ヴィーノ・イタリアーノ

ヴィーノ、というのはイタリア語でワイン、と言う意味です。フランス語ではヴァン、ドイツ語ではヴァイン。なので、最初の一文字をワ、と発音するのは、ドイツ語経由で(つづりはWEIN)英語に入り、英語風の発音になまったもの、ですね。
イタリアのワインは、その濃厚な感じといい、ふくよかな感じといい、やっぱりヴィーノ、と発音したい気がする。イタリアン・ワイン、ってなんだかいかにも安っぽくない? わたくしはイタリアの葡萄酒に関しては、ヴィーノ・イタリアーノという呼び名を推奨します。ま、日本酒も外国言ったら「サケィ(何故かケ、のほうに過剰なアクセントが付く)」からなあ。仕方ないと言えば、仕方ないですが。

さて、わたくしは20歳のころ、ワインがあまり好きではありませんでした。
飲んでいたのは主に、ありがちな甘口系のカクテルで、カンパリやヴェルモットも好きじゃなかったなあ。カルーア・ミルクとか、マイヤーズ・ラム・クリームとか、今なら口が曲がりそうなお酒を飲んでいたものだ。と思います。
そんなわたくしがワインを好きになったのは、やはりヴィーノ・イタリアーノの底力、と言うほかはありません。

イタリアのご家庭では、ヴィーノがごくナチュラルに、食卓に並びます。
別に高いのじゃなくていいの。スーパーとかで1000円そこそこで買ってくるやつ。
そして、ヴィーノのボトルの隣には、かならずミネラル・ウォーターのボトル。
各自のグラスに、好きなほうを注いで飲むわけです。ちなみに、食事中にオレンジジュースとかコカコーラとかお茶とか紅茶を飲む、と言うことはほとんど無い。水か、ヴィーノか、ビール。
ヴィーノは主に赤。もちろんこれは好き好きがあるので、一概には言えませんが、ヴィーノといえば赤、というイタリア人は全体の7割くらいを占めると思われます。
たしかにヴィーノ・イタリアーノは赤が美味しい。DOCG指定されているのも、ほとんどが赤だし。
肉なら赤、魚なら白、というのはまあ、ある程度イタリアでも通じる話でもありますが、でも魚でも赤だって一向に問題なし。
しかも、毎食毎食一本飲みきるわけではないので、残ったヴィーノは次の日に回されるわけです。センをして、冷蔵庫に入れて。だから赤でもキンキンに冷えてたりする場合もある。次の日の食事が肉だろうが魚だろうが、それを飲むのです。
ま、家飲みするヴィーノなんてそんなのでいい、という豊かな発想から出ているわけですが。
そして、イタリア人は、ヴィーノを水で割る、と言う荒業を、平気でやってのけます。
日本ならちょっと考え付かないけど・・そしてあんまり美味しいとは思わないのですが・・「ヴィーノはすきだけど、酔っ払いたくないの」というご婦人などが、よく。この際、味なんてどうでもいいのか?

とにかく、ヴィーノというのは、イタリア人の食事にとって決して欠かすことの出来ないもの、なわけです。
ごくごく自然に、普通のグラス(と言うよりもむしろコップ)にじゃばじゃば注いで飲むヴィーノ。別にオシャレな感じもへったくれもない、普段から慣れ親しむ飲み物。なわけですね。

レストランに行っても、ヴィーノはとてもリーズナブル。ハウスワインを頼むと、料理用の紙パックに入っているものとしか思えないようなまずーいのが出てきたりしますが、ボトルで2000円前後のを頼めば、十分美味しい。酸化防止剤が入っていないから美味しい、ということが分かるほどには舌の肥えていないわたくしですが、赤道を通って運ばれてくる日本に輸入されたものよりは美味しいと思う。
高級な店ならともかく、そこらのレストランではいちいちテイスティングなんかしないし、グラスもいい加減。
日本のように、ワインに応じてグラスの種類を変えてくれる、ということもあまりないし。
そしてなにより、わたくしもよくやるのですが、空気と触れさせるためにグラスをくるくる揺するやつね、あれ、イタリア人あんまりやらないんですよ。
一度、イタリア人のクライアントと食事をしていて、わたくしがいつもの癖でくるくる回していたら「それ、なんのマジナイ?」と真顔で聞かれました。
そして「空気に触れさせてんだけど・・」と、至極当然の顔をして答えるわたくしに、その場にいた5人のイタリア人全員が「へええええええええええ。詳しいんだねえ・・」と、感心してくれました。

