ナンパのこと。

 そう。イタリアと言えば、ナンパである。

 イタリアに行く、というと、10人中10人に「向こうの男の子はすごいって言うから気をつけて」といわれるし、また、10才の女の子から40才の叔母様までが3歩歩く度に声をかけられた、知らない人から夕食に誘われた、などの伝説を持って帰ってくる。

 あげく、数年前のレイプ事件(犯人はイタリア人ですらなかったのだが)で、その悪名は今やとどまるところを知らない。ちなみに、日本人の女の子はナンパが難しいことで有名である。

 「向こうでは、声をかけるのが礼儀だから」とか、訳の分からない常識がまことしやかにささやかれているのもすごい。

 しかし、実際のところ、それほど大仰に騒ぎ立てるほどのことでもないのだ。ナンパそのものは日本でだってよく見かけるし、やってることは対してかわりがない。

 東京とローマの違いは、ローマの方が圧倒的に、それはもう比較にならないくらい外国人が多い、ということだろう。そして、イタリア語のわかる外国人観光客なんてそうはいない。相手は言葉のわからない外人だし、観光客は概して、地元の人々に対して腰が低い。この状況で、ちょっと気に入った女の子に「かわいいじゃん」とささやくことがどんなに気楽かは想像できると思う。日本の男の子が言葉も文化も共有する、同じ土俵に立っている女の子に声をかけるときの気合いとは次元が違うのだ。声をかけた相手と全く意思の疎通が図れなかったとしても失うものなんて何もないし、(無視されたとしても、言葉がわからないんだからしょうがない、と自分に言い訳できるし。)たいがい、ヴァカンス中の女の子は気が大きくなっているから、言葉が通じなくても上手く言ったら儲けもの、である。実際、ローマの休日もどきを狙っている女の子も少なくない。

 やってることは日本でナンパしている男の子と同じ、ローマでは、それが簡単に出来てしまう条件がそろっている、というだけのこと。別に彼らが変とか、危険とか言うわけではない。こっちがその気なら、ローマをモトリーノ、バイクで案内してもらって、コーヒーをおごってもらって、夕食までつきあってチャオ、グラツィエ、というのも可。日本でナンパされてカラオケおごってもらってじゃあね、というのと同じことである。

 もちろん、声をかけてくる男の子たちが、「うまく行ったらセックスまで」という目論見を持っていることは疑いがないし、逃げられれば「くそ」、と思うだろう。しかしまあ、外国人の女の子を引っかけた、という満足感もえられるし後で偉そうに友達にも語れるし、暇な一日を女の子と過ごせたのだったらそう悪い気持ちでもないはずである。当たり前のことだが、その気があるのならセックスまでしたっていい。それは自分の考えと好みの問題だし、気をつけなければならないのが妊娠と病気だ、というところだって日本と一緒。ただし、彼らにとっては、基本的にどんなに夜遅くなっても家に帰る、というのが常識だから、夜明けのコーヒーは無理かもしれないけど。

 イタリア人は、別に色情狂でもないし、かといってなんの下心もなく女の子に親切にするほど酔狂でもない。彼らにとっても、レイプなんて犯罪を犯して自分の人生を危険にさらすよりは、夕食をおごった女の子にダッシュで逃げられる方がマシなのだ。

 とはいえ、ナンパはナンパである。道で声をかけてきた男の子についていくのなら、当然、それなりのリスクがあることは覚悟しなければならないし、それがあんまりいいお嬢さんのすることではないのも事実。みんなが声をかけてくれるからいい気になってずるずるとつきあい、その場の雰囲気でセックスしたけど次の日には後悔の嵐、というのでは悲しすぎる。

 彼らにとって、言葉のわからない外国人に声をかけることはちょっとした暇つぶしに過ぎないこと、最後にはセックスしたい、という目標が確実に存在すること、知らない男について行くだけの危険は多少といえども確実にあること、という現実を見つめた上で、イタリアの男の子とデートがしたいのなら、別に特別な注意は必要ない。女としての裁量を発揮して、おごらせるだけおごらせて逃げるもよし、一夜の恋を楽しむもよし、である。

 ただし、イタリアに住むイタリア人と違って、密入国しているアラブ人や東欧の人々には気をつけなければならない。もちろん、全ての人がそうだとはいわないし、差別的発言をする気もないのだが、麻薬中毒で、犯罪を犯したところで失うものなど何もないという人々も、確かにいる。おごってくれるどころか、有り金を持ち去られる危険すらある。外見的には見分けがつかないこともあるし、人とナリを見て、といったところでなかなか難しい。基本的に、イタリア人には相手が「イヤ」といえばさっさと去っていくだけのプライドがあるから、あまりしつこくつきまとってくるようならその時は全力で逃げて下さい、という他はないが。

 私もはじめて旅行したときは、いつレイプされるかとドキドキだった。ちょっと馴れてくると、イタリア語が使える、という嬉しさもあって散歩程度ならつきあったりもしたが、危険な目にあったことはないし、彼らはたいていお姫さま扱いをしてくれて、悪い気分ではなかった。その辺は、日本の男の子と違って筋金入りのラテン人である。レディーファーストも完璧、コーヒーに砂糖を入れてくれて、かき回すところまでやってくれたりする。今となってはうざいだけだが、観光客とすれば十分に楽しい経験だった。

 ただし、やばい話もたくさん聞く。日本で聞くやばい話だって、相当すごいが。
 リスクはいつだってどこにだってある。安全な道を歩けば、間違いない。でもリスクがあるゆえの楽しさもあるかもしれない。
 私は、別のところでリスクを張りたいのでナンパについていくなんてことはしませんが、あとはご自分で責任を持てる範囲でご自由に。である。
 (一番やばいのはナンパから真剣な恋愛に発展しちゃって、国際結婚なんていう深みにはまることだけどね・・。国際結婚は別の項でも書きますが、生易しいもんじゃないですよ。)


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