引に
連れて帰ってしまい、無理矢理別の人と結婚させようとする。ラーマクリシュナ
は彼女を連れ戻しに結婚式にやってくるが彼女は凶弾に倒れ、彼らの幼い息子
バブーはマヘンドラに連れ去られる。マヘンドラは、バブーを彼の跡継ぎにしよう
としていたのだった。ラーマクリシュナは、バブーを取り戻しに再びカルカッタの
街に出る。
この映画は、何しろ話の筋が非常にわかりやすい。連日の映画祭通いで疲れ、
途中うとうとしてしまったのだが、ストーリーをつかむのに全く困らなかった。そ
して、意外にも映像は洗練されている。ラーマクリシュナが住まうアパートには
大きな中庭があり、各部屋から色鮮やかな洗濯物が干されていて美しい。踊り
もなかなかモダンで新鮮だ。それと、さすがメガスターというだけあって、チラン
ジーヴィのアクションが炸裂するところはかっこいい。祭りの夜、ラーマクリシュナ
が必死にバブーをさがす場面の演出もこなれている。
そして、最後のクライマックスのカーチェイスは某ハリウッド映画のパクリに近い
が、すごい迫力でハラハラしっぱなしだった。
しかし、一番笑ってしまったのは、誘拐したバブーをマヘンドラが鍛えようとする
ところ。泳げないバブーをプールに放り込んだり、目の前で人を撃ったり、マヘン
ドラの極悪非道ぶりを描いているのだけど、なんだかあまりにも過剰で、笑うべ
きではないのに笑ってしまうのだった。なかなかの拾いもの的な映画であったと
言える。
さて、3本目のインド映画となった。昨年は「DDLJ」の主演女優カージョルが来日し、彼女目当てに
大勢のインド人が押し掛けて大混乱となったものだった。しかし、今年は予定されていたジュヒー・
チャウラーの来日が中止となり、また全席指定ということで混乱はなかった。そして、私のインド舞
踊の先生野火杏子さんのお弟子さんたちが華やかな衣裳を身につけて舞を舞った。実は私もここ
で踊らないかと声をかけられたのだが、まだまだ下手だし、それに映画を楽しみたかったので、今
回は遠慮させていただいたのだった。
監督:アズィーズ・ミルザー
出演:シャー・ルク・カーン、ジュヒー・チャウラー
ラーフルは、広告代理店に勤務するサラリーマン。社長にかわいがられて、
自分の会社も持たせてもらう予定となっていた。しかし、なぜ社長にかわ
いがられているかというと、女好きの社長のガールフレンドたちの世話を
焼いたり、社長が気に入った女性へのアプローチの手伝いをしているから
である。そんなとき、ラーフルが偶然知り合った美女がシーマ。彼女のこ
とが好きになるのだが、CMのモデルに応募してきたシーマに社長が一目
ぼれ。仕方なく、ラーフルは彼女と社長を接近させる役割をになうことに
なる。シーマも、お金持ちで口のうまい社長にのぼせ上がる。
ところが、社長は大変な恐妻家。というのも、この会社は社長の妻の家か
ら受け継いだものであり、浮気がばれたら社長を辞めさせられるからであ
る。シーマとデートしているところを妻に目撃されてしまった社長は、シ
ーマのことを「実は彼女はラーフルの妻なんだ」ととっさに嘘をつく。そ
してラーフルとシーマは夫婦のふりをしなければならない羽目になる。そ
れでも社長の浮気を疑う妻に、社長の座を狙っている彼女の従兄弟がつけ
こむのだった。
「ラジュー出世する」の監督、主人公ふたりが再び結集して作った作品。
安心して観ていられる、楽しい映画だ。お金持ちになることを夢見ている
シーマが、やがて本当の愛に目覚めていく過程。そして社長のイエスマン
だったラーフルが、出世と愛情の両方をどうやって手にしていくかが描か
れていく。
シャー・ルク・カーンが主演する映画というのはたいてい、最初はちゃら
ちゃらしていてヒロインに嫌われている主人公が、やがてその性格の良さ
を発揮したり、成長したりして愛を成就するというパターンが多い。この
映画もそのパターンにのっ取っているのだが、このパターンを演じていて
嫌味にならない役者というのはいそうで意外といない。しかも、彼は受け
身の演技がとてもうまいのである。ヒロインのジュヒーは、とにかくかわ
