謝肉祭阿鼻叫喚図

カルネバーレ、英語だとカーニバル。
日本語だと謝肉祭。
だってCARNEって、「肉」って意味なんだもん!!
西洋起源のお祭りの基本として、もちろんキリスト教由来のものではありますが、このお祭りはほかのヤツ(クリスマスとかイースターとか)とはちょっと違います。
仮装するから「欧州版ハロウィーン(ハロウィーンはアメリカのだよね)」と思っていらっしゃる方も多いかと思いますが、それも全然違う。

謝肉祭とはつまり、「この一週間だけは羽目をはずしてもいい」という、キリスト教の教義的締め付けが激しかった頃の「ガス抜き期間」なのですわ!!
だから、ブラジルのリオのカーニバルでは、人々が「一年かけて(食べるものも食べずに)ためたお金をはたいて衣装を買い揃え、死人が出るまで踊り狂う」というのは正しいのです。

そしてそのリオのカーニバルと双璧といわれるのがヴェネツィアのカルネバーレ。
こちらは死人が出るまで踊り狂うようなことはありませんが、人々がヴェネツィアの最盛期、17世紀(カサノヴァとかがいた時代ね)の衣装に身を包み、一週間ぶっ通しで街をあげて仮面舞踏会に明け暮れるという、それはそれは優雅で美しく、楽しい催し・・だったのです。
少なくても4年前、ローマに住んでいたわたくしはフランス人の親友と一泊旅行に出かけ、17世紀のお姫様の仮装をして踊り明かしました。すごい楽しかったのよ。

で、今年は妹を引き連れて行ってきたのですが・・うぅん。だいぶ変わっちゃったわねえ・・
まあ、折からの戦争(まだ開戦していなかったけど)のこととかもあって、だいぶお祭り気分は押さえ気味だった、と言うのもあるんですわ。圧倒的に、仮装している人の数が少なかったし。
アレはやっぱり、町全体に仮装した人が溢れて、誰かが主催するイベント、というのではなくて、その優雅で羽目をはずした気分を自主的に楽しめる土壌が無いと、つまらないんだよねえ・・

わたくしはもちろん、仮装してまいりました。普通、それらしい衣装を一日いくらでレンタルするんですが、わたくしはなんと自前。だって、普段から仮装みたいな格好してるんだものー♪
妹にもわたくしの衣装を貸し与えて、帽子と仮面だけ現地購入にて、すっかり「東洋人なんだけど西洋風お姫様二人」の出来上がりです。仮装人口自体少ないこともあって、すっかり大人気でしたわ。ほほほ。

と、それはいいんですが、それにしてもすごい人だったのです。その日のヴェネツィアは。
落ち着いて考えてみれば、観光名所は普通に観光名所なだけであって、そういうところを見るためならカルネバーレは避けていくほうがいいんだよね・・仮装してるひとがすくなかったら、あそこに行く必然性は全くなし。だというのに、それはもう一つの街にこれほどの人が入ることが可能なのか、というくらい、どの路地も満員状態。よく貧血起こす人がいなかったよなあ・・というほどの大混雑だったのですが、わたくし達はその日中に、電車で2時間のところにあるフェッラーラまで帰らなければならなかったのです。
電車の予約も取ってないし(というか全席自由席)・・すし詰め状態の電車で立ちっぱなしはキツすぎる! と判断したわたくしたちは、予定の電車が出る三十分前に駅に走り帰って、「東海道線での通勤で培った『椅子とりゲーム名人』」を自称する妹に全てを託し、電車が来るはずの13番線で虎視眈々と、到着を待っておりました。仮装のまま。

しかし、です。
待客で鈴なり状態のホームに、電車は一向に到着しません。
ざわつき出した人々、しかも、突然、並んでいた人々がダッシュで移動しはじめるじゃありませんか!!
ななななにごと?? と驚くわたくし達のところにも、そのニュースは到着しました。
「ボローニャ行きの電車はここではなく、11番線に到着しました・・と思われます」
ええええええええええええええええええ!!
11番線といえば隣の隣、ですが、そっちに移動するには一度改札のほうまで戻って、プラットフォームを移動しなければならないのです!!

ロングドレスで一日歩き回ってふらふらのわたくし。
しかし妹は(若いからなのか??)猛然とダッシュを開始、途中で力尽きるわたくしに「先に行って席をとっておくから!!」と力強く頷くと、そのまま走って、だいぶ先のほうの号車にブロックサインを残しつつ乗り込んでいきました
ぜいぜいしながらわたくしが辿り着くと、王女様のようにゆったりと席に着いた妹が自慢げに笑っています。
「よくやった!!」と褒めつつ、とりあえず息を回復させようとするわたくしに、更なるショックが!!

