トイレテン!!」
「な・・なにをいきなり・・」
突然叫ぶかのんに、男は一瞬怯んだように見えた。

「トイレテン、トイレテン、トイレテン!!!!」
なおも叫び続けるかのん。
まあ男がどうやら吸血鬼であるのは一目瞭然なので、吸血鬼除けの呪文か何かと思えないことはないが、なんといっても状況が状況である。

やはり、ここはトイレテンというのが
古代ゲルマニア語でトイレを差す、と考えるのが妥当というものであろう。
と、考えた、akemiと李朱柳の常識的判断は当たりである。

「どうやら、古代ゲルマニア語を解されるようですな、お嬢さん・・くくくくく。」
怪しくわらうと、男は足も動かさずにすすすすすー、っとかのんに近寄って、その真っ赤な爪に彩られた白魚の手を取り、恭しく口付けをした。
「実は数年前、同じように嵐の夜、ここに立ち寄られた少女が降りましてね・・くくくくく・・・。彼女も、わたくしの顔を見るやいなや、『トイレテン!』と叫びまくったものでした・・たしか・・
某王国の暴れん坊将軍とかいわれていたような・・」
「そんなことより、トイレを貸してくださらないかしら、麗しき吸血鬼様?」
なにやらやたらと気になる情報を、あっさり聞き逃すかのん。
というか、トイレを要求する姿勢はそのままに、どこか口調に女らしい媚びとシナがくっついている。
おまけに、ちょっと目がとろーんとしていたりして。
男に預けた右手はそのままに、なんとなく相手にもたれかかるような風情さえある。

「む。これは、良くない展開じゃ」
かずこが、表情をこわばらせる。
吸血鬼の魅了の術じゃ、akemi殿、おなごには危険! 目を伏せておかぬと・・」
といいつつ、本人もすでに目を瞑っている。
スポーツで鍛えられた反射神経で、一瞬の間もなく目を閉じたakemiではあったが、しかも必要以上にギューっと閉じたまま、かずこに聞き返す。
「魅了の術って、惚れさせられちゃうってことででしょ? それにかのんさんが引っかかるって・・ピンと来ないなあ・・かのんさんの感情を操れる魔術なんて、あんの?」
「かのんは、そーゆー系に弱い。」
さすがに長い付き合いのかずこは、かのんの趣味を良く知っている。
彼女の悪の魔女(しかも美女)風衣装は、伊達ではないのである。

「我が神ルスラよ、あやかしを破きたまえ!」
力を込めて叫びつつ、銀のレイピアの先で
印を結ぶ李朱柳。
「参る!!」
裂ぱくの気合を込めたヘル・シッドの一撃。

神聖魔法と
地獄一刀流のクロス攻撃に、吸血鬼は数歩あとず去った。

「今だ!!」
akemiのマジック・スノーボードが風を切る。(ほかのメンバーの乗り物である動物は、さすがに館の下に残してきている)
ふぬぅぅぅぅぅぅ!!!
スポーツで鍛えられた腕力で右手にかのん、左手にかずこを抱きかかえると、猛スピードで階段を滑りあがり、手近な部屋に入って、内側から扉に錠をかけるakemi。
李くん! ヘルちゃん! 任せたよ!!!」

とりあえず、女性陣の危機は回避された。
エントランスホールに残った吸血鬼対李朱柳、ヘル・シッドの白黒コンビ。
はたして勝敗はどちらの手に??


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