いらしく美しい。新婚夫婦を偽装しているということで、訪ねてきた社長
夫妻を迎えるために着た伝統的な新妻衣装がすごく似合っていた。
観ていて本当に楽しい映画だが、特に楽しいのはスイスでのエピソード。
「DDLJ」でもスイスが出てきたりするので、インド人にとってスイス
って憧れの地なのかしら、なんて思ってしまう。社長は、妻の目の届かな
い外国でシーマと過ごしたいがために、スイスでの撮影の仕事を作ってし
まう。しかし、妻はこれをつきとめ、結局またラーフルとシーマは偽装夫
婦として同じベッドで寝ているふりまでしなければならなくなる。社長は
社長で、シーマとラーフルが急接近しないかと気が気ではない。ラーフル
たちの部屋から聞こえてくるテレビのエッチな声を聞いて、気をもんでい
るところはすごくおかしい。
ラーフルは偽電話をかけて目印のマンゴーを持たせた社長を待ちぼうけ
させ、その間にベルンの街でシーマとちゃっかりデートをする。いろんなド
タバタもあって、楽しくイキイキとしたエピソードである。
こういう王道ラブコメディ映画は、他の国ではなかなか観られなくなって
しまった。インド映画特有の長さも感じないし、インドや日本だけでなく、
他の国でも上映したら受けるんじゃないかと思う。誰が観てもハッピーな
気分にさせられる傑作だ。
しかし、午前中にシャー・ルク・カーンがキレたストーカーを演じていた
だけに、いつラーフルがストーカー男に変身するかハラハラしていたりし
たのだった。それと、彼は必ず映画の後半はボコボコにされる役を演じて
いるのだが、今回も例に漏れなかった(笑)。
![]()
11月4日は、映画祭期間で唯一、会社を休んで映画祭に専念する日とした。目当てはもちろん、
「美少年の恋」である。しかし、月頭は仕事が比較的忙しい。というわけで、休暇の届けを出した
にも関わらず、結局タイムカードは押さないで午前中は仕事をする羽目になった。そして、渋谷に
到着したのは開演時間を過ぎた頃だった・・・。せっかく舞台挨拶があったというのに、ちらっとしか
見ることができなかったのだ。くやしー!
![]()
監督:ヨン・ファン
出演:ダニエル・ウー、スティーブン・フォン、ジェイソン・ツァン、テレンス・イン、スー・チー
売れっ子のウリ専(売春夫)ジェットは、画廊で見かけた美少年に恋をする。
数日後偶然再会したこの美少年は、サムという名の警官だった。ジェットと
サムは仲良しになり、サムの両親にも紹介されるのだが、ジェットはその思い
を告白することができない。果たしてサムも同性愛者かどうかわからないから
だ。そして、ジェットと同居するジゴロ仲間のアチンは、かつて会社の同僚だっ
た美少年ファイのことを忘れることができない。彼がこの道に入ったのは、お
金に困っていたファイに用立てるためだったが、あっさりファイに捨てられたの
あった。ファイはその金を、アイドルスターを目指すキングスリーに貢いだ。そし
てキングスリーは今や大スターとなっていたのである。
この物語は同性愛者の美少年たちの話である。でも、たまたま美少年たちの
物語であっただけで、同じようなことはもしかしたら異性間でも起きることなの
かもしれない。恋のときめき、切なさ、はかなさ。青春の忘れ去ることのできな
い思い出。
同性愛者でなくても、この気持ちは痛いほど伝わってくる。ただ、同性愛者の
コミュニティはヘテロセクシャルの人間よりも人数が少ないだけ、同じ人間を
愛するという可能性が高いのかも知れない。
この映画では、対等の恋愛というのはありそうでない。若くてハンサム、売れ
っ子のジゴロであるジェットだけど、この世のものとは思えないほど美しいサム
の前では、圧倒されている。ファイはきまぐれでカッコいいスターの卵キングス
リーに翻弄される。そして、アチンは美しいファイのためには、自分の体を売る
商売に手を染めてしまう。そして、運命は彼らの間の糸を複雑にからめた。
かつて熱烈に愛し、その後目の前から消えた人間が、目の前に現れたら一体
どうするのだろうか?人並みはずれて美しいということはどういう運命を招き入
れるものなのだろうか?
