「まじかよー・・」
パラディソ王国の若き国王ナオヤは、早馬のもたらした最新ニュースをきくと、情けなくも王座に崩れ落ちた。
国王の姉にして王国の陸軍姫将軍、ヤヨイが、
視察に行った国境で、隣国との小競り合いの末に囚われた。というのである。


楽園という名の王国を治めるナオヤはその名の通りの楽園育ちで、つまり、
打たれ弱い。
片手で額を覆うようにして肘掛にもたれかかりながら、いきなり黙り込んでしまう。
遠く国境からふらふらになってたどり着いた伝達兵にしてみれば、退出の許可を一刻も早くもらいたいところなのだが・・そんな気遣いのできるナオヤではないのである。
代わって声をかけてやったのは、王座の隣に控える宰相・フランチェスコ・フェルディナンド・フォルツァート。
「よくわかりました、ご苦労様。対応策はこれから陛下がご検討されます。ゆっくりとお休みなさい。
くれぐれも、このことは他言しないように
優しい言葉ながら、きらん、と輝く瞳が、余計なことをしゃべろうものなら・・という軽い脅しを伝達兵にわからせたことは間違いない。
よろよろと謁見の間から去っていく彼を見つめながら、ナオヤはもう一度、大きなため息をついた。
「ねーちゃん・・どうしてアンタって人は・・はっ」
いきなり飛び上がるナオヤ。
「ちょ、ちょっとまて!」
びっくりして振り向く伝達兵に、ナオヤはたたみかける。
「そのはなし、
まだ黒姫はしらないんだろうな?
「は、わたくしが一番早い使者ですし、もちろん国に帰りましてすぐに陛下にお知らせに上がりましたゆえ、そのほかのどなたにもお話はいっていないものと・・」
「わかった。ご苦労」
こんどは、やや安堵のため息。
「安心できればよろしいのですが・・」
まだ不安そうに、宰相がつぶやく。
嫌そうに眉をしかめて、ナオヤは彼の方に体を傾けた。
「不安にさせるようなこといわないでくれよ・・あとは・・どうやって事態をこれ以上大きくしないか。だよなあ・・」
「・・だから、申し上げましたでしょうに。姫将軍殿下を前線に出すなど、
無謀の骨頂だと・・まあ、行きたいとおっしゃられた以上、陛下の反対で引き下がる姫将軍ともおもわれませんが・・」
「いやー、そんなことないって。
ねーちゃんは俺が真剣に頼んだら、何だって聞いてくれるんだけどね・・まあ、真剣に止めてなかったからなー・・まさかこんなことになるとは・・
てゆーか、ダスト、あんただってまともに止めなかっただろ?」
宰相フランチェスコ・フェルディナンド・フォルツァートは、あまりにも長い名前を省略して「3f」と呼ばれることも多いが、自らは「ダスト」という呼称を好んでいる。

どうやら「わたくしなど屑(ダスト)のような存在です」と言いたいことにしたいらしいが、いずれにしても
二枚舌、三枚舌で有名な辣腕宰相の言うことである。まともに信じていては痛い目にあう
宰相3f、またはダスト。「ぶぶづけ攻撃(
ぶぶづけ食べていかはりますか?などと優しく問いかけて、その誘いを受け入れようものなら『田舎者』というレッテルを貼られてしまうという、恐ろしい攻撃である。)」と呼ばれる必殺技を故郷から引っさげ、パラディソ宮廷で異例の出世を遂げた男である。

「わたしは、姫将軍の自由は決して妨げないものと心に誓っておりますので。」
にっこり。
笑って言っているが、翻訳すれば、『
あのじゃじゃ馬娘に道理を諭しても無駄無駄。』という意味であることはさすがにナオヤにもわかっている。
実際、姫将軍ヤヨイの気まぐれは誰がなんと言っても止まる物ではない。
今回も、新しい戦装束を手に入れたから、といっていそいそと前線視察などに出かけて、挙句にその
装束の裾をふんづけて(どうして戦装束のすそが踏んづけるようなスカートなのかは、ナオヤ、ダストともに考えても無駄だと思っている)転んだところを捕囚されるという醜態をさらしているのである。
普通なら、内親王であるヤヨイの捕囚、幽閉などは騎士道精神上許されるものではないが、なにしろ陸軍将軍の軍籍にある彼女である。身代金を要求されても、なんの文句も言えない。
しかも王族にして将軍の身代金なんて・・
現在のパラディソ王国の財政状況からして、間違っても払えるものではない。
「どーすんだよ・・
俺は金は出さん。っていうか、無理だ。ダストなにかいい案を・・」
ぴっ。
表情は髪の毛一本動かさず、しかし意外にお茶目な挙動で、ダストは謁見の間の扉を指差した。
「なんだよ・・」
怪訝そうに扉を振り返るナオヤ。
バッターーーーーーーン。
その目の前で、両開きの豪華な扉が、音をたてて全開になる。
最初に見えたのは、
ピンクの豹柄の稲妻などという、とんでもないものだった。

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