Namae,Name,Nome,Name,Nome

以前、わたくしの敬愛する作家でもある清水義範氏の傑作小説に、「日本語は英語の起源であり、元となる言葉である。その証拠に、Nameという英語は、日本語のナマエを語源にしている」という主張をするとある教授のお話がありました。
「序文」という名のその小説では、とにかく日本語の単語が元になった英語の単語がつぎつぎと出てくるわけですが、もちろん、日本語と英語は全く関係の無い、他人同士の関係です。
日本語というのはかなり孤立した言語で、中国語・韓国語は日本語の起源にかかわってはいるだろうけど・・(漢字がね。特に。)文法が全く違うし、他のどの国とも違う文法なので、だから日本人は外国語が苦手だ、などと言われていますが。

ヨーロッパの各言語は、それぞれ、語源が同じだったり重なっていたりするので、これはでたらめでもでっち上げでもなく、かなり似ています。
南ヨーロッパの各国語は、すべてラテン語の子供達。
ラテン語、というのは古代ローマ帝国時代に使われていたローマ帝国の言葉で、つまり当時のイタリア語であり、世界共通語に近い言葉、ということになります。あ、忘れているかもしれないけど、世界の半分を支配した古代ローマ帝国はイタリア・しかもローマを中心に構成されていたわけですよ、皆様。
ローマというのは文字通り世界で最も豊かで、世界で最も洗練された世界で最も重要な世界の中心だったところなのですよ。わたくしも、時々忘れそうになりますが。

だから、ラテン語の直系の子孫はイタリア語ですが、ローマ帝国の支配が強かったヨーロッパ各地ではローマ帝国の時代には(もちろんその土地ごとに訛った)ラテン語を、そしてローマ帝国崩壊の後に、訛ったラテン語を更に訛らせていったところ、それがフランス語だったりスペイン語だったりポルトガル語だったりするようになるわけです。
そして時代は進み、フランス人がその北西にある島に目をつけ、貴族が移動して宮廷を作ると・・まあ、紆余曲折はありつつも、その島の現地の言葉と、訛ったラテン語であるフランス語が混ざって、特殊な田舎臭い言葉、が出来るわけです。
その島がその後大英帝国となり、アメリカ大陸という新しい世界に移民していき、この「未開の島の現地語」と「訛ったラテン語」のミックスである田舎臭い言葉が「英語」と呼ばれて世界共通語の役割を果たすとは、歴史とは筋書きの無いドラマですわ。皆様。

ドイツ・オランダあたりはゲルマン系と呼ばれる言語で、文法的にはやや、ラテン語系から離れる部分もあるのですが、それでももともとローマ帝国支配下にあったことは間違いない場所。ただしやや場所的に離れているところでもあるので、ローマ帝国以前の現地の言葉が強く残っているわけです。
それにしたって、語源を同じくするものや、似通った言い回しには事欠きません。
表記するにも、多少の違いはあっても、とりあえずみんなアルファベットを使うわけだし。

だから、まあヨーロッパの各国語がかなり似通っているのは当然のことなのですが、その話はかなりマニアックになってしまうので、おいといて。
しかし、明らかに同じ語源のものが分かりやす比べられるのが、名前なのよ。人の名前。く

ジュリオ・チェーザレって、誰だかわかります?
ユリウス・カエサルは?
ジュリアス・シーザーは、わかりますよね?
そう、あの「ブルータスお前もか!」で暗殺されたクレオパトラのパトロン、ローマ帝国最大の英雄シーザー。
の、イタリア語名前はジュリオ・チェーザレ。つづりはGiulio Cesare。
ラテン語名前がユリウス・カエサル。Julius Caesar。
ジュリアス・シーザーは英語名前で、Julious Ceaser。
つづりを見ているとなんとなく理解は出来るものの、耳で聞いたらぜんぜんわかんないよねえ。
ちなみにフランス語だとジュリアン・セザール、スペイン語だとフリオ・セザル。ますますわけが分かりません。