愛の残酷さ、美しさ、二度とは戻らない青春の日々を端正に描いている。サム
が好んだ、ビルの屋上からの風景。最後の夜、あの美しい夜景は彼の目に
どのように映ったのだろうか?ブリジット・リンの低く落ち着いたナレーションが、
素晴らしい効果を上げている。そして、なんと言っても警官姿がよく似合うダニ
エル・ウーの美しさといったら、もうため息が出るほどである。
監督:ホァン・ミンチュエン
出演:ディン・ニン、ヤン・ミュンシュン
主人公の写真家は、ドキュメンタリー映画を撮っている。その映画とは、台湾各
地の彫像や銅像を撮りながら、台湾の歴史を振り返るというものだ。彼の恋人は
駆け出しの女優だ。彼女は途中までは写真家の、彫像を追い求める旅に付き
合っているが、本当は本来の写真の仕事に戻って欲しいと思っている。なぜなら
ば、彼女は写真家の作品に惚れて彼の恋人になったからだ。そして女優は、映
画に出演しながらスタッフを行うという仕事を得る。そして共演者と恋におちるの
だった。
というふうにあらすじは大体わかったのだが、前日のインド映画3本立て(何しろ
朝の10時半から夜の10時まで映画を観ていた上、次の日には仕事にまで行っ
ている)ですっかり疲れきっていて、またちょっとうとうとしてしまったのだ。よって、
写真家が台湾各地を旅しながら彫像を撮っているところはそれほど記憶に残って
いない。ちょっと難解な映画だ。女優は写真家よりかなり若く、ちょっと我が儘で
奔放な女性。映画を撮影しているとき、ラブシーンを拒絶するような女だ。
何しろ話の流れがつかめなかったのであまりいろいろ書けない。作風自体がかな
り実験的で、ストーリーとして起承転結を持たせることを拒否しているようだ。が、
女優が、恋人の撮った写真がばらまかれた上で横たわっているというカットはす
ごく絵になっていてスタイリッシュ。エンディングに流れる音楽も格好いい。
監督:チャン・ツォーチ
出演:リー・カンイ、ファン・チィウェイ、ツァイ・ミンショウ、ハ・ホァンジ
港町、基隆(キールン)の実家に、17歳の少女カンイは夏休みのため帰ってきた。
彼女の家はマッサージ業を営む盲目の父と義母、そして知的障害を持つ弟アギィ
が住んでいる。アギィは知恵遅れだが無邪気でとても可愛らしく、カンイと仲がいい。
そんな彼女の家の客には、黒社会のメンバーもいる。そして、その組織に、大陸出
身の青年アピンがいた。ハンサムなアピンにカンイは恋をする。しかしこの恋は、悲
劇的な幕切れが待っていた。そして、父も亡くなってしまう。死者を迎えるお盆の日
に、奇跡が待っていた。そして、花火が消えると共に彼女の夏も終わる。
台詞は少なく、極力説明を排し、カメラも引き気味なため淡々とした印象を受ける
映画。その中で唯一といっていい生き生きとしたキャラクターが、ヒロインのカンイ
だ。知恵遅れの弟と戯れ、亀に餌を与える。新しくやってきたアピンが好きになって
前のボーイフレンドを振り、アピンに積極的にアプローチ。二人が夜家を抜け出し、
船に乗って夜の海を眺め、彼女は海に飛び込む。帰ってきたのは朝。とてもファン
タスティックな一夜だったが、彼女とアピンの唯一の思い出となってしまった。カンイ
は弟をいじめた子供たちとも戦う気の強い、弟思いの女の子。盲目の両親とも支え
合って生きている。
淡々としているけれども映像は美しい。どちらかといえば悲しいお話なのに、ラスト
のお盆のエピソード、思いがけずに死んだ人たちが帰ってきた場面が素晴らしいた
めに救われている。退屈の一歩手前である映画だが、高い評価を得てグランプリを
取ったのは、ここがとてもうまかったからだと思う。一人の少女の夏休みの浮き浮き
した気分と、愛する者を失った夏の終わりのさみしさ、そしてそれに対する贈り物の
ような奇跡。
あのラストシーンのために、この映画は存在していたのではないだろうか。
ヒロインのリ・カンイが舞台挨拶に立っていたが、まだとても若くて可愛い女の子
だった。普段はロングヘアの彼女が、映画の中で時々ショートのカツラをかぶってい
るところがまたとてもチャーミングだった。