春・一の巻
春方 こまち
風かよふ寝ざめの袖の花の香に かをる枕の春の夜の夢
藤原俊成女
わたくし、嗅覚には自信が有りますの。残念ながら、わが山のなき里にては、たとえ窓を開け放してやすむことができたとしても、花の香りはわたくしの寝覚めを彩ってはくれない事かと思いますが・・

それにしても貴公子の方々の優美なるお話し合い、わたくしは庭先、梅の色と香りに彩られながら蹴鞠をして遊ばれる殿方達を、御簾ごしにこっそりと、拝見させていただきましたわ。
ちなみに、わたくしはなんといっても紅梅派。色をも香りをも知る人ぞ知るような、梅の花でありたいと、いつも思っておりますわ。

さて、花を待つ日々となりました今日この頃。桜のもとに生れ落ちた常春なわたくし(達。小侍従の君は、こちらにいらっしゃいましょうか?)には、嬉しい季節となりました。この春は、皆々様とご一緒できるという事もあって、よりいっそう心も晴れやかに・・
あら。そういえば、春よりも秋がお好きな方々もいらっしゃいましたわね・・徐々に花があふれ心も体も温かくなっていくこの季節、それでも秋のほうがよろしいとおっしゃいますのかしら、おねえさま、おにいさま??
春方 鎌倉右大臣
春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる 
凡河内躬恒
蹴鞠とはまた艶なる物言い、私小町さまのその感覚にいたくやられてしまいました。なるほどそれは言い得て妙、さすがです。

古今集にあるこの躬恒の歌、私は大好きです。嗅覚自慢なら俊成卿女にも負けずとも劣らず、さても妖艶な梅花詠。暗闇の中で手探りに梅の香を感じるためには架空の恋さえ必要かと。

ところで「春秋争ひ」の申し条、受けて立ちまする。本来ならば私も李朱柳どのと同じく季節としては冬が一番好きなのでございますが、何といっても歌は春秋。特に私は春の妖しさをこめた歌が何よりも好きで、小町さまの出された俊成卿女の歌など初めて見たそのときから惚れに惚れておりまする。この歌を含む新古今集の春はとても美しい歌の配置と濃厚な春の香にむせんでしまうほど繰り返し味わっております。
春の夜の夢の浮橋とだえして峰にわかるる横雲の空
おほ空は梅のにほひにかすみつつくもりも果てぬ春の夜の月 

定家
まだまだここに書きたい歌は山ほどございますが、ひとまずは私は春に軍配を上げる者として名を連ねさせていただきます。はてさてこの争ひ、いずれを分け難き名勝負にならんことを、今より心躍らせて楽しみにしております。 
春方 大納言
春ごとにながるる川を花と見て折られぬ水に袖やぬれなむ 
伊勢
梅は香りはさることながら、その姿も美しいものですね。自分も春が好きです。春の淡い色彩がなんともいえず。春の野にまぎれば、萌え出づる草の香が香って。皆様には遠いことかもしれませんが、春の田んぼはよいものでございます。山から見下ろしても、あぜ道をあるっても面白いものです。暖かくなるといっせいに水があふれて・・・。
年をへて花の鏡とまる水はちりかかるをやくもるといふらむ 
伊勢
まさに水の鏡です。
秋・一の巻へ
春秋論争トップへ