「かずこ様!!」
あわてて、李朱柳は精霊の宮・かずこに駆け寄ると、背中にかばって紫のマントの男を油断なく睨み付けた。
視線は男に向けたまま、後ろにたたずむかずこに語りかける。
「こんなところで一体何を・・akemi殿! あなたがついていながら、なんて無茶を!!」
「いや〜ごめーん。かずこさんがどーしてもパルパイヨに行きたいって言うからさー、ま、護衛もかねてついてきたんだけど。取り込み中、邪魔しちゃった?」
「そういう問題ではありません!!」
今は引退して、南国イズゥで農業を営む前国王・カツヤの年の離れた妹であり、最高の精霊使いでもある内親王・かずこ。
そして、王宮一の実務派として知られる書記官長のakemi。
どちらも夜の城下町をふらふらしていていいはずがない、貴婦人たちである。

増してこの緊迫した事態、どこの誰ともわからないあからさまに怪しい男との対決の最中に現れられたのでは、李朱柳としては大いに困るわけである。
「だいじょーぶだって、あたしもいるからさ」
遅れて聞こえてきたのは、現国王姉弟の従妹にあたる、騎馬姫の異名を持つアイコ。姫将軍ヤヨイと並ぶ、陸軍首脳の一人である。剣術にはめっぽう強い。
「案ずるな。騎馬姫とわらわがいれば、たいていの男には負けぬ。城下町にはなぜかやたらと詳しいakemi殿もついてきてくれて・・のぅ、李朱柳。散歩にはうってつけの、麗しい朧月夜ではないか」
一斉に空を見上げる一同。
ちなみに、今日は新月なので、月は出ていなかった

「で、そなたたち、一体何をしておる?」
国王ナオヤよりよっぽど威厳のある態度でかずこが二人を見つめる中、紫マントの男は剣をはずして地面に横たえ、その前に跪くと、面を伏せた。
「パラディソ王国の王族殿とお見受けいたしました。拙者は地獄騎士団の長、ヘル・シッドともうす不束者。姫将軍の危機を偶然耳に入れ、ぜひとも助太刀に駆けつけたく、どうか、許可を!」
「なんじゃと?」
あああああああああああああ。
李朱柳は、とりあえず頭を抱えた。
姫将軍捕獲のニュースは、気まぐれお散歩中の精霊の宮にも、おつきあいのakemiとアイコにも伝わっていなかったはずなのである。
いずれ知れ渡る話とはいえ、ものには順序というものがあるのに・・
「なにごとじゃ。詳しく申してみよ」
「ヤヨイ氏がとらわれたって? なんじゃそりゃ?」
ねーさん危機一髪! たすけにいかなくっちゃ!」
当然のように元気に反応する三人の女達。
事態の収拾はあきらめて、李朱柳は、決然とした面持ちで苦渋の決断をしなければならなかった。

すなわち――
この大混乱をまとめて、王宮に持って帰るのである。
一人で解決するには、登場人物も多すぎるし、わけもわからないことになってしまっている。
「わかりました」
器用に足先ではじいて、地面に置かれていたヘル・シッドの剣を取り上げると、李朱柳はそれを自分の腰にさした。
ゲキレツに嫌そうな顔をしながらも、事態の把握は出来ているらしくヘル・シッドは文句を言わない。
「ではとにもかくにも、王宮へ。陛下に事の次第を説明いたしましょう。騎馬姫、かずこ様とakemi殿の護衛、よろしくお願いいたします。この男は、僕が責任を持って連行しますので」
「了解っ! とにかく早く帰って、ナオヤに詳しいことをきこー! ねーさん・・また妙な男に捕まってなきゃいいけど・・
「いや、アイコちゃん、そういうことじゃないっしょー。どっちかっていうとかのんさんのほうが心配というか・・大丈夫かね、あの人」
「をを、かのんさんと申されますは、地獄騎士団でも音に聞いた、かの黒姫でございまするな! こうも早くパラディソ王国の有名人の方々とお会いできるとは・・何たる幸運!」
「ふぅむ・・姫将軍が囚われたとなると、かのんは当然、旅支度であろうの・・わらわも、これを期に初の国外遠征なるものをためしてみるのもよいかもしれぬ・・最近、歌と美食にもすこぅし、飽きてきたところじゃ」
「はいはい。皆さん、言いたいことはあとでききますから、とりあえず王宮に向かってくださいねー。こら、お前! 貴婦人方に近づくな! 僕の後ろを歩け!」
王国での一番の苦労人は、間違いなくダスト宰相かakemi書記官長だろうとおもっていたのに・・なんで僕が・・
不条理な苦労に青筋を立てつつ、とにかく一心不乱に一行を導く李朱柳であった。


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