春・二の巻
春方 鎌倉右大臣
なるほどなるほど・・そのような経緯が在ったとはつゆ知らず。そうとなれば私も征夷大将軍に御座候、並み居る関東武者を引き連れて・・あいや、無骨の者どもの出る幕ではありませんでしたね。

中将どのは誠によき歌をご存知、西行一世一代の名歌は新古今の秋。なれば私は風雅集より

思ひ出でばおなじながめにかへるまで心に残れ春のあけぼの

 慈円

春とは何も花のみにあらず。春の美しさは視覚と嗅覚にあり、さらにそれらは幻想の美へと通じる禁断の扉。圧倒的な視覚とは言葉を尽くして美しさを誇るものではありますまい。この春の曙が心に浮かばぬとなれば歌詠みとは申せませぬ。

夢ならで夢なることをなげきつつ春のはかなきもの思ふかな 
義孝
はかなしな夢に夢みしかげろふのそれも絶えぬる中の契りは
定家

幻想への扉を開けてしまった歌人たちの春歌にも、もちろん神韻はございます。玲瓏たる春の幻の彼方、気もそぞろになると思われがちな春を「はかなき」と言い捨て、自らと蜻蛉の夢が「絶え」るとはいかなる想いでありましょうや。みなこれ、春でなければならぬ心の琴線にございます。実を言えば私、中将どのの感覚には気が遠くなるほど心打たれましたが何よりも今は春、季節を味方につけておりますれば勝てずとも負けざる心地の致しまする。 
春方 こまち
勝つまでや・る・のぉぉぉぉぉ。
皆々様、なんと優美でいらっしゃるんでしょう。わたくし、ほんとうに、このように才あふれる方々の間に混ぜていただけて、涙が流れる心地ですわ。右大臣殿、大納言殿、ご加勢ありがとう存じます。本当に心強いお味方、負ける気が致しませんわ・・とおもっていたところで恋愛中毒風流貴公子殿のやたら挑発的なご発言・・いけませんわ、貞文殿。色好みの真髄は常に誉め殺し。まちがってもわたくしのようなかよわき女子を攻撃するような言葉をくちにされては・・わたくし、かなしゅうございます・・よよ。
と、そこへさらに和泉おねえさまのあまりにお美しいご発言。旗色悪し!かと思った矢先に右大臣どのの風流ここにあり!というお言葉。
もう目が離せませんわ・・

いもやすく寝られざりけり春の夜は 花の散るのみ夢に見えつつ 
みつね

通算で342回ほど引いているこちらのお歌、改めて引く事をお許しくださいませ。みなみなさま。
春と来て、夢とくれば、どうしてもこちらのお歌を・・
秋の美しさ、おにいさまとおねえさまのおっしゃる事はいちいちごもっともなばかりか、まことにもって日本という国の美意識のあり方そのものでございますわ。
しかし、何もないことの美、にならぶ、「失う事の美しさ。」
喪失とは、なににも勝る甘美な自虐、そしてそれこそが平安の雅から源平の無常、さらにはわび・さびから武士道までつながる、わが国の美意識の片翼なのではございませんかしら。

何もない秋、そしてその静謐の中に聞こえる音。それはそれは美しゅうございます。けれど、春という絢爛豪華な日々の中にあって、散りゆくものを惜しむ気持ち、そしてけれど、惜しみなく、音もなく散ってゆく桜。今確かに頭上に咲き誇りながら、同時に滅びを内包する静かな狂気にも似た美しさ。それを夢にまで見、惜しみ、悲しみ、そしてその悲しみをさえ美に還元する高度な洗練。
桜という徒花、咲き誇り、散りつづけるものの優雅で冷酷な孤独。(ほほほ、和泉ねえさま、この言葉には弱くていらっしゃいますでしょう?)
やはりわたくしは、春こそが美しいと、思ってやまないのでございますわ。

そう、確かに心惑わされ落ち着かない春。それこそがまさに春の真髄。なのではございませんこと? 
秋・二の巻
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