「この電車はボローニャには行かない!! この更に隣の電車だ!」
と、乗客の一部の人たちが叫びながら、またしても猛然と電車を下りて、隣に走っていくではありませんか!!

それはもう阿鼻叫喚と形容していいパニック状態です。
だってそういえばさっきのお巡りさんも、「11番線に到着した・・と思われます」と言ってたし!
一体どれが正しい電車なの!!
と、混乱しつつ回りに人たちに「この電車どこに行くんですか? ていうかあんたたちどこに行くんですか?」と尋ねまわるわたくし。
「大丈夫、私たちもフェッラーラに行きますから、安心してください」(フランス人の子供づれご家族)
「僕はパドヴァまでだけど、フェッラーラ行きの電車のはずですよ。以前もこういうことがあったから、一応確かめてるんで、大丈夫だと思います」(ドイツ人一人旅イケメン君)
「ま、イタリアはそんなに大きくないわねえ。この電車がどこに行くのだとしても、今日中におうちまで辿り着けるでしょ。落ち着いて座ってましょ」(イタリア人の老婦人)
いや、隣のはずだ!走れ!!!」(イタリア人おじさん)
「オレは隣の電車にかけるぜ! あばよ!!」(アメリカ人観光客グループ)
などなど、さまざまな反応を示しつつ、思い思いの行動をとる人々。
しかたなく、かといってせっかく妹がキープしてくれた席を手放すのもいやなので、席の窓から大声で、フォームを歩く車掌さんを呼び止めてみても、ヤツは綺麗に無視
つまり、車掌さんも駅員さんも正確な情報が分からないから、質問されるのもイヤなのです。
いいかげん鉄火小町の血がうずうずして喧嘩を売りそうになるわたくしですが、まあとりあえずドイツ人のイケメン君と運命をともにしよう、と席に落ち着いていたところ・・

先ほど狂ったように走って隣の電車に移っていった人々が、さらに狂ったようにこちらに戻ってくるではありませんか!!

わたくし、戦時中とかの混乱っぷりというのを疑似体験したようでしたわ・・

まあ、結論から言ってしまえば、こういうことでした。
もともと私たちが並んでいた13番線の電車、6時発のボローニャ行きは、何の理由かは不明のまま、キャンセル。
同じくボローニャ行き、ただし一時間後に出発するはずの電車が、その時わたくし達が乗っていた11番線。
みんながさらに走っていった9番線は鈍行列車で、途中でミラノ発の急行との待ち合わせがあったらしいんですが、それに気付いて走った人たちはその列車さえも乗り過ごした。だから戻ってきた。
この大混雑にもかかわらず、主要列車が何の理由もなくキャンセルになったため、この電車は物凄い満員状態。途中駅で降りること自体困難かと思われる状況ですが・・

わたくしと妹は、妹の果敢なダッシュのおかげで、優雅に座って旅することが出来ました。

わたくしの文章ではイマイチ臨場感が伝わらないかもしれませんが、それはそれは、「カオス」という形容がぴったりだったこのヴェネツィア狂想曲。
正しい情報が欠けると、デマがデマを呼び(まあデマってワケでもないんだけどね)、混乱が混乱を呼ぶということを絵に描いたようでしたわ。
またイタリア人はパニックになりがちで、不必要に騒ぎ立てるし。騒ぎ立て好きなわたくしもここぞとばかりに騒ぐし。
おもしろかった♪

しかし妹は、「こんな国に住むのはイヤ!! 一人でイタリア旅行なんて出来ない!! お姉ちゃん以外の人とイタリア旅行はしない!」と、熱く語っていました。
そうねえ・・確かにあの状況で言葉が不自由だったら、不安のあまり気絶しちゃったかも。
まあ、言葉が分かっちゃうからこそいろんな噂にまで反応しちゃう、ということはあるにせよ。

このあまりにもイタリア的な混乱状態、でもやっぱり一度経験してもいいかもよ♪
イタリア人の老婦人が仰っていたとおり、「ま、いくら騒いでもいつかはおうちに着くから、落ち着いてて大丈夫」なわけだしさ。
でもこの老婦人、上記の台詞を言った直後に、隣の電車に猛ダッシュを敢行し、しかも乗り遅れて、こちらの電車に戻ってきた時には既に席は無かったわけですが。
これだから、イタリア人って・・


.
top..