いや、もちろん、やたら詳しいイタリア人、もたくさんいます。
でもまるで当然のように毎日飲む液体だから、いちいちそんなこと意識しないんだろうなあ、と思わせる鷹揚さ。さすがにワイン産出量世界一の国は違う。

個人的には、ヴィーノ・イタリアーノの王様は、なんといってもブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。これはイタリアで買ってもかなり値段が張るし、日本でレストランで飲んだら軽く一万円は越える名葡萄酒ですが、ほんとうに、コニャックか、というような濃厚な味なのよ。なんというか、その濃厚さの表面張力で、液体が球状になって喉に転がり込んでいく感じ。高いので、めったに飲みませんが。
安くて美味しいのは、やっぱり無難にキアンティ・クラッシコあたりかしら。最近はピノ・ネーロも美味しいのが入ってきてますね。いやそんなこといいつつビックリするようなこと言いますけど、普通にコストパフォーマンスを考えて日本で飲んだら、絶対圧倒的にスペインワインがいいよ。
テンプラニーリョ種のリオハとか、リベラ・デル・ドゥエロとかラ・マンチャあたりの1995年、1996年とか。わたくし別に詳しいわけじゃないんですけどね、美味しいのは飲んだら覚えてるんだもん。
ま、それはともかく、キアンティ・クラシコという外国でとても評価の高いヴィーノ・ロッソは、イタリア本国ではそれほど好まれないんだけど。
DOCG(という法律で定められた品質保証であり、格付け)なのに大衆的、値段も控えめ、ということで、なんとなく「田舎ものの好む酒」みたいなイメージが否めないけど・・まあ、実際美味しいし。
格付けはないものの、南部の力強さを感じさせるアリアニコという品種のヴィーノも美味しいですね。
わたくしは、イタリア人に習って、ヴィーノなんてまじめに勉強するものじゃない! という態度を貫いているので、専門家から見ればわけのわからないことを言っているかもしれませんが、お酒なんて、自分の感じ方がすべて。と、開き直ってどうする。
でもワインにしてもチーズにしても、その他のイタリア食材にしても、毎日廉価で手に入る状況になれば、いちいち気取ってなんていられないものですわよ。日本で、海苔とか味噌についてそれほどこだわらないように。美味しいものはメチャクチャ美味しいけど、普段の生活には普段用で十分。
あ、ちなみに日本のビールは、イタリアでも評判いいですね。アサヒスーパードライとか。なんだかやたら高くて、高級感のある缶に入ってたりするけど、ビールは日本ののほうが美味しいと思う。イタリアのビール、なんだか薄くてまずいし。

しかしまあ、グラスもいい加減、別にワインの種類に誰もが詳しいわけじゃないし、赤を平気で冷蔵庫に入れてしまう大雑把な飲みっぷり。
そんなイタリア人が、唯一守るヴィーノに関するお約束。

それは、ヴィーノは、男が注ぐ。というものです。

大和撫子はお酌くらい出来ないと「気が利かない」というレッテルを貼られてしまうので、わたくしは飲み会などに行くと、意識している限り張り切って人のグラスを満たすことに専念し、途中ですっかり忘れてしまっていたりするのですが、イタリアではその心配はありません。
女の子はお酌なんてしちゃだめよ。してもらうの。
イタリアに行ったら男性のほうがお酌してあげてくださいね。そんなところで男尊女卑な日本を宣伝しても、しょうがないから。


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