ヨーロッパの人たちの名前って、日本語の名前に比べて、凄くバリエーションが少ないの。
日本語は最近「ソレはちょっと無茶しすぎ?」と思うほどの凄い名前が出てきたりしますが、ヨーロッパでは「新しい名前」というのは、ほとんど出てこない。
既存の名前(そしてその多くはキリスト教の聖人の名前。でもそのまた起源はラテン語の名前だから、数千年の歴史を持つ名前たち)の中から選んでつけるし、しかも、それぞれの国でやり方は違いますが、ひとつの名前に対して「男性形」と「女性形」が対であるので、かなり変な名前を入れて数えてもせいぜい50ってとこじゃないかなあ。
そして、その50の名前を多少訛らせながらヨーロッパ中で使うので考えてみると結構面白いのよ。
分かりやすいところで、アンドレア(伊)がアンドリュー(英)、アンドレ(仏)、アンドレアス(西)とかはいいとしても・・予想外の変化をするものが、結構あるので。

例えば、マリー・アントワネット
なんだか優雅で華やかな、美人の代名詞のような名前ですが。
イタリア語で言えばマリーア・アントニエッタ。
なんか急に逞しそうにならない? アントニエッタ、という名前のもともとのかたちはアントニオ、ですよ。燃えろ闘魂ですよ。いや、エッタ、という語尾変化は「小さな可愛い女の子」と言う意味があるので、正確には小さな可愛いアントニオ(女)ですよ。
例えば、女帝エカテリーナ
なんだかやたら威厳があって、気高くも美しい女王を想像しませんか。あ、これはロシア語ですが。
エカテリーナをイタリア語に戻すと、カタリナ。更に英語にすると、キャサリン。
女帝キャサリンって・・ちょっと、キャンディキャンディが女王になっちゃったような感じじゃない? 威厳も何もないというか・・
さらに、ドン・ファン。女たらしの代名詞で使われるスペインの貴公子の名前ですが、わたくしは女たらしと言えばドン・ファン(スペイン人)とドン・ジョヴァンニ(イタリア人)という二人がいるものだ、と思っていたら、実はスペイン語でのファン(Juan)はイタリア語のジョヴァンニ(Giovanni)だということが判明。二人は同一人物だったのです!
狂女王ファナ(ラ・ロカ・ファナ)、という、なんだか危険な香りのする感じの名前をもつスペインの悲劇の女王は、イタリアだとジョヴァンナ・ラ・パッツァという、なんだかお笑い芸人みたいな名前になってしまうし。英語だとザ・クレイジー・ジェーン。それもなんだかなあ。

でも、いろんな風に変化する名前の中で、一番かけ離れてるのが、そもそもの大元であるラテン語と、その遠い子孫である英語、なんですわ。元と末だからね。このふたつをくらべると、ほとんど分からない。
で、ラテン語の名前を持つ人って、今はもういないから、とりあえずラテン語の名前を使う機会は無いし、日常生活に問題は無いんですが。

唯一困るのが、聖書について話すとき。
日本にとっては、もともと何の関係も無い異国の書である聖書は、その最も格式の高い古語であるラテン語名前が採用されてるんですよ。イエス・キリストでしょ。ちなみにイタリア語だとジェス・クリスト。英語はジーザス・クライストですね。
まあさすがにイエス様の名前くらいは想像付くとしても、その他の登場人物となるともうメチャクチャ。
ルカがルーク、くらいはいいとして・・マタイがマシューっていうのも想像付かないけど、ヨハネはジョン
バルトロマイはバーソロミュー。さらにヤコブがジャックっていうのは・・いくらなんでも・・わかんないよねえ・・普通。

わたくし達日本人の名前は、もちろん語源を同じくするものなどないので、ヨーロッパではそのままになります。よかったよかった。
でもさ・・ヤヨイって、Yのないイタリア語での表記は、IAIOIとなってしまうんですよね。五連続母音。
母音だけの名前って、それだけでイタリア語としてはかなり変なんですけど・・五連続は凄い。
ちなみに、うちの妹はアヤ。これも、YがなくなるのでAIA。あいやー。


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