ところかわって。

パラディソ城下町の一番の流行の酒場、パルパイヨ亭近衛銃士隊をはじめとする、王宮付きの武官たちの行きつけでもある。
看板娘のべるは、常連である神官騎士・李朱柳に麦酒を運んでいた。

「李朱柳さま、ご機嫌はいかがですか?」
「機嫌はいいよ、ありがとう、べるさん。姫将軍がいないというので、精霊の宮はすこしご機嫌が悪いみたいですが」
「あらあら、それは大変。李朱柳さまは宮様の一番のお気に入りですものねえ・・慰めて差し上げなくては」
「まあ、姫将軍も戦装束を見せびらかせば、すぐに前線など飽きてしまわれるだろうから、心配はしていませんけどね。逆に僕などは、彼女の武術勝負に付き合わなくて済む分、楽な日々なんだけど」
「鬼のいぬまに、というやつかしらぁ・・ふふふ」
などと暢気に笑ってはいるが、べるは実は王国の重要な諜報部員でもある。
パルパイヨ亭にあつまる武官達は、酒を飲みに来ると同時に、べるに情報を伝達し、そして受け取っているのである。
そして今日は、その身内ばかりのはずの酒場に、見知らぬ男が一人、端のほうに席をとって怪しい雰囲気を充満させていた。
この国のものではない軍服に、紫のマント
神官戦士である李朱柳が細い銀製のレイピアを身に帯びているのとは対照的に、いかにも名剣であろうと思わせる大降りの剣を一本大事そうに抱えたまま酒をあおっているのである。
一体なにものか、と、酒場に集うパラディソ軍人はちらちらと、そちらに視線を走らせてはいるが、今のところ何事も起こっていないらしい。
李朱柳もそちらに軽く目配せしてべるに目で疑問を投げるが、彼女もさすがに、軽く首をかしげて答えない。
わかった、状況を見守ろう、というように李朱柳は頷くと、大きな杯のなかの麦酒を一気にあおった、その瞬間。

「たたたたたたたいへんですP!!!」
素っ頓狂な声とともに、パルパイヨ亭に飛び込んできた人影。
そのあからさまに怪しい格好は、しかし、男とも女とも判然としない。
何故なら、その人物は、アニマル柄の忍者の衣装などという、あまりといえばあまりな服装だったからである。
そして、その人物が誰であるかというのは・・李朱柳もべるも、百も承知なのだが。
「ゆきP! どうしたんですP?」
諜報部員や忍といった、闇の世界に生きるものだけが使う独特の口調で受け答えしつつ、べるとアニマル忍者が、すばやく目配せを交わす。
事情を察した李朱柳もさりげなく席を立つと、三人は果てしなくさりげなく、別々の方向からパルパイヨ亭の裏手に回って、合流した。
どの辺がどうさりげないのか、という気がするアナタは正しいが、そこで敢えてつっこんだりしないのが楽園育ちな軍人達のいいところなのである。

「わわわわたくし、大変なことを聞いてしまったのですP!」
ゆき、とよばれたアニマル忍者が口を開く。
忍の頭巾をあわててはずすと、こぼれ落ちるロングの黒髪。
この衣装からは想像もつかないが、つぶらな瞳のかわいらしい少女であった。
「ななななんと、姫将軍殿下が敵国にとらわれたらしいのですわ!! さっき、思いつきで陛下の王座の後ろに潜んで、パーティーでカーテンの陰に隠れるジョーごっこ、を楽しんでおりましたら、偶然きいてしまったのですP!」
「ど・・どんな遊びをしてるんですか・・ゆきさん・・」
李朱柳が呆然と呟く。
「いや、そんなことはとりあえずよいとして、問題は姫将軍! 王国の王女であり将軍でもある彼女が敵の手に落ちるとは・・なんたる恥辱! すぐ調子に乗るからあの人は・・」
「っていうか、ヤヨちゃんが心配ですわー!! 早く助けに行って差し上げないと・・幽閉なんてされていたら、退屈で死んでしまわれます!」
それぞれの反応を示す李朱柳とべるである。
がっくんがっくんとそのどちらにも頷きつつ、アニマル忍者・ゆきは言葉を続けた。
「しかも、黒姫を中心とした救助隊が組織されるんですって! あーみん様もびっくりどっきりなワクワク展開・・じゃない、危機となってしまったのですP! べるP、ここはわたくし達忍の衆の出番ではないかとおもうのですけど、どうかしらー??」
「わ、わたしは忍の衆というより諜報部員なんだけど・・まあいいわ、ゆきP! そのとおりよ〜!! なにしろ黒姫の組織する救助隊じゃあ、目立ちすぎて諜報活動どころじゃありませんもの☆ここはわたしたちが裏から援助して差し上げればよろしいのですわ!」
・ ・しかしアニマル柄の忍者ほど目立つ忍の者というのもなかなかいないと思うが・・
李朱柳はその突っ込みを、危ういところで飲み込んだ。。
なにしろその成りはともかく、王座の裏に忍んでいてあの敏腕宰相・ダストにも発見されないだけの技をもつゆきである。忍として有能であることには疑いがない。
「その救助隊には、恐らく」
代わりに李朱柳は、がたん、と席を立ちながら軽く眉根を寄せた。
「精霊の宮も加わるといって聞かれないことでしょう。かずこ様が旅立たれるとなれば、僕が護衛に着くのは必定。早速、王宮に戻って陛下に奏上することにします。お嬢さん方、失礼を」
『はいぃぃぃ。李朱柳さま、お互いにがんばりましょうPね!